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【光ファイバ技術】これからのクラウド基盤を支えていきそうなL1 (Layer-1)技術

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Last updated at Posted at 2025-12-14

更新履歴

  • 2025/12/15 初公開
  • 2025/12/28 指摘を受け誤解を招く表現の修正

1. はじめに

1-1. この記事を読んでわかること

  • 光ファイバの伝送の仕組みが分かる
  • 最先端の光ファイバ技術を知ることができる
  • 大手クラウドベンダーの光ファイバ技術に対する取り組みがわかる

1-2. 光ファイバ技術の進歩が将来のクラウドサービスを支える(はず)

 昨今、クラウドを利用したサービスが増えてきています。クラウドは個人利用から商用利用まで、大小さまざまな通信トラフィックをデータセンタ間でやり取りします。我々は、クラウド各社が提供する様々なサービスの基盤側について、ほとんど意識することなく利用することができています(というか、これがクラウドのいいところですよね)。

 しかし、クラウド各社の立場になってみると、各ベンダーは利用者拡大に伴って増大するトラフィックを適切に捌かなければなりません。つまり、基盤側の構成に工夫が求められるはずです。
 通信トラフィックは毎日のように増えます。一方で、その通信を支える根幹である光ファイバには実は、伝送容量および通信遅延に限界が存在します。

 本記事では、通信を支える光ファイバの最新技術に触れながら、クラウド各社がどう向き合っているのかについて書きたいと思います。

2. L1 (Layer-1)とはなにか

2-1. OSI参照モデルにおけるL1

                                       
OSI参照モデルと物理層の位置づけ

 OSI参照モデルにおけるL1(Layer-1)とは物理層のことを指します。
 物理層は勉強しているとかなり疎かになりがち(というか、ネットワーク層やトランスポート層で勉強することが多すぎる)だと思いますが、一言でいうと、

ビット列(0 or 1)を電気、光、無線信号等に変換して伝送する

という役割を持ちます。
 電気信号として送信する際に使用される代表的なものがLANケーブルです。電圧の高低で0と1を表現します。また、無線信号は空気を伝わります。代表的なのはWi-Fiです。無線信号の伝送には様々な変調方式が用いられますが、わかりやすい例だと、空気を伝わる波の振幅の大きさで0と1を表現します(他にもたくさん方式があります)。

余談ですが、振幅変調はAmplitude Modulationと呼ばれます。AMラジオの"AM"はここから来ています。
余談2ですが、周波数変調という技術もあり、これはFrequency Modulationと呼ばれます。"FMラジオ"はこれです。
余談3ですが、私はラジオが好きです。特にANNが、、、

 これら2つについては、いつも使うパソコンやスマートフォンなどに搭載されているので、なんとなく想像しやすいと思います。しかし、光の伝送はどうでしょう? 光ファイバを実際に見たことある人もそんなにいないと思います。

 次の章では光ファイバの伝送の仕組みについてまとめます。

3. 光ファイバってなに?

3-1. 光ファイバの通信原理

 光ファイバは文字通り、光で情報を伝送します。このとき用いられるのが 全反射 という仕組みです。

 全反射とは、屈折率の高い媒質から小さい媒質に光が入射するとき、臨界角以上の入射角だと光が全て反射する現象のことです。

                                       
全反射の概要

 この仕組みを光ファイバ内のコアとクラッド によって実現します。

                                       
光ファイバの中で繰り返される全反射

 

3-2. 現在はシングルモードファイバがメイン

 現在広く使用されている光ファイバはシリカガラスによってつくられています。その内部はコアとクラッドと呼ばれる2層の構造になっています。コアは実際に光が通る道ですが、これはクラッドよりもわずかに(約0.3%)屈折率が高くなっています。これによって、コアとクラッドの境界で全反射が起こり、光が進みます。

                                       
シングルモードファイバの断面

 シングルモードファイバにおける光の進み方のイメージは3-1で述べた通りです。
 では、どのようにして光でビット列を表現するのでしょうか?一番シンプルな方式では 光の強弱で0と1を表現します。 この方式を強度変調といいます。
 一方で、強度変調では伝送できるトラフィック量に限度があるなどの課題があるので、現在はデジタルコヒーレント通信も使用されています。これは、光の波としての性質を活かして、位相による変調 を行います。これによって、強度変調に比べて2倍以上の情報量を乗せることができます。

 このように、シングルモードファイバにおいては、変調方式を工夫することによる伝送容量増大のアプローチの他に波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplex) というアプローチが存在します。これは、無線における周波数多重と同じですね。1本の光ファイバの中に異なる波長の信号を合波して伝送させます。これによって、1つのファイバあたり10 Tbpsまで伝送容量を拡大できます。
 波長分割多重とデジタルコヒーレントを組み合わせることによって、1本の光ファイバあたり20 Tbps~100 Tbpsを実現できます。

 しかし、これらにも限界があり、波長分割多重とデジタルコヒーレントでは 1本のファイバあたり100 Tbpsを超える通信は不可能だといわれています。

                                       
シングルモードファイバの伝送容量限界について

参考:
宮本裕他,”大容量光ネットワークの進化を支える 空間多重光通信技術,”NTT技術ジャーナル,Vol. 15,
No. 6, pp. 8-12, 2017.

