はじめに
Tricentis Testim をはじめ、mablやAutify、MagicPodなど、世の中には様々なローコード、ノーコードのテスト自動化ツールが存在しています。
しかし、導入にあたって実際にトライアルをしてみないと、後で「こんなはずではなかった」という事態に陥ることも少なくありません。
本記事では、ノーコード/ローコードのテスト自動化ツールを導入・リプレイスしたいQA担当者や開発チームの方に向けて、ツール導入前やトライアル検討時に整理・確認しておきたいことを、筆者の経験をベースにまとめた備忘録です。
トライアルを始める前に整理すべきことリスト
全体像として、以下の項目について事前に準備・検討しておくとスムーズに進められると思います。
- テスト自動化の目的を整理する
- トライアル時期の検討と計画
- 1人でやらない(仲間を見つける)
- テストシナリオの整理
- トライアルで利用するテストシナリオの選定
- 自社のセキュリティ要件の確認
- 自社のテスト環境の制約条件を洗い出す
- テスト自動化ツールの選定
- 効果検証の方法
- 構成の検討と予算取り
1. テスト自動化の目的を整理する
テスト自動化ツールと一口に言ってもその特徴は様々です。
以下のように「何のために自動化するのか」という目的を整理しておくことで、ツール選定時の判断軸がブレなくなります。
| 自動化の目的 | 実現したいこと |
|---|---|
| 工数削減 | 手動テストやテストデータ作成の負担を減らしたい |
| 頻度向上 | 毎リリース(あるいは定期的に)リグレッションテストを回したい |
| 品質標準化 | スキル習熟度によるバラつきやヒューマンエラーを無くしたい |
| DevOps連携 | CI / CD パイプラインに組み込みたい |
| 自動化の民主化 | コードを書かなくてもテスト作成・修正をできるようにしたい |
DevOps推進であればCI / CDパイプラインとの連携や並列実行機能が必須になったり、手動テストの補助や開発者の手元で動かすならローカル実行ができないと困るなど、目的によって必要な機能が変わってきます。
2. トライアル時期の検討と計画
導入やリプレイスに伴うトライアルは、想像以上に検討事項や確認事項が多くなります。
以下のような時期にトライアルを開始してしまうと、せっかくの期間に思うような検証ができず、期間が終了してしまう…なんてことになりかねません。
- 繁忙期
- 大型リリース直前
- 年末年始や大型連休前後
- チームメンバーの休暇が多い時期
また、1つのツールだけではなく、複数のツールを比較検討することも多いはずです。
トライアルを「通常業務の中で無理なく実施できる時期」に設定するためにも、あらかじめ期間を確保し、そこから逆算して計画を立てることをおすすめします。
Tricentis Testim のトライアル期間
筆者がトライアルした時点では、Tricentis Testim では 14日間(2週間)のトライアルが提供されていましたが現在は 7日間(1週間) になっているようです。
※トライアル期間は変更される可能性もあるため、必ず公式サイトやベンダー担当者から最新情報を確認してください。
1週間のトライアルであれば、
- 前半:環境準備と「練習用」「理想的」シナリオの実装
- 後半:実際のリグレッションテストや CI / CD 連携での検証
といった形で計画しておくと、期間内に「簡単に作れるか」だけでなく「運用イメージ」まで確認しやすくなります。
トライアル期間の延長が必要な場合は、別途交渉をしてみることをおすすめします。
3. 1人でやらない(仲間を見つける)
ノーコード・ローコードツールに限らず、トライアル担当者は「その人だけ」に任されがちです。
しかし、担当者だけで抱え込むのではなく、一緒にトライアルしてくれる人を巻き込むことをおすすめします。
理由は単純な負荷分散だけではありません。視点が増えることで、一人では思いつかなかったアイデアが出たり、観点漏れを防ぐことができます。また、トライアル段階から複数人で関わっておくことで、導入後の運用を担当できる候補者も増えることにつながります。
人数の目安
人が増えすぎても最終決定時に意見が割れて収拾がつかなくなります。筆者の経験上、2〜4名程度で実施するのが最もスムーズです。
4. 既存テストシナリオの整理
仲間と時期の調整ができたら、いよいよ準備作業に入っていきましょう。まずはテストシナリオを棚卸しします。
トライアルが始まってから整理していたのでは、せっかくの期間がもったいないですよね。
事前に、今利用しているテストシナリオを洗い出し、「どのケースは自動化できそうなのか?」を大まかに分類しておきましょう。
| 自動化の可否分類 | 判断の目安 |
|---|---|
| 自動化できそうなもの | ロジックが明確、画面操作のみで完結 |
| 自動化が難しそうなもの | 目視確認が必要、物理デバイスが必要など |
ここで「自動化できるかわからないもの」があっても構いません。「これは自動化できそうかな?」という目星をつけておくと、ツールベンダーとの打ち合わせ時に確認する項目として活用できます。
5. トライアルで利用するテストシナリオの選定
整理が完了したら、実際にトライアルで実装するシナリオを選定します。
トライアル期間は、一般的に1週間〜2週間程度というケースが多いかと思います。そのため、「あれもこれも」と欲張るのではなく、以下の四象限に振り分けてから選定するとスムーズです。
イメージしやすくするために、四象限の画像はAIに生成してもらいました。

実際にトライアルを進める際は、以下のようなステップで進めるとスムーズです。
-
理想的なパターン
- 「理想的」をはじめに実施
- 余裕があれば「チャレンジ」にトライ
効果が高く作成が容易なものから着手することで、検証結果としての成果を得やすいです。筆者としては、この流れができるとベストだと考えています。
-
理想的なパターンが難しい場合
- 「練習用」をはじめに実施し、その後「理想的」へ
- 余裕があれば「チャレンジ」にトライ
手頃な「理想的」シナリオが見つからなかった場合は、まず効果は薄くても簡単に作成できるものを1〜2件試してみてください。
操作に慣れ、「自分でも作れた!」という小さな成功体験を積むことで、モチベーション高くステップアップできるからです。最初から難しいものに挑んで挫折するのを防ぎましょう。
Flaky(不安定さ)に注意
トライアル中、「簡単に作れるか」 に目が行きがちですが、「安定したテストができるか」 にも注意しましょう。
自動化運用の難しさの原因の1つに、UI変更のたびにテストが落ちる「不安定さ(Flaky)」があります。例えば、以下のようなポイントを確認しておくとよいです。
- ロケーター(要素特定)の多様性・堅牢性はあるか?
