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コンテナの基盤技術 Namespace 入門

Last updated at Posted at 2022-05-01

コンテナは Namespace と cgroups という Linux の仕組みで構成されます1

コンテナ毎にプロセスやファイルシステムを分離したり、
CPU やメモリなどのリソースを分け合えたりできるのは、これらの技術のおかげです。

この記事では、Namespace を取り上げ、概要説明を交えつつ、実際の動きにも触れてみます。

概要

コンテナを複数立てたとき、プロセスはコンテナ間で分離されます。
コンテナ A で動くプロセスは、コンテナ B では見ることはできません。
同様にファイルシステムにおいても、コンテナ A からコンテナ B のファイルを見ることはできません。

これを実現しているのが Namespace という機能です。
Docker がコンテナを作成すると、下記のような Namespace を作成します。

  • IPC Namespace
  • Mount Namespace
  • Network Namespace
  • PID Namespace
  • User Namespace
  • UTS Namespace

以下では、ubuntu のドキュメント2を参考に Namespace を掘り下げてみます。

Namespace とは

名前空間は、 グローバルシステムリソースを抽象化層で覆うことで、 名前空間内のプロセスに対し
て、 自分たちが専用の分離されたグローバルリソースを持っているかのように見せる仕組みであ
る。 グローバルリソースへの変更は、 名前空間のメンバーである他のプロセスには見えるが、 そ
れ以外のプロセスには見えない。 名前空間の一つの利用方法はコンテナーの実装である。

「グローバルシステムリソース」がホストマシンが持つリソースのことになります。
Namespace という”部屋”を分けることによって、互いに独立したリソースを持つことができます。

これはシェアハウスのイメージに近いかもしれません。
互いの部屋の壁が厚いので、まるで一軒家と勘違いしてしまうような感じです。

Namespace の種類

Namespace 分離対象
IPC System V IPC, POSIX メッセージキュー
Network ネットワークデバイス、スタック、ポートなど
Mount マウントポイント
PID プロセス ID
User ユーザー ID とグループ ID
UTS ホスト名と NIS ドメイン名

中でも PID は直感的に理解しやすい Namespace かと思います。
コンテナ上のプロセスは基本的に PID1 が振られますが、コンテナ A でも コンテナ B でも PID1 を利用できます。
Namespace が別であるため、通常一意であるべき PID が重複していても問題がないわけです。

Namespace を操作する API

システムコール 内容
clone(2) プロセスを生成し呼び出し元プロセスと同じ Namespace に所属させる。フラグを使って新しい Namespace を作成することもできる。
setns(2) 呼び出したプロセスを指定した既存 Namespace に参加させることができる。
unshare(2) 呼び出したプロセスを新しい Namespace に移動する。

Namespace の確認方法

/proc/[pid]/ns/ ディレクトリを見に行くことで、
現在のプロセスが所属している Namespace を確認できます。

$ ls -l /proc/$$/ns
total 0
lrwxrwxrwx. 1 mtk mtk 0 Jan 14 01:20 ipc -> ipc:[4026531839]
lrwxrwxrwx. 1 mtk mtk 0 Jan 14 01:20 mnt -> mnt:[4026531840]
lrwxrwxrwx. 1 mtk mtk 0 Jan 14 01:20 net -> net:[4026531956]
lrwxrwxrwx. 1 mtk mtk 0 Jan 14 01:20 pid -> pid:[4026531836]
lrwxrwxrwx. 1 mtk mtk 0 Jan 14 01:20 user -> user:[4026531837]
lrwxrwxrwx. 1 mtk mtk 0 Jan 14 01:20 uts -> uts:[4026531838]

実際に触ってみる

試しに PID Namespace を分離してみます。

環境準備

Linux 環境を用意します。
今回は ubuntu の公式イメージを利用します。

$ docker pull ubuntu
$ docker run --privileged --name ubuntu -it ubuntu /bin/bash # 特権モードで起動

現在のプロセスの状態を確認してみる

bash が起動したら、現在のプロセスが所属している Namespace を確認します。
/proc/self/ns 配下のファイルを参照して確認できます。

$ cd /proc/self/ns
$ ls -la
total 0
dr-x--x--x 2 root root 0 May  1 06:04 .
dr-xr-xr-x 9 root root 0 May  1 05:46 ..
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 cgroup -> 'cgroup:[4026531835]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 ipc -> 'ipc:[4026532376]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 mnt -> 'mnt:[4026532374]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 net -> 'net:[4026532379]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 pid -> 'pid:[4026532377]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 pid_for_children -> 'pid:[4026532377]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 time -> 'time:[4026531834]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 time_for_children -> 'time:[4026531834]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 user -> 'user:[4026531837]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 uts -> 'uts:[4026532375]'

pid に注目すると 4026532377 という Namespace に所属していると分かります。

続いて、現在のプロセスを確認します。

$ ps -ef
UID        PID  PPID  C STIME TTY          TIME CMD
root         1     0  0 05:46 pts/0    00:00:00 /bin/bash
root        15     1  0 06:05 pts/0    00:00:00 ps -ef

PID1 で /bin/bash が動いています。

PID Namespace を分離してみる

次に、PID Namespace を分離してみます3
分離には unshare4 という新しい Namespace を作るためのコマンドを使用します5

$ unshare --pid --fork --mount-proc sh

先程と同様に Namespace を確認します。

$ ls -la /proc/self/ns
total 0
dr-x--x--x 2 root root 0 May  1 06:04 .
dr-xr-xr-x 9 root root 0 May  1 06:04 ..
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 cgroup -> 'cgroup:[4026531835]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 ipc -> 'ipc:[4026532376]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 mnt -> 'mnt:[4026532455]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 net -> 'net:[4026532379]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 pid -> 'pid:[4026532456]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 pid_for_children -> 'pid:[4026532456]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 time -> 'time:[4026531834]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 time_for_children -> 'time:[4026531834]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 user -> 'user:[4026531837]'
lrwxrwxrwx 1 root root 0 May  1 06:04 uts -> 'uts:[4026532375]'

すると、pid は 4026532456 となっており、さっきと異なっていることが分かります。

プロセスも見てみましょう。

$ ps -ef
UID        PID  PPID  C STIME TTY          TIME CMD
root         1     0  0 06:04 pts/0    00:00:00 sh
root         3     1  0 06:05 pts/0    00:00:00 ps -ef

すると、こちらでは PID1 で sh が動いており、元々あった bash が見えなくなっています。

以上から、PID Namespace を分離することで

  • 別 Namespace のプロセスが見えないこと
  • Namespace 間で PID を重複して利用できること

の2点を確認できました。

  1. https://github.com/docker/docker.github.io/blob/v17.06-release/engine/docker-overview.md#the-underlying-technology

  2. http://manpages.ubuntu.com/manpages/jammy/ja/man7/namespaces.7.html

  3. 付属オプションはこちらを参考にしました。

  4. http://manpages.ubuntu.com/manpages/jammy/ja/man2/unshare.2.html

  5. docker run に --privileged を付けて特権モードで起動したのはこのコマンドを打つためです。

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