はじめに
この記事は、SS 433 の nutation(ノッディング)周期を理論的に説明した Katz et al. (1982, ApJ 260, 780) の議論を、最短経路でたどるための備忘録です。
Katz (1982) では、傾いた円盤(リング)に作用する潮汐トルクを出発点として、
- なぜノッディングが生じるのか
- なぜ複数の周期成分が現れるのか
- なぜ理論と観測が完全には一致しないのか
が数式を通して丁寧に議論されています。
本記事では、論文中の式番号に対応する論理の流れを保ったまま、導出の細部は省略し、「どの仮定から何が出てくるのか」が分かるように整理します。理解が不十分な点や誤解が含まれている可能性もありますので、お気づきの点があればご指摘いただけると助かります。
なお、Katz et al. (1982) の議論を整理・解説している文献として、Jeffrey (2016, Oxford)(2.5章)もご参照ください。
この文献では SS 433 のジェットやノッディングの背景が分かりやすくまとめられており、本記事の理解の助けになります。
セットアップと前提
Katz らのモデルは、質量移動によって形成された「傾いたリング」を 剛体 として扱うところから始まります。リング法線の平均傾斜角を $\theta_0$、ノード角(昇交点の角度)を $\xi$ とし、伴星は角速度 $\dot\eta$ で公転しています。一方、このリング(円盤)は、伴星からの潮汐トルクを受けて、角速度 $\Omega_s$ でゆっくりと歳差運動します。
このモデルの本質的な仮定は、
円盤を剛体として近似し、潮汐トルクは一次摂動までしか考えない
という点にあります。この仮定により、ノッディングの自由度が強く制限され、後に示すように「どの周期成分が理論的に消えるか」が決まります。
Katz (1982) ではまず、潮汐トルクを伴星の公転周期で平均することで、剛体リングが理論的に示す自然な歳差角速度を導いています。このトルクから直接計算される歳差角速度を $\Omega_0$ と表します。一方、実際の系では歳差運動が必ずしもこの理論値に一致するとは限らないため、Katz らは実際に採用する平均歳差角速度を $\Omega_s$ として独立に定義し、そのまわりの小さな摂動としてノッディング運動($\xi'$, $\theta'$)を扱っています。
この設定のもとで用いる記号を整理します。
-
幾何:質量移動で形成された 傾いたリング(剛体近似)。
リング法線の平均傾斜角 $\theta_0$、ノード角 $\xi$。 - 公転:伴星の位相 $\eta = \dot\eta,t$。
- 理論的歳差:潮汐トルクから計算される自然な歳差角速度 $\Omega_0$。
- 平均歳差:実際に採用する平均歳差角速度 $\Omega_s$。このまわりの摂動としてノッディングを記述する。
以下では、剛体リングモデルに潮汐トルクを与えたときの運動方程式の詳細な導出には立ち入らず、その結果として得られるノッディング解に焦点を当てます。
導出過程の物理的解釈については今後の整理課題とし、本記事では Katz らの式 (10), (11) に相当する解を出発点として、平均歳差運動 $\Omega_s$ のまわりに現れるノッディングの基本周期と位相構造を確認します。
伴星の公転方向と歳差ジェットの回転方向の関係について
この論文の文脈と直接関係しているかは明確ではありませんが、伴星の公転方向とジェットの歳差回転方向が逆向きになる counterprecessing disks が自然に生じる可能性が指摘されています。本稿で扱う retrograde 歳差の解釈とも関係している可能性があります(後述の式 10, 11 参照)。
関連論文
剛体リング+潮汐トルク ⇒ 式 (10)(11)
潮汐トルクを摂動として扱い、平均歳差運動のまわりで一次まで展開すると、平均歳差運動からの振動(=ノッディング)が得られます。
\theta'(t)= \frac{\Omega_0 \tan\theta_0}{2(\dot\eta-\Omega_s)}
\cos\!\left\{2\big[(\dot\eta-\Omega_s)t-\xi_0\big]\right\} \tag{10}
\xi'(t)= \frac{\Omega_0}{2(\dot\eta-\Omega_s)}
\sin\!\left\{2\big[(\dot\eta-\Omega_s)t-\xi_0\big]\right\} \tag{11}
-
物理的意味:
- $\xi_0$:位相原点(初期ノード角)。
- $\theta'$:平均傾斜 $\theta_0$ のまわりの揺れ(傾きのノッディング)。
- $\xi'$:平均歳差軌道 $\Omega_s t$ のまわりの揺れ(ノード角のノッディング)。
式(10, 11)から、角周波数 $2(\dot\eta-\Omega_s)$が得られます。
したがって、 ノッディングの基本周期は
T_{\rm nod}=\frac{\pi}{|\dot\eta-\Omega_s|}.
