はじめに
AWSでWebサイトやAPIをHTTPS化するとき、AWS Certificate Manager(ACM)で証明書を発行できます。
ここで迷いやすいのが、次の違いです。
- ACMが発行する証明書はDV・OV・EVのどれか
- DVはOVやEVより暗号が弱いのか
- 顧客からOVやEVを求められたら、AWSではどう構成するか
- CloudFrontやALBでは、どのリージョンに証明書を作るか
この記事では、証明書の種類を「暗号の強さ」ではなく、 発行前に誰をどこまで確認するか という観点から整理します。
先に結論
- ACMが直接発行するパブリック証明書は DV証明書 です。
- AWSは、パブリックなOV証明書・EV証明書を直接発行しません。
- OV・EVが明示的に必要なら、外部認証局で取得してACMへインポートします。
- DV・OV・EVの違いは、基本的に暗号強度ではなく 申請者の確認範囲 です。
- 通常のWebサイトやAPIなら、 ACM発行のDV証明書+DNS認証 が第一候補です。
- CloudFront用のACM証明書は、バージニア北部リージョン(
us-east-1)に作成します。
最初の判断は、次の表で十分です。
| 要件 | 選択肢 |
|---|---|
| 一般的なWebサイトやAPIをHTTPS化したい | ACM発行のパブリック証明書(DV) |
| 契約・調達・監査でOVまたはEVが明記されている | 外部認証局で取得し、ACMへインポート |
| 社内システム、mTLS、端末認証などに使いたい | AWS Private CAを検討 |
前提
- 対象読者: AWSでWebサイトやAPIを初めてHTTPS化する方
- 確認日: 2026-08-28
- 対象範囲: ACMが発行するパブリック証明書、外部証明書のインポート、AWS Private CAの違い
- 扱わない範囲: 認証局の購入手続き、TLS暗号スイートの詳細設計、社内PKIの完全な構築手順
- 注意: 証明書の有効期間、料金、対応サービス、認証方法は変わる可能性があります。構築時はAWS公式ドキュメントを確認してください。
最初に知っておきたい用語
| 用語 | 短い説明 |
|---|---|
| SSL/TLS証明書 | 接続先のドメインなどを示し、HTTPS通信に使う電子証明書。現在の通信プロトコルは主にTLSですが、慣習的にSSL証明書とも呼ばれます |
| 認証局(CA) | 証明書を審査・発行する機関。Certificate Authorityの略です |
| ACM | AWS Certificate Manager。証明書の発行、保管、AWSサービスへの関連付け、条件を満たす証明書の更新を管理します |
| DV | Domain Validation。ドメインを管理できることを確認します |
| OV | Organization Validation。ドメイン管理に加えて、組織の実在性などを確認します |
| EV | Extended Validation。組織や申請権限などを、より厳格な基準で確認します |
| PKI | Public Key Infrastructure。証明書と公開鍵暗号を使って、通信相手や端末などを信頼する仕組みです |
| mTLS | 相互TLS。サーバーだけでなく、接続するクライアント側も証明書で認証します |
DV・OV・EVは何が違うのか
違いを身分確認にたとえると、次のようになります。
| 種類 | たとえ | 認証局が主に確認するもの | AWSが直接発行 |
|---|---|---|---|
| DV | この住所の鍵を管理しています | ドメインの管理権限 | できる |
| OV | この住所を使う実在企業です | ドメイン+組織の実在性 | できない |
| EV | 会社情報と申請権限まで厳格に確認済みです | ドメイン+組織情報+申請権限など | できない |
AWS公式ドキュメントでは、ACMが発行するパブリック証明書を、ドメイン名だけを識別するDV証明書と説明しています。つまり、ACM発行証明書は運営会社の実在性までは証明しません。(AWS公式: ACMパブリック証明書の特徴)
DV証明書
DVでは、申請者が対象ドメインを管理できることを確認します。
ACMのDNS認証では、AWSが指定したCNAMEレコードをDNSへ登録します。AWSがそのレコードを確認できると、ドメインの管理権限があると判断して証明書を発行します。
DVは、一般的なWebサイト、API、SaaS、管理画面などのHTTPS化に向いています。
ただし、証明書を見ても「この会社が運営している」とまでは確認できません。DVが証明するのは、あくまでドメインを管理できることです。
OV証明書
OVでは、ドメインの管理権限に加えて、申請した組織が実在することなどを認証局が確認します。
