3行まとめ
- 2026年6月30日、米商務省が Fable 5 / Mythos 5 への輸出規制指令を解除。Anthropic は7月1日から Fable 5 を全世界で再デプロイした(停止は6月12日なので19日ぶり)
- 復旧の条件は「改善版の安全分類器」。報告された回避手法を 99%以上ブロックする分類器を訓練し、輸出ライセンスも不要になった。停止の発端が Amazon の研究者によるセーフガード回避の報告だったことも明らかに
- ただし利用条件は変わった。当初の「6/22まで無料」は消滅し、7月7日までは週次上限の50%まで利用可 → 以降は従量のクレジット制。「定額プランで最上位モデルを使い倒す」構図は戻ってこなかった
2026年7月1日、Anthropic が Claude Fable 5 の提供を全世界で再開した。6月12日の輸出規制指令による即日停止から19日。claude.ai・Claude Platform(API)・Claude Code・Cowork で再び使えるようになっている。
「公開3日で全世界停止」という前例のない事態が、どういう条件で解除されたのか。そして復活後の Fable 5 は停止前と同じようには使えなくなっている。前回の停止時の記事の続編として、公式発表と各社報道を突き合わせて整理する。
時系列 — 停止から復旧までの19日間
- 6月9日: Fable 5(一般公開)/ Mythos 5(パートナー限定)発表。有料プランは6/22まで無料の触れ込み
- 6月12日 17:21(ET): 米政府が輸出規制指令。Anthropic は即日、両モデルを全世界で停止
- 6月26日: 政府承認を経て、Mythos 5 が米国の一部組織向けに復旧
- 6月30日: 商務省が輸出規制を解除。同日、Anthropic が再デプロイ計画を発表
- 7月1日: Fable 5 が全世界で復旧。claude.ai / API / Claude Code / Cowork
- 7月7日: プラン込み利用(週次上限の50%まで)の期限。以降はクレジット制へ移行
停止時には「復旧はできるだけ早く(as soon as possible)」としか書かれておらず、無料期間内(〜6/22)の復帰はならなかった。結果的に「できるだけ早く」は19日だったことになる。
停止の発端はAmazonの研究者だった
停止時点では「別の企業が Mythos を jailbreak できたと主張した」という Axios のスクープ止まりだった(Fable 5 と Mythos 5 は同一の基盤モデルで、セーフガードの構成が違う)。今回の報道で、その発端がより具体的になった。Amazon の研究者が Fable 5 のセーフガードを回避する手法を発見し、その報告が政府に伝わったことが指令のトリガーだったと CNBC が報じている。
Anthropic のパートナーでもあり、数GW級のコンピュート契約を結んでいる Amazon の名前がここで出てくるのは皮肉な構図だが、セーフガード検証の研究自体は各社が相互にやっていることで、報告そのものは通常のセキュリティリサーチの範疇と言える。問題はそれが「輸出規制指令 → 即日全世界停止」に直結したプロセスの方で、この点は前回記事で書いたとおり Anthropic 自身が公に批判していた。
解除の条件 — 分類器の改善と「自主対策」の合意
公式発表から、復旧までに何をやったのかを拾うと以下になる。
- 改善版の安全分類器を訓練し、報告された回避手法を99%以上のケースでブロックする。ブロックされたリクエストは下位モデルへのフォールバックで処理
- 単一の分類器に頼らない**多層防御(defense in depth)**の構成に変更
- セーフガードの判定マージンを広げ、ボーダーライン級のリクエストもブロックする側に倒した
政府側はどうか。商務長官 Howard Lutnick は「過去2週間、Anthropic と密に連携して Fable 5 を分析・承認した」と X に投稿している。Lutnick の書簡によると、Anthropic が「モデルに関連するセキュリティリスクを能動的に検知・対処する」ことに合意したため、輸出ライセンスは不要という整理になった。
つまり法的な枠組みとしては、「規制指令 → ライセンス制」ではなく「規制指令 → 解除 + 事業者の自主対策コミット」という着地。前回 Anthropic が求めていた「透明・公平・明確で技術的事実に基づく法定プロセス」が制度化されたわけではなく、個別交渉での政治決着に近い。
業界共通の「jailbreak深刻度」基準づくりが始まった
