GeoAIとは何か? GIS × AIが変える地理空間解析の現在地と、防災・WebGISへの展開を考える
はじめに
最近、GISやリモートセンシングの分野で GeoAI という言葉を目にする機会が増えてきました。
GeoAIは、単に「GISにAIを追加する」という話ではありません。
これまでGISが扱ってきた、
- 位置
- 距離
- 地形
- 河川
- 道路
- 建物
- 衛星画像
- 気象
- 災害履歴
といった地理空間データそのものをAIが理解し、分類・予測・推論・自動処理する考え方です。
さらに最近では、
- Geo Foundation Model
- マルチモーダルGeoAI
- Physics-informed AI
- Agentic GeoAI
- AI-ready Geospatial Data
といった考え方も登場しており、GeoAIの範囲はかなり広がっています。
この記事では、GeoAIについて調べた内容をもとに、
- GeoAIとは何か
- 従来のAIとの違い
- 何ができるのか
- Foundation Modelとは何か
- NASAのPrithvi
- Google DeepMindのAlphaEarth Foundations
- 防災への応用
- WebGISとの統合
- 数値シミュレーションとの統合
- GeoAI Agent
- AI-readyな地理空間データ
- 実際にシステム化する場合の構成
まで整理してみます。
GeoAIとは何か
GeoAIは、
Geospatial Artificial Intelligence
の略です。
ざっくり表すと、次のような技術の組み合わせだと考えています。
従来のGISでは、
どこに何があるか
を調べることが中心でした。
GeoAIでは、そこから一歩進んで、
- どこで何が起きているのか
- なぜそこで起きているのか
- 次にどこで起きそうなのか
- 画像から地物を自動抽出できないか
- GIS操作そのものをAIに実行させられないか
といったことまで扱います。
普通のAIとGeoAIは何が違うのか
一般的なAIでは、単純化すると次のようになります。
Data
↓
AI Model
↓
Prediction
一方、地理空間データには通常の表形式データとは異なる特徴があります。
例えば雨量100mmというデータがあったとします。
Rainfall = 100 mm
これだけでは、地理空間解析には十分ではありません。
実際には、
Latitude
Longitude
Elevation
River basin
Timestamp
Rainfall
CRS
Spatial resolution
などが重要です。
例えば、
Latitude : 35.x
Longitude: 139.x
Elevation: 320 m
Basin : River-A
Time : 2026-09-15 08:00
Rainfall : 100 mm
のように、場所と時間の意味を持ったデータとして扱う必要があります。
GeoAIでは特に、
- 空間自己相関
- 距離
- 隣接関係
- ネットワーク構造
- 地形
- 時系列
- 空間スケール
- 座標参照系
といった要素を考慮します。
GeoAIで何ができるのか
GeoAIの利用方法は大きく分けると次のようになります。
| 分野 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 地物抽出 | 画像から地物を抽出 | 建物、道路、河川 |
| 分類 | 場所や画像を分類 | 土地利用、植生 |
| 予測 | 将来状態を予測 | 洪水、土砂災害 |
| 時空間解析 | 時間+空間を解析 | 降雨、交通、人口 |
| 異常検知 | 通常状態との差を検知 | 災害、森林変化 |
| 空間推論 | AIがGIS処理を組み立てる | Buffer、Spatial Join |
| 自動化 | AIがAPIやGISツールを操作 | GeoAI Agent |
従来は、
のような処理が中心でした。
しかし現在は、
という方向に発展しています。
GeoAIで扱うデータ
ベクトルデータ
代表的なのは、
Point
LineString
Polygon
です。
例えば、
- 避難所
- 道路
- 河川
- 建物
- 行政界
- 災害警戒区域
などがあります。
利用されるモデルとしては、
- Random Forest
- XGBoost
- Graph Neural Network
- Transformer
- Spatial Machine Learning
などがあります。
特に、
道路ネットワーク
河川ネットワーク
上下水道ネットワーク
のようなデータでは、グラフ構造を扱える Graph Neural Network(GNN) と相性がよいです。
ラスターデータ
GeoAIで非常によく扱われるのがラスターデータです。
例えば、
Satellite
Aerial Photo
DEM
DSM
Rainfall
Temperature
Land Cover
Flood Depth
などです。
AIモデルとしては、
CNN
U-Net
Vision Transformer
Segmentation Model
Foundation Model
などが使われます。
例えば、
のように、画像から地物を自動抽出できます。
Geo Foundation Model
最近のGeoAIで非常に重要なのが、
Geospatial Foundation Model
です。
従来は用途ごとにモデルを学習することが多くありました。
Flood AI
Forest AI
Agriculture AI
Building AI
これに対してFoundation Modelでは、大量の地球観測データを事前学習します。
大量のデータから基本的な特徴を学習しておき、その後、目的ごとにFine-tuningします。
