はじめに
「Cursor が話題だけど、Zed や VS Code はどうなの? 乗り換えるべき?」という相談を最近よく受けます。筆者自身、普段は VS Code をベースにしつつ Cursor と Zed を並行して試してきましたが、2026年に入ってこの選択の前提が大きく変わったと感じています。きっかけは Zed が打ち出した Agent Client Protocol(ACP) です。
本記事では、AI 時代のエディタ選びを「速度 / AI の深さ / エコシステム」の3軸で整理し、最後に筆者が現時点で最も重要だと考える「ベンダーロックインをどう回避するか」という観点を加えて、ユースケース別の選び方をまとめます。
なお、多くの比較記事は「Zed vs Cursor」の2軸で止まっています。実務では「結局 VS Code でいいのでは?」という選択肢が常に存在するので、本記事はあえて3つ巴で比較します。
背景・課題:エディタ選びの前提が2026年に変わった
2025年までの構図はシンプルでした。AI 統合の深さなら Cursor、エコシステムの広さなら VS Code、素の速度なら Zed。つまり「AI を取るか、速度を取るか」のトレードオフです。
この構図を崩したのが、次の2つの動きです。
- Zed の ACP(Agent Client Protocol):2026年1月に発表されたオープンプロトコルで、任意のコーディングエージェントを任意のエディタに統合できる標準です。Zed 1.0(2026年4月29日リリース)の時点で、Claude Agent / OpenAI Codex / Gemini CLI / OpenCode が ACP 経由で Zed 内にネイティブ統合されています(Zed 公式)。「速いけど AI が弱い」という Zed の弱点が、外部エージェントを取り込む形で解消されつつあります。
- VS Code 側の巻き返し:GitHub Copilot の Agent mode + MCP 対応が全ユーザーに展開され(GitHub Blog)、さらに Copilot Chat 拡張はオープンソース化されました。2026年5月のリリースでは Agents window や SSH 越しの Remote agents(プレビュー)も入っています。「AI が後付けで弱い」という VS Code の評価も過去のものになりつつあります。
つまり3者とも「AI が深く使えるエディタ」になった今、差が出るのは別の場所です。
本論:3軸で比較する
軸1:速度(エディタとしての基礎体力)
ここは Zed の独壇場です。Rust ネイティブ実装(GPU アクセラレーション)の Zed に対し、Cursor と VS Code は Electron ベースという構造的な差があります。
| 指標 | Zed | Cursor | 出典 |
|---|---|---|---|
| ファイルオープン | Cursor の約5倍速 | — | Morph |
| メモリ使用量(典型プロジェクト) | 200〜400MB | 500〜800MB | 同上 |
| 入力レイテンシ | 約2ms | 約12ms | DevToolReviews |
| 10万行モノレポのオープン | 1秒未満 | 約4.5秒 | 同上 |
数字だけ見ると「圧勝」ですが、実感としては「大きなファイルを開いた瞬間」「グローバル検索」「ブランチ切り替え直後」など、待ち時間が発生するシーンで差を感じる、というのが正確なところです。小さなプロジェクトを触っている限り、Electron 勢でも困ることはあまりありません。
軸2:AI の深さ(エージェント統合の成熟度)
2026年6月時点の筆者の整理はこうです。
- Cursor:マルチファイルの協調編集(Composer)と並列エージェント運用の成熟度では依然先行しています。「エディタ自体が AI ファースト設計」である強みは健在です。
- Zed:ACP により Claude Agent / Codex / Gemini CLI を 同じエディタ内でインストール・切り替え・併用 できます。エディタ独自の AI を磨くのではなく「エージェントの実行環境として開く」戦略で、エージェント側の進化をそのまま取り込めるのが特徴です(Zed Docs: External Agents)。
- VS Code:Copilot Agent mode が MCP 対応し、モデルも Claude / Gemini / GPT 系から選択可能。Agents window・セッションの GitHub 同期など「組織で使う」方向の機能が厚くなっています(GitHub Changelog 2026年5月)。
注目すべきは、3者の戦略がそれぞれ「自前で磨く(Cursor)」「プロトコルで開く(Zed)」「プラットフォームに載せる(VS Code)」と綺麗に分かれている点です。どれが優れているかではなく、エージェントの進化をどこから受け取りたいかの違いだと筆者は捉えています。
軸3:エコシステム(拡張・チーム・移行コスト)
- VS Code:拡張機能の数と社内ナレッジの蓄積は別格です。チーム全員のエディタを統一したい場合、現実的には VS Code 一択になりがちです。
- Cursor:VS Code フォークなので拡張資産をほぼ引き継げます。移行コストが低いのが普及の理由です。
- Zed:拡張エコシステムはまだ発展途上ですが、リアルタイム共同編集がネイティブ搭載されている点はペアプロ用途で独自の強みです。
価格の構造差
