はじめに
個人開発で何か作ろうとしたとき、インフラのコストが気になり始めました。
AWS や GCP はスケールには強いですが、個人で使うには少し重い。VPS も月額がかかる。
「もっと気軽に始められるものはないか」と調べていて行き着いたのが Cloudflare でした。
Workers・Pages・D1・KV・R2 など、個人開発に必要なインフラが制限付きながら無料で使えるうえ、商用利用 OK・クレジットカード不要。
ただサービスが多くて最初は全体像がつかみにくかったので、自分用に調べてまとめました。
こんな人におすすめ
- クラウドや VPS の費用を抑えて個人開発したい人
- Cloudflare の無料枠がどこまで使えるか気になっている人
- Workers / D1 / KV / R2 / Durable Objects の違いがわからない人
- WebSocket を無料で動かせるか調べている人
各サービスの無料枠・特徴・使い所をまとめ、最後に「なぜここまで無料なのか」というビジネス背景も整理しています。
2026年5月時点の情報です。最新情報は 公式ドキュメント で確認してください。
全体マップ
Cloudflare 開発者プラットフォーム
│
├── ホスティング
│ ├── Pages → 静的サイト・SPA のデプロイ
│ └── Workers → サーバーサイドロジック・API
│
└── ストレージ
├── D1 → SQLite ベースのリレーショナル DB
├── KV → キーバリューストア(読み取り高速)
├── R2 → オブジェクトストレージ(S3 互換)
└── Durable Objects→ 状態付きサーバーレス(WebSocket 向け)
なぜ Cloudflare はここまで無料で提供できるのか
「商用利用OK・永久無料・帯域無制限」と聞くと怪しく感じますが、これには明確なビジネスロジックがあります。
ビジネスモデルの構造
Cloudflare の収益の柱はエンタープライズ向けの有料契約(Pro $20/月・Business $200/月・Enterprise $2,000+/月)です。
無料プランはその「入口」として機能しています。
コア戦略は2つです。
- 無料プランでできるだけ多くのサイトを Cloudflare に乗せる
- トラフィックが増えセキュリティ要件が高まる瞬間に、有料へ自然にアップグレードさせる
個人開発者・スタートアップ(無料で使う)
↓ 事業成長
トラフィック増加・DDoS対策強化・SLA保証が必要になる
↓
Pro / Business / Enterprise へアップグレード(Cloudflare の収益)
インフラの限界費用がほぼゼロ
Cloudflare のネットワークは世界 100 カ国 300 都市以上に広がり、ピーク時には毎秒 6,300 万を超える HTTP リクエスト・1 日 2 兆以上の DNS クエリを処理しています。
この規模のネットワークをすでに持っているため、無料ユーザーを乗せても追加コストはほぼゼロです。
「すでに世界中にサーバーがあるから、1 サイト追加しても大差ない」という構造です。
R2 のエグレス無料は AWS への対抗策
AWS はデータ転送量で課金しますが、R2 はエグレス(データ転送)が永久無料です。
これが Amazon S3 との最大の差別化ポイントで、AWS からの移行を促す意図があります。
開発者起点の企業契約獲得(PLG 戦略)
個人開発者が Cloudflare を使い慣れる → 就職・転職先の会社でも推薦する → 企業契約につながる。
GitHub と同じ古典的な PLG(Product-Led Growth)戦略です。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 限界費用が低い | 世界規模のネットワークがすでにあるため追加コストが小さい |
| 上位プランへの導線 | 無料ユーザーが成長したとき自然にアップグレードさせる |
| AWS への対抗 | エグレス無料で AWS からの移行を促す |
| 開発者コミュニティ戦略 | 個人開発者が使い慣れると企業契約につながる |
Pages
Vue / React / 静的サイトなどをデプロイできるホスティングサービスです。
GitHub と連携してプッシュで自動デプロイできます。
無料枠
| 項目 | 無料 |
|---|---|
| 帯域幅 | 無制限 |
| ビルド | 500 回 / 月 |
| カスタムドメイン | 1 サイトあたり最大 100 個 |
| 静的アセットへのリクエスト | 無制限・無料 |
| ファイル数 | 20,000 件 / サイト |
特徴
- 静的アセットのリクエストは完全無料・無制限(これ重要)
- Pages Functions(サーバーサイド処理)は Workers の無料枠と共有
- 例:Pages Functions 50,000 件 + Workers 50,000 件 = 合計 100,000 件 / 日
- 商用利用 OK・クレジットカード不要
いつ使う
- Vue / React などの SPA をホストしたいとき
- 静的サイトを CDN で配信したいとき
Workers
サーバーレスでコードを動かすサービスです。Hono と組み合わせて REST API を作るのが定番の使い方です。