ChatGPTなどのLLMで使われているFoundation Modelの考え方が、地球観測データにも広がってきたと考えると分かりやすいです。
NASA + IBM の Prithvi
Geo Foundation Modelの代表例の一つが、
Prithvi Geospatial Foundation Model
です。
NASA、IBM、Forschungszentrum Jülichなどによって開発されています。
PrithviはNASAの、
Harmonized Landsat and Sentinel-2(HLS)
データで事前学習されています。
NASAによると、Prithviは、
- 洪水域マッピング
- 山火事跡抽出
- 土地利用分類
- 作物分類
- 地滑り検出
- バイオマス推定
などに利用されています。
概念的には次のようになります。
さらに2026年には、Prithviの圧縮版が人工衛星と国際宇宙ステーション上の計算環境に展開されました。
NASAはこれを、軌道上に展開された最初のGeospatial Foundation Model としています。
これはかなり面白い方向性です。
という処理も増えていく可能性があります。
いわゆる Edge GeoAI です。
参考:
- NASA
https://science.nasa.gov/science-research/ai-geospatial-model-earth/ - NASA - Prithvi in Orbit
https://science.nasa.gov/science-research/ai-foundation-model-in-orbit/
Google DeepMindのAlphaEarth Foundations
もう一つ注目されているのが、
AlphaEarth Foundations
です。
Google DeepMindが2025年に発表しました。
Google DeepMindはAlphaEarth Foundationsを、
virtual satellite
のように機能するモデルと説明しています。
複数のEarth Observationデータを統合し、地球表面をEmbeddingとして表現します。
AlphaEarth FoundationsのEmbeddingは64次元で構成されています。
また、Google Earth Engineには年次のSatellite Embedding Datasetも公開されています。
これにより、
- 土地利用分類
- 生態系分類
- 農地解析
- 都市変化
- 森林変化
- 水資源解析
などに利用できます。
参考:
Multimodal GeoAI
今後さらに重要になるのが、
Multimodal GeoAI
です。
衛星画像だけではなく、
といった異なる種類の情報を同時に扱います。
例えば土砂災害であれば、
となります。
防災では、一種類のデータだけで判断できないことが多いため、Multimodal GeoAIとの相性はかなり良いと考えています。
GeoAIと防災
GeoAIが特に有効だと考えられる分野の一つが防災です。
洪水
例えば、
といった解析が可能です。
特にSARは雲の影響を受けにくいため、大雨・台風時の災害監視で有効です。
土砂災害
例えば、地すべり災害に対しては、
という構成が考えられます。
従来の統計解析と、
Random Forest
XGBoost
Deep Learning
などを組み合わせることで、危険度マップを作成できます。
GeoAIと数値シミュレーション
ここは個人的にかなり重要だと思っています。
GeoAIは、
数値シミュレーションを全部AIに置き換える
という話ではないと思っています。
むしろ、
Physics Simulation
+
GeoAI
の組み合わせが有効です。
例えば、
という構成です。
AI側では、
- 入力データ生成
- パラメータ推定
- 計算ケース選定
- サロゲートモデル
- 計算結果の分類
- 異常箇所抽出
などを担当できます。
物理モデル側では、
- 洪水
- 河川不定流
- 土石流
- 泥流
- 火砕流
- 溶岩流
- 火山降灰
などを計算します。
この構成なら、物理的な意味を維持したままAIを活用できます。
例えば河川シミュレーションなら
従来は、
となります。
GeoAIを追加すると、
という流れが考えられます。
つまり、
GeoAI → Simulation → GeoAI
です。
この構成は防災システムでかなり使いやすいと思います。
GeoAIとWebGIS
GeoAIはWebGISとも相性があります。
例えばユーザーが、
この範囲で浸水深1m以上、かつ避難所から500m以上離れている建物を抽出して
と自然言語で入力したとします。
LLMが直接答えを作るのではなく、
と処理します。
この方式なら計算そのものはGISエンジンが行うため、LLMだけに計算を任せるより信頼性を上げやすくなります。
Agentic GeoAI
この考え方は今後かなり重要になると思っています。
になります。
例えば、
この豪雨で危険になりそうな流域を調べて
と指示すると、
までつなげます。
AIが「答えを生成する」のではなく、
GISやSimulation APIをオーケストレーションする
という設計です。
この考え方は、LLMを防災システムに入れる場合には特に重要だと思います。
AI-ready Geospatial Data
2026年のGeoAIを調べていて特に興味深かったのが、
AI-ready Geospatial Data
という考え方です。
OGCは2026年の技術文書で、AI-readinessを単なるデータ形式の問題ではなく、
Data Architectureの問題
として整理しています。
重要なのは、
AI
↓
Guess CRS
