こんにちは。株式会社LITALICO QAチームの土井です。
株式会社LITALICOは児童発達支援・放課後等デイサービス・保育所等訪問支援を運営する事業所に提供する施設運営ソフト「LITALICO発達ナビ for BUSINESS」のQAをしています。
予備知識
「児童発達支援」「放課後等デイサービス」「保育所等訪問支援」とは?
「児童発達支援」「放課後等デイサービス」「保育所等訪問支援」とは、発達に支援が必要な0歳から18歳までのお子さまをサポートする国の福祉サービスです。
| サービス名 | 概要 |
|---|---|
| 児童発達支援 | 主に未就学児の基礎的な発達を促す施設利用サービス |
| 放課後等デイサービス | 主に就学児の放課後や休日の活動を通じて自立や社会参加を支援する施設利用サービス |
| 保育所等訪問支援 | 専門員が保育園や学校などを直接訪問し、集団生活への適応を支援するサービス |
この記事で伝えたいこと
担当プロダクトに事業所が作成する個別支援計画書の作成プロセスを導入することになり、個別支援計画に関する内容を調べたので結果を書き留めるとともに、調べたことによって得た視点をQA業務にどう活かすことができたのか紹介したいと思います。
予備知識
個別支援計画とは?
個別支援計画は、児童発達支援事業所や放課後等デイサービスが作成する、利用者である障がいのある子ども一人ひとりのニーズや能力、保護者の意向に基づいて、支援の目標や具体的なサービスの内容・方法などを定めた文書です。
日々の支援の方向性を示す重要な指針となります。
QAがドメイン知識を深める重要性
本題に入る前に、なぜQA担当者が個別支援計画について調べるのか理由をお伝えします。
LITALICOのQAグループは 「品質を作り込むこと(予防)」と「品質を守ること(検証)」の両方の役割を担っています。そのため、自身が担当するプロダクトのドメイン知識を習得することは予防と検証の第一歩と位置付けられており、業務ルールや法令知識の習得を重視しています。
今回プロダクトに導入する個別支援計画書についても、記載内容や作成のタイミング、運用方法について法令で定められており、正しい内容を反映する必要があるため、ドメイン知識の習得のために個別支援計画書について調べることからスタートしました。
※調査内容はこども家庭庁の資料を基にまとめています。詳細については資料をご確認ください。
【参考】
こども家庭庁 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要等:
https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishien/shisaku/hoshukaitei
個別支援計画の基礎と、令和6年度(2024年度)の法改正
個別支援計画について、制度の基本的な枠組みと、直近の大きな変更点である令和6年度報酬改定について調査した内容を紹介します。
【参考】
こども家庭庁 【別紙3】個別支援計画(参考記載例)
1. 支援の根幹「支援サイクル」とは
個別支援計画書はただ作成すればいいものというわけではなく、 支援サイクル に則って作成する必要があります。
支援サイクルとは以下のような内容になります。少なくとも6ヶ月に1回の期間で支援サイクルを回すことが義務付けられています。
| ステップ | 関係者 |
|---|---|
| アセスメント |
子どもの現状を多角的に把握し、情報を集める。 |
| 計画原案作成 |
アセスメントに基づき、具体的な目標と支援内容を定める。 |
| 個別支援会議 |
担当者間で計画原案を検討し、内容を固める。 |
| 保護者への説明・同意 |
保護者に計画の内容を説明し、同意を得る。 |
| 相談支援事業所への交付 |
計画書を相談支援事業所に交付する。 |
| サービス提供 |
計画に基づいた支援を実施し、日々記録をつける。 |
| モニタリング |
支援の効果を評価し、計画の見直しを行う(少なくとも6か月に1回行う)。 |
2. 令和6年度法改正(2024年度)の主な変更点とその狙い
個別支援計画については令和6年度の報酬改定で重要な変更が複数ありました。それぞれの内容を調べ、どのような狙いがあるのかをまとめました。
① 「5領域」との関連性の明確化
変更点: 計画書に 「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」の5領域の視点 を取り入れ、支援内容とのつながりを明確に記載することが必須となりました。
