こんにちは、台湾出身のリです。
今年の2月、旧正月に台湾の実家へ帰省した際のことです。近所を散歩していたところ、目の前に突如として蓄電所らしき施設が現れました。「あら、こんなところにも蓄電所があるんだ」と驚きました。
近年、系統用蓄電池の導入が拡大しており、私自身も複数の案件に携わっています。しかし、まさか自分の実家のすぐ近くにまで導入が進んでいるとは思わず、非常に感慨深い気持ちになりました。
余談ですが、私の父はエネルギー業界の人間ではありませんが、台湾の株式市場に強い関心を持っています。もともと私が日本でどのような仕事をしているか全く知らなかった父ですが、昨年あたりから時々、「台湾の〇〇企業が日本のエネルギー業界に参入したらしいよ」と話を振ってくれるようになりました。
なぜ今、台湾のエネルギー企業が日本の系統用蓄電池市場に積極的に参入しているのでしょうか。その背景は非常に興味深いものです。今回は、その理由について簡単に紹介したいと思います。
台湾の電力構成
台湾の発電構成は、化石燃料への依存度が高いのが特徴です。特に天然ガスと石炭火力が主力であり、電力供給の大部分を担っています。しかし近年はエネルギー政策の転換により、再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいます。太陽光発電と洋上風力を中心に拡大しており、特に洋上風力はアジア有数の成長市場とされています。
台湾電力の公式サイトからは、例年の電源構成をご確認いただけます。
なぜ再エネが台湾と日本にとって重要なのか
台湾と日本に共通する課題は、エネルギー資源の乏しさと輸入依存度の高さです。台湾と日本とも産出できる化石燃料が限られているため、エネルギー安全保障の観点から電源の多様化が極めて重要となっています。また、気候変動対策も大きな要因です。国際的な脱炭素の流れの中で、CO2排出量の削減は避けて通れない課題となっています。
日本では、再エネ導入の拡大と電力の安定供給の両立が進められています。一方、台湾でも同様に、再エネ比率の引き上げが政策的に強く推進されています。
ただし、再エネは出力が不安定であるため、大量導入には電力系統の柔軟性を高めることが不可欠です。この点で、蓄電池の活用や調整力市場の整備が、台湾と日本双方にとって重要なテーマとなっています。
台湾の電力調整市場・容量市場と日本の比較
電力の安定供給には、「需給調整」と「供給力の確保」という二つの仕組みが必要ですが、台湾と日本ではその制度設計に大きな違いがあります。
日本では、電力システム改革の一環として市場の細分化・高度化が進んでいます。例えば、卸電力取引は日本卸電力取引所(JEPX)で行われ、需給調整については需給調整市場(EPRX)が整備され、応答速度や目的に応じて一次・二次・三次へと細分化されています。さらに、将来の供給力を確保するための「容量市場」も導入されており、複数の市場がそれぞれの役割を分担する構造となっています。
これに対し台湾では、これらの機能の多くを依然として台湾電力公司(台電、Taipower)*が一体的に担っています。調整力については「AFC(自動周波数制御)」と呼ばれる仕組みが導入されていますが、日本のように細分化された市場ではなく、統合的な補助サービスとして運用されています。また、日本のような明確な容量市場は存在せず、供給力は主に政府の政策と長期計画によって確保されています。
このように、日本が「市場メカニズムによる分散的な調整」を採用しているのに対し、台湾は「公営事業者主導の集中管理」に近い構造を維持している点が大きな違いです。
*台灣電力公司(台電、Taipower)は、台湾の経済部傘下にある、唯一の国営総合電力会社です。1946年設立、台北に本社を置き、台湾全土(離島含む)の発電、送電、配電、販売までを一貫して行い、電力エネルギー政策の執行も担っています。
なぜ台湾企業にとって日本のエネルギー市場がブームになっているのか
近年、台湾のエネルギー企業や投資家の間で、日本市場への進出が加速しています。その背景には、台湾と日本の市場構造の違いに起因する収益性の差があります。
台湾では、蓄電池ビジネスの主な収益源はAFCなどの調整力サービスに限られており、市場規模に制約があります。必要とされる容量は台湾電力公司によって決定されるため、参入機会や収益には自ずと上限が生じます。
一方、日本では複数の市場が並行して存在するため、蓄電池を活用して様々な収益機会を組み合わせる「収益の積層化(スタッキング)」が可能です。需給調整市場だけでなく、容量市場、さらには日本卸電力取引所における電力価格の変動を活用した「差額取引(アービトラージ)」など、多層的な収益構造を構築できます。
このため、日本市場はリスクも伴いますが、その分リターンの拡張性が非常に大きいと言えます。台湾企業にとっては、自国で培った調整力ビジネスや蓄電池運用のノウハウを活かしつつ、より大きな市場で収益機会を拡大できる魅力的な投資先となっているのです。
その結果、日本のエネルギー市場は台湾企業にとって「次の成長機会」として位置づけられ、現在の投資ブームにつながっています。
最後に
実家の近くで見かけた蓄電所から、台湾と日本の深いエネルギーの繋がりを再発見することができました。制度の異なる台湾と日本ですが、蓄電池という技術が架け橋となり、互いの脱炭素化を加速させています。私自身もその一員であることに誇りを持ち、これからもエネルギー産業の発展に貢献できるよう頑張りたいと思います。