ここで $\dot\eta=2\pi/P_{\rm orb}$、$\Omega_s=2\pi/P_{\rm prec}$ です。ここでは $\Omega_s$ の符号が、公転と同方向(prograde)か逆方向(retrograde)かで変わるため、周期表現では $\pm$ が現れます。
$P_{\rm orb}\approx 13.08\rm~d,; P_{\rm prec}\approx 168\rm~d$としたとき、
- 同方向 (prograde):
T=\frac{1}{2\left(\tfrac{1}{P_{\rm orb}}-\tfrac{1}{P_{\rm prec}}\right)}\approx 7.1\text{日}
- 逆方向 (retrograde):
T=\frac{1}{2\left(\tfrac{1}{P_{\rm orb}}+\tfrac{1}{P_{\rm prec}}\right)}\approx 6.06\text{日}
観測ではおよそ 6 日の周期が現れるため、SS 433 の歳差運動は公転と逆向きであることが示唆されているようです。
式 (12):歳差運動ジェットの基本モデル(six-parameter model)
SS 433 では、中心天体から互いに反対方向へ向いた 2 本のジェットがほぼ対称に噴出しており、それぞれが観測者に近づく場合と遠ざかる場合で異なるドップラーシフトを示します。
この双方向ジェットを考慮すると、相対論的ドップラーシフトは次のように書けます。
z \equiv \frac{\Delta \lambda}{\lambda}
= \gamma \Big[ \pm v \sin i \sin\theta \cos\!\left(\xi - \tfrac{\pi}{2}\right)
\;\pm v \cos i \cos\theta + 1 \Big] - 1\tag{12}
- $z$:ドップラーシフト量(観測可能量)
- $v$:ビーム中の物質の噴出速度(単位 c)
- $\gamma$:ローレンツ因子
- $i$:歳差軸と視線との傾き角
- $\theta$:噴出ビームと歳差軸の傾き角(平均角+摂動で表す)
- $\xi$:ノード角(噴出円錐の基準面上の方位角)
- $\pm$:$+$がred jet, $-$がblue jet
この式は、ジェット速度や幾何、歳差運動を記述する 6 つの独立なパラメータから構成されるため、SS 433 の観測解析では six-parameter model と呼ばれています。
six-parameter の詳細な意味や各パラメータの直感的な解釈については、こちらの解説記事もぜひご覧ください:
式 (13,14):歳差角速度の時間変化
Katz らの研究では、歳差角速度が時間変化も考慮して以下のような式を用いています。
\Omega_s(t) = \Omega_s(0) + \dot\Omega_s t \tag{13}
Katz et al. (1982) の $\dot\Omega_s$の定義について
ここでの $\dot\Omega_s$ は「歳差角速度の時間微分」を表しますが、厳密に時間の関数として扱っているのではなく、$t=0$ で評価した値を定数として一次近似に残したものです。
\Omega_s(t) \approx \Omega_s(0) +
\left.\frac{d\Omega_s}{dt}\right|_{t=0}\, t
というテイラー展開の一次項に対応します。
本質的には 観測データをフィットするための補正項であり、ノッディング理論には大きな影響はありません。
このとき、ノード角と傾斜角は次のように表されます:
\xi = \Omega_s(0)t + 0.5\dot\Omega_s t^2 + \xi_0, \tag{14a}
\theta = \theta_0. \tag{14b}
ここではまだノッディング(摂動)は含まれておらず、単純な歳差運動だけを考えた six-parameter model に対応します。
ノッディング解(本質的には式10, 11と同じ)
式(12)の歳差モデルは、ノッディングの摂動を重ねると次のように書き直されます:
