はじめに
こんにちは、Shizen Connect のニキータです。
「昔の自分に電力システムを説明してみる」シリーズ、第3回です。
前回のまとめ
前回は、電力システムが日々どのように運用されているか、その全体像を見ました。要点は次のとおりです。
- 前日(計画段階):需要側を予測し、供給側の発電機を計画する。さらに、調整用の予備力を確保しておく。
-
当日(運用段階):実際の需要は予測からずれ、需給バランスが崩れる。このずれは系統周波数として現れ、それを手がかりに「周波数制御」を行う。
- 調整力①:各発電機が自律的に回転速度を調整する(需給という天秤を支える「ばね」)。
- 調整力②:中央給電指令所が、周波数偏差に応じて自動で指令を出す(供給側を実際の需要側に合わせる)。
- 調整力③:中央給電指令所が、運用の最適化に基づいて指令を出す(①②が使った予備力を解放し、再び使えるようにする)。
今回のテーマ
標準的な電力システムの教科書(たとえば Kundur [1])を開けば、上で述べた枠組みが、電力システムを長年支えてきた基本だと分かります。ただし、この枠組みはもともと、火力発電所の大型同期発電機を前提に設計されました。
ここ20年ほどで、電力システムの構成は大きく変わりました。本記事で取り上げたい大きな変化は、次の3つです。
- 太陽光・風力の台頭
- 蓄電池の台頭
- 需要側からの応答
今回は、これらの変化が電力システムの実際の運用にどう影響するかを見ていきます。そして、この先で見ていくように、その流れはやがて VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)の誕生へとつながります。
1. 太陽光・風力の台頭
背景
1997年の京都議定書、そして2015年のパリ協定を経て、世界はCO2が社会に与える影響を強く意識するようになりました。そして、化石燃料の発電所を再生可能エネルギーに置き換える動きが進みました。太陽、風、波、廃棄物、熱など、さまざまな発電方法が開発されました。しかし技術が成熟し、性能とコストが改善するなかで、本命として残ったのは太陽光と風力だけでした。
最大の理由はコストです。太陽光のコストは2010年以降、約90% 下がりました [3]。2020年の時点で、IEA(International Energy Agency, 国際エネルギー機関)は優良な太陽光プロジェクトを「史上最も安い電力」と呼んでいます [2]。実際、2024年に新設された大規模再エネ電源の 91% は、最も安い化石燃料の新設電源よりも安価でした [3]。
安くなったことで、太陽光は爆発的に普及しました。しかも、ほぼ毎年、最も強気の予測すら上回るペースです。2024年は記録的な年となり、世界全体で 550GW超 の太陽光が新たに導入されました。これは前年比で約29%の増加です [4]。IEA自身の長期見通しでさえ、太陽光の成長の速さを繰り返し過小評価してきました [4]。いまや再生可能エネルギーは、世界の発電量の約32%を占めています [5]。
その結果、太陽光と風力が電源構成の主役となる日も多くなりました。いくつか例を挙げます。
- デンマーク:風力が電力の約 60% を供給し、世界で最も高い比率 [7]。
- 南オーストラリア:全住宅の約半数が屋根置きの太陽光を備える。2024年には、再エネだけで需要の100%を満たした時間が年間の約27%(およそ99日分)に達した [6]。
- 九州:太陽光が非常に強く、いわば「多すぎる」状態。供給が需要を上回ることも多く、太陽光の出力制御が日常的な運用になっている [8]。
需給バランスへの影響は?
