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論文解説:Jodoi et al. (2025) によるTES検出効率評価の数式(1)–(10)を読み解く

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Last updated at Posted at 2025-12-21

はじめに

TES(Transition Edge Sensor)は、光子数分解能力を持つ検出器として量子光学や量子情報分野で重要な役割を果たしています。TES の性能評価において最も重要な指標のひとつが検出効率(Detection Efficiency)です。本記事では「入力した光子数」と「TES が検出した光子数」をどのように結びつけるかに注目し、対象論文における式(1)〜(10)を順に説明します。

対象論文:
T. Jodoi, T. Tsuruta, M. Rajteri, D. Fukuda,
Evaluation of detection efficiency of a transition edge sensor at C-band wavelength,
Optics & Laser Technology 192 (2025) 113414.
https://doi.org/10.1016/j.optlastec.2025.113414

式(1):入力平均光子数の定義(反射補正なし)

参照検出器で測定した平均光パワー $P_{\mathrm{ref}}$ から、1 パルスあたりの平均入力光子数 $\mu'_{\mathrm{in}}$ を次式で定義します。

\mu'_{\mathrm{in}} = P_{\mathrm{ref}} \times 10^{-A/10} \times \frac{1}{f} \times \frac{\lambda}{hc}\tag{1}

ここで $A$ は可変減衰器(VOA)の減衰量(dB)、$f$ はパルス繰り返し周波数、$\lambda$ は光の波長、$h$ はプランク定数、$c$ は光速です。この式は、光パワーをパルスあたりのエネルギーに変換し、光子エネルギー $hc/\lambda$ で割るという素直な変換を表しています。

式(2):ファイバー端面反射の補正

実験では、参照検出器測定時のみファイバー端面(ファイバー→空気)で反射が生じるため、TES 入力(ファイバー→ファイバー)と条件が異なります。この差を補正するため、反射率 $R_{\mathrm{ref}}$ を用いて入力平均光子数を

\mu_{\mathrm{in}} = P_{\mathrm{ref}} \times 10^{-A/10} \times \frac{1}{f} \times \frac{\lambda}{hc} \times \frac{1}{1 - R_{\mathrm{ref}}}\tag{2}

と定義します。この補正を行わないと、TES に入射する光子数を過小評価してしまいます。

式(3):検出効率の定義

入力平均光子数 $\mu_{\mathrm{in}}$ と、TES が検出した平均光子数 $\mu_{\mathrm{det}}$ を用いて、検出効率 $\eta$ を

\eta = \frac{\mu_{\mathrm{det}}}{\mu_{\mathrm{in}}}\tag{3}

と定義します。これは「入射した光子のうち、どの程度を検出できたか」を表す極めて直感的な定義です。

式(4):光子数分布の確率

TES は光子数分解検出器であり、各パルスに対して $n=0,1,2,\dots$ 光子という判定結果が得られます。論文では、$n$ 光子状態と判定されたイベント数を $S(n)$、総パルス数を $N$ として、その確率を

P(n) = \frac{S(n)}{N}\tag{4}

と定義しています。ここで $S(n)$ は光子数そのものではなくイベント数であり、例えば 3 光子が同時に入射した場合でも $S(3)$ は 1 カウントです。

実際の TES 測定では、パルス高さ分布の歪みや光子損失(低エネルギー側へのテール)、ファイバー結合のずれなどにより、単純な閾値判定によって光子数を決めることは必ずしも容易ではありません。この点については、例えば 服部氏による解説記事 においても、実験上の注意点が整理されています。

そのため論文では、パルス高さヒストグラムを多重ガウス関数でフィットし、各ピークの面積として $S(n)$ を定義しています。この $P(n)$ は理想的な確率ではなく、検出器の分解能・損失・ノイズを含んだ実験的な確率です。

式(5):平均検出光子数の定義

得られた光子数分布 $P(n)$ から、平均検出光子数 $\mu_{\mathrm{det}}$ は

\mu_{\mathrm{det}} \equiv \sum_{n=0}^{\infty} n P(n)\tag{5 一部改変}

と定義されます。これは確率論における期待値そのものです。ただし実験では無限個の光子数状態を観測することはできないため、この和は有限の光子数までで打ち切る必要があります。

式(6):打ち切り光子数の決定

本実験では、入力光子統計が Poisson 分布に従うことが確認されています。そこで、期待値の 99.5% 以上が含まれるように打ち切り光子数 $n_{\max}$ を

\sum_{n=0}^{n_{\max}} n P_{\mathrm{Poisson}}(n\mid\mu_{\mathrm{det}})
\ge 0.995\,\mu_{\mathrm{det}}\tag{6 一部改変}

で定めます。本論文の条件(平均 $\sim3$ 光子/パルス)では $n_{\max}=9$ が採用されています。

式(7):多重ガウスフィット

TES のパルス高さ分布は、光子数ごとにガウス分布で近似できると考え、全体の分布を

f(x) = \sum_{n=0}^{n_{\max}} S(n)\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_n}
\exp\left(
-\frac{(x - b_n)^2}{2\sigma_n^2}
\right)\tag{7}

と表します。ここで $b_n$ は $n$ 光子ピークの位置、$\sigma_n$ はその分布幅、$S(n)$ はピーク面積(イベント数)です。この式は、各光子数イベントをガウス分布で広げ、それらを足し合わせたものと解釈できます。

実装上は

f(x) = \sum_{n=0}^{n_{\max}} A_n
\exp\left(
-\frac{(x - b_n)^2}{2\sigma_n^2}
\right)

