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【第2回】電力システムの運用 = ロケットサイエンス!?

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Last updated at Posted at 2026-06-11

はじめに

こんにちは、ベルギー出身のニキータです。
昔の自分に電力システムを説明してみるシリーズ、第2回の記事を書きました。

前回のまとめ

前回の記事では、電力システムの役割は「エネルギーを安定的に供給すること」だと説明しました。電力システムをほかの社会インフラと比べると、次のような特徴があります。

  • 外から見ると:発電所から需要設備までが送配電網でつながった大規模なシステム全体であり、ガスや水道に似ている
  • 中から見ると:送電は物質の輸送ではなく、電磁界のエネルギーが送配電網を光の速度で伝搬する現象であり、むしろ通信インフラ(モバイル通信網や光ファイバー)に近い

このため、電気を作る量(供給)と使う量(需要)を、常に一致させ続けなければなりません。

今回のテーマ

需給バランスの維持とは、「私が照明をつけたら、どこかの発電機がその分だけ出力を調整しなければならない」ということです。本記事では、この瞬時の調整を実現している制御の仕組みを説明します。

電力システム vs 電力業界

本題に入る前に、下の図を見てみましょう。電力業界は人々の生活や企業活動を支える仕組みなので、さまざまな分野が関わっています。

  • 技術:電力システムの物理と制御
  • 経済:市場・取引・ビジネスモデル
  • 制度:法制度やルール
  • 環境:脱炭素化への推進力

電力システムの仕組みを完全に説明するには、それぞれの分野からの回答が必要になります。ただし、本記事では「技術」だけをスコープとして考えます。

post2_pillars.png

需給バランス

電力システムでは、物理法則にもとづき、需要と供給のバランスを保つことが重要です。この考え方は、下の図のような天秤としてよく描かれます。

post2_scale_balance.png

周波数とは

電気は、発電機を回転させることで作られます。電力系統の「周波数」は、この回転の速さを表しています。安全で安定した供給のためには、この速さを一定に保つ必要があり、日本では地域によって 50Hz または 60Hz で一定とされています。ただし、電力の需給バランスのずれは、周波数の変化として現れます。

これは自転車に乗るときと同じイメージです。

  • 平坦な道では、一定のスピードで走れる
  • 上り坂にさしかかると、自転車のスピードが低下する
  • 下り坂にさしかかると、自転車のスピードが上昇する

自転車の車輪の回転数を測れば、いまどんな地形を走っているかが分かります。同じように、電力系統の周波数を測れば、上の図のように需給バランスの状態が分かります。

  • 周波数が上昇する = 供給>需要のため、発電機が加速している
  • 周波数が低下する = 供給<需要のため、発電機が減速している

需給バランスの不一致

私が照明をつけると、消費電力が増えます。つまり、需要側が一瞬で増えるということです。すると下の図のように、電力システムでは天秤が傾き、周波数が瞬時に低下します。不一致の原因は、供給側の調整が欠けていることです。

post2_scale_imbalance.png

実際には、この状態が続くと系統連系を続ける発電機の運転を安定に維持することが困難となるため、大規模停電に至るおそれがあります。

つまり、天秤のイメージだけでは、実際の電力システムの運用をまだ表しきれていません。重要な運用の仕組みが欠けています。

では、需要側がランダムに変動しても、リアルタイムでこの天秤のバランスを保ち、周波数を安全な範囲に収めるには、どうすればよいのでしょうか。

ロケットサイエンスとのつながり

すぐに答えるのは難しいかもしれません。そこで、まずは別の分野からヒントを探してみましょう。その分野とは、ロケットサイエンスです!

ロケットの場合

2015年末、SpaceX は Falcon 9 Rocket を初めて地上に着陸させることに成功しました。エンジニアリングの観点から見ると、ロケット着陸の難しさは物理そのものよりも、むしろ燃料のマネジメントにあります。実際、初成功までの失敗の多くは、燃料切れやその他の機能の管理ミスによるものでした。

この問題を解決する戦略は、下のように分解できます。

  • 事前に、予測にもとづいて最適なルートを選び、必要な燃料量をシミュレーションで計算・計画しておく
  • 着陸の最中は、機体側の制御システムがエンジンをリアルタイムで監視し、想定外の状況(局所的な突風や温度変化など)に対応する
    • 各エンジンの高速なローカル制御に加えて、
    • エンジン間の自動的な協調も必要になる
  • 遠隔の管制室からロケットを監視し、必要に応じて手動で介入する

post2_rocket.png

電力システムの場合

電力系統全体をロケット、各発電機を個々のエンジンとしてイメージすると、需給バランスを維持する方法は、驚くほど同じ設計図に従っています。

  • 予測と計画
  • 需給調整
    • 調整①:ローカル
    • 調整②:自動
    • 調整③:手動

次の節から、それぞれの仕組みを説明していきます。

【前日】予測 + 計画 (+ 予備力)