- メンテナンス性は高いか?
- IDが変わっても自動修復してくれるか?
「簡単に作れる」ことも大切ですが、「壊れにくく、メンテナンスしやすい」ことも確認しておくことで、導入後に「テスト修正の工数」で苦しむ要因を減らせると思います。
6. セキュリティ要件の確認
契約段階で慌てないよう、自社のセキュリティ基準を把握しておきましょう。
- セキュリティチェックシートの提出が必要なのか?
- データの保存場所(国内リージョン必須など)に規定はあるか?
- 契約時の必須項目は何か?
これらを事前に確認しておくことで、「ツールは最高だったのに、セキュリティ規定でNGが出た」という事態を避け、スムーズに契約まで進めることができます。
よくあるセキュリティの例
- データの保管場所: 国内リージョン必須か、海外でも良いか
- 認証方式: SSO (SAML/OAuth) は必須か
- ログの扱い: 操作ログや監査ログが必要か
- 機密情報の扱い: 個人情報や本番データを利用してよいか
7. 自社のテスト環境の制約条件を洗い出す
「トライアルを始めたのに、ツールが環境にアクセスできなくて終了した...」という事態を防ぐため、技術的な制約条件もあらかじめ整理しておきましょう。
- Basic 認証: クレデンシャル情報を環境変数で渡したり、URL埋め込みで回避できるか?
- IP 制限: ベンダー側の固定 IP や IP レンジを取得できるか?
- WAF/Bot検知: テストツールからのアクセスがブロックされないか?
- VPN: インターネットから直接アクセスできない環境か?
- reCAPTCHA: テスト環境では無効化できるか、テスト用のキーがあるか?
増えている阻害要因
近年のWebアプリケーションでは、以下の技術要素が自動化ツールの障壁となるケースが増えています。これらが自社の環境に含まれているか、ツールが対応しているかを確認しておきましょう。
- MFA(多要素認証): メールやSMS認証が必要な場合、自動化ツールで突破できるか?
- iframe / Shadow DOM: 複雑な DOM 構造の中に要素が隠れていて、ツールが認識できないケースはないか?
- Canvas 要素: 画面が画像として描画されている場合もツールが認識できるか?
8. テスト自動化ツールの選定
ここまで整理できていれば、いよいよ自動化ツールの選定に入れます。
これまでに挙げてきた観点を踏まえつつ、公式ドキュメントなどを参照して要件にあう良さそうな自動化ツールをピックアップしていきましょう。
最近はAIの進化が凄まじいので、Deep Researchなどを活用して要件に合うものを探してもらうのも良いかもしれません。
また、海外製品を利用したい場合は「ローカライズ(日本語対応)しているか」、「サポートが充実していて時差なく受けられるか」なども重要なポイントになります。
その他のよくある選定ポイント
-
ロックインのリスク
- ツール解約時に、作成したテストスクリプトはコードとしてエクスポートできるか?
- 解約=テスト資産の消失 にならないか?
-
実行環境の柔軟性
- ローカル実行、クラウド実行、CI / CD 連携など、目的に応じた実行環境が選べるか?
- 並列実行や分散実行は可能か?