と書き、ガウス分布の規格化から

S(n) = \sqrt{2\pi}\, A_n \sigma_n

と対応づけます。ここで $A_n$ と $\sigma_n$ はガウスフィットの独立なパラメータであり、この書き換えは実装と誤差評価を簡単にするための整理です。つまり、このモデルで実際にフィットするパラメータは、各ピークに対する $A_n$(振幅)、$b_n$(位置)、$\sigma_n$(幅)の組です。

モデル化について:非専門の立場からのメモ

一つの考え方としては、$\sigma_n$ を自由パラメータとしたまま、$S(n)$ を Poisson 分布
$P(n\mid \mu_{\mathrm{det}})$ によって直接モデル化し、$\mu_{\mathrm{det}}$ を唯一のパラメータとして制約付きフィットを行う、という整理も考えられます。

ただし実際のデータ解析では、ピーク形状や相対強度まで含めて Poisson 制約を課そうとすると、モデルが複雑になりやすく、フィットの安定性や結果の解釈が難しくなる場面もありそうです。

そのため本論文では、まず多重ガウスフィットによって実験的な分布 $S(n)$ を素直に取り出し、その後に $\mu_{\mathrm{det}}$ を評価する、という段階的な整理が採用されているのだと理解しました。

式(8):Method 1 の不確かさ評価

式(4)より確率 $P(n)$ の不確かさは $\Delta P(n)=\Delta S(n)/N$ で与えられます。$S(n)$ は $A_n,\sigma_n$ の関数であるため、誤差伝搬より

\Delta S(n)
=
\sqrt{
2\pi\left[
(\sigma_n \Delta A_n)^2
+
(A_n \Delta \sigma_n)^2
\right]
}

となります($A_n$ と $\sigma_n$ の相関は近似的に無視)。平均値 $\mu_{\mathrm{det}}$ への誤差伝搬は

\sum_{n=0}^{n_{\max}} (n\,\Delta P(n))^2

で与えられます。さらに $n>n_{\max}$ の寄与は打ち切られていますが、Poisson 分布を仮定するとその確率は $\sim0.005$ 程度であり、次に支配的な光子数 $n_{\max}+1$ で代表させたオーダ評価を加えます。以上より

(\Delta \mu_{\mathrm{det}})^2 =
\sum_{n=0}^{n_{\max}} (n \Delta P(n))^2
+
\left(
(n_{\max}+1)
\left(
1 - \sum_{n=0}^{n_{\max}} P(n)
\right)
\right)^2\tag{8}

を得ます。
ここでは、多重ガウスフィットに由来するパラメータ間の相関については、本実験条件では影響が小さいと考えられることから、近似的に無視する扱いが取られています。

式(9):Method 2(ゼロ光子法)

入力光子統計が平均光子数 $\mu_{\mathrm{det}}$ を持つ Poisson 分布

P(n\mid\mu_{\mathrm{det}})=\frac{\mu_{\mathrm{det}}^n}{n!}e^{-\mu_{\mathrm{det}}}

に従うと仮定すると、特に

P(0\mid\mu_{\mathrm{det}})=e^{-\mu_{\mathrm{det}}}

が成り立ちます。これを逆に用いることで

\mu_{\mathrm{det}} = -\log P(0\mid\mu_{\mathrm{det}})\tag{9 一部改変}

と平均検出光子数を直接求めることができます。

式(10):Method 2 の不確かさ

ゼロ光子イベントの確率のみを用いるため、不確かさは

\Delta \mu_{\mathrm{det}} = \frac{\Delta P(0\mid\mu_{\mathrm{det}})}{P(0\mid\mu_{\mathrm{det}})}\tag{10}

と簡潔に評価できます。

まとめ

式(1)〜(3)で入力光子数と検出効率を定義し、式(4)〜(8)では全光子数分布を用いる Method 1 により $\mu_{\mathrm{det}}$ を評価しました。
また、式(9),(10)で示される Method 2 は、入力光が Poisson 分布に従うという情報を最大限に活かし、$P(0\mid\mu_{\mathrm{det}})$ のみから平均検出光子数を求める方法でした。

Poisson 分布であることが分かっている場合、$P(0\mid\mu_{\mathrm{det}})$ のみに着目することで平均検出光子数を評価できるという点は、非常に合理的で、実験的にも扱いやすい方法だと感じました。

最後に、本論文で示されたような検出効率を含めた定量的な解析手法により、通信波長帯において光子数分解と検出効率評価を同時に行える TES 技術は着実に進展しています。
このような TES 技術は、量子通信や量子計測といった産業応用に向けた重要な基盤技術であり、本研究成果は産業技術総合研究所のプレスリリースでも紹介されていますので、興味のある方はぜひご覧ください。

参考文献

  1. Evaluation of detection efficiency of a transition edge sensor at C-band wavelength
    Optics & Laser Technology 192 (2025) 113414.
    https://doi.org/10.1016/j.optlastec.2025.113414

  2. 産業技術総合研究所 プレスリリース
    https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250806_3/pr20250806_3.html

  3. 福田 大治,
    超伝導転移端センサーによる光子数識別技術,
    https://www.aist.go.jp/Portals/0/resource_images/aist_j/aistinfo/aist_today/vol09_08/vol09_08_p18.pdf

  4. 服部 香里,
    超伝導転移端センサによる単一光子検出技術の進展と現状,
    https://radiation-chemistry.org/kaishi/110pdf/110_37.pdf

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