確認内容は認証局や規定によって異なりますが、法人名、所在地、登録情報、ドメインとの関係、申請権限などが対象になります。確認済みの組織名は、証明書のSubject情報などに含まれます。
OVを検討するのは、次のような場合です。
- 顧客との契約でOV証明書が指定されている
- 調達基準や監査基準で組織認証が必要
- 証明書から運営組織を確認できることが要件になっている
「BtoBだから必ずOV」という決まりではありません。必要性は、契約やセキュリティ要件で判断します。
EV証明書
EVでは、組織の法的な実在性、所在地、ドメイン管理権限、申請者や契約責任者の権限などを、OVより厳格な基準で確認します。
CA/Browser Forumは、EV証明書へ正式な組織名、ドメイン名、設立地、登録番号などを含めるための要件を示しています。(CA/Browser Forum: EV証明書の内容)
EVは、契約、監査、社内規定などでEVの利用が明示されている場合に選びます。「金融サービスだから必ずEV」のように業種だけで決めず、実際の要件を確認することが大切です。
「DVは暗号が弱い」は誤解
DV・OV・EVは、証明書を発行する前の 本人確認レベル を表します。
実際の通信セキュリティには、別の要素が関係します。
| 観点 | 主に決めるもの |
|---|---|
| 誰を確認して証明書を発行したか | DV・OV・EV |
| 通信に使うプロトコル | TLS 1.2、TLS 1.3など |
| 通信に使う暗号方式 | Cipher Suite、鍵交換方式、署名アルゴリズムなど |
| サーバー側の安全性 | セキュリティポリシー、設定、パッチ、秘密鍵管理など |
そのため、次の理解は正しくありません。
DV = 弱い暗号
OV = 普通の暗号
EV = 強い暗号
正しくは、次のように考えます。
DV = ドメインを管理できることを確認
OV = ドメイン管理に加えて組織の実在性を確認
EV = 組織や申請権限などを、より厳格に確認
DVでも、適切なTLSバージョン、暗号ポリシー、鍵管理を選べば、安全なHTTPS通信を構成できます。
AWSで扱う証明書は3つに分けて考える
1. ACMが発行するパブリック証明書
通常のWebサイトやAPIでは、最初にこの方法を検討します。
主な特徴は次のとおりです。
- ACMが発行する証明書はDV
- CloudFront、Elastic Load Balancing、API Gatewayなど、ACM統合サービスで利用できる
- DNS認証を選び、更新条件を満たせばACMが更新を管理する
- 統合AWSサービスで使う非エクスポート型のパブリック証明書は、証明書自体の追加料金がない
- CloudFront、ALB、API Gatewayなど、証明書を使うAWSリソースの料金は別途発生する
ACMにはエクスポート可能なパブリック証明書やACMEを使う方式もあり、こちらは料金体系と更新方法が異なります。料金を確認するときは、「ACMの証明書はすべて無料」と一括りにせず、証明書の種類を確認してください。(AWS公式: ACM料金)
2. 外部認証局から取得してACMへインポートする証明書
OV・EVが必要な場合は、外部認証局から証明書を取得し、ACMへインポートします。
インポート時は、証明書本体、暗号化されていない秘密鍵、証明書チェーンなどを適切に用意します。秘密鍵は機密情報なので、Gitリポジトリ、チャット、チケットへ貼り付けてはいけません。
ACMは、インポートした証明書を自動更新しません。
有効期限の監視、新しい証明書の取得、再インポートは利用者側の責任です。再インポートを使えば、既存のARNとAWSサービスとの関連付けを維持できます。(AWS公式: 証明書のインポート)
3. AWS Private CAが発行するプライベート証明書
AWS Private CAは、組織内で使うプライベートな認証局をAWS上に構築するサービスです。
主な用途は次のとおりです。
- 社内システム
- サービス間のmTLS
- 社員端末やサーバーの認証
- IoT機器の認証
- VPNや内部ネットワークの認証
プライベート証明書は、一般のブラウザやOSから最初から信頼されるとは限りません。利用する端末やシステムへ、組織のルート証明書を安全に配布する設計が必要です。また、AWS Private CAには利用料金があります。(AWS公式: プライベート証明書)
どの証明書を選ぶか
リージョンを間違えない
ACM証明書はリージョン単位のリソースです。証明書を使うAWSサービスに合わせて、申請またはインポートするリージョンを選びます。
| 利用先 | ACM証明書を置くリージョン |
|---|---|
| CloudFront | バージニア北部 us-east-1
|
