設備管理クラウドサービス MENTENA プロダクトマネージャーの岩片です。
ちょうど半年後の2025/10/14に、Windows10とExcel2019などのOffice製品のサポートが終了します。いわゆるEOS(End of Support)の日が近づいてきました。
EOSを迎えるということは、対象製品のセキュリティ更新や不具合修正が提供されなくなります。製造業の現場では特にWindowsやExcelに依存していることも多く、これを軽視することはできません。
この記事では、当社が2025年2月に行った本件に関するアンケートを踏まえつつ製造業の現状と製造業向けクラウドが取るべき対応についてまとめます。
アンケートは製造業向けSaaSであるMENTENAのユーザーアンケートに、私の個人的な関心から本件の設問を追加したものです。ついでの設問だったこともあり回答数はあまり多くありませんが、製造業ユーザーの実際の声として参考になれば幸いです。
なお1記事には全く収まらなかったので、3,4記事に分割する見通しです。
製造業の現場の準備状況(アンケート結果より)
早速アンケ結果ですが、次のとおりでした。(n=32)
対応状況はバラつきあり
- 半数はサポート終了までに対応予定
- 一方で現時点で対応予定を立てられていない企業も
- 情シスを対象にしたアンケートではないこともあり、1/3強はそもそも本件を把握せず
対応見通しについては楽観が優勢だが、一部は懸念も
- 懸念なしの回答が半数
- 次いで「使い続けるセキュリティリスク」が多い
- ただし、先の設問で「知らなかった」や「対応予定あり」としている回答者も含む
- 対応の手間や予算の取り合いなど間接的な懸念も一定程度あり
MENTENAは現場向けソリューションで、回答者層が情シス部門など直接本件に関わる層とはずれているためか、回答の全体としては楽観視するものが多くありました。
製造業が直面する課題は?
製造業が今回のサポート終了で直面する課題は主に以下の通りです。
対応する場合:費用と手間
Windows10 → Windows11 や、Excel2019 → Excel2021 or Excel2024 の乗り換え自体は技術的な懸念はさほどないと言えます。主に負担となるのはハードウェア・ソフトウェアの買い替え費用とセットアップの手間でしょう。
基本的に情シス部門が対応することになりますが、現場部門も置き換え作業のために多少業務を止める必要があるかもしれません。
また、アンケートでは1割弱ながら本件に予算を取られることで他のIT投資などに影響を及ぼす懸念も上がっていました。
「塩漬け」で対応回避したくなるが、非推奨
特に製造業では、サポートが切れたPC等をネットワークから切り離してスタンドアロン運用する「塩漬け」は珍しくありません。これは設計用PCや製造管理用のPCなどインターネットにつなぐ必要がないケースでは適切に管理さえされていれば全く問題のないものです。おそらく上記のアンケートで「対応計画なし」とした回答者の一部もこれが念頭にあるのでしょう。
一方で、ノーガード状態でインターネットに接続することは非常にリスクが大きいです。近年の生成AIや自動化ツールの進歩により、攻撃者は今までよりもはるかに短期間で脆弱性を見つけて攻撃を行うことが可能になっています。また、セキュリティの弱い企業を足掛かりに取引先や親会社のシステムへ侵入することなどを狙ったサプライチェーン攻撃というハッキング手法も近年問題視されており、「大企業ではないから標的にされない」といった考えは通用しなくなっています。
こうした攻撃への対策に不備のあるPCが1台でもあれば全社・全取引先がリスクに晒されるという点を考えると、塩漬け運用は極力避けてほしいところです。
また、近年では当社に限らずクラウドサービスの業務利用が当たり前になりつつあります。クラウドサービスはインターネット接続を前提にしているので、その意味でも以前のように何でも塩漬けにできる状況ではなくなってきています。
クラウドサービス提供側への影響
おそらく当社も含めた多くのクラウドサービスでは、本件の直接的な影響はほぼないかと思います。
クラウドサービスのクライアントサイド環境である Google Chrome や Microsoft Edge には直接影響しないためです。
クラウドサービスに影響があった例
2022年6月にInternet Explorer(IE)が提供終了されたときはIE専用の処理・スタイル設定が不要になることで多くのWEBサービス関係者が歓喜し、私も当時の勤務先のメンバーと記念の宴会を開きました。2023年にTwitter(現𝕏)のAPI有償化やポリシー変更によりソーシャルログインの選択肢からTwitter連携が消えた例もあります。こちらはカジュアルな一般向けサービスを中心に様々なサービスの担当者が奔走しました。
その他、2017年に元号が「平成」から新元号に変わると発表されたときは、2019年5月の改元にあわせて各所でいわゆる「新元号対応」が行われました。
SJIS形式のCSV出力を切り捨てられるかも
本件の数少ないグッドニュースです。
Excel2016も10/14にEOSを迎えます。Excel2016はUTF-8に対応しておらず、Excelに読み込ませる可能性のあるCSVなどを出力する際にはSJISで書き出してあげる必要がありました12。
2025年10月以降は安心してUTF-8でCSV出力することができます3
提供者の責任として、サポート終了OSでアクセスしないよう告知していくべき
おそらくWindows10を使い続けたままでも当分は多くのクラウドサービスにアクセスできてしまうでしょう。IEの時とは違い、本格的に利用できなくなるのは相当先になる可能性があります。
ユーザーへのアナウンスを行っていくとともに、可能なら自社サービスにアクセスがあった際にWindwos10か判別してアラートしてあげる対応を入れるとよさそうです。判別はChromeやEdgeならUser-Agentクライアントヒントで可能とのことです。当社も対応を予定しています。
まとめ/製造業と製造業向けITはマイクロソフトとどう向き合うべきか
個人的にはWindows10はまだまだ現役で使えるOSと思いますが、提供開始から約10年が経過し、順当に消費期限を迎えてしまったという状況です。我々の顧客である製造業では設備を数十年単位で長〜く使うことが一般的ですが、対マイクロソフトについては彼らに振り回されることを受け入れなければならない面があります。
日本のビジネス環境はWindowsとOffice製品抜きで業務を行うことはまだ難しく、製造業の担当者はこうした環境に振り回されることを前提に、早め早めの準備を進める必要があります。
これまでは、製造業では「閉じた環境」で運用することが安全とされてきましたが、ネットワークが当たり前となった現代では、こうした運用方法は限界を迎えつつあります。これからは、変化を柔軟に受け入れつつ、業務の本質を見失わない姿勢が重要になります。
一方製造業向けにITサービスを提供する当社としても、プラットフォームとしてのWindowsや連携ツールの筆頭であるExcel、その他EdgeやTeams・Outlookなど顧客に浸透したツールが多く、付き合っていくしかない相手となります。OpenAI APIなどの新しい技術を適切に顧客に提供し業務改善を支援する一方で、来月提供終了となるSkypeのように10年持てば上出来と考えながら連携先の製品ライフサイクルを冷静に俯瞰することも求められます。
本音は付かず離れずでコストをかけない関係性を築きたいところですが、場合によっては肚を決めて連携に大きな工数を割く判断も必要になり、プロダクトマネージャーとしての腕前が問われる相手です。
次回は過去のWindows(特にXP)と今回のWindows11のEOSを比較してみようと思います。
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