設備管理クラウドサービス MENTENA プロダクトマネージャーの岩片です。
前回の記事では、2025年10月に控えるWindows10やExcel2019などのサポート終了(EOS)が製造業の現場に与える影響を解説しました。
今回は少し視点を変えて、過去のサポート終了イベント、特に製造業やIT業界で大きな混乱をもたらしたWindows XPのEOS(2014年)を振り返ります。
Windows10のEOSは当時の混乱の再来となるのでしょうか?
答え:たぶんならない
それはそうと比べて学びになるものもあるかもなので振り返ってみます
Windows10のEOSは2014年以来のサポート終了イベント
XP以降、多くのユーザーは
7 -> (8) -> 8.1 -> 10
とバージョンを乗り換えてきました。これらは後続バージョンへの無償アップグレードが提供されてきたため、同じPCのままOS更新を続けることができました。私も、2015年に買った私物PCの1台をWindows7からWindows10まで乗り換えました。
10 -> 11 の無償アップグレードも提供されましたが、厳しめのシステム要件1があり、例えば2017年以前のCPU(intel第7世代以前)を搭載した古いPCは基本的に要件を満たしません。
そのため Windows10 のサポート終了は約11年ぶりのハードランディング的な面を持つイベントとなります。
Windows XPサポート終了時の状況
Windows XPは2001年に登場して以降、非常に長く使われたOSでした。特に企業利用では業務用ソフトがXPに密結合しているケースが多く、移行の難易度が非常に高かったことが特徴と言えます。
Windows XP のEOS
XPのサポート終了は当初の予定(2009年)から何度も延期され、最終的に2014年4月まで延長されました。 これはそれだけ企業がXPに依存し、移行に苦戦したからこそとも言えます。製造業を含む企業がXPからなかなか離れられなかったのにはいくつか理由がありました。
32ビットから64ビットへの大きな転換
XPのサポート終了タイミングはCPUアーキテクチャの移行期と重複してしまっていました。当時の多くのPCが32ビット環境(x86)でしたが、後継OSのWindows7以降では64ビット(x64)が標準になりました2。
CPUのアーキテクチャが変わるとプログラム内部の処理プロセスが変わってしまいます。XP時代に作り込まれた業務用アプリケーションの多くが64ビット環境で動作しない、もしくは動作が不安定になるなど問題が多発しました。
ちなみにWindows XP(32ビット版)が搭載できるメモリ(RAM)は4GBが上限でした3。
インストール型ソフトウェアが主流だった
最近は聞かなくなりましたが、XPのころまでは 「パソコンは、ソフトが無ければただの箱」 と言われたりしました4。PC本体のOSだけ更新しても、アプリ(当時はそんな呼び名はなかった)を入れなおさないと仕事が成り立たちません。
ではどうやってアプリのインストールや更新を行っていたかというと、当時はまだCD-ROMやDVD-ROMのメディアが主流でした。ネット回線が弱くクラウド型のソフトはようやくSalesforceが知られ始めたぐらいです。
そのため、OS移行と同時に物理的なインストール作業が必要となり、情シスやベンダーの技術営業が現地作業する負担が大いにありました。
Office 2003のサポート終了というダブルパンチ
さらに厄介なことに、Windows XPと同じ2014年4月にExcel2003などのOffice 2003シリーズがサポート終了しました。
Officeは2003までとそれ以降(2007~)でデータの内部構造が異なり、2003までのファイル拡張子は「.xls」「.doc」「.ppt」などでしたが、2007からは「.xlsx」「.docx」「.pptx」がデフォルトに変わりました。
あの頃は "「xlsx」で保存すると開けない人がいるから「xls」で保存してね" といった会話が普通にありました。
加えて、現在まで続くリボンUIの導入で操作感が大きく変わった点も、現場の混乱に追い打ちをかけました。
ただし、塩漬け運用の選択肢があった
秘伝の社内データベース用の端末や、特定用途のソフトウェア(CADやイラストレーターなど)が入った端末は、どうしても移行が困難な場合はネットワークから切り離して**「塩漬け」**運用する選択肢もありました。この場合、データの授受はCD-ROMなどに焼いて行ったりします。