\xi = \Omega_s(0)t + 0.5\dot\Omega_s t^2 + \xi' + \xi_0, \tag{15a}
\theta = \theta_0 + \theta'. \tag{15b}
ここでノッディング解は式(10, 11)より
\theta' = \frac{\Omega_0 \tan\theta_0}{2\,[\dot\eta-\Omega_s(0)]}
\cos\Big\{2[\dot\eta t - \Omega_s(0)t - 0.5\dot\Omega_s t^2 - \xi_0]\Big\}, \tag{16}
\xi' = \frac{\Omega_0}{2\,[\dot\eta-\Omega_s(0)]}
\sin\Big\{2[\dot\eta t - \Omega_s(0)t - 0.5\dot\Omega_s t^2 - \xi_0]\Big\}. \tag{17}
ポイント
- 式(10, 11) との違いは、位相の中に $-0.5\dot\Omega_s t^2$ の項の追加。
- つまり「歳差角速度が時間的にゆっくり変動している」ことを形式的に入れただけであり、ノッディングの基本的な構造自体は式(10, 11)と変わりません。
ノッディング解の式の見通しを良くするための変数整理
ノッディング解 式 (15a–17) をそのまま使うと式が煩雑になるので、Katz らは以下のように書き直しています:
\xi = \bar{\xi} + \varepsilon_\xi \sin 2(\dot\eta t - \bar{\xi}), \tag{18a}
\theta = \theta_0 + \varepsilon_\theta \cos 2(\dot\eta t - \bar{\xi}), \tag{18b}
ここで、$\bar{\xi}$は以下で定義します:
\bar{\xi} \equiv \Omega_s(0)t + 0.5\dot\Omega_s t^2 + \xi_0. \tag{18c}
周期成分の展開と 3 種類のモード
式 (12) の歳差運動モデルに、式 (18a,b,c) を代入し、とりあえず1次の項まで残すことで、
\delta z
= \pm\,\gamma v\Big\{
\sin i\Big[
-\,\varepsilon_\xi \sin\theta_0 \sin\!\left(\xi-\tfrac{\pi}{2}\right)\,
\sin 2(\dot\eta t-\xi)
\;+\;
\varepsilon_\theta \cos\theta_0 \cos\!\left(\xi-\tfrac{\pi}{2}\right)\,
\cos 2(\dot\eta t-\xi)
\Big]
\;+\;
\cos i\Big[
-\,\varepsilon_\theta \sin\theta_0 \cos 2(\dot\eta t-\xi)
\Big]
\Big\}. \tag{19}
と表されます($\pm$の$+$: red jet, $-$: blue jet)。
式 (19) を三角恒等式の関係と (18c) を用いて和・差周波に書き換えると
\begin{aligned}
\delta z
= {}& \pm\,A(2\dot\eta-3\Omega_s)\,
\cos\!\Big\{ 2\dot\eta\,t
- 3\big[\Omega_s(0)t + 0.5\,\dot\Omega_s t^2\big]
- 3\xi_0 + \tfrac{\pi}{2} \Big\} \\
& \pm\,A(2\dot\eta-2\Omega_s)\,
\cos\!\Big\{ 2\dot\eta\,t
- 2\big[\Omega_s(0)t + 0.5\,\dot\Omega_s t^2\big]
- 2\xi_0 \Big\} \\
& \pm\,A(2\dot\eta-\Omega_s)\,
\cos\!\Big\{ 2\dot\eta\,t
- \big[\Omega_s(0)t + 0.5\,\dot\Omega_s t^2\big]
- \xi_0 - \tfrac{\pi}{2} \Big\}.