脱炭素の観点では、太陽光と風力の急速な拡大は見事であり、称賛に値します。わずか数年で、一日のうち一部の時間帯では従来の発電所を置き換え、地域によっては主力の供給源にもなりました。しかし同時に、需給バランスの維持は格段に難しくなりました。下の図は、影響の大きい2つの要因を示しています。
1つ目の要因は不確実性です。太陽電池は太陽光のエネルギーで反応を起こして発電し、大型の風車は風の動きで発電機を回します。どちらも成熟した信頼性の高い技術であり、それ自体が系統を不安定にする原因ではありません。問題は、エネルギー源としての太陽と風が、本質的に変動が大きく不確実だという点です。
太陽光の日射量や風速は、ある程度は予測できます。しかし、ニュースの天気予報と同じで、予測が現実と一致するとは限りません。系統では、雲が一つ通り過ぎるだけでも、出力が一瞬で下がり、また上がります。以前は主に需要側が不確実でした。いまは供給側も不確実になり、バランスはさらに崩れやすくなっています。
2つ目の要因は、予備力に貢献しないことです。火力発電所は、ほぼ100%の出力で運転することはありません(大型原子力のような応動の遅い電源は例外です)。たとえば50%で運転するなど、余力を残しておきます。こうすることで、出力を上げ下げできます。この余力こそ、前回お話しした予備力、つまり必要なときに出力を調整する能力です。
一方、太陽光と風力は、再生可能エネルギーをできるだけ多く取り込むため、通常はフル出力で運転します。そのため、予備力にはほとんど貢献せず、調整には使えません。火力発電所が再エネに置き換わるほど、周波数の変化に応答してバランスを取り戻す、系統全体の能力は小さくなっていきます。
フレキシビリティが必要になる
太陽光と風力は、現代の系統において電源として重要な役割を果たします。しかし、太陽光と風力は不確実であり、また通常はフル出力で運転されます。そのため、調整用の信頼できる供給源にはなりません。上の図が示すとおり、ばね(=調整力①)の数が減るほど、天秤は不安定になります。
データもこれを裏づけています。オーストラリア [9] や北欧 [10] など世界の各地で、太陽光と風力の比率が年々高まるにつれ、周波数偏差が平均的に大きくなってきたことが確認できます。
つまり、再エネ中心の系統で難しいのは「十分な電力を作ること」ではありません。供給と需要をすばやく一致させる柔軟性を見つけることです。従来の調整力を拡張する必要があります。言い換えれば、「フレキシビリティ」 が必要になります。
2. 蓄電池によるフレキシビリティ
背景
ここ10年で、EV(電気自動車)が大きく増えました。それにともない、EVのエネルギーを蓄える電池の開発も進みました。その結果、蓄電のコストは急激に下がり、系統に大量に設置することが現実的な選択肢になりました。リチウムイオン電池パックの価格は、2010年以降 約90% 下がっています [11]。
導入のペースも同じくらい速いです。世界全体で、系統用蓄電池の出力容量は2020年から2024年のあいだに12倍以上に増えました。2025年だけでも前年比で約40%の導入が実現し、蓄電池はいま最も成長の速い電力技術になっています [12]。
蓄電池の役割
これまでの記事で、需給バランスを保たなければならない根本的な理由を説明しました。それは、電気エネルギーを送電線の中に貯めておけないからです。系統用蓄電が増えてきたいま、一見すると、このボトルネックは解決したように見えます。しかし、それは正確ではありません。蓄電池が貯めるのは化学エネルギーだけです。系統につないで電気として使うには、インバータ、すなわち PCS(Power Conditioning System:パワーコンディショナ)で電気エネルギーに変換する必要があります。そのため、蓄電池をたくさんつないでも、システムの動き方は依然として需給バランスに支配されます。
下の図のとおり、系統用蓄電の主な役割は、利用できる予備力を底上げすることです。蓄電池には予測可能な形でエネルギーを貯められます。そのため、太陽光と風力に欠けている柔軟性を提供する、理想的な候補になります。
レコードプレーヤー vs MP3プレーヤー
系統用蓄電を安定化に役立てるには、PCSを制御し、同じ周波数制御の調整を提供する必要があります。それは可能でしょうか。ここで、従来型火力発電所の同期発電機と、蓄電池のPCSの違いを見てみましょう。
すでに述べたとおり、火力発電所では、発電機を回転させることで電気を作ります。もう少し正確にいうと、発電機の中で磁石が銅のコイルのそばを通り過ぎ、電気の波を生み出します。運動が電気エネルギーに変換されるしくみです。これはレコードプレーヤーによく似ています。レコードプレーヤーでは、針がレコードに刻まれた溝を物理的になぞり、機械的な凹凸をそのまま音の波に変えます。
一方、PCSはMP3プレーヤーに近い働きをします。PCSは本質的に、電気的なスイッチ(トランジスタと呼ばれます)を並べたデジタル基板です。これらが「オン」と「オフ」を切り替え、電気の波を数学的に組み立て直します。デジタルなスイッチングに頼るため、いくらかの電気的なノイズ(「高調波」と呼ばれます)が生じます。これは、低ビットレートのMP3のデジタルな歪みに似ています。そのため、PCSには必ず電気的なフィルタが取り付けられます。
蓄電池は信頼できるか