当時はソフトウェアライセンスもオンライン認証ではなく、買い切りのアクティベーションコードであったり、端末の固有情報(UUIDやMACアドレス)に対して発行されたりしていました。
また、塩漬け端末同士をつなぐことは問題ないので、ファイルサーバーなども含めて閉鎖網の塩漬けイントラネットを作ることも可能でした。
当然それなりのITスキルが求められますが、当時はオフラインがPCの素の状態という認識も広くあり、ある意味で本来の姿での運用とも言えました。
今回の重複点・相違点
以上、10年ぐらい前の状況を雑多に思い出してみました。
まとめると 10 -> 11 の移行は XP -> 7 と比較して以下のような違いがあります。
2014年(XP → 7) | 2025年(10 → 11) | |
---|---|---|
型落ち端末を移行できるか | × | × |
Office互換性 | △ | 〇 |
ソフトの互換性 | △ | 〇 |
現場での作業量 | 多 | 少 |
塩漬け運用との相性 | 〇 | × |
移行自体は基本的に容易に
ソフトウェアの互換性問題が少ないので正直懸念はほぼありません。
現在の業務用ソフトはWebブラウザをベースに動作するクラウドサービスが中心です。OS固有の問題が少なく、移行は比較的スムーズになっています。
またインストールソフトの場合も、CPUアーキテクチャの移行期と重なっていたXPの時よりは心配が少ないです。
ちなみにWindows10にはXP互換モードがありましたが、Windows11にも引き続き搭載されています。
(どの程度ちゃんと動くかはわかりませんが。。)
問題が起きるとしたらうっかりCPUをAMDのやつに変えてしまうぐらいですかね。
塩漬け運用が現実的でない
一方でXP終了時はネットワークから完全に切り離して塩漬けにする方法が現実的でしたが、現在は業務がクラウド化されネットワークへの依存度が高まったため、セキュリティリスクから塩漬けが難しくなっています。
社内のWindows10端末を1つも漏らさずにアップデートさせる(or 買い替える)という網羅の観点で見ると、やや負荷になるかもしれません。ここは残り半年でじっくり対応していくしかなさそうです。
まとめ
Windwos10のサポート終了が迫っていますが、XP終了時に企業が経験した苦労から、私たちが学ぶべきことは以下の点です。
- OSやOfficeなど、プラットフォームに密結合した業務システムのリスクを理解し、できるだけ疎結合化を進める
- ハードウェア更新を見据えた予算計画や人的リソース確保を早めに進める
- 「塩漬け運用」はセキュリティリスクの高い現代では避けるべき選択肢となりつつある
今回のサポート終了対応では、CPUのアーキテクチャ変更など他の大きな波と重なっていないことは救いです。しかし、将来的にこうした対応が再び発生する可能性はあります。
乗り換えやすさを考慮した業務構築やツール選定をできるかが、将来のコストやリスクに大きくかかわっていると言えます。
余談/個人の見解:正直全部のPCをWindowsにしなくてもいいのでは
もちろんCAD用端末などは非現実的ですが、クラウドで業務が完結する分については Chromebookでいいのでは? と常々思っています。
難点としては今のところExcel for WEBでマクロが使えないことと、Windows向けのインストールソフトウェアを1つでも捨てられないなら厳しいというぐらい。あとは情シスの方が新たにセキュリティルールを定めないといけないなどのネックはあります。
マイクロソフトとの疎結合化を進める中でそもそも非Windows端末を増やしていくというのも、一種のDXではないかとおもいます。
次回は、少し話題を変えて2010年代前半の懐かしいIT環境を振り返り、製造業を取り巻く環境がいかに大きく変化したかについて、個人的な思い出も交えつつお伝えしようと思います。
<<お知らせ>>
MENTENAの新機能情報などはnoteで発信しています。
お客様のインタビュー動画もぜひご覧ください。
-
https://www.microsoft.com/ja-jp/windows/windows-11-specifications ↩
-
Windows XP にも64ビット版はありましたがあまり普及しなかったようです。 ↩
-
より正確には、実際にOSで認識される容量はシステムの制約により約3GB程度まででした。 ↩
-
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E6%B0%B8%E5%A5%BD%E9%81%93 ↩