今回の発表で目を引くのが、再発防止の枠組みとして Amazon・Microsoft・Google などと jailbreak の深刻度を評価する共通基準を策定中だと明かされた点。評価軸は4つ。
- 能力の向上(capability uplift) — その回避で攻撃者が実際にどれだけ危険な能力を得るか
- 範囲(scope) — 回避がどの程度広範に適用できるか(汎用 jailbreak か、狭い手法か)
- 兵器化の容易さ — 実際の悪用までの距離
- 発見可能性 — 同じ手法が独立に再発見される可能性
前回の停止劇は「非汎用の狭い回避手法」を理由に最上位モデルが全世界停止になった、という点が業界に衝撃を与えた。もしこの基準が業界標準として機能すれば、「どの深刻度なら公開継続でパッチ対応、どの深刻度なら停止」という判断が事前に予測可能になる。停止の教訓が制度側に反映されるかどうかの試金石になる。
復活後の Fable 5 は「使い放題」ではない
ユーザー目線で一番大きいのはここ。復旧後の利用条件は停止前と違う。
- Pro / Max / Team / 一部 Enterprise: 7月7日までは週次利用上限の50%まで Fable 5 をプラン内で利用可能
- 7月8日以降: プラン内利用は終了し、利用量クレジット(usage credits)での従量制に移行
- 標準の Enterprise シートはクレジットの有効化が必要
- AWS / Google Cloud / Microsoft Foundry での提供は「できるだけ早く」再有効化
停止前の触れ込みは「有料プランなら6/22まで無料」だった。それが消滅した代わりに「7/7まで週次上限の半分まで」という短い救済枠が置かれ、その後はクレジットを買って使うモデルに切り替わった。この記事の執筆時点(7月11日)では、すでにクレジット制のみになっている。
Opus 4.8 以下が引き続きプラン内で使えるのに対して、Fable 5 だけが従量制という線引きは、「最上位ティアはサブスクに含めない」方向への地ならしにも見える。プロモーション的な無料開放で需要を測ったうえで、恒常提供はクレジット制——という流れは、フロンティアモデルの提供形態として今後の標準になる可能性がある。
個人開発者目線 — 前回の「教訓」の答え合わせ
前回の停止記事で挙げた教訓とウォッチポイントを、19日後の結果と突き合わせてみる。
- 「復旧のタイミングと条件」 → 19日で復旧。条件は分類器の改善と自主対策の合意。無料期間の延長・補償はなく、代替は「7/7まで50%枠」だった
-
「モデルIDを直書きせず、設定1箇所で差し替えられるように」 → 有効だった。
claude-fable-5を直書きしていたコードは19日間エラーを返し続けたが、フォールバック構成にしていれば被害は精度の一時後退で済んだ。Claude Code ならfallbackModelで最大3つのフォールバックを設定できるようになっており、この構成は今後も保険になる - 「無料キャンペーンは使えるうちに検証を済ませる」 → 結果論だが正解だった。6/9〜6/12 の3日間に検証を済ませた層と、週末に回した層で明暗が分かれた
新しく加わった教訓はシンプルで、「復活しても同じ条件で戻ってくるとは限らない」。モデルの可用性だけでなく、課金条件も外部要因で変わり得る前提で、コスト試算には余裕を持たせておきたい。
まとめ — 今後ウォッチすべきポイント
今回の復活劇を一言でまとめると、「分類器の改善と自主対策の合意で政治決着し、19日で復旧したが、Fable 5 はクレジット従量制のモデルになって帰ってきた」。
- 6/30 輸出規制解除、7/1 全世界復旧。輸出ライセンスは不要の整理
- 発端は Amazon 研究者によるセーフガード回避の報告。対策は 99%以上ブロックする改善版分類器 + 多層防御
- 利用条件は「7/7まで週次上限の50%」→ 以降クレジット制。定額プラン内での常用はできなくなった
ウォッチポイントは3つ。
- jailbreak 深刻度の業界共通基準が実際に公開・運用されるか。次に同種の問題が起きたときの停止判断が予測可能になるかどうかの分岐点
- クレジット制がフロンティアモデルの標準になるか。次期モデル(Opus 5 世代など)の提供形態に注目
- Mythos 5 / Project Glasswing の拡大。米国の一部組織限定からどこまで広がるか
なお、輸出規制解除と同じ6月30日には Claude Sonnet 5 もリリースされている。「フロンティアはクレジット制で絞り、ミドルティアを厚くする」という Anthropic の方向性はこの2つをセットで見るとわかりやすい。
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