\end{aligned} \tag{20}
となります。
Katz らの計算では、ノッディング摂動について一次までの項だけを残しているため、周波数成分はこの 3 本に限られています。
このとき、式 (20) の3本のcosの振幅はそれぞれ次式で与えられます:
A(2\dot\eta-3\Omega_s)
= \tfrac12\,\gamma v \sin i\;\big(\varepsilon_\theta\cos\theta_0-\varepsilon_\xi\sin\theta_0\big)
= \tfrac12\,\gamma v \sin i\;\big((\varepsilon_\xi\tan\theta_0)\cos\theta_0-\varepsilon_\xi\sin\theta_0\big)=0, \tag{21a}
(式 10, 11 と 式 18a, 18b)の関係から $\varepsilon_\theta=\varepsilon_\xi\tan\theta_0$ を代入。)
A(2\dot\eta - 2\Omega_s)
= -\gamma v \cos i (\varepsilon_\theta \sin\theta_0)
= -\frac{\gamma v \Omega_0 \sin\theta_0 \tan\theta_0 \cos i}{2(\dot\eta - \Omega_s)}, \tag{21b}
A(2\dot\eta - \Omega_s)
= 0.5\,\gamma v \sin i (\varepsilon_\theta \cos\theta + \varepsilon_\xi \sin\theta_0)
= \frac{\gamma v \Omega_0 \sin\theta_0 \sin i}{2(\dot\eta - \Omega_s)}. \tag{21c}
ポイント
-
3種類の周期成分(式 20, 21 より):
-
$2\dot\eta - 3\Omega_s$:
P = \frac{2\pi}{2\dot\eta - 3\Omega_s} \;\;\approx 5.83 \,\text{日}→ 剛体モデルでは 式 (21a) = 0 となり、このモードはモデルの内部関係により打ち消される。したがって、このモデルのもとでは物理的に存在しないことになる。
-
$2\dot\eta - 2\Omega_s$:
P = \frac{2\pi}{2\dot\eta - 2\Omega_s} \;\;\approx 6.06 \,\text{日} -
$2\dot\eta - \Omega_s$:
P = \frac{2\pi}{2\dot\eta - \Omega_s} \;\;\approx 6.28 \,\text{日}
-
周期成分の比較(理論と観測)
この剛体モデルがどの程度受け入れられるかは、観測と理論予測を照らし合わせることで初めて評価できます。そこで、主要な周期成分について理論値と観測結果を並べて整理します。
| 周期 (日) | 理論の予想値(振幅, 単位: z) | 観測 | コメント |
|---|---|---|---|
| 5.83 | $A(2\dot\eta - 3\Omega_s) = 0$ | 明瞭に存在 | 理論モデルでは消えるが観測で強く出る → 剛体近似の限界 → 次節では観測事実に基づく補正を導入する |
| 6.06 | $A(2\dot\eta - 2\Omega_s) = +4.81 \times 10^{-4}$ | ほぼ検出されず | 振幅が小さく、観測では見えていない。理論的には6.28日に比べて一桁低い。 |
| 6.28 | $A(2\dot\eta - \Omega_s) = -6.79 \times 10^{-3}$ | 支配的に存在 | 理論・観測で一致する主要成分 |
ここでの「理論の予測値」は、剛体リング+潮汐トルクモデルから得られた振幅の理論式(式21)を用い、その中のパラメータに観測で決まっている six-parameter model の値を代入して評価したものです。
5.83日、6.28日のモデルの導入
前節までの議論で分かったのは:
-
理論モデル(剛体リング)からは 3つの周期成分が導かれる:
5.83 日(消えるはず)、6.06 日(弱い)、6.28 日(強い)。 -
ところが 観測では、
- 5.83 日と 6.28 日が明瞭に見える。
- 6.06 日は振幅が小さいためほとんど見えていない。
このことから、剛体リングモデルで得られた振幅式をそのまま用いるだけでは、観測されている周期構造を完全には再現できないことが分かります。
そこで Katz らは、剛体リングモデルから導かれる周期構造を前提としつつ、観測に合わせて振幅を自由に調整する現象論的なモデルを導入しています。
このモデルでは、歳差運動による基本的なドップラーシフト(six-parameter model)で説明しきれない残差成分に対して、観測でほとんど見えない 6.06 日成分を落とし、5.83 日と 6.28 日の 2 成分のみを用いてフィットを行います。
それが次の式 (22) です。
\begin{align}
\delta z &= \pm A_{5.8}\cos\!\Big[
\omega_{5.8}(t-t_0^{5.8})
+ 0.5\dot\omega_{5.8}(t-t_0^{5.8})^2
- 3\xi_0 + \tfrac{\pi}{2} \Big] \\
&\quad \pm A_{6.3}\cos\!\Big[
\omega_{6.3}(t-t_0^{6.3})
+ 0.5\dot\omega_{6.3}(t-t_0^{6.3})^2
- \xi_0 - \tfrac{\pi}{2} \Big].\tag{22}
\end{align}
ポイント
- 理論的には消えるはずの 5.83 日成分を、観測事実に基づいてあらためて導入している。
- 6.06 日成分は理論的には存在するものの、振幅が非常に小さいため、経験的モデルからは除外されている。
- 6.28 日成分は理論・観測の両方で支配的であるため、主要成分として残されている。
- ここで用いている $t_0^{5.8}$, $t_0^{6.3}$ は累乗を意味するものではなく、各周期成分に対応する独立な時間原点(位相パラメータ)を表す。
補足:ノッディング現象の近年の扱い
Katz (1982) では、潮汐トルクによるモジュレーションを厳密に解くことで 5.83日(剛体潮汐モデルでは振幅0)、6.06日、6.28日 の3周期成分を導きました。しかし観測事実との乖離(特に 5.83日の強い存在、6.06日の不在)がありました。
その中で 6.28日成分は観測的に最も明瞭に現れる周期であったため、後続研究ではこの成分に注目し、より単純化したモデル(単純なサイン波表現)が広く用いられるようになりました。
(e.g., Gies et al. 2002; Davydov et al. 2008; Cherepashchuk et al. 2018; Cherepashchuk et al. 2022; Sakai et al. in press)。
その表式は、位相 $\phi_{\mathrm{nut}}$ を用いて単純な正弦波の形で与えられます:
\delta z = \pm A_{\mathrm{nut}} \sin(2\pi \phi_{\mathrm{nut}}),
\phi_{\mathrm{nut}} = \frac{t - t_{0,\mathrm{nut}}}{P_{\mathrm{nut}}},
\quad
P_{\mathrm{nut}} \simeq 6.28\,\text{日}.
