この記事の実施記録(2026年8月): Claude Codeに自分のKindle購入履歴を読ませ、時代小説16作家・501冊の内訳を、日本歴史時代作家協会賞の受賞歴と突き合わせて分析させた(2026年8月22日実施)。結果、上位2作家(上田秀人164冊・佐伯泰英156冊)で全体の64%を占めていること、直近の購入ペースが2019年の129冊から2024年の11冊まで落ち込んでいることが分かった。原因は「読みたい本が尽きた」のではなく、その上位2作家の新規供給が止まっていたという構造的な理由だった。AIはここから「次に読むべき作家」を5人具体的に挙げ、私は実際にそのうちの1人の本を買った。
積読が減らない、同じ作家ばかり買っている——そんな自覚はあったが、理由まではわからなかった。手元にあるのはただの購入履歴だ。だがAIに読ませてみると、そこから「次に何を読めばいいか」まで導き出された。
Kindle購入履歴でわかった、上位2人で6割超えの偏り
種になったのは、Amazonの注文履歴からKindle購入分だけを抜き出し、書名・著者名・購入日をテキストファイルに並べた一覧だった。それをClaude Codeに渡し、作家ごとの集計から始めてもらった。
まず内訳を並べてみる。時代小説を書いている作家は16名、合計501冊。
| 作家 | 冊数 |
|---|---|
| 上田秀人 | 164 |
| 佐伯泰英 | 156 |
| 池波正太郎 | 57 |
| 千野隆司 | 38 |
| 今村翔吾 | 28 |
| 鈴木英治・浅田次郎 | 各16 |
| 司馬遼太郎 | 11 |
| 冲方丁 | 5 |
| 辻堂魁 | 3 |
| 宮城谷昌光 | 2 |
| 上田健次・佐藤雅美・山本周五郎・葉室麟・吉村昭 | 各1 |
上田秀人と佐伯泰英の2人だけで320冊、全体の64%を占めている。残り14名は合わせて181冊しかない。1人か2人の作家を集中的に買い続ける読み方をしていた、ということがまず数字で見える。
読書ペースが落ちていた——ただし時代小説だけの話
購入年別の冊数を見ると、ペースの変化がはっきり出る。この推移は時代小説16作家分に限定した集計であり、蔵書全体の購入推移ではない(全蔵書では2019年は161冊で、時代小説の129冊とは別の数字になる)。
2019年に129冊、2021年に108冊とまとめ買いのピークがあり、その後は2022年42冊、2023年45冊、2024年11冊まで落ち込み、2025年16冊、2026年はここまで22冊という水準にとどまっている。
まとめ買いの中身を見ると理由がわかる。2019年は上田秀人だけで106冊、2021年は佐伯泰英だけで90冊を買っている。つまりこの2回は「新しい本を読みたくなった」のではなく、すでに出ている既刊を一気に回収した買い方だった。回収し終えたあとは、新刊が出るのを待つ状態になる。
上田秀人・佐伯泰英の新刊供給が止まっていた理由
回収し終えた2人の「その後」を確認すると、両方とも新規の供給が止まっていた。
上田秀人は2025年3月27日に65歳で死去している(日本経済新聞・時事通信で確認)。生涯で200冊超を書いた作家だが、新刊はもう出ない。私の最終購入日は2026年7月2日で、これは死後に既刊のバックログを買った記録だ。
佐伯泰英は1942年生まれで存命だが、2026年の刊行情報を確認すると「決定版」——既刊の再編集——が中心で、新規の長期シリーズは確認できなかった。私の最終購入日は2024年3月27日で止まっている。
一方で供給が続いている作家もいる。千野隆司「おれは一万石」は最終購入が2026年8月6日で、今も新刊が出ている。鈴木英治は所有する16冊すべてが2025年12月30日以降の購入で、上田・佐伯が抜けた穴を埋め始めている作家として動きが見える。
同じ「読了ペースの低下」でも、「読みたい本がなくなった」のではなく「読んでいた2人の蛇口が閉まった」というのが実際の構造だった。
物差しを変えると、断絶が見える
日本歴史時代作家協会賞を物差しにして「時代小説をどれだけ踏破しているか」を測ると、単発の文学作品が中心の賞とはまるで違う姿が見えてくる。私の読書形態は文庫書き下ろしの長期シリーズが中心で、単発作品向けの賞とはそもそも母集団が合わないからだ。物差しとして適切なのは、この協会が主催する賞のうちシリーズ賞——長期シリーズそのものを評価対象にした賞である。主催団体は2019年5月に「歴史時代作家クラブ」から「日本歴史時代作家協会」へ改称しており、これに伴い賞の名称も「歴史時代作家クラブ賞」から現在の名称に変わった。
受賞者一覧は、協会の公式サイトと文学賞のデータベース、Wikipedia の三つを突き合わせてAIにまとめてもらった。一つの情報源だけでは、受賞対象のシリーズ名が抜けていることがあったからだ。シリーズ賞、第1回(2012)から第14回(2025)までの受賞者と自分の購入履歴を突き合わせると、はっきりした断絶が出た。第7回(2018)までは7回中4回、受賞者の本をすでに持っていた。ところが第8回(2019)以降は7回連続でゼロになる。空白ではなく、ある時点からぱたりと止まった断絶だった。ちょうど上田秀人・佐伯泰英の既刊回収が終わった時期と重なる。
