はじめに
mattpocock/skills は、Total TypeScript で知られる Matt Pocock 氏が「自分の .claude/ ディレクトリそのものを公開した」リポジトリです。公開から短期間で GitHub Stars 10 万超、Fork 9.6k に達しています(2026-06-01 時点)。
「Skill を書こうとしているけど、SKILL.md に何を詰めれば良いか分からない」「他人の運用中スキルを覗いてみたい」という人にとって今いちばん刺さる教材です。実際に 18 個全部読みながら、設計の癖と効くテクニックを整理したのが本稿です。
対象読者
- Claude Code / Cowork でスキルを書こうとしているが、書き出しが固まらない人
- 自分のスキル運用が「コマンド化」に寄っていて、もっと役割化したい人
- 「Vibe Coding じゃない、地に足の付いた AI 開発」のテンプレを探している人
この記事でわかること
- mattpocock/skills 18 個の全体像と分類
- 「AI コーディングエージェントの 4 つの失敗モード」とその処方箋
- 明日から効く 4 スキル(grill-me / grill-with-docs / caveman / handoff)の使いどころ
- SKILL.md を書くときに参考になる 3 つの共通パターン
前提知識・環境
- Claude Code または Cowork を触ったことがある(スキル機構の概念を知っている)
-
.claude/skills/ディレクトリとSKILL.mdの役割を雑にでも把握している
1. リポジトリ全体像
- Repo: mattpocock/skills
- License: MIT
- Stars / Forks: 108k / 9.6k
-
構成: 18 個の Skill を
engineering / productivity / miscの 3 カテゴリに分割 -
インストール:
npx skills@latest add mattpocock/skills(skills.sh 経由)
README の冒頭で本人がはっきり書いている設計思想がとても刺さります。
Developing real applications is hard. Approaches like GSD, BMAD, and Spec-Kit try to help by owning the process. But while doing so, they take away your control. These skills are designed to be small, easy to adapt, and composable.
プロセスを丸ごと奪う系のフレームワーク(GSD / BMAD / Spec-Kit)への明示的なアンチテーゼとして、「小さく・差し替えやすく・組み合わせ可能」な単位に分解されています。この姿勢は SKILL.md 本文の書き味にも一貫していて、どれも 1 ファイルが短いです。
2. 18 スキルの全体マップ
カテゴリ別に並べると次の通りです。
Engineering(10 個)
| Skill | 役割 |
|---|---|
| grill-with-docs | 計画を既存ドメインモデルに照らして詰問しつつ、CONTEXT.md / ADR を同時更新 |
| diagnose | 再現 → 最小化 → 仮説 → 計測 → 修正 → 回帰テスト、の規律あるバグ調査ループ |
| tdd | red-green-refactor を強制し、垂直スライス単位で機能追加 / バグ修正 |
| triage | Issue を triage 用ステートマシンで分類 |
| improve-codebase-architecture |
CONTEXT.md と ADR を踏まえて、コードを「深いモジュール」に寄せる改善箇所を抽出 |
| setup-matt-pocock-skills | repo 単位の設定(issue tracker / triage ラベル / ドキュメント配置)を一回だけスキャフォールド |
| to-issues | PRD や仕様を「単独で着手可能な GitHub Issue」に分解 |
| to-prd | 会話のコンテキストから PRD を組み立て、Issue 化 |
| zoom-out | 知らないコードに対して「全体の中での位置づけ」を語らせる |
| prototype | 使い捨てプロトタイプ(CLI / UI バリアント)を作って設計判断を駆動 |
Productivity(4 個)
| Skill | 役割 |
|---|---|
| grill-me | 計画 / 設計を全部の枝葉まで詰問されるインタビュー |
| caveman | フィラーを削ってトークン消費を 〜75% 圧縮する超圧縮モード |
| handoff | 会話を引き継ぎドキュメントに圧縮し、別エージェントに渡せる形にする |
| write-a-skill | 適切な構造・progressive disclosure で新規スキルを書く |
Misc(4 個)
| Skill | 役割 |
|---|---|
| git-guardrails | Claude Code hooks で push / reset --hard / clean 等の危険コマンドをブロック |
| migrate-to-shoehorn | テストファイルの as 型アサーションを @total-typescript/shoehorn に置換 |
| scaffold-exercises | 練習問題の sections / problems / solutions / explainers をスキャフォールド |
| setup-pre-commit | Husky + lint-staged + Prettier + 型チェック + テストの pre-commit を構築 |
3. 設計思想 — Matt が「真に解こうとしている 4 つの失敗モード」
README は単なる Skill 一覧ではなく、「AI コーディングエージェントの 4 つの失敗モードと、それぞれへの処方箋」 という構造になっています。これが本リポジトリの本質的な価値です。
#1: The Agent Didn't Do What I Want(指示と実装のミスアライメント)
「あなたが何を求めているか、開発者は本当に分かっているか?」というアジャイル本にもよくある問いを、AI エージェントに当てはめた話です。処方箋は「grilling session」。エージェントの側から計画について質問を浴びせさせます。
-
grill-me— 非コード作業全般向け -
grill-with-docs—grill-meにドメインドキュメント連携を追加した強化版
The most common failure mode in software development is misalignment.