狙い: 子どもの発達全体を総合的に捉え、偏りのない、体系的な支援を促すこと。これにより、支援の専門性が高まり、質の向上が期待されます。
② 支援時間の明確化と基本報酬への反映
変更点: 基本報酬が「時間区分」で設定されることに伴い、計画書に「日々の支援に係る計画時間」を具体的に記載することが必須となりました。
狙い: 計画に基づいた適切なサービス提供を徹底すること。また、延長支援加算などの算定要件にも連動し、よりきめ細やかな支援時間に対応できる体制を評価できるようになります。
③ 支援プログラムの作成・公表
変更点: 事業所全体として、5領域とのつながりを明確にした「支援プログラム」を作成し、公表することが義務付けられました(令和7年4月1日より適用)。
狙い: 事業所として提供する支援の全体像を明確にし、保護者や地域社会に対する透明性を高めること。未公表の場合は減算措置が設けられており、質の担保が強く求められていることが伺えます。
④ 相談支援事業所への個別支援計画の交付
変更点: 保護者に加えて、「指定障害児相談支援事業所」にも計画書を交付することが義務付けられました。
狙い: 相談支援事業所との連携を強化し、事業所を横断した、より一貫性のある支援提供体制を構築することが求められています。
⑤ 支援における「子どもの最善の利益の保障」の強化
変更点: 計画書作成にあたり、子どもの意思(年齢や発達段階に応じた意見)を尊重し、本人や家庭の意向を十分に聞き取った上で記載することが重要視され、聞き取った内容は記録として残すことが求められました。
狙い: 子ども本位の支援を徹底すること。単なる「計画作成」ではなく、子どもの尊厳を重んじ、自己決定を支援するという福祉の根本的な理念を実現することが求められています。
法改正の根底にある事業所に求められていること
今回の下調べを通じて、法改正の根底にあるのは 「すべての子どもが、その成長段階と個性に合わせて、質の高い一貫した支援を受けられるようにする」 ことだと感じました。
個別支援計画について調べることで事業所が法令で求められている支援に対する品質を知ることができました。
さらに、事業所がプロダクトに求めることは正しい個別支援計画書が作成できることを前提に、より良い支援を提供するための手助けとなるような機能であると考えられます。
下調べをしたことによる品質保証への効果
テストの確実性と網羅性の向上
下調べをしたことで、法改正で法令として必須と定められた要件(例:5領域の記載、特定の記録の証跡など)や、行政指導で重要視されるポイントが明確になりました。その結果、プロダクトのテスト計画において、これらの必須項目を漏れなくチェックする観点を初期段階から含めることができました。
例えば、法令の内容とプロダクトの機能の対応表を作成することで、法令で定められた必須項目や観点が漏れなくプロダクトの機能としてカバーできていることを確認しました。
判断に迷わない軸の獲得
今回のプロジェクトではリリース時期が優先順位の上位に位置付けられていました。
そのため限られた期間の中でQAがテストを実施する必要があり、リリース判断をする際の基準を事前に考えておく必要がありました。ドメイン知識を身に付けることでプロダクトが担保しなくてはいけない内容を明らかにすることができ、テストでパスすべき内容に優先順位をつけることができました。
品質目標の「ユーザー目線化」
法令や制度を深く理解することで、QAの品質目標が単に「法令の条文を守る」という視点から、 「法令が目指す、現場の業務確実性と利用者の支援の質の向上」 という視点へと変わり、よりユーザー目線でプロダクトの価値を考えられるようになりました。
この目線は今回リリース対象となる個別支援計画に関する機能だけでなく、プロダクト全体を通じてユーザーに提供していかなくてはならない価値だと思います。
最後に
下調べをしたことで、ユーザー目線でより深くプロダクトのリスク分析や利用シーンを考えることができ、QAがドメイン知識を持つことの重要性を再確認することができました。
また、実際に現場でプロダクトを使っている当事者ではないQA担当者がユーザー目線に立つには、ドメイン知識を深めることが必須であると感じました。
今後もユーザー目線でプロダクトの議論ができるよう、ドメイン知識を常にアップデートしていきたいと思います。
本記事は、こども家庭庁の公開資料(令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要等)を参考に、LITALICOにおけるQAの思考プロセスを伝えるために作成しました



