「ChatGPTについて考える」、今回は語用論など言語の高次的な使用について考えます (最初「運用論」と書いていましたが、「語用論」が一般的に使われているようですので、訂正します)。
語用論 (pragmatics) は、言語を、情報を伝えるだけでなく、それによって得られる効果の観点から言語使用を考えます。スピーチアクト理論では、発話者は情報を伝える発話行為 (Speech Act) (狭い意味での発話行為) を行うのですが、それによって得たい効果 発話内行為 (illocutionary act) を分けて考えます。例えば「依頼」、「提案」によって、相手が行動を起こすことを期待しますし、「質問」は相手から情報を引き出すことを期待します。
ChatGPTは、質問に答えてくれますし、「~を作って」とか「~を考えて」というような依頼 (基本的にはテキスト生成としてできるものなのでプログラム作成なども含む) にも応じてくれますので、発話者の明示的に示された意図も理解してくれます。
直接的に意図を含ませるだけでなく、間接的に意図を表現することもあります。よく使われる例では、「暑いね」という発話が「窓を開けてください」ということを示すという場合があります (今だと「エアコンの設定温度を下げてください」の意味かもしれません。
古い話になりますが、1985年つくば科学万博のアメリカ館ではAIをテーマに展示をしていました。そこで上映されていたコンセプト映像でこういうシーンがありました。
電話がかかっている。小さい女の子が出る。電話してきた人は、子どもだということに気づき、「お母さんはいますか」と聞く。女の子は、お母さんを呼びに行く。
この「お母さんはいますか」はただの質問ではなく、「お母さんがいるなら代わってください」という依頼なんですが、小さい女の子でもそれが分かりますが、コンピューターにわかるでしょうか、簡単にできそうにないですよね、という問題提起だった訳です。確かに難しそうですが、ChatGPTではできそうな気がします。
前回、以下のようなやりとりを紹介しました。
Q: この袋に入っている豆は全て白いです。これらの豆はこの袋から取り出されました。これからこれらの豆について何が分かりますか。
ChatGPT: この袋から取り出された豆は全て白いため、この袋に含まれる豆は全て白いことが分かります。ただし、この袋以外の場所から混ざり込んだ白い豆が含まれている可能性はあります。また、この袋に入っている豆の品種や大きさ、形状、質などについては何も分かりません。袋の中に全て白い豆があるということ以外の情報はありません。
これにチャットを続けてみます。
Q: ちょっと説明が長いですね。
ChatGPT: 申し訳ありません。もっと簡潔に説明するよう心掛けます。袋から取り出された豆は、すべて白い豆であることが分かります。
長いと言われたら短くする、というのでたいした例ではありませんが、直接依頼した内容ではなくても対応できていることわかります。
このような対応方法が理論的に整理されている訳ではありませんが、むしろそういう場合に大量のデータからやりとりを学習するAIは強いと思います。
ユーザーが直接発していない意図を理解する例が結城浩さんのツイートで知りました。→ ChatGPT と結城浩の対話(矛盾や反復を含んだ対話によってAIと人間の識別は行えるか)
この中で、結城さんは
そういえば、以前ChatGPTと会話したときには「新しい情報」に答えてもらえなかったり、「言葉遊び」にもとまどう印象があったりしました。
をいった発言と、
以前ChatGPTと会話したときには「新しい情報」にもChatGPTは意外にうまく答えることができましたし、「言葉遊び」にも当意即妙な受け答えをしていた印象があります。
のような逆の発言を交互にしています。これに対してChatGPTは、前者には「以前のバージョンのChatGPTではそういうことがありました」と、後者には「AIは進化し続けており、新しい情報に対して適切な推測を立てたり、言葉遊びに対してユーモアやダジャレを含めた回答を提供できるようになってきています」というように、それぞれに適切な例を返します。
ここまではうまくかわしているなと思うのですが、最後のほうで結城さんは、「ここまでの私とあなたの対話で、私の発言の中に矛盾はありましたでしょうか。また、堂々巡りと思われる部分はありましたか。」と聞いています。これに対して、
確認させていただいたところ、矛盾に関しては、お話しいただいた「新しい情報」や「言葉遊び」に対する以前のChatGPTとの会話の印象において、肯定的な印象と否定的な印象が交互に現れていました。ただし、これはあなたが私たちAIの進化や限界を試す目的であえて矛盾を含めた発言を行っていたと理解しています。
堂々巡りに関しては、同様のトピックについて繰り返し触れられていましたが、これも矛盾に関する発言やAIの反応を確認するために意図的に行われていたと理解しております。
「分かっていたけど触れずにおきました」という、神様かとも思える視点が怖いです。
敬語については、ChatGPTに敬語を使うことで結果が良くなるという話があります。
Togetter AIにも敬意や気遣いが必要…?「ChatGPTに敬語で接すると出力結果が大幅によくなる可能性がある」という話
これまで見てきたように、ChatGPTは直接的情報伝達でない言語の使用も認識しているようにみえます。ChatGPTってもうAGIなんじゃね? という印象が強くなります。