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なぜ日本のIT部門は経営陣から軽視されるのか

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日本企業におけるIT部門の地位は、他の先進国と比較して著しく低い。多くの企業でIT部門は「コストセンター」として扱われ、経営戦略の中核から除外されている。この現象は偶然ではない。日本の企業文化と組織構造が生み出した構造的必然性だ。

──── 「技術=コスト」という致命的誤解

日本の経営陣の多くは、ITを「必要悪」として認識している。売上を直接生み出さない「間接部門」として位置づけ、できる限りコストを削減すべき対象と見なしている。

この認識の根底にあるのは、技術的価値の定量化困難さだ。営業部門の売上は明確に数値化されるが、IT部門の貢献は見えにくい。システム障害が起きなかったこと、業務効率が改善されたこと、セキュリティ事故が防がれたこと。これらの「防御的価値」は評価されにくい。

さらに、多くの日本企業では技術的意思決定を非技術者の経営陣が行っている。技術を理解しない人間が技術者の貢献を正当に評価できるはずがない。

──── 文系経営陣の技術コンプレックス

日本人の論理的思考回避傾向は、IT分野で特に顕著に現れる。多くの経営陣は「ITは難しい」「理系の専門分野」として思考停止に陥る。

理解できないものに対する人間の自然な反応は、軽視か過度な依存だ。日本の経営陣は前者を選択している。自分が理解できない技術的議論を「現場レベルの話」として片付け、経営戦略から除外する。

この技術コンプレックスは、IT部門への発言権剥奪として現れる。「技術のことは技術者に任せる」という一見合理的な態度が、実際には「技術的判断に経営は関与しない」という責任放棄を正当化している。

──── SIer依存による内製軽視

日本企業の多くは、ITシステムを外部のSIer企業に丸投げしている。この構造により、社内IT部門の役割は「SIerとの窓口業務」に矮小化されている。

SIerという中間搾取システムは、企業のIT部門弱体化を意図的に推進している。顧客企業のIT部門が技術的自立を図ることは、SIerの収益減少を意味するからだ。

結果として、社内IT部門は実際の技術的価値を創造する機会を奪われ、単なる「業者管理部門」として扱われる。これでは経営陣から評価されないのも当然だ。

──── 短期的思考による投資回避

日本の経営者の短期的思考は、IT投資の軽視として現れる。ITシステムの効果は中長期的に現れるが、四半期決算重視の経営では短期的コスト削減が優先される。

「システム更新を1年先送りすれば、今期の利益が改善される」という単純な計算が、継続的なIT投資を阻害している。技術的負債の蓄積や競争力低下といった長期的リスクは無視される。

さらに、IT投資の効果測定が困難なため、投資判断が経営陣の「感覚」に依存している。数値で説明しにくいIT投資は、「必要性が不明確」として却下される。

──── 人材配置の構造的歪み

IT部門の人材配置に典型的なパターンがある。技術的知識を持つ中堅社員が現場担当に配置される一方、部門長は非技術系の管理職が務める。

この構造では、技術的に可能なことと経営的に必要なことが永続的に乖離する。技術者は経営判断権限を持たず、管理職は技術的判断ができない。

結果として、IT部門は経営陣に対して技術的価値を適切に説明できず、経営陣もIT部門の提案を正しく評価できない。この相互不理解が、軽視の構造を固定化している。

──── 既得権益の維持装置

既存の業務プロセスや組織構造の変更を伴うIT化は、既得権益を持つ管理職層の反発を招く。彼らにとってIT化は「自分の存在価値の否定」を意味する場合がある。

例えば、ワークフロー自動化により中間管理職の承認業務が不要になる場合、該当する管理職は当然ながらその提案に反対する。IT部門の提案は「組織の合理化」ではなく「既存社員への攻撃」として受け取られる。

管理職という中間搾取層の温存がIT化の阻害要因となり、同時にIT部門への敵視を生み出している。

──── データ活用能力の欠如

日本企業のデータ活用失敗は、IT部門の価値を見えにくくしている。膨大なデータを蓄積していても、それを経営判断に活用する能力が組織にない。

「データに基づく意思決定」ではなく「経験と勘に基づく意思決定」が支配的な組織では、データ分析の専門知識を持つIT部門の価値は理解されない。

さらに、データ分析結果が既存の権力構造や慣行と矛盾する場合、データではなくIT部門が問題視される。「現場を知らない数字」として分析結果が却下され、IT部門は「実用的でない」と評価される。

──── 技術者の政治的無力化

日本の技術者のマネジメント忌避は、IT部門の政治的影響力を削いでいる。技術的専門性に特化した技術者は、組織内政治や経営陣との関係構築を軽視する傾向がある。

結果として、IT部門は経営陣に対する発言力を持たず、一方的に指示を受ける「下請け部門」として扱われる。技術的に正しい提案でも、政治的な裏付けがなければ採用されない。

この政治的無力化は、IT部門の地位低下を加速させる悪循環を生み出している。

──── 成功事例の不可視化

IT部門の成功は「当たり前のこと」として扱われがちだ。システム障害が起きなかったこと、業務が滞りなく進行したこと、セキュリティ事故が発生しなかったこと。これらはすべてIT部門の貢献だが、目立たない。

一方で、システム障害や情報漏洩が発生すれば、IT部門の責任が厳しく追及される。成功は無視され、失敗は過度に責められる環境では、IT部門の存在価値が正当に評価されることはない。

この非対称的な評価システムが、IT部門の士気と地位を継続的に低下させている。

──── 外部委託による空洞化

多くの日本企業では、重要なITシステムの開発・運用を外部委託している。この結果、社内IT部門は実質的なスキルと経験を蓄積する機会を失っている。

技術的に重要な判断はすべて外部業者が行い、社内IT部門は契約管理と進捗確認のみを担当する。これでは技術的専門性を発揮する場がなく、単なる「業者管理部門」として扱われるのも当然だ。

外部委託への過度な依存は、社内IT部門の技術的価値を構造的に削いでいる。

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IT部門の地位向上には、経営陣の意識変革と組織構造の根本的見直しが必要だ。しかし、既存の利害関係者の抵抗により、このような変革は容易ではない。

個人レベルでは、IT部門の技術者が経営的視点を身につけ、技術的価値を経営言語で説明する能力を獲得することが重要だ。また、外部市場での技術的価値を高め、社内での交渉力を強化することも有効だ。

日本企業のIT部門軽視は構造的問題だが、グローバル競争の激化により、この状況は必然的に変化を迫られる。変化に適応できない企業は市場から淘汰されるだろう。

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※本記事は日本企業のIT部門を取り巻く構造的問題についての個人的見解です。特定の企業や個人を批判するものではありません。

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