予測と計画は、当日の供給に備えて前日に行う必要があります。これを図にすると、次のようになります。

post2_SCH.png

需要側の予測

消費電力には、過去のデータから読み取れる傾向があります。例えば、昼間は照明や暖房が不要なため消費が少なく、みんなが仕事から帰宅する夕方ごろにピークを迎えるのが典型的です。したがって、過去のデータにもとづいて需要側の電力量を予測できます。

日本では、この予測を30分ごとの時間帯に区切って行います。つまり、1日を48個のコマに分割し、コマごとの平均電力を見積もります。

供給側の計画

予測にもとづいて、発電計画を作成します。48個の各コマについて、需要側に必要と見込まれる電力量に対応するよう、発電機を選定していきます。

⚠️ 発電計画で定められた値は、当日に発電機が実際に出力「しなければならない」電力です。

予備力の計画

見落とされがちですが、安全な運用に欠かせないのが予備力の計画です。SpaceXのロケットに、計画ルートを修正するための燃料の余裕が必要なのと同じように、電力システムにも発電計画を修正するための予備の電力が必要です。そこで、発電計画を作成した後に、いくつかの発電機を待機状態として選定し、ローカルまたは中央からの指令に柔軟に応答できるようにしておきます。

⚠️ 予備力の計画で定められた値は、発電機がその電力を供給「できる」能力を表します。実際の出力は、当日の需給調整がどれだけ必要になるかによって決まります。

【当日】需給調整

発電と予備力の計画は、前日に立てられています。しかし、当日の実際の需要は予測からずれることがあります。例えば先ほどの図では、需要側に赤いブロックが追加され、天秤(=周波数)が一瞬で不安定になりました。

ここからは、当日に供給側を調整して周波数を安定に保つ、3段階の制御の仕組みを説明します。

需給調整①:ローカル

1つ目の調整は、バネのようにふるまう局所的制御で、以下のようになります。

post2_FC1.png

周波数は発電機の(回転の)速さを表すので、各発電機のローカルな調速機が周波数を計測し、周波数の偏差に応じて出力を調整します。物理としては上の図のバネと全く同じなので、簡単にいえば 「調速機=バネ」 のイメージで大丈夫です(数学モデルまで同じです!)。技術的な詳細は、またの機会に説明します。

このバネが最初の周波数の偏差に抵抗し、それ以上の低下を防ぎます。調整①には、計画された予備力の最初のブロックが使われます。ただし、調整①の量だけでは、需給バランスを元に戻すには足りません。調整①しかなければ、システムはかなり「ボヨンボヨン」した状態で、まだ安定とはいえません。

需給調整②:自動

2つ目の調整は全域的制御で、以下のようになります。

post2_FC2.png

SpaceXの管制室と同じように、電力系統には中央給電指令所という、発電所を管理している場所があります。電気は24時間365日供給され続ける必要があるため、中央給電指令所も24時間体制で運用されています。

中央給電指令所は周波数を計測し、周波数が安定した値に戻るように、各発電機へ自動的に指令を出します。調整②には、計画された予備力の2番目のブロックが使われます。

調整①と比べると、調整②は遅めです。というのも、安定した指令値を計算するためには、周波数偏差をある程度の時間にわたって計測する必要があるからです。給湯温度調節のない昔のシャワーを思い浮かべてみてください。水温の変化が遅いため、ちょうどいい温度に合わせるのはなかなか難しく、すぐにお湯を熱くしすぎてしまいます。

一番いいやり方は、少しだけ調整して、水温が変わるのを待つことです。小さくゆっくりした調整を繰り返すことで、望みの温度に落ち着かせることができます(少なくとも、ベルギーでの私の経験ではそうでした)。調整②の自動ロジックも、これと同じ仕組みで動いています。

調整①と調整②の違いは、自転車で上り坂にさしかかったときのイメージで考えてみてください。
調整①は、ペダルを強く踏み込むことに相当します(ただし疲れるので、長くは続けられません)。
調整②は、ギアを切り替えることに相当します。

需給調整③:手動

3つ目の調整も全域的制御で、以下のようになります。

post2_FC3.png

調整③の場合、指令は系統周波数の計測値ではなく、別の指標にもとづいて行われます。例えば、応答は遅いが安価な発電所で、応答は速いが高価な発電所を置き換えたり、リアルタイムの予測誤差を直接計算して指令を出したりします。

調整①と調整②は周波数偏差に直結しているため、応答の速い発電機が必要です。一方、調整③は遅いものの、それらの速いリソースを再び使えるようにすることで、調整①と調整②を支えます。上の図のように、調整①と調整②の供出が不要になれば、そのリソースは再び予備力として、次の調整に備えることができます。