開発者なら誰でも刺さるフレーズ。ペアプロでも品質を担保する一番の方法は「質問」 だという、極めて Pragmatic Programmer 的な姿勢。
#2: The Agent Is Way Too Verbose(共有言語の不在)
Eric Evans の DDD を引いて、「共有言語(Ubiquitous Language)が無いとエージェントは 1 単語で済む話を 20 単語で書く」 と問題提起。処方箋は CONTEXT.md というドメイン用語集を repo に置くこと。
具体例も載っている:
- BEFORE: "There's a problem when a lesson inside a section of a course is made 'real'"
- AFTER: "There's a problem with the materialization cascade"
共有言語のメリットは、トークン削減だけではない:
- 変数 / 関数 / ファイル名が一貫した語彙で命名される
- コードベースがエージェントにとって読みやすくなる
- 「思考の語彙」が短くなり、トークンを推論に回せる
この発想を担うのが grill-with-docs で、grilling と同時に CONTEXT.md や ADR を更新します。「会話の副産物としてドキュメントが育つ」設計が秀逸です。
#3: The Code Doesn't Work(フィードバックループ不足)
Pragmatic Programmer の "Always take small, deliberate steps" を引いて、フィードバックループの遅さがコード品質を決める と主張。処方箋は静的型 + ブラウザ + 自動テストの 3 点セット。
-
tdd— red-green-refactor を強制 -
diagnose— デバッグのベストプラクティスを単純なループに包む
#4: We Built A Ball Of Mud(設計の腐敗)
Kent Beck と Ousterhout を引いて、エージェントは「コード書く速度」を上げると同時に「腐敗する速度」も上げる と警告。処方箋は 「設計について毎日考える」 を Skill に組み込むこと。
-
to-prd— PRD を書く前にどのモジュールに触るかをクイズ -
zoom-out— システム全体の中での位置づけを説明させる -
improve-codebase-architecture— 数日に 1 回走らせて「深いモジュール」化のチャンスを探す
4. 実際に効くと感じた 4 つのスキル
18 個全部良いですが、「明日から効く」4 個 に絞るとこうなります。
4.1 grill-me — 計画を全方位から詰問させる
「実装に入る前にこの設計をレビューして」と投げると、意思決定ツリーの各分岐を順番に潰すように質問を浴びせてくれます。曖昧な要件・暗黙の前提・未決事項を、エージェントの側から拾い上げてくれます。
grill-with-docs のような CONTEXT.md 連携は無いですが、ドメインドキュメントがまだ整っていない初期フェーズ・個人プロジェクト・非コード作業 ではこちらが使いやすいです。「Claude に勝手に進められる前に、まず自分の頭の中を整理する」用途に効きます。書き出し前に 5 分これを回すだけで、後段の手戻りが目に見えて減ります。
4.2 grill-with-docs — ドメイン整合性を詰める
grill-me にドメインドキュメント連携を足した強化版です。「やりたいことを 1 文で書いた issue」を投げると、ドメインモデルとの整合性、用語のブレ、抜けてる意思決定 を片っ端から詰問してくれます。CONTEXT.md を repo に置いておくと、用語が会話の途中で 共有語彙にリプレースされていくので非常に便利です。
さらに、質問は1問ずつ選択肢付きで投げてくれるので、答えながら頭の中が整理されていく感覚があります。
これを 1 回挟むかどうかで、後段の tdd / to-prd の出力品質が全く変わります。書き出し前のチェックポイントとして組み込みたいです。
4.3 caveman — トークン削減モード
/caveman で発動するだけで、Claude の出力が 超圧縮モードになります。技術的精度を保ったままフィラーを削るので、長時間セッションでのトークン消費が体感で 1/4 になります。Opus を使うときに特に効きます。
Productivity 系の中では一番すぐに価値が出ます。デフォルトを caveman にしてもいいくらいです。
4.4 handoff — セッションをまたぐ
長いセッションをやっていて context window が逼迫してきたとき、/handoff で 「次のエージェントに渡せる引き継ぎ docs」 を生成します。新しいセッションを開いて handoff docs を最初に投げると、コンテキストロスがほぼゼロで再開できます。
Cowork や Claude Code を「数日にまたがるプロジェクト」で使う人 は、これを知っているだけでワークフローが変わります。
5. SKILL.md の書き味 — 18 個読んで気づいた共通パターン
ソースコードを読むと、18 個に強く貫通している規約が 3 つあります。
5.1 description は短く、具体的に、命令形
name: grill-with-docs
description: Grilling session that challenges your plan against the existing
domain model, sharpens terminology, and updates CONTEXT.md and ADRs inline.