供給側と需要側のバランスを保つには、周波数制御を継続的に行い、周波数偏差に基づいて電気の出力を調整しなければなりません。従来型の火力発電所では、この制御は完全に機械的です。出力を変えるには、蒸気弁や回転する質量を物理的に動かします。これは、レコードプレーヤーの回転数を手で調整して音の高さを変えるようなものです。やればできますが、大きな手間がかかります。
蓄電池とそのPCSでは、この制御は純粋にソフトウェアで動きます。調整力①なら、周波数偏差に比例して電力が変わるようにコードを書くだけです。調整力②なら、指令信号に追従するようにコードを書くだけです。蓄電池は動く金属の物理法則に縛られません。そのため、ミリ秒単位で応答できます。レコードを手で差し替える代わりに、ボタンで曲をスキップするようなものです。
違いはアナログかデジタルかだけです。しかし、レコードプレーヤーでもMP3プレーヤーでも、聞こえる音楽は同じです。同じように、火力発電所でも蓄電池でも、調整される電力は同じです。ただし、デジタルな解のほうがはるかに汎用的で柔軟です。
データもこれを裏づけています。世界中で蓄電池は急速に重要性を増し、調整力の役割の多くを担うようになりました。蓄電池の優れた柔軟性のおかげで、オーストラリア [9] でも北欧 [10] でも、電力システムはここ20年で最も安定しています。蓄電池の柔軟性があれば、再エネ比率の高い系統でも安定を保てます。約60%を風力でまかないながら99.99%の信頼度を維持するデンマークが、その証拠です [7]。
3. 需要側からのフレキシビリティ
ここまでは、需給バランスを取り戻す話をするとき、需要側に合わせて供給側を調整することだけを考えてきました。しかし理論上は、その逆もできます。つまり、供給側に合わせて需要側を調整することもできます。これは「デマンドレスポンス」として知られ、当然ながら、電力系統の黎明期から存在します。最も古い例の一つは、1890年代のニューヨーク市でした [13]。
価格シグナルによる需要のシフト
では、どうすれば需要側から応答を引き出せるでしょうか。消費者に系統周波数を測らせたり、指令信号に従わせたりするのは考えられません。それは系統本来の目的に反します。消費者に消費の変更を強制する代わりに、経済的なインセンティブで促します。つまり、周波数シグナルではなく、価格シグナルを使って需要側の一部をシフトさせます。
価格を非常に低く設定すれば、消費者にもっと使うよう促せます。高く設定すれば、使う量を減らすよう促せます。価格がうまく一致すれば、デマンドレスポンスは系統のバランスを助けます。これこそ、太陽光が多く出る晴れた日の昼ごろに、電気がとても安くなる理由です。九州では、晴れた日にスポット価格がほぼ0円まで下がることも多いです。ヨーロッパでは、2024年がマイナス価格の記録的な年になりました [14]。総じて見れば、価格を高く保ったまま太陽光の余剰に対処し、十分な予備力のために火力発電所の起動・停止コストを払い続けるよりも、こうするほうが実際に安く済みます。
需要側は調整力を提供できるか
価格シグナルに応じて需要をシフトさせることは、調整力③とよく似た形でバランスを支えます。では、調整力①と調整力②はどうでしょうか。
長いあいだ、需要側から調整力①と調整力②を提供することは、できませんでしたし、必要でもありませんでした。しかし最近、状況は変わりつつあります。
- 家庭用蓄電池の価格が下がり続け、住宅への設置がしやすくなっている。
- 同様に、住宅用の太陽光パネルも増え続けている。
- 負荷の電化がますます進んでいる(EV、エコキュートなどの電気ヒートポンプなど)。
- 機器が高度化し、遠隔での監視と制御が可能になっている。
技術的には、系統の周波数偏差に応じて消費者の電力消費を調整できる段階に達しています。たとえばEVは、充電に必要な時間よりもずっと長くつながれていることが多いです。ヒートポンプやエアコンには、たいてい許容できる温度の幅があります。停止中の家庭用蓄電池にも余力があります。これらは、柔軟性を提供する理想的な候補です。一つの機器がシステム全体に与える影響はごくわずかです。しかし、数万台を束ねれば、その合計の貢献は、大型の系統用蓄電池1台に匹敵します。
VPPに向けて
ここまでをまとめます。
- 脱炭素を実現するには、化石燃料の火力発電所ではなく、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを電源として頼る必要がある。しかし、不確実であり、フル出力で運転されるため、系統の需給バランスを不安定にする。
- 不足する柔軟性に対する重要な解の一つが、系統用蓄電池である。制御が容易で速いため、信頼できる調整力の提供元であることが実証されている。
- さらなる柔軟性は、需要側からも得られる。価格シグナルに応じて需要をシフトさせるか、家庭用蓄電池やEVといった最新技術で直接調整力を提供する。
現代の再エネ中心の系統で主な課題となるのは、十分な電力を見つけることではありません。供給と需要をすばやく互いに合わせる柔軟性を見つけることです。この機能は、かつては従来型の火力発電所だけが担っていました。現代では、ほかの資源からも提供される必要があります。