電力市場とのつながり

冒頭で述べたとおり、本記事では需給調整の制御の仕組みを、純粋に「技術」の観点から説明してきました。一方で、これらの仕組みを十分な量を確保する必要もあります。そこで、取引のインセンティブを与えて調達量を増やす場として、電力市場が作られました。

  • 予測にもとづく発電計画の電力 → JEPX市場
  • 需給調整に必要な予備力    → EPRX市場

JEPX(卸電力取引所)

JEPX (Japan Electric Power Exchange) は、各発電機の発電計画に組み込む電力を売買する取引所です。商品は「エネルギー量(kWh)」として売買されますが、発電計画上は「30分 (= 0.5h) あたりに供給する電力(kW)」として解釈するほうが分かりやすいかと思います。例えば、ある発電機がJEPX市場で1つの30分コマに1000kWhを売った場合、そのコマの間は2000kWを供給することになります(2000kW $\times$ 0.5h = 1000kWh)。

EPRX(需給調整市場)

EPRX (Electric Power Reserve eXchange) では、需給調整に使われる予備力が取引されます。本記事で説明したとおり、調整にはいくつかの種類があるため、EPRX市場でも下の表のように多くの商品が売られています。これらの商品は「調整能力(ΔkW)」として取引されます。数学の表記で「変化」を表すのに、よくΔが使われるからです。

基本的な制御理論の観点では、調整は本質的に3種類です。ただし、商品の分類は市場設計に依存するため、国によって異なります。それでも、本記事の内容を踏まえると、各商品の要件は理解しやすくなっているかと思います。例えば:

  • 一次調整力は調整①の機能を提供します。だから「自端制御」とされ、応動時間が最も短いのです
  • 二次調整力は調整②の機能を提供します。だから指令(LFC信号またはEDC信号)に追従する必要があります
  • 三次調整力は調整③の機能を提供します。だから応動時間が最も長いのです

需給調整市場の商品一覧と要件(2026年度)

項目 一次調整力 二次調整力① 二次調整力② 三次調整力① 三次調整力②
種類 調整① 調整② 調整② 調整③ 調整③
英呼称 Frequency Containment Reserve (FCR) Synchronized Frequency Restoration Reserve (S-FRR) Frequency Restoration Reserve (FRR) Replacement Reserve (RR) Replacement Reserve for FIT (RR-FIT)
指令・制御 自端制御 オンライン(LFC信号) オンライン(EDC信号) オンライン(EDC信号) オンライン
入札時間単位 30分 30分 30分 30分 30分
応動時間 10秒以内 5分以内 5分以内 15分以内 60分以内
継続時間 5分以上 30分 30分 30分 30分
指令間隔 -(自端制御) 0.5~数十秒 専用線:数秒~数分
簡易指令システム:5分
専用線:数秒~数分
簡易指令システム:5分
30分
監視間隔 1~数秒 1~5秒程度 専用線:1~5秒程度
簡易指令システム:1分
専用線:1~5秒程度
簡易指令システム:1分
1~30分
供出可能量(入札量上限) 10秒以内に出力変化可能な量 5分以内に出力変化可能な量 5分以内に出力変化可能な量 15分以内に出力変化可能な量 60分以内に出力変化可能な量
最低入札量 1MW 1MW 1MW 1MW 1MW

出典:一般社団法人電力需給調整力取引所(EPRX)
需給調整市場の商品要件と取引スケジュール(第6版)」2026年3月13日

おわりに

SpaceX が Falcon 9 Rocket の着陸に初めて成功したとき、それは大きな偉業として報じられました。一方、電力システムに目を向けると、需給バランスを保つ仕組みは、基本的にこれと同じ種類の技術と制御を、毎日毎秒、1年365日休みなく実行し続けています。私たちは普段、それをほとんど意識することがありません。電気は欲しいときに当たり前のように供給されるため、その恩恵を実感しにくいのですが、電力システムの運用もまた、ひとつの大きな偉業だと感じています。

なお、本記事では供給側として古典的な発電所を想定してきました。しかし、近年の再生可能エネルギーや蓄電池の台頭により、電力システムの姿は変わりつつあります。それでも、電力システムの運用は今もこの3つの基本的な仕組みに支えられています。そこで次回は、再エネと蓄電池が需給バランスに与える影響について話してみようと思います。

宿題
電力系統に詳しい方は、周波数制御の話題の中で「電力系統の慣性力」という概念を聞いたことがあるかもしれません。実は、上の図の中にも登場しています。どこにあるか分かりますか?
(ヒント:慣性力 $\neq$ 需給調整①)

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