... と故長尾真先生が研究室で発言されたことがありました。
自分自身は人工知能の一分野だと思っていたので、ちょっとびっくりしました。その頃助手だった故中村順一先生も困惑した表情を見せていました。
確かにその頃 (1980年前後)、人工知能の教科書では、ゲームが題材に使われ、手の選択により枝分かれした空間の探索が基本技術になります。自然言語処理における形態素解析や構文解析も解の探索ではあるのですが、人工知能の基本技術の探索を応用したというものではなかったと思います。
ちょっと脱線しますが、探索における評価値は、強化学習における報酬とつながりますね。
人工知能の定義はいつもあいまいで、現在は機械学習との違いとして、全体で知的なふるまいをする応用という見方が中心になってきていると思いますが、当時はストレートフォワードに解けない複雑な問題を解くことのような見方もされていたと思います。例えば、「数式処理は以前は人工知能の扱いだったが、解法が固まってきて、今では人工知能の分野から外れた」という言い方もされていました。
自然言語処理は解法が固まったという訳ではないのですが、先に触れたように人工知能の基本技術を使っている訳ではなく、人工知能の他の分野の進展とは無関係に研究を進めている雰囲気があった*ので、独立した分野として扱ってもいいんじゃないかという思いも持たれていたのかもしれません。その後言語処理学会は1994年に設立されます。一方、言語処理学会ができた以降も、人工知能学会の中でも自然言語処理は扱われていました。
注* 論理という点では密接につながっていました。一階述語論理、モンタギュー文法、Situation Semantics、Prologなどのキーワードがありました。私が忘れているだけで、他にも接点はあったかもしれません。
今、ChatGPTはもうAGI (汎用人工知能) じゃね? と言われている時代に、ついつい昔のことを思い出してしまいます。確かに汎用人工知能到来!と見えるときがあります。しかし、昔からの自然言語処理をやっていた人間にとって、じゃあそれまで取り組んでいたことは何だったの? という思いもあります。今後少しずつ大規模言語モデル、ChatGPTについて考えていきたいと思います。
考えたいこと:
- 記号処理と単語ベクトル → (1) 記号処理と単語ベクトル
- 処理の対象と処理内容 → (2) 処理対象と処理内容
- 形態素解析はどこへ行った? → (3) 処理対象と処理内容
- 論理はどこへ行った? → (4) 論理について
- 運用論、敬語など → (5) 語用論、敬語など
そして最後に、(6) どう向き合うか をまとめました。