無料枠(Free Plan)
| 項目 | 無料 |
|---|---|
| リクエスト数 | 100,000 件 / 日 |
| CPU 時間 | 10ms / リクエスト |
| 実行時間(Duration) | 制限なし(接続継続中) |
| メモリ | 128MB |
有料プラン($5/月〜)
| 項目 | 含まれる量 | 超過料金 |
|---|---|---|
| リクエスト | 1,000 万件 / 月 | $0.30 / 100 万件 |
| CPU 時間 | 3,000 万 CPU ms / 月 | $0.02 / 100 万 CPU ms |
重要ポイント
- WebSocket 接続は 1 リクエストとしてカウント(初回接続のみ。メッセージのやり取りは課金対象外)
- Workers はステートレスな V8 Isolate 環境
- 複数インスタンス間で状態を共有できない
- ブロードキャストが必要な場合は Durable Objects か Partykit が必要
- CPU 時間はネットワーク待機(fetch 等)を含まない純粋な実行時間。外部 API 呼び出しや DB アクセスが主な処理なら、10ms で困ることはほぼありません
いつ使う
- REST API(Hono と組み合わせて)
- 認証・バリデーション
- Claude API など外部サービスの呼び出し
D1(SQLite DB)
Cloudflare 上で動く SQLite ベースのリレーショナル DB です。Drizzle ORM との相性が特に良いです。
無料枠
| 項目 | 無料 |
|---|---|
| ストレージ | 5GB(アカウント合計。1DB あたり最大 500MB) |
| 行の読み取り | 500 万行 / 日 |
| 行の書き込み | 10 万行 / 日 |
特徴・注意点
- エグレス(データ転送)費用なし
- 1 つの DB はシングルスレッド処理(クエリは 1 つずつ実行)
- Read Replication(リードレプリカ)にも対応(追加料金なし)
いつ使う
- ゲームデータ・ユーザー情報・ログの保存
- ホビー〜中規模アプリのメイン DB
KV(キーバリューストア)
グローバルに分散されたキーバリューストアです。読み取りが高速な反面、書き込みは結果整合性です。
無料枠
| 項目 | 無料 |
|---|---|
| 読み取り | 100,000 件 / 日 |
| 書き込み | 1,000 件 / 日 |
| 削除 | 1,000 件 / 日 |
| リスト | 1,000 件 / 日 |
| ストレージ | 1GB |
特徴・注意点
- 読み取りは高速だが書き込みは結果整合性(即時反映ではない)
- キーのサイズ上限:512 バイト
- バリューのサイズ上限:25MB
- 1 回の Worker 実行で外部サービスへの操作は合計 1,000 回まで
いつ使う
- セッション管理
- 設定値のキャッシュ
- 頻繁に読み取るが書き込みは少ないデータ
R2(オブジェクトストレージ)
AWS の S3 互換オブジェクトストレージです。画像・動画・ファイルなどを保存・配信できます。
無料枠(永続)
| 項目 | 無料 |
|---|---|
| ストレージ | 10GB / 月 |
| Class A 操作(書き込み系) | 1,000,000 件 / 月 |
| Class B 操作(読み取り系) | 10,000,000 件 / 月 |
| エグレス(転送料金) | 永久無料 |
有料(超過分)
| 項目 | 料金 |
|---|---|
| ストレージ | $0.015 / GB-month |
| Class A 操作 | $4.50 / 100 万件 |
| Class B 操作 | $0.36 / 100 万件 |
R2 の最大の強み
AWS S3 はデータを外部に転送するとエグレス費用がかかります($0.09/GB〜)。
R2 はエグレスが永久無料なので、大量アクセスがあってもデータ転送で課金されません。
いつ使う
- 画像・動画・ドキュメントの保存・配信
- 静的アセットの CDN 配信
- バックアップストレージ
Durable Objects
状態を持てるサーバーレスです。WebSocket のルーム管理やリアルタイム同期に特化しています。
重要な更新(2026 年〜)
SQLite バックエンドの Durable Objects は Free プランでも利用可能になりました。
ただし従来の Key-Value バックエンドは有料プランのみです。
SQLite バックエンドのストレージ課金は 2026 年 1 月 7 日以降から開始。
無料枠(SQLite バックエンド)
| 項目 | 無料(Free Plan) |
|---|---|
| リクエスト | 100,000 件 / 日 |
| Duration(実行時間) | 13,000 GB-s / 日 |
| SQLite 行読み取り | 500 万行 / 日 |
| SQLite 行書き込み | 10 万行 / 日 |
| SQLite ストレージ | 5GB(合計) |
| KV 操作 | 有料プランのみ |
有料プラン($5/月〜、Key-Value バックエンド含む)
| 項目 | 含まれる量 | 超過料金 |
|---|---|---|