ここから、VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)の定義が見えてきます。VPPは根本的に、電気の供給源として火力発電所を置き換えようとするものではありません。そうではなく、現代の電力システムでボトルネックになった調整(フレキシビリティ)機能の重要な提供者です。だからこそVPPは、供給側の系統用蓄電から需要側の家庭用機器まで、あらゆる層で柔軟性を提供する資源で構成されます。
VPPの運用で最も難しいのは、ネットワーク全体に分散し、所有者もメーカーも技術も異なる多数の資源を、まとめて協調させることです。そのためには、統一された制御プラットフォームが必要です。Shizen Connect が開発しているようなプラットフォームです。これによって、いまは十分に活用されていない柔軟性を、その全範囲にわたって引き出せます。
宿題
長いあいだ、供給側は少数の地域的な火力発電所に集中し、需要側はネットワーク全体に分散していました。しかしこの20年で、供給側は集中型の発電から分散型エネルギー資源(DER)へと移ってきました。
いま、データセンターの増加によって、需要側ではむしろ逆のことが起きているとも言えます。大きな需要のかたまりが、特定の少数の地点に集中しつつあります。これは需給バランスにどう影響するでしょうか。
参考文献
[1] P. Kundur, Power System Stability and Control, McGraw-Hill, New York, 1994.
[2] IEA (2020), World Energy Outlook 2020, International Energy Agency, Paris.
[3] IRENA (2025), Renewable Power Generation Costs in 2024, International Renewable Energy Agency, Abu Dhabi.
[4] IEA-PVPS (2025), Trends in PV Applications 2025; IEA (2024), Renewables 2024, International Energy Agency, Paris.
[5] IEA (2025), Renewables 2025, International Energy Agency, Paris.
[6] ElectraNet (2025), Transmission Annual Planning Report (TAPR) 2025.
[7] State of Green / Energinet (2025), "Seamless integration of wind into the electricity grid"; Our World in Data, "Denmark generates a larger share of its electricity from wind than any other country."
[8] 資源エネルギー庁 (2024), 「再生可能エネルギーの出力制御の抑制に向けた取組等について」, 経済産業省.
[9] https://www.linkedin.com/posts/alex-leemon_to-say-that-it-took-me-a-while-to-produce-share-7002582768643686400-7ONf/?utm_source=share&utm_medium=member_desktop&rcm=ACoAAC-EyF4B3T4f2k2fKO6Fc0_MRa_pdvH7Wjs
[10] https://www.linkedin.com/posts/andreas-barnekov-thingvad-14808696_can-the-nordic-grid-handle-the-increasing-activity-7447498650080927744-rk9T?utm_source=share&utm_medium=member_desktop&rcm=ACoAAC-EyF4B3T4f2k2fKO6Fc0_MRa_pdvH7Wjs
[11] BloombergNEF (2025), Lithium-Ion Battery Price Survey 2025.
[12] IEA (2024), Batteries and Secure Energy Transitions; IEA (2026), Electricity 2026 / Global Energy Review 2026, International Energy Agency, Paris.
[13] J. L. Mathieu et al. (2025), "A New Definition and Research Agenda for Demand Response in the Distributed Energy Resource Era," IEEE Transactions on Energy Markets, Policy and Regulation, vol. 3, no. 3, pp. 324–339, doi: 10.1109/TEMPR.2025.3554734.
[14] Financial Times / ICIS, via World Economic Forum (2024), "Negative energy price record in Europe"; Montel Analytics (2025).