 理由はいくつかあるのですが、そのうちの1つが、光ファイバが燃える ことです。複数の波長の信号を入れること=ハイパワーな光が入力される です。強い光が光ファイバ内のガラスを燃やしてしまいます。

 もう1つ、物理的限界の例を挙げるとすると、非線形効果が挙げられます。

                                       
シングルモードファイバにおける非線形効果

参考:
https://opticalcloudinfra.com/index.php/2017/07/09/shannon-limit-sets-upper-bar-optical-networks/?utm_source=chatgpt.com

 理想的(ある種直感的)には、入力する光の強さを上げれば、その分信号対雑音比がよくなり、伝送効率が上がると考えられるのですが、実際には非線形効果によって、ある一定のパワー以上の光を入力しても伝送効率には限界が来るというのが現実です。この、非線形効果による最大情報伝達速度のことを非線形シャノン限界とも呼びます。

 これらはもう物理限界ですので、どうすることもできない気がします。しかし、伝送容量は上げたいですよね・・・

 そこで登場するのが、次章で紹介する マルチコアファイバ です!

4. 最新の光ファイバ紹介

4-1. マルチコアファイバ

 もしあなたが一車線の道路を運転しているとき、道が混んでいたらこう思うでしょう。

「こんなに混むなら二車線道路にしてくれよ」

 光ファイバを開発する人たちもきっとそう思ったはずです(知らんけど)。
 マルチコアファイバはその考えを用いています。つまり、1本の光ファイバの中に複数のコア(光の通り道)を作ろうとしているのです。

 最近の研究では、12個のコアを持つマルチコアファイバと波長分割多重、デジタルコヒーレントを組み合わせて389.3 Tbpsで1017 kmの伝送に実環境で成功したという報告がありますち(ちなみに日本人の研究チームです)。

                                       
マルチコアファイバの断面画像の例

参考:
Akira. K et al., “389.3-Tb/s 1017-km C-band Transmission over Field-Installed 12-Coupled
Core Fiber Cable with >12-Tb/s Spatial MIMO Channels, ” ECOC 2024, Th3.B1, 2024.

 マルチコアファイバには課題もたくさんあります(例:コア間クロストーク)が、シングルモードファイバの物理限界を突破して大容量通信を可能にする技術です!

コア間クロストークとは、マルチコアファイバにおいて、あるコアに入力された光が漏れ出て、他のコアの伝送品質に影響してしまう現象

従来の光ファイバの物理的限界を突破する空孔コアファイバ(HCF)

 マルチコアファイバにも超えられない物理限界が3つある ことを皆さんは気づいていますでしょうか?それは、、、

1.強い光をファイバに入力した時の非線形効果
2.強い光をファイバに入力した時に光ファイバが燃えてしまう現象
3.光の伝搬速度

 1つ目2つ目については3-2で紹介しました。3つ目の光の伝搬速度とはどういうことか?
光ファイバの中は光が通っていますので、光は光速で進む・・・ と思っていませんか?

 実際は違います。光はガラスの中(コア)を通るので、ガラスの屈折率分だけ光の伝搬速度が落ちているのです。これは値にして真空中の光速の約3分の2 の速さになっています。

 つまり、これら3つの問題点は全てガラスの中を光が通る ことに起因します。

 そこで解決策として、コアを空気にした 空孔コアファイバ が登場します。コアが空気であることで、、、

1. 非線形効果は1000分の1
2. 1000倍強い光を入れても焼けない
3. 空気の屈折率はほぼ1.0なので光速(= 3.0 × 10^8 m/s)で伝送可能(従来の1.5倍速くなる)

と、シングルモードファイバが抱える物理的制約を解決します。凄すぎませんか!?

 そんな空孔コアファイバの構造は以下になります。

                                       
2つのタイプの空孔コアファイバ(アンチレゾナント型とフォトニックバンドギャップ型)

 よくわからないですよね・・・
 実は空孔コアファイバにはアンチレゾナント型フォトニックバンドギャップ型が存在してます。初めて聞いた単語だらけでオフチョベットな人が大多数だと思います。

オフチョベットとは:https://powasemi.hatenablog.com/entry/2025/05/24/074224

 ここで重要なのは コアが空気な光ファイバを作るのは超大変ってことと空孔コアファイバはシングルモードファイバの物理的限界を超えるすごい光ファイバ ということです。空孔コアファイバの課題は従来のシングルモードファイバよりも伝送損失が大きいことだったのですが、最近の論文でシングルモードファイバの伝送損失より良い結果が出たと報告されました。

参考:
武笠和則,“空孔コアファイバを用いた革新的光リンク,” 信学技報2022-13,2022.
Y. Chen et al., "Hollow Core DNANF Optical Fiber with <0.11 dB/km Loss," 2024 Optical Fiber Communications Conference and Exhibition (OFC), San Diego, CA, USA, 2024, pp. 1-3.

