はじめに
天文学で使われる velocity dispersion(速度分散)は、
名前に反して 統計学的な分散 $\sigma^2$ ではなく、標準偏差 $\sigma$ を指すのが一般的です。
でも不思議ではないでしょうか。
速度「分散」なのに、分散ではないというのは。
これはおそらく、スペクトル線の幅や速度分布の「広がり」、そして観測で直接意味をもつ量を、そのままパラメータとして扱ってきたことによる、歴史的な用語の名残なのだと思います。
実は私はこれを、ずっと「速度の標準偏差」だと意識して呼んでいました。
改めて velocity dispersion の Wikipedia の定義 を確認したときに、「えっ、分散なのに $\sigma$ なの?」と気づいて、少し恥ずかしくなりました😳
おわりに
- variance("分散"):$\sigma^2$
- standard deviation(標準偏差):$\sigma$
- velocity dispersion(速度"分散"):$\sigma$
名前と中身がずれているのは、天文学あるあるなのかもしれません。
この記事を仕上げたあと、この話題についてとある方と少し議論する機会がありました。その中で、物理では dispersion という言葉自体が、必ずしも統計学の「分散(variance)」を意味しない、という点を改めて認識しました。
たとえば 分散関係(dispersion relation) は、名前に「分散」とついていますが、量としては角周波数であり、統計量ですらありません。
そう考えると、velocity dispersion も「分散」というよりは、速度分布の“広がり”を表す物理語として受け取る方が自然なのかもしれません。
もしみなさんの中に、かつての私と同じように
「速度の標準偏差」と呼んでいる方がいたら、
この記事が「速度分散」と呼ぶきっかけになれば幸いです。