3者とも入口は月額 $20 ですが、構造が違います。Cursor は Pro+($60)/ Ultra($200)と並列エージェント利用量に応じて積み上がるのに対し、Zed Pro は $20 で月500ホストプロンプト、さらに 自分の API キーや ACP 経由の外部エージェント(Claude Code のサブスクリプション等)を持ち込めば、エディタ自体は無料の範囲で使い続けられます(DevToolReviews)。AI 利用量が増えるほど「エディタとモデル契約を分離できるか」が効いてきます。
ベンダーロックイン回避という第4の視点
筆者が ACP を重視するのは、ここに効くからです。
Cursor に深く依存すると「エディタ+モデル+課金」が一体化し、値上げや方針転換への耐性がなくなります。一方 ACP + モデル直接契約(API キーや Claude / ChatGPT のサブスクリプション) という構成なら、エージェントとエディタを独立に乗り換えられます。
ACP はコミュニティ駆動で対応エージェント・エディタが増えており(Zed Blog: ACP progress report)、MCP が「ツール接続の標準」になったのと同じ構図で「エージェント⇔エディタ接続の標準」になる可能性があります。VS Code 側も Copilot Chat のオープンソース化で透明性を上げており、「閉じた統合」への揺り戻しは業界全体のトレンドと見てよさそうです。
ユースケース別の選び方
筆者の現時点での結論です。
| ユースケース | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|
| チーム標準・社内展開 | VS Code | 拡張資産・ナレッジ・Copilot の組織機能 |
| AI 主導でガンガン書く個人開発 | Cursor | マルチファイル編集・並列エージェントの成熟度 |
| 大規模コードベース・速度重視 | Zed | 起動・検索・入力の基礎体力 |
| ロックイン回避を最優先 | Zed + ACP(または VS Code + 直接契約) | エディタとモデル契約の分離 |
| ペアプロ・モブプロ | Zed | ネイティブ共同編集 |
「全部 Cursor でいい」でも「結局 VS Code」でもなく、何に縛られたくないかで決めるのが2026年流だと考えています。
ハマりどころ
実際に試して気づいた注意点です。
- Zed の ACP エージェントは「外部プロセス」:エージェントは Zed と別プロセスで動き、設定もエージェント側(例:Claude Code 側の設定ファイル)に従います。Zed の設定だけ見ていても挙動が変わらず、最初は戸惑いました。
- Cursor からの移行は「拡張」より「習慣」が壁:Composer 前提のワークフロー(曖昧な指示でマルチファイル編集を走らせる)に慣れていると、Zed + Claude Agent では指示の粒度を変える必要があります。エージェントの「思考の癖」が違うためです。
- VS Code の Agent mode はモデル選択で挙動が大きく変わる:同じプロンプトでも選択モデルで成果物の質が変わるので、「VS Code の AI は微妙」と判断する前にモデルを切り替えて試す価値があります。
- ベンチマーク数字は環境依存:本記事の数値は各比較記事の計測値です。自分のマシン・自分のリポジトリで体感差が出るかは、1日使って確かめるのが結局いちばん確実です。
まとめ
- 2026年、3エディタはいずれも「AI が深く使えるエディタ」になり、差別化ポイントは 速度(Zed)/ AI 統合の成熟度(Cursor)/ エコシステム(VS Code) に分かれた
- Zed の ACP はエージェントとエディタの結合を切り離す標準であり、Claude Agent / Codex / Gemini CLI をエディタ内で切り替えられる
- 価格は3者とも $20 スタートだが、「エディタとモデル契約を分離できるか」 が長期コストとロックイン耐性を左右する
- 選び方は機能比較ではなく「何に縛られたくないか」から逆算するのがおすすめ
筆者はしばらく「チーム作業は VS Code、個人の集中作業は Zed + Claude Agent」の二刀流で運用してみる予定です。運用が溜まったら続編を書きます。
参考
- Zed — Agent Client Protocol
- External Agents — Zed Docs
- Claude Code: Now in Beta in Zed — Zed's Blog
- How the Community is Driving ACP Forward — Zed's Blog
- Zed vs. Cursor: An Honest Comparison for 2026 — Zed 公式
- Zed vs Cursor 2026: Speed vs AI Depth Compared — Morph
- Zed vs Cursor vs VS Code 2026 — DevToolReviews
- GitHub Copilot: Agent mode and MCP support rolling out to all VS Code users — GitHub Blog
- microsoft/vscode-copilot-chat(オープンソース化された Copilot Chat) — GitHub
- GitHub Copilot in VS Code, May releases — GitHub Changelog