セキュリティシアター(Security Theater)とは、実際にはセキュリティを向上させていないにもかかわらず、安全対策をしているように見せかける施策のことです。演劇(Theater)のように「見せること」が目的化し、本質的なリスク低減につながっていない状態を指します。
なぜ問題なのか
セキュリティシアターの最大の問題は、誤った安心感を生み出すことです。
- 実際のリスクは放置されたまま、対策をした気になってしまう
- 限られたリソース(予算・人員・時間)を効果の薄い施策に浪費する
- 本当に必要な対策が後回しになる
- ユーザーや従業員が不便を強いられるだけで、攻撃者には何の障壁にもならない
典型的な例
1. 複雑すぎるパスワードポリシー
90日ごとに変更を強制し、大文字小文字数字記号をすべて含む12文字以上を要求するようなルール。
なぜ問題か: ユーザーは覚えられないため、付箋にメモしたり、Password123!
のような予測可能なパターンを使ったりする。結果として、攻撃者にとってはより簡単に突破できる状態になる。
本質的な対策: パスワードマネージャーの導入、多要素認証(MFA)の必須化、漏洩パスワードのチェック。
2. 空港のセキュリティチェック
液体の持ち込み制限や靴を脱がせる検査など、一部の施策は実際のテロ防止効果が疑問視されています。
なぜ問題か: 検査員の負担が増え、本当に注意すべき行動パターンの監視がおろそかになる可能性がある。
3. USB端子の物理的な封印
USBポートに接着剤や封印シールを貼る対策。
なぜ問題か: 本当に情報を盗み出そうとする内部犯は、封印を破って使うか、別の方法(クラウドストレージ、メール、カメラ撮影など)を使う。一方で、正当な業務での利用が妨げられる。
本質的な対策: デバイス制御ソフトウェア、ログ監視、データ損失防止(DLP)ツール、そして従業員教育。
4. 形だけの脆弱性診断
年に1回、チェックリストをなぞるだけの診断を実施し、レポートを作成して終わり。
なぜ問題か: 診断結果の脆弱性が修正されず放置される。継続的な監視がなく、新たな脆弱性に対応できない。
本質的な対策: 継続的な脆弱性スキャン、ペネトレーションテスト、発見された問題の優先度付けと修正、再テスト。
セキュリティシアターを見抜くポイント
以下のような兆候があれば、その施策はシアターかもしれません:
- 見た目重視: 経営層や顧客へのアピールが目的になっている
- 不便だが無効: ユーザーに負担をかけるが、攻撃者は簡単に回避できる
- 測定不可能: 効果を数値で示せない、示そうとしない
- 思考停止: 「とりあえずやっておく」「他社もやっているから」が理由
- 古い脅威モデル: 現在の攻撃手法に対応していない過去の対策
本質的なセキュリティ対策とは
効果的なセキュリティ対策には以下の特徴があります:
- 脅威モデルに基づく: 想定される攻撃者と攻撃手法を明確にし、それに対する防御を設計する
- 多層防御: 単一の施策に依存せず、複数の防御層を組み合わせる
- 継続的改善: 一度やって終わりではなく、継続的に監視・評価・改善する
- 費用対効果: リソースを重要度の高いリスクに集中投下する
- 人間中心設計: ユーザーが守れる、守りたくなる仕組みを作る
まとめ
セキュリティは「やっている感」ではなく、実際のリスクを減らすことが目的です。施策を導入する前に「この対策は本当に攻撃を防ぐのか?」「攻撃者の視点で考えて有効か?」を自問することが大切です。
見せかけの安心ではなく、本物の安全を追求しましょう。