-
メンテナンス性
- UI変更にどれくらい強いか(ロケーター、セレクタ等の精度)
- 共通部品(ログイン処理など)の使い回しやすさ
-
学習コスト
- 日本語ドキュメントやサポートの充実度
- 直感的に操作できるUIか
9. トライアルの開始と効果検証の方法
いよいよトライアル開始です。四象限で整理したシナリオを実装していきます。
早い段階で実装ができたら、実際のリリース前のリグレッションテストや、テストデータ作成に利用してみてください。より実践的な検証が可能になります。
トライアル検証の際は、期間の都合上、細かく効果検証をするのは難しいと思います。そのため、以下の3軸で評価すると良いのではないかと考えています。すべてを完璧に数値化する必要はありませんが、最低限、以下の3軸だけでも押さえておくと、導入判断がしやすくなります。
| 評価方法 | 評価基準例 |
|---|---|
| 定量評価 | 手動テスト時と比較してどのぐらい工数削減できたか? |
| 定性評価 | 学習コストは高くないか? ツール使用感や他のメンバーでも利用できそうか? |
| 運用評価 | CI / CD パイプライン連携はスムーズか? テストツールの実行環境は安定しているか? 簡単にメンテナンスできるか? サポート対応は迅速か? |
10. 契約構成と予算取り
トライアルで手応えが良ければ、「このツールを導入したい!リプレイスしたい!」という状況になってきているかと思います。最後に、契約形態と予算を検討します。
構成の検討
筆者は**最初から大規模に導入するのではなく、ミニマム導入(スモールスタート)**することで失敗のリスクが少ないと考えています。理由は大きく2点あります。
-
運用開始後のリスクヘッジ
- 導入しても思ったように使いこなせず、実装が進まないリスク
- 運用を始めるも組織に浸透せず、スケールしないリスク
-
契約形態の制約
- 多くのツールは年間契約であり、最初から大規模契約をすると軌道修正が難しい
- 金額が大きくなるため、最初の予算承認のハードルが高くなる
契約形態の補足
筆者の経験上、「プランアップ」は随時対応してくれるベンダーが多い一方、「プランダウン」については契約更新時のみという制約が多い印象です。
そのため、まずは小さく始めて、軌道に乗ってからスケールアップしていく形が最もリスクの少ない理想的なアプローチだと考えています。
予算取りの時期と金額
構成を考えたら、ベンダーから「松・竹・梅」のような3パターンぐらいの見積もりを取得しておくと比較しやすくなります。
- 松:フル機能・十分なライセンス数
- 竹:標準的な構成
- 梅:ミニマム構成
また、予算取りの企画書や稟議書には、今の見積額だけでなく、「将来のスケールアップ時の想定額」や、トライアルで得た「定量的な効果(工数削減)」に加えて「将来のロードマップ」を記載すると説得力が出ると思います。
ストーリーの例
「初年度はミニマム構成(〇〇万円)で主要機能の自動化を完了し、2年目以降に対象範囲を拡大していくことで、年間〇〇時間の工数削減と、品質向上を実現します。」
このように示すことで、決裁者も「まずはミニマムで始めつつ、良さそうだったらすぐに拡張できるように、このぐらいの予算のバッファは確保しておこう」といった経営判断がしやすくなるためです。
付録:Tricentis Testim をトライアルしたときのメモ
本記事の内容は特定ツールに依存しないように書いていますが、参考までに、筆者が Tricentis Testim をトライアルした際に特に意識していたポイントを簡単にメモしておきます。
Testim トライアル期間中に確認したこと
-
環境まわりの確認
- テスト環境へのアクセス(Basic 認証、IP 制限、reCAPTCHAなど)の事前調整
-
テストシナリオ作成
- まずはログイン〜簡単な画面遷移までの「練習用」シナリオを 1〜2 件作成
- 続けて、実際のリグレッションテストで毎回実施している重要なパスを「理想的」シナリオとして2〜3件実装
- データ駆動、共通ステップ、条件分岐、JavaScript スニペットなど、シナリオ作成に必要な機能が揃っているかを確認
- UI 変更に対するロケーターの強さを確認するため、あえて要素名を変更してみるといったのテストを実施
-
運用イメージの確認
- 作成したテストを、実際のリグレッションテストや日常の確認作業に組み込んでみる
- 並列実行や所要時間の感触を確認
- テスト結果レポートの見やすさや、失敗時のデバッグのしやすさ
- チームメンバーに 2〜3 名参加してもらい、「自分でも操作できそうか」「学習コストはどうか」といった感想を収集
注意したポイント
- 「シナリオの作りやすさ」だけでなく、「安定して運用できそうか」もスコープに入れました
- UI 変更への追従性や、テストケースの共通部品化(グループ化など)、CI / CD 連携のしやすさは、導入後の運用コストに直結するため、必ず確認しました
あくまで一例ですが、こうした観点で Tricentis Testim を試しておくと、他ツールとの比較検討もしやすくなると思います。
Tricentis Testim 公式サイト
さいごに
ノーコードやローコードテスト自動化ツールは導入してからが本当のスタートです。そこで本記事では、トライアル前やトライアル中に準備しておいた方がよい内容を、筆者の経験ベースでまとめました。
あくまで筆者の経験から「考えておいた方が良いこと」なので、絶対の正解というわけではありませんが、最低限押さえておくべきポイントとして参考になれば幸いです。
各現場の事情に合わせて、様々なやり方や考え方があると思います。「うちはこうやっているよ」という知見があれば、ぜひ共有いただけましたら幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。