↓
Guess Unit
↓
Guess Meaning
という状態にしないことです。
例えばデータに、
dataset:
title: rainfall
crs: EPSG:6677
unit: mm/h
datetime: 2026-09-15T08:00
source: JMA
resolution: 250m
のような情報が明示されている必要があります。
つまりAIが、
- この値は何なのか
- 単位は何か
- CRSは何か
- いつのデータか
- 誰が作ったか
- 品質はどうか
- 他のデータと組み合わせてよいか
を推測しなくてもよい構造にします。
これは、AI AgentがGISを操作する時代にはかなり重要になると思います。
参考:
STACも重要になる
GeoAIでは大量の衛星・ラスターデータを扱います。
そこで重要になるのが、
STAC(SpatioTemporal Asset Catalog)
です。
STACは、
どこに、いつの、どのような地理空間データが存在するか
を検索するための仕様です。
当初は衛星画像を中心にしていましたが、現在は、
- SAR
- LiDAR
- DEM
- Vector
- Machine Learning Label
- NDVI
- Mosaic
なども扱えるようになっています。
GeoAI Agentから、
のように利用できます。
参考:
GeoAIシステムの構成
OSSを中心にGeoAI基盤を作る場合、例えば次のような構成が考えられます。
かなりOSSだけで構築できます。
想定する技術スタック
例えば次の構成です。
| Layer | Technology |
|---|---|
| WebGIS | OpenLayers |
| API | FastAPI |
| Async Job | Celery |
| Queue | Redis |
| Database | PostgreSQL / PostGIS |
| Vector | GeoParquet / FlatGeobuf |
| Raster | COG / GeoZarr |
| Catalog | STAC |
| GIS | GeoPandas / GDAL / Rasterio |
| AI | PyTorch |
| GeoAI | TorchGeoなど |
| LLM | Local LLM / API |
| Container | Docker Compose |
なぜAPI経由にした方がよいのか
GeoAI Agentを実装するとき、
AI
↓
Database
と直接接続するより、
AI
↓
API
↓
GIS Service
↓
Database
にした方が管理しやすくなります。
例えば、
GET /datasets
GET /layers
GET /features
POST /jobs
GET /jobs/{id}
GET /results/{id}
といったAPIを用意します。
さらに地理空間APIについては、
OGC API - Features
などに合わせる方法もあります。
例えば、
GET /collections
GET /collections/{collectionId}/items
です。
OGC API - FeaturesはREST / OpenAPIをベースにしたWeb向けの地理空間API標準です。
参考:
GeoAIで注意すべきこと
GeoAIは便利ですが、普通のAIとは違う注意点があります。
Spatial Leakage
これはかなり重要です。
例えば隣接するメッシュをランダムに、
Train
Test
へ分けるとします。
空間的に近い場所は特徴が似ているため、TestデータにTrainデータの情報が実質的に漏れてしまう場合があります。
結果として、
精度が異常に高い
という状態になります。
そのためGeoAIでは、
Spatial Cross Validation
を検討する必要があります。
Spatial Generalization
例えば、
神奈川県で学習
↓
北海道で予測
して、同じ精度になるとは限りません。
理由は、
- 地質
- 気候
- 植生
- 地形
- 都市構造
- 降雨特性
などが違うためです。
AIモデルの精度だけでなく、
どの地域まで適用できるのか
を評価する必要があります。
CRS
GISでは当然ですが、GeoAIでもCRSは重要です。
例えば、
EPSG:4326
EPSG:3857
日本の平面直角座標系
などがあります。
距離・面積を計算する場合、適切な座標系を使わないと結果に誤差が出ます。
AIの前処理だからといって無視できません。
解像度
例えば、
Sentinel-2 : 10m
DEM : 5m
Aerial Photo : 1m
Rainfall : 250m
のデータを使うとします。
これらを単純に重ねるだけではなく、
- Resampling
- Aggregation
- Grid Alignment
- Temporal Alignment
を考える必要があります。
Explainability
特に防災では、
Risk = 0.87
だけでは不十分です。
例えば、
Slope +0.31
Rainfall +0.27
Geology +0.16
Past Event +0.09
Land Use +0.04
のように、
なぜ危険と判定されたのか
を説明できることが重要です。
防災・インフラ分野では、
- Explainability(説明可能性)
- Provenance(データ・処理の来歴)
- Reproducibility(再現性)
- Auditability(監査可能性)
まで含めて設計する必要があります。
GeoAIは「地図を作るAI」から「GISを操作するAI」へ
GeoAIの発展を大きく分けると、次のように考えられます。
第1世代
Satellite
