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応用数学Advent Calendar 2019

Day 8

固有値・固有ベクトルの使いみち(7.同時対角化とブロック化行列)

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はじめに

この記事では、前回の記事固有値・固有ベクトルの使いみち(6.対角化の一般化と単純・直既約・可約)に続いて、複数の行列の同時対角化、ブロック化を考えます。
ただ、実際に一番内容があるのは、おまけの複素数と転置についての話かもしれません。

同時対角化

同時対角化はできません(出オチ)

任意の2つの行列が与えられた時、これらを同時対角化する方法を考えましょう...と言いたいところですが、一般には同時対角化をすることはできません。例えば、

$$\left(\begin{matrix}
0& 1\\
0& 0\end{matrix}\right), \left(\begin{matrix}
0& 0\\
1& 0\end{matrix}\right)$$

という2つの行列が与えられた時、この2つの行列に対して同時に固有ベクトルになるようなベクトルは無く、実はこれ以上簡単にすることができません。
これらの行列について、作用するベクトル空間を$V$と表現することにすれば、$V$は"単純"、これ以上簡単にしようが無いという状態だったのでした。

でも、ブロック対角化なら...?

一方で、例えば
$$
\left(\begin{matrix}
0& 1& 0\\
0& 0& 0\\
0& 0& 1\end{matrix}\right),
\left(\begin{matrix}
0& 0& 0\\
1& 0& 0\\
0& 0& 2\end{matrix}\right)
$$
という2つの行列が与えられたとすると、この2つの行列は対角化はできませんが、先程の作用の
$$
\left(\begin{matrix}
0& 1& \\
0& 0& \\
& & \end{matrix}\right),
\left(\begin{matrix}
0& 0& \\
1& 0& \\
& & \end{matrix}\right)
$$
という部分と、
$$
\left(\begin{matrix}
& & \\
& & \\
& & 1\end{matrix}\right),
\left(\begin{matrix}
& & \\
& & \\
& & 2\end{matrix}\right)
$$
という部分の2つの作用の直和であると思うことができます。
Jordan標準形のような形での対角化ではないですが、いくつかの行列が与えられたとき、それらの作用をこのように"同時直和分解"することで、固有値・固有空間のある種の一般化を考えることができます。

正方行列のブロック化

これまで、何度か「ブロック化」という言葉を使っていますが、(正方)行列の著しい特徴として、「成分の一部を行列として考えても、和・積が成立する」というものがあります。(和については自明かと思いますが)

例えば、次のような行列があったとします。
$$
\left(\begin{matrix}
a_{11}& a_{12}& b_{11}\\
a_{21}& a_{22}& b_{21}\\
c_{11}& c_{12}& d_{11}\end{matrix}\right)
$$
これは、
$$\left(\begin{matrix}
A& B\\
C& D\end{matrix}\right)
$$
という行列をイメージしていて、$A$は2行2列、$B$は2行1列、$C$は1行2列、$D$は1行1列の行列になります。これに、同じ形の別の行列
$$\left(\begin{matrix}
P& Q\\
R& S\end{matrix}\right)
$$
を右からかけたとすると、単純に行列の積のルールに従えば
$$\left(\begin{matrix}
AP + BR & AQ + BS\\
CP + DR & CQ + DS\end{matrix}\right)
$$
になります。
この左上は2行2列、右上は2行1列、左下は1行2列、右下は1行1列になりますが、これを"展開"して普通の3行3列の行列としてみると、実は上の3$\times$3行列として見た時の計算と一致しています。
例えば、一番左上の成分は、$a_{11}p_{11} + a_{12}p_{21} + b_{11}q_{11}$で、他もすべて一致することが計算をすればわかります。

一般に、行と列について同じ区切り方をすれば、このようなブロック化が成立して、このようなある意味で再帰的な構造が成立します。とても興味深いですね。

ブロック対角化

このようなブロック化において、特にブロック対角成分となる各正方行列以外はすべて0(零行列)になっているとき、そのような行列はブロック対角化されていると言えます。
ただし、広義で考えれば任意の行列は既にブロック対角化された状態であるとも言えるので、特に"細かい"ブロック対角化を目指すのが良さそうです。

というような事を素朴に考えてきましたが、このブロック対角化を考えるには、単純に行列そのものを考えるのではなく、それを含む代数から考えた方が見通しが遥かに良くなります。代数で考えるとき、作用するベクトル空間は加群と呼ばれ、また作用を与える行列(または、その行列と代数の対応)を表現と呼びます。
そこで、次回以降は代数の基本的な事実から、このようなブロック対角化=加群(表現)の直和分解について考えを進めていきたいと思います。

おまけ

複素数を含む行列の転置(随伴行列)

随伴行列を取る時、行列を転置して、さらに複素数について複素共役をとる="虚数成分の正負を反対にする"という操作を取ります。
これは一見不自然な操作ですが、実は次のような考えをブロック行列と合わせて考えると、自然な操作であると思えます。

$$\left(\begin{matrix}
0& 1\\
-1& 0\end{matrix}\right)$$
という行列を考えると、これは2乗すると
$$\left(\begin{matrix}
0& 1\\
-1& 0\end{matrix}\right)^2 = \left(\begin{matrix}
-1& 0\\
0& -1\end{matrix}\right)$$
となって、$\sqrt{-1}$と同一視できることがわかります。
そこで、$$
1=\left(\begin{matrix}
1& 0\\
0& 1\end{matrix}\right),i=\left(\begin{matrix}
0& 1\\
-1& 0\end{matrix}\right)$$
と思うことにして、複素数の行列は$2 \times 2$の行列が隠れたブロック行列だったと思うことにします。
そうすると、例えば$i$の転置を取ると$$
\left(\begin{matrix}
0& -1\\
1& 0\end{matrix}\right)=-i
$$
となり、複素共役が自然に出てくるのでした。

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