AIが出した結論:空いた枠を埋める
ここまでの分析は、集計→賞データとの突き合わせ→推薦、の3段階に分けてClaude Codeとやりとりして進めたものだ。物差しが「文学的な頂点を探す」ことではなく「時間的な断絶を埋める」ことだとわかれば、次に読むべき本の選び方も変わる。AIが提示したのは、シリーズ賞で自分が踏んでいない7回分をそのまま候補にする、という単純な発想だった。
| 候補 | 受賞 | シリーズ | 供給状態 |
|---|---|---|---|
| 佐々木裕一(最有力) | 第14回(2025) | 公家武者 信平/新見左近/この世の花の3シリーズ並走中 | 3シリーズとも継続中 |
| 坂岡真 | 第11回(2022) | 鬼役 | 継続中 |
| 倉阪鬼一郎 | 第10回(2021) | 小料理のどか屋 人情帖 | 本編は一区切り、新シリーズとしてリブート |
| 稲葉稔 | 第9回(2020) | 隠密船頭 | 完結済み(既刊がまるごと揃っている) |
| 藤井邦夫 | 第8回(2019) | 新・秋山久蔵御用控 | 著者は逝去、既刊は膨大 |
※供給状態はいずれも版元ドットコム・出版社公式サイトで確認した2026年8月時点の情報。
最有力とされた佐々木裕一は、3つのシリーズを並走させている作家で、上田・佐伯が抜けた分の規模がそのまま埋まる、というのがAIの見立てだった。入口は「公家武者 信平」の現行シリーズ1巻から。
稲葉稔「隠密船頭」は2025年6月に完結しており、新刊を待つ形の候補ではない。むしろ既刊がまるごと揃っているぶん、読み始めれば新刊待ちなしに走り切れる。倉阪鬼一郎「小料理のどか屋 人情帖」は、のどか屋が火事で焼失し、初代の主人夫妻・時吉とおちよが客を助けようとして命を落とす結末で本編が幕を閉じたあと、二代目の千吉とおかみのおようを主役に据えて、2026年に「新・小料理のどか屋 人情帖」としてリブートしており、いま最新なのはこの新シリーズの第1巻だ。既刊の厚みと、新シリーズの入りやすさを両方持っている候補と言える。藤井邦夫は2025年10月12日に78歳で死去しているが(時事通信・日本歴史時代作家協会の公式追悼記事で確認)、既刊は膨大で、死去後の2026年1月にも新刊が出ている。稲葉稔・藤井邦夫はともに、上田秀人と同じ「既刊をまとめ買いで回収する」形で読める候補として残っていた。
AIの推薦で藤沢周平『用心棒日月抄』を購入した
AIの推薦とは別枠で、藤沢周平だけは例外として残っていた。理由は、他の下位作家(計15冊)がどれも単発購入のまま7年間動いていないのに対し、藤沢周平には用心棒日月抄4部作・隠し剣シリーズ・獄医立花登シリーズがあり、シリーズとして伸びる余地があるからだ。
2026年8月22日、その藤沢周平『用心棒日月抄』を実際に購入した。
「次に何を読むか」という問いに対して、AIが具体的な作家名を挙げ、それを受けて実際に本を1冊買う——というところまでが、今回のガイドの一連の流れだった。
AIに読ませたデータの限界:沈黙は「不在」ではない
ここまでの数字には、明記しておくべき限界がある。「501冊」は買った冊数であって、読んだ冊数ではない。積読・再読・途中で読むのをやめた本は、購入履歴の上では区別がつかない。
もうひとつ、「0冊」は「未読」ではなく「Amazonで買っていない」というだけの意味だ。実店舗・図書館・マンガ・映像化作品・借りた本は、購入履歴にはいっさい現れない。実際、私は宮城谷昌光を2冊しか買っていないが、三国志はマンガで読破済みだ。山本周五郎の購入記録は1冊だけだが、『樅の木は残った』は全巻セットを2019年に別に買って持っている。葉室麟『蜩ノ記』は電子でも紙でも購入記録がないが、読んだ心当たりがある。
これは自分の蔵書データに限った話ではない。AIに自分のデータを読ませて何かを推薦させるとき、データソースが記録していない領域を「やっていない」と読むと間違える。購入履歴は購入履歴の範囲でしか語れない。それを踏まえた上で読めば、今回のように十分実用的なガイドになる。
Kindleの購入履歴だけで、次に読む本は決められるのか
答えは、十分に決められる、だった。「マス目は世界の側が用意している」というのが、今回AIに読ませた地図の考え方だ。文学賞という、自分では作れない完成済みの枠を、自分の購入履歴に重ねてみる。そうすると、ただ並べただけでは見えなかった「読了ペースが供給を追い越していた」という構造と、「次に埋めるべき枠」が具体的な作家名で出てきた。
今回使えたデータはKindleの購入履歴だけだったが、それでも次の1冊を選ぶには十分だった。図書館の貸出記録や紙の本の記録まで読ませられれば、この地図の確度はもう一段上がるはずだ。それはまた次に試してみたい。
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