抽象語("intelligent" や "comprehensive")を使わず、「何をするか」だけを 1 文で書きます。Anthropic 公式の Skill ガイドラインに忠実な書き方です。
5.2 本文は「ステップ番号付き」で、長くしない
各 SKILL.md は驚くほど短いです。「やる手順を 5〜10 ステップで列挙する」だけで、長い説明文を書きません。プロンプト本文は "プロンプトのプロンプト" であり、長さは精度を下げるという割り切りです。
5.3 進行状況を「人間に問う」設計
grill-me 系も triage 系も、判断分岐は必ず人間に投げ返します。「Claude に勝手に進めさせない」が貫かれているのが、「なんでも自動で進める」系のスキルとの大きな違いです。
6. 試すならどう入れるか
3 つの導入パスがあります。
パス A: 公式インストーラ(最速)
npx skills@latest add mattpocock/skills
スキルを選んで、対象エージェント(Claude Code / Codex / Cursor)を選べば終わりです。/setup-matt-pocock-skills を必ず選択し、初回起動時に repo の設定(issue tracker / triage ラベル / docs パス)を済ませます。
パス B: 部分採用(手動 clone)
skills/engineering/grill-with-docs/ だけを .claude/skills/ 配下にコピーします。全部入れるより、まず grill-with-docs と tdd の 2 個から始めるのが、フィット確認には向いています。
パス C: Cowork プラグイン化(自前ビルド)
Cowork で使うなら 18 スキルを .plugin ファイルにまとめて、自分のマーケットにアップロードする手もあります。ただしこれは結構な罠が待ち構えていたので、別記事に書きました。
7. 個人的に効いた発見 — 「Skill は OOP の class」 説
18 個を眺めて気づいたのは、Skill の単位が "オブジェクト指向の class" にすごく似ている こと。
-
description= class doc -
SKILL.md本文 =__init__+ メソッド群 - 同梱
scripts/= privateメソッド / utility - スキル間連携(
/grill-with-docs→/tddの流れ)= メソッドチェーン
「カスタムスラッシュコマンドが関数だとすると、Skill はクラス」 という感覚は、運用 1 ヶ月後に確信に変わりました。Matt のリポジトリは、その class 設計の "良いお手本集" として読めます。
まとめ
-
mattpocock/skillsは 「Vibe Coding じゃない、地に足の付いた AI 開発」 をテーマにした 18 スキル集 - 4 つの失敗モード(misalignment / verbosity / broken code / ball of mud)への処方箋として体系化されている
-
明日から効くのは
grill-me/grill-with-docs/caveman/handoffの 4 個 - SKILL.md の書き味(短い description / 短い本文 / 人間に問う設計)は、自分の Skill を書くときの規範になる
- Skill は「LLM 時代の class」だと思って読むと、設計の意図が掴みやすい
Anthropic 公式の Skill ガイドラインを読んでも実例が足りなくてピンと来ない人は、まずこのリポジトリを 1 周読むのが早いです。コード以前に「設計思想」が学べるのが、このリポジトリの本当の価値です。
