はじめに
ChandraのX線CCD検出器ACISは、native pixelの1辺が約0.492 arcsecです。一方、Chandraの像が最も鋭い光軸付近では、望遠鏡のPSF中心部はこのpixel scaleよりも細く、native pixelの粗さが画像の見え方に影響することがあります。
そこで使われるのが、eventの位置をpixel内で調整するEDSERと、native pixelより細かいグリッドへのbinningです。
この記事では細かなアルゴリズムには深入りせず、SS 433のChandra ACIS-S/HETG zeroth-order観測全24本(1999–2024年)について、native-pixel画像と1/4-pixel画像をギャラリーとして見比べます。
EDSERとは
1個のX線光子がCCDに入射すると、発生した電荷が一つのpixelに収まることもあれば、隣のpixelにまたがって分かれることもあります。電荷がどの方向へ分かれたかという情報には、光子がpixel内のどこに入射したかについての手がかりが含まれています。
この性質を利用したsubpixel event repositioningは、Tsunemi et al. (2001)やMori et al. (2001)などで検討され、その後Li et al. (2003)、Li et al. (2004)によって、CCDモデルや光子エネルギーへの依存性を取り入れた方法へと発展しました。
現在のCIAOではEnergy-Dependent Subpixel Event Repositioning(EDSER)が利用でき、ACIS timed-exposure dataの標準処理にも適用されています。EDSERは、完成した画像を拡大・補間する処理ではなく、event grade(電荷の分かれ方を反映したcharge split pattern)やenergyなど、個々のeventが持つ情報を使って推定位置をpixel内で調整する処理です。
EDSERで得た位置を画像にする
EDSERは、個々のeventの位置をnative pixel内で調整する処理です。一方で、EDSER自体が特定のpixel sizeの画像を作るわけではありません。
EDSERを適用したevent fileには、調整後の位置情報が保持されます。それを画像として表示するときに、どの細かさの画像グリッドへbinningするかを別に決めます。
つまり、EDSERはeventの位置を調整する処理であり、binsizeはそのeventをどの細かさのグリッドで画像化するかを指定するものです。
なお、CIAOのchandra_reproでは、ACISのTimed Exposure(TE)mode dataに対して、通常のデフォルト設定で再処理するとEDSERが適用されます。そのため、特別な理由がなければ、通常の解析では標準のEDSER処理を用いればよいでしょう。
また、画像グリッドを細かくしても、Chandraの角分解能そのものがその比率で向上するわけではありません。細かなグリッドへbinningしても、event fileがもともと持っている位置情報を超える新しい空間情報が生成されるわけではなく、実際の見え方にはHRMA PSF、姿勢再構成、光子統計、pileupなども影響します。
SS 433全観測を並べてみる
Sakai et al. (2025)では、SS 433の0.5–8.0 keV Chandra/HETG zeroth-order画像を用いて秒角スケールの構造を解析しました。今回は、subpixel imagingの背景も見えるように、同研究で扱った利用可能なACIS-S/HETG観測全24本を一覧にしました。
比較条件は次のとおりです。
- Chandra ACIS-S/HETG zeroth-order
- エネルギー帯域:0.5–8.0 keV
- 左右とも同じEDSER処理済みeventを使用
- 左:
binsize=1、約0.492 arcsec/pixel - 右:
binsize=0.25、約0.123 arcsec/pixel - 1/4-pixel画像の最大値の天球座標に、native画像の中心も合わせる
- 左右で同じ角度範囲
- 左右で同じカラースケール
- 観測日時順
1/4-pixelでは1 pixelの面積がnative pixelの1/16になるため、今回は表示上の比較のため、1/4-pixel側をpixel面積比で規格化しています。
ギャラリー
各観測のペアは、左がNative pixel、右が1/4 pixelです。左も含め、両方とも同じEDSER処理済みeventから作成しています。全体は左上から右へ、続いて次の段へと観測日時順に並んでいます。図中にはObsIDと観測日を記載しています。
少し見比べてみる
Native-pixel画像では、明るい中心部とその周辺が少数の大きなpixelsで表現されるため、観測によってはピクセル化による粗さがかなり目立ちます。1/4-pixelグリッドでは、EDSER後のevent分布をより細かく表示でき、中心付近の広がりや非対称性を視覚的に追いやすくなっています。
一方で、細かく見える構造がそのまま天体固有の構造だとは限りません。観測ごとの光子統計、pileup、PSF、姿勢再構成などの影響も受けるため、1秒角未満の構造を定量的に議論するときは、PSFモデル化を含む追加検証が必要です。
ギャラリーとして眺めると、1/4-pixel化の効果は「新しい分解能を作る」というより、native pixelでは粗く見えていたevent分布を、より細かなグリッドで表現することだと分かりやすいと思います。
補足:EDSER以外のevent位置の扱い
native pixelより細かなスケールの情報を画像として扱うことは、単純に画像のpixelを細かくすればよい、という問題ではありません。検出器上では光子は有限の大きさを持つpixelで検出されるため、そのpixel内のどこに光子が入射したのかをどこまで推定できるか、という問題が残ります。