↓
CNN
↓
Land Cover
画像認識中心です。
第2世代
Satellite
+
DEM
+
GIS
↓
Geo Foundation Model
↓
Various Geospatial Tasks
Foundation Model中心です。
第3世代
User
「この地域の災害リスクを調べて」
↓
GeoAI Agent
↓
STAC Search
↓
Data Acquisition
↓
GIS Analysis
↓
Simulation
↓
GeoAI Analysis
↓
WebGIS
↓
Report
AI Agent中心です。
個人的には、今後ここがかなり面白くなると思っています。
WebGIS + Simulation + GeoAI
防災分野でシステムを作るなら、最終的には次の3本柱がかなり相性が良さそうです。
WebGIS + Simulation + GeoAI
例えば、
このような構成です。
例えば、
この豪雨条件で危険な流域を抽出して
と入力すると、
まで一連で処理できます。
実際にGeoAIを始めるなら
いきなりFoundation Modelを自作する必要はないと思います。
段階的に進める方が現実的です。
イメージはこんな感じです。
Step 1 : GeoAI基盤
まずは、
Python
GeoPandas
Rasterio
PostGIS
FastAPI
を組み合わせます。
Step 2 : Machine Learning
次に、
Random Forest
XGBoost
などを使って、
- 災害危険度
- 土地利用
- 地形分類
などを試します。
Step 3 : Deep Learning
Satellite
Aerial Photo
DEM
から、
- 建物
- 河川
- 道路
- 浸水域
- 土砂災害域
などを抽出します。
Step 4 : Geo Foundation Model
Prithviなど既存のFoundation Modelを使います。
Existing Foundation Model
↓
Fine-tuning
↓
Own Application
とします。
最初から巨大モデルを学習する必要はありません。
Step 5 : GeoAI Agent
次に、
Natural Language
↓
LLM
↓
GIS Tools
↓
PostGIS / GeoPandas
へ進みます。
Step 6 : Simulation統合
最後に、
GeoAI
↓
Simulation
↓
GeoAI
↓
WebGIS
を構築します。
ここまで来ると、単なるGeoAIではなく、
GeoAI-based Disaster Intelligence Platform
のようなシステムになってきます。
最初に作るPoC案
個人的には、最初のPoCとして、
OpenLayers + FastAPI + PostGIS + GeoAIによる防災WebGIS
が面白いと思っています。
入力は、
です。
これを、
のように処理します。
最初はRandom ForestやXGBoostでも十分です。
そこから、
へ拡張できます。
まとめ
GeoAIについて調べてみると、単純な、
GIS + Machine Learning
という言葉では収まらなくなってきています。
現在は、
へ発展しています。
特に重要だと感じたのは、
AIが地図を作る
ことより、
AIが地理空間データを探し、意味を理解し、GISやSimulationを操作する
方向に進んでいることです。
そのため、これからGeoAIシステムを作る場合にはAIモデルだけを見るのではなく、
- API
- PostGIS
- STAC
- OGC API
- Metadata
- Provenance
- CRS
- Data Quality
- Simulation
まで含めて設計することが重要になります。
最終的には、
という構成が、防災・社会インフラ分野ではかなり面白いのではないかと思っています。
次からは実際に、
OpenLayers + FastAPI + PostGIS + GeoAI
で動く小さなPoCを作ってみたいと思います。
参考
-
NASA - Expanded AI Model with Global Data Enhances Earth Science Applications
https://science.nasa.gov/science-research/ai-geospatial-model-earth/ -
NASA - Prithvi Becomes First AI Geospatial Foundation Model In Orbit
https://science.nasa.gov/science-research/ai-foundation-model-in-orbit/ -
Google DeepMind - AlphaEarth Foundations
https://deepmind.google/blog/alphaearth-foundations-helps-map-our-planet-in-unprecedented-detail/ -
OGC - Declared Meaning: Why AI-Readiness Is a Data Architecture Problem
https://docs.ogc.org/techpaper/26-051/26-051.html -
OGC - SpatioTemporal Asset Catalog (STAC)
https://www.ogc.org/standards/stac/ -
OGC API - Features
https://www.ogc.org/standards/ogcapi-features/




