5. クラウドベンダーの光ファイバ技術についての取り組み

 なんだか前置きが長すぎな気がしますが、これら最新の光ファイバと大手クラウドベンダーはどのように向き合っているのでしょうか?

5-1. マルチコアファイバを海底ケーブルに採用するGoogle

 Googleは2023年の3月、このMCF技術を台湾、フィリピン、グアム、カリフォルニアを結ぶ海底ケーブルとして採用すること表明しています。

 前の章で最近の論文では12コアのマルチコアファイバが使用されていることを知っている皆さんからすると「ええ、2コア?」と思うかもしれませんが、これは大インパクトなんです。研究レベルであったマルチコアファイバが商用に適用される事例は初ですし、これからますますマルチコアファイバが商用展開されるきっかけになる、そんな勢いを感じます。今後の展開に期待したいです。

5-2. 空孔コアファイバに一番熱心なMicrosoft Azure

 Microsoftが空孔コアファイバに対して熱心だと感じる理由の1つは空孔コアファイバのスタートアップであるLumenisityという会社を2022年に買収したことから始まります。

 このLumenisityという会社は空孔コアファイバの研究が盛んで国際会議常連のサウサンプトン大学(イギリス)発の会社です。

 2025年現在、光通信分野のトップ国際会議の1つであるOFCにおいて、Microsoft Azureのチームが関係している空孔コアファイバに関する論文が数件報告されています。
先ほど、従来のシングルモードファイバよりも低い伝送損失の空孔コアファイバを実現したという話を書きましたが、これはMicrosoft Azureが関係している論文です。Microsft Azureは明確に世界最先端の空孔コアファイバ技術をもっている といえるでしょう。

                                       
世界トップレベルの空孔コアファイバ開発にMicrosoft Azureのメンバーが関わっている

 また、Azureは既に複数のリージョンにおいて適用済みで、顧客のデータセンタ間の実トラフィックを運んでいることが明言されています。

                                       
Azureが公開している空孔コアファイバ適用イメージ

このことからも、Microsoft Azureは空孔コアファイバの開発および向けて熱心に取り組んでいるなと思います。

5-3. AWSも空孔コアファイバを開発中

 AWSはAWS re:Inventというイベントにて、空孔コアファイバに触れています。"Amazon Hollow Core Fiber"呼ばれているところからも、自分たちでデータセンタ間通信に使うための空孔コアファイバを開発しているそうです。
 動画内では シングルモードファイバと比べて47%遠くまで信号が到達可能 と紹介されています。データセンタ間の通信には遅延要件があるそうですが、
空孔コアファイバを使う→従来のファイバに比べて1.5倍遅延が速くなる→遅延要件を満たせるデータセンタ間の距離が長くなる

という考えのようです。空孔コアファイバのデータセンタ間の適用は、データセンタを建設する場所の拡大にも役立っているようですね。

                                       
AWS re:Invent 2024 - Planet-scale networking: How AWS powers the world’s largest networks より

この画像をみて、左側に紹介しているLegacy Designがフォトニックバンドギャップ型で、Amazon HCFと書いてあるのがアンチレゾナント型と気づいた方、多分もうあなたは空孔コアファイバマスタです。
個人的には決してフォトニックバンドギャップ型がLegacy Designとは思いません。確かにアンチレゾナント型の方が伝送損失が低いといった報告がありますが、実はフォトニックバンドギャップ型の方が光ファイバを曲げた時の損失は低いといわれています。

まとめと感想

 本記事ではこれからのクラウド基盤を支えていきそうなL1技術 と題して現在広く使われているシングルモードファイバの伝送の仕組みから、最先端で研究されている光ファイバである、マルチコアファイバ 空孔コアファイバ について紹介しました。

  • 現行のシングルモードファイバでは、その構造に伝送容量と遅延の側面に物理的限界が存在する
  • 最新技術の光ファイバとしてマルチコアファイバと空孔コアファイバが存在
  • マルチコアファイバは伝送容量の限界を、空孔コアファイバは遅延の限界をそれぞれ突破できる

 大体このくらいの理解ができていれば、世界最先端の光ファイバ知識を身につけたと(多分)いえると思います!

 大手クラウドベンダーにおいてもこれらの最先端光ファイバに興味を持っており、より良い光ファイバを製造するために世界トップレベルで研究をしたり、商用利用したりと、クラウド一般ユーザの我々からはあまり見えないところでしのぎを削っていることが分かりました。

 クラウドを利用するときに、少しでもその裏を支える光ファイバ技術に思いを馳せていきましょう!

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