そのため、ACISではpixel内のevent位置をどのように扱うかについて、これまでさまざまな方法が検討されてきました。現在のCIAOではEDSERが標準的に用いられていますが、chandra_reproのpix_adjではRANDOMIZEやNONEを指定することもできます。
-
EDSER:event grade(charge split pattern)やenergyなどの情報を使ってsubpixel位置を調整する -
RANDOMIZE:event位置をnative pixel内でランダム化する -
NONE:こうしたpixel内の位置調整を行わない
これらは画像のbinsizeを変える処理ではなく、画像化する前のevent位置の扱いに関する違いです。その後、それぞれのevent fileをbinsize=0.25などのグリッドへbinningして画像にします。
ここでは念のため、SS 433のObsID 15781をEDSER、RANDOMIZE、NONEでそれぞれ再処理し、同じ条件で比較してみました。エネルギー帯域は2–8 keV、binsize=0.25で、表示範囲やカラースケールも共通にしています。

SS 433 ObsID 15781の2–8 keV flux image。binsize=0.25で、左からEDSER、RANDOMIZE、NONE。同じ表示条件を用い、scale barは1 arcsec。
3者を見比べると、少なくともこの観測では全体像に大きな違いはありません。一方、中心部ではEDSERの方がわずかにシャープに見えます。RANDOMIZEではevent位置をnative pixel内でランダムに散らすため、pixel scaleに近い細かな構造をわずかになます方向に働くことがあります。今回見えている違いも、こうしたevent位置の扱いの違いが反映されたものだと思います。
ただし、この比較はEDSERの性能を定量的に評価するためのものではありません。ここでは、native pixelより細かな画像を考える際には、画像のbinsizeだけでなく、その前段階にあるevent位置の扱いも関係している、という点を確認するための補足として示しています。
pixel化と統計についての一般論
より一般には、有限の光子数から細かなbinの画像を作ると、統計揺らぎやbin境界の取り方によって見え方が変わることがあります。こうしたbinningやpixel化に関する単純な例は、以前こちらの記事でも扱いました。
ただし、Chandraでは観測中にditherを行い、aspect solutionを用いてeventを天球座標へ変換しています。そのため、固定された検出器pixelの境界だけを考える単純なbinning問題とは少し事情が異なります。
このあたりを厳密に評価するには、光子統計、dither、aspect reconstruction、PSFなども含めて考える必要があります。本記事ではそこまでは踏み込まず、「native pixel以下の情報を扱うこと自体が単純ではない」という点だけ押さえておきます。
まとめ
- EDSERは、event grade(charge split pattern)とenergyを利用してevent位置をpixel内で調整する処理
-
binsize=0.25は、eventをnative pixelの1/4幅のグリッドで画像化する指定 - 1/4-pixel画像にしても、角分解能が4倍になったり、新しい空間情報が生成されたりするわけではない
- ObsID 15781では、EDSER / RANDOMIZE / NONEの全体像はよく似ているが、中心部などpixel scaleではわずかな違いが見える
- SS 433の全24観測を並べると、native pixelで目立つピクセル化による粗さと、subpixelグリッドでの見え方の違いをまとめて確認できる
- event位置の扱いにはEDSER / RANDOMIZE / NONEなど複数の方法があり、今回のObsID 15781では全体像はほぼ同じで、コア付近に軽微な違いが見られた
EDSERの詳しい性能評価ではなく、まず実データで見た目の違いを眺めてみたい、というときの比較例になれば幸いです。
参考文献
- H. Tsunemi et al. (2001), “Improvement of the Spatial Resolution of the ACIS Using Split-Pixel Events,” The Astrophysical Journal, 554, 496–504. DOI
- K. Mori et al. (2001), “Improvement of the Chandra ACIS Spatial Resolution by Selecting the Split Pixel Events,” in New Century of X-Ray Astronomy, ASP Conference Series, 251, 576–577. NASA ADS
- J. Li et al. (2003), “Refining Chandra/ACIS Subpixel Event Repositioning Using a Backside-Illuminated CCD Model,” The Astrophysical Journal, 590, 586–592. DOI
- J. Li et al. (2004), “Chandra/ACIS Subpixel Event Repositioning. II. Further Refinements and Comparison between Backside- and Frontside-Illuminated X-Ray CCDs,” The Astrophysical Journal, 610, 1204–1212. DOI
- Y. Sakai et al. (2025), “Arcsecond-Scale X-ray Imaging and Spectroscopy of SS 433 with Chandra HETG,” Publications of the Astronomical Society of Japan, 77, 1113–1125. DOI / arXiv