| Duration(実行時間) | 400,000 GB-seconds / 月 | $12.50 / 100 万 GB-seconds |
なぜ WebSocket に向いているか
Workers は複数インスタンスが別々に起動するため、異なるプレイヤーが別インスタンスに接続すると互いに通信できません。
Durable Objects はルーム単位で1 つのインスタンスを維持できるため、全員の接続を 1 箇所に束ねてブロードキャストが可能です。
[Durable Object: ルーム ABC]
├── たぬきさんの WS 接続
├── さくらさんの WS 接続
└── ひろしさんの WS 接続
↓ 投票集計
全員にブロードキャスト ✅
いつ使う
- WebSocket のリアルタイムルーム管理
- 複数クライアント間での状態共有
- チャット・ゲーム・コラボレーションツール
Partykit(外部サービス・Cloudflare 基盤)
Durable Objects をラップしたリアルタイム基盤です。WebSocket のルーム管理に特化したライブラリ・ホスティングサービスです。
Cloudflare 公式のサービスではありませんが、内部で Durable Objects を使用しています。
特徴
- Durable Objects の WebSocket 部分を抽象化してくれる
- Durable Objects を直接使う場合、接続管理・ブロードキャスト・ルームIDのルーティングを自前で実装する必要がある
- Partykit ではこれらが組み込まれており、
onConnect/onMessageを実装するだけでルーム機能が動く
-
partykit devでローカル開発が可能 - Individual プラン(無料): 最大 10 プロジェクト。ただしストレージは 24 時間でリセット
- Commercial プラン(実質無料): 自分の Cloudflare アカウントにデプロイすれば Partykit 側の費用はなし。Cloudflare の従量課金のみ
いつ使う
- リアルタイムゲーム・チャット・コラボツール
- Durable Objects を直接触るのが面倒なとき
- Workers の Free プランで WebSocket を使いたいとき
プラン別まとめ表
| サービス | Free | 有料($5/月〜) |
|---|---|---|
| Pages | 無制限・500 ビルド/月 | 同左(Functions 枠が増加) |
| Workers | 10 万 req/日 | 1,000 万 req/月 |
| D1 | 5GB・500 万行読/日 | 同左(上限拡張可) |
| KV | 読 10 万/日・書 1,000/日 | 読 1,000 万/月・書 100 万/月 |
| R2 | 10GB・Class A 100 万/月 | 超過分従量 |
| Durable Objects(SQLite) | 2026 年 1 月〜利用可 | 利用可 |
| Durable Objects(KV) | 不可 | 利用可 |
まとめ
- Pages:静的サイト・SPA のホスティングは完全無料・無制限
- Workers:サーバーレス API。Hono と組み合わせるのが定番
- D1:SQLite ベースの DB。Drizzle ORM と相性が良い
- KV:読み取り高速なキャッシュ・セッション管理に最適
- R2:エグレス無料の S3 互換ストレージ。AWS S3 からの移行先として有力
- Durable Objects:WebSocket のリアルタイムルーム管理に特化。2026 年から Free プランでも SQLite バックエンドが利用可能に
- Partykit:Durable Objects を手軽に使いたいときのラッパー
個人開発でゼロから始めるなら、Pages + Workers + D1 の組み合わせがまず最初の一歩です。静的フロントを Pages でホスト、API を Workers で立て、データを D1 に入れるだけで、コスト0円でフルスタックアプリが動きます。
参考リンク
| ドキュメント | URL |
|---|---|
| Workers 料金 | https://developers.cloudflare.com/workers/platform/pricing/ |
| Workers 制限 | https://developers.cloudflare.com/workers/platform/limits/ |
| D1 料金・制限 | https://developers.cloudflare.com/d1/platform/limits/ |
| KV 料金 | https://developers.cloudflare.com/kv/platform/pricing/ |
| R2 料金 | https://developers.cloudflare.com/r2/pricing/ |
| Durable Objects | https://developers.cloudflare.com/durable-objects/ |
| Partykit | https://www.partykit.io/ |
| Hono 公式 | https://hono.dev/ |
| Drizzle ORM | https://orm.drizzle.team/ |