| Application Load Balancer | ALBと同じリージョン |
| API GatewayのRegionalカスタムドメイン | APIと同じリージョン |
| API Gatewayのエッジ最適化カスタムドメイン | バージニア北部 us-east-1
|
CloudFrontでは、オリジンが東京リージョンにあっても、ビューワーとのHTTPS通信に使うACM証明書はus-east-1へ作成します。(AWS公式: CloudFrontの証明書要件)
API GatewayのRegionalカスタムドメインはAPIと同じリージョン、エッジ最適化カスタムドメインはus-east-1の証明書を使います。(AWS公式: Regionalカスタムドメイン) (AWS公式: エッジ最適化カスタムドメイン)
ACMでDV証明書を発行する基本手順
1. 利用先からリージョンを決める
最初にCloudFront、ALB、API Gatewayなど、証明書を関連付けるサービスを決めます。
「サーバーが東京リージョンだから、とりあえず東京に証明書を作る」と判断すると、CloudFrontで選択できないことがあります。
2. 証明書へ含めるドメイン名を決める
たとえば、次の2つを利用するなら、両方を証明書へ含めます。
example.com
*.example.com
*.example.comは、www.example.comやapi.example.comを保護できます。ただし、example.com自体や、dev.api.example.comのように階層が深い名前は保護しません。必要な名前を漏れなく指定してください。(AWS公式: ACMパブリック証明書の特徴)
3. DNS認証を選ぶ
新しく構築するなら、基本的にDNS認証を選びます。
Route 53で対象ドメインを管理している場合は、ACMコンソールから検証用レコードを作成できます。外部DNSを使っている場合は、表示されたCNAME名と値を外部DNSへ登録します。
証明書の発行後も、検証用CNAMEは削除しないでください。CNAMEが名前解決でき、証明書が対象AWSサービスに関連付いているなどの条件を満たすと、ACMのマネージド更新を利用できます。(AWS公式: DNS認証) (AWS公式: マネージド更新)
AWSは、ACMのメール認証を段階的に終了する予定です。
新規証明書リクエストでのメール認証は2027年3月31日、既存のメール認証証明書の更新は2027年9月30日に終了予定です。既存環境も含め、DNS認証への移行計画を確認してください。(AWS Security Blog)
4. AWSサービスへ関連付ける
証明書の状態がISSUEDになったら、CloudFront、ALB、API GatewayなどのHTTPS設定で証明書を選択します。
発行しただけではHTTPS通信には使われません。対象サービスへの関連付けと、DNSの向き先設定まで確認します。
AWS CLIで既存証明書を確認する
次の例では、証明書を作成・変更せず、既存証明書の状態を確認します。
# 確認したい証明書のARNとリージョンを指定する
CERTIFICATE_ARN="arn:aws:acm:us-east-1:123456789012:certificate/xxxxxxxx-xxxx-xxxx-xxxx-xxxxxxxxxxxx"
REGION="us-east-1"
# 証明書の状態、発行元種別、有効期限、利用先、更新可否を確認する
aws acm describe-certificate \
--certificate-arn "$CERTIFICATE_ARN" \
--region "$REGION" \
--query 'Certificate.{DomainName:DomainName,Status:Status,Type:Type,Issuer:Issuer,NotAfter:NotAfter,RenewalEligibility:RenewalEligibility,InUseBy:InUseBy}' \
--output yaml
主な確認項目は次のとおりです。
| 項目 | 見る内容 |
|---|---|
Status |
ISSUEDになっているか |
Type |
AMAZON_ISSUEDかIMPORTEDか |
NotAfter |
有効期限はいつか |
RenewalEligibility |
マネージド更新の対象になり得るか |
InUseBy |
どのAWSリソースで使われているか |
TypeはACM上の取得方法を表す項目です。AMAZON_ISSUEDはACM発行、IMPORTEDは外部証明書のインポートを意味します。TypeにOVやEVという値が表示されるわけではありません。
DNS認証用のレコードは、次のコマンドで確認できます。