- $A_{\mathrm{nut}}$:nutation(ノッディング)振幅。Katz の潮汐トルクモデルを信じれば理論的に推定可能だが、実際の研究では観測フィットの自由パラメータとして扱われることが多い。
- $P_{\mathrm{nut}}$:nutation周期(6.28日)。
- $t_{0,\mathrm{nut}}$:nutationの位相基準(エフェメリスの基準時刻)。
また、Katz の式(22)では nutation 周期に対して 時間変化項($\dot\omega$) が含まれていますが、長期観測(例:40年間の可視光データ)ではそのような傾向はほとんど検出されておらず、この項は一般に無視されるのが実情です(e.g., Cherepashchuk et al. 2018の Fig. 5)。
5.83 日成分の扱いについての補足(筆者の感覚)
Katz らのモデルでは、5.83 日成分と 6.28 日成分はいずれも歳差運動に由来する成分として同時に現れますが、観測的にそれらの位相関係や振幅を厳密に制限することは容易ではありません。
実際には、これらの短周期成分が長周期の歳差運動($\sim$162 日)に重ね合わさった状態で観測されるため、歳差周期そのものの揺らぎや長期的な変動の影響も受けます。その結果、両成分が混在した形で見える可能性があり、理論で想定される位相構造や振幅関係を直接検証するのは難しいのが現状です。
観測的な実情として、可視光ではイレギュラーなモジュレーションも多く報告されており、単純な周期成分だけで記述するのが困難な場合もあります。
そのため実用的には、観測で最も明瞭に現れる 6.28 日成分を中心に、簡易的な表現が用いられることが多いのだと思います。
まとめ
Katz et al. (1982) の潮汐トルクモデルは、剛体リング近似に基づいて 5.83 日・6.06 日・6.28 日 という特徴的な周期成分を理論的に導き、SS 433 に見られるノッディング現象を物理的に理解しようとした先駆的な研究でした。
観測との比較では、6.28 日成分が理論・観測の双方で支配的である一方、5.83 日や 6.06 日成分については理論予測と観測結果の間に差が見られました。Katz ら自身もこうした点を踏まえ、観測事実に即した現象論的な修正を導入しています。
その後の研究では、観測で最も安定して検出される 6.28 日成分を中心とした簡便な表現が広く用いられるようになりました。ただし、そのようなノッディングの起源は依然として十分に理解されたとは言えず、現在も重要な課題として残されています。近年では、XRISM X線天文衛星により、この問題を含め SS 433 が抱えるさまざまな謎に取り組む研究も進みつつあります(e.g., Shidatsu et al. 2025; Takagi et al. 2025; Sakai et al. 2026)。
この記事が、Katz et al. (1982) の議論を「最短経路」でたどるための整理メモとして、今後この問題に向き合う際の一助になれば幸いです。
謝辞
本記事は、XRISM SS 433 プロジェクトの一環として進めてきた議論や解析を通じて得られた理解を整理したものです。本プロジェクトに関わる多くの共同研究者との議論から多くの示唆を得ました。この場を借りて感謝いたします。