# ドメインごとのDNS検証レコードを一覧で確認する
aws acm describe-certificate \
--certificate-arn "$CERTIFICATE_ARN" \
--region "$REGION" \
--query 'Certificate.DomainValidationOptions[].{Domain:DomainName,Status:ValidationStatus,Record:ResourceRecord}' \
--output yaml
顧客へ確認するときの聞き方
要件書に「OV以上」と書かれている場合でも、自己判断でDVへ変更したり、反対に高価な証明書を購入したりせず、必要な理由を確認します。
HTTPS化の目的について確認させてください。
1. 通信の暗号化とブラウザ警告の防止が要件でしょうか。
2. 証明書内で運営組織を確認できることも要件でしょうか。
3. OVまたはEVの指定は、契約・監査・社内規定のどれに基づきますか。
4. 外部証明書を使う場合、購入・更新・期限監視は誰が担当しますか。
5. 対象はCloudFront、ALB、API Gatewayのどれでしょうか。
この確認により、「HTTPSにできればよい」のか、「組織認証付き証明書が必要」なのかを分けられます。
よくある失敗
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| CloudFront用証明書を東京に作る | CloudFrontで証明書を選べない |
us-east-1へ申請またはインポートする |
*.example.comだけを指定する |
example.comが証明書の対象にならない |
apexドメインも追加する |
| DNS検証用CNAMEを発行後に削除する | マネージド更新に失敗する可能性がある | 検証用CNAMEを残す |
| インポート証明書も自動更新されると思う | 有効期限切れが発生する | 期限監視と再インポートの担当を決める |
| DVを弱い暗号だと判断する | 不要なOV・EV調達につながる | 本人確認と通信設定を分けて評価する |
| 証明書を発行しただけで終える | HTTPSで利用されない |
InUseByと対象サービスの設定を確認する |
| Private CA証明書を一般公開サイトに使う | 利用者のブラウザで信頼されない | 公開サイトには公開信頼された証明書を使う |
構築前チェックリスト
- HTTPS化する対象ドメインを洗い出した
- apexドメインとワイルドカードの必要性を確認した
- CloudFront、ALB、API Gatewayのどれで使うか決めた
- 証明書を作るリージョンを確認した
- DV・OV・EVのどれが要件か、根拠まで確認した
- DNS認証用CNAMEを継続して保持できる
- インポート証明書なら期限監視と更新担当を決めた
- 秘密鍵を安全に保管する方法を決めた
- 証明書発行後にAWSサービスへの関連付けを確認する
- 更新失敗や期限切れを検知する運用を決めた
関連記事
参考・確認先
- AWS Certificate Managerパブリック証明書の特徴
- CA/Browser Forum: EV証明書の内容
- AWS Certificate Manager料金
- AWS Certificate Managerへの証明書インポート
- AWS Certificate Managerのプライベート証明書
- CloudFrontで使う証明書の要件
- API GatewayのRegionalカスタムドメイン
- API Gatewayのエッジ最適化カスタムドメイン
- ACMのDNS認証
- ACMのマネージド更新
- ACMメール認証の終了予定
- 筆者独自に追加した内容: AWS案件での選択フロー、顧客への確認例、構築前チェックリスト
- 仕様確認日: 2026-08-28
まとめ
- ACMが直接発行するパブリック証明書はDVです。
- DV・OV・EVの違いは、主に証明書発行前の本人確認範囲です。
- 通常のWebサイトやAPIでは、ACMのDV証明書とDNS認証が第一候補です。
- OV・EVが必要なら、外部認証局から取得してACMへインポートし、期限を自社で管理します。
- CloudFront用証明書は
us-east-1に作成し、ワイルドカードの対象範囲やDNS検証用CNAMEにも注意します。
おわりに
証明書の種類だけで判断せず、運営者の確認要件、TLS設定、更新運用、利用するAWSサービスまで分けて確認すると、過不足のない構成を選びやすくなります。
Wealthy Designでは、AWSを中心としたクラウド設計・構築・運用で得た知見を、実務で再利用しやすい形に整理して発信しています。

