図:相次ぐ大規模情報漏洩とAI時代のサイバー攻撃リスク。
近年、国内企業で大規模な情報漏洩が相次いでいます。企業にとって情報管理やサイバーセキュリティの重要性が高まるなか、生成AIの普及によってサイバー攻撃の手法がさらに変化する可能性も指摘されています。
今回取り上げる情報漏洩の事例では、AIが攻撃に利用されたと確認されているわけではありません。しかし、AIの悪用によって攻撃の手口が高度化・効率化すれば、企業が直面するリスクはさらに複雑になる可能性があります。
本記事では、国内で発生した大規模情報漏洩の事例を振り返るとともに、AIの悪用によって今後どのようなサイバー攻撃が懸念されるのか、企業に求められる対策とあわせて考えます。
1.相次ぐ情報漏洩から見える企業の課題
2026年9月から10月にかけて、国内では複数の企業が不正アクセスによる個人情報の漏洩を公表しました。
ここでは、2026年10月18日時点で各社が公表している情報をもとに、代表的な4つの事例を取り上げます。
skyticket、ブックオフ、GMO、タイムズカーで相次ぐ大規模な情報漏洩
旅行予約サイト「skyticket」を運営するアドベンチャーは、10月9日、第三者による不正アクセスを受け、約1,464万件の顧客情報が流出した、または流出したおそれがあると発表しました。
対象には氏名やメールアドレス、電話番号などが含まれ、約413万件についてはハッシュ化されたログインパスワードも含まれていました。
また、同社は別の経路による情報漏洩についても公表しています。
業務管理システムの脆弱性が悪用された事案に加え、バス予約サービスでは、ログインしなくても予約情報を閲覧できる状態になっていたことが確認されました。
これらは、同じ企業でも情報漏洩につながる経路が複数存在し得ることを示しています。
一方、ブックオフグループホールディングスも、会員管理システムへの不正アクセスによる個人情報の漏洩を公表しました。
10月13日の第2報によると、外部への送信が確認された会員データは642万7,735件で、影響を受けた人数は638万3,279人に上ります。
対象となった情報には、氏名や連絡先、パスワードのハッシュ値などが含まれていました。
同社は不正アクセスに利用された経路を遮断し、外部専門家と協力して調査や緊急点検を進めていると説明しています。
また、GMOグループのGMOリサーチ&AIでもアンケートサイト「infoQ」への不正アクセスによって、89万4,082件の個人情報が外部に持ち出されました。さらに、一部の会員のポイントが不正に交換される被害も発生しています。
GMOグループはインターネットインフラやセキュリティ関連事業も展開しており、IT分野に強みを持つ企業グループであっても不正アクセスのリスクと無縁ではないことを示す事例といえます。
さらに、カーシェアリングサービス「タイムズカー」でも約660万アカウントの情報漏洩が確認されました。
特に注目したいのは、氏名や連絡先だけでなく、運転免許証画像などの本人確認書類情報も含まれていたことです。こうした情報は、パスワードのように簡単に変更できるものではありません。
タイムズカーには法人向けサービスもあり、営業活動など企業の業務で利用される場面も考えられます。今回の事案は、企業自身のシステムだけでなく、業務で利用する外部サービスの情報管理にも目を向ける必要があることを示しています。
なお、今回取り上げた4社の事案について、AIが攻撃に利用されたと確認されているわけではありません。
出典:
-
株式会社アドベンチャー「不正アクセスによるお客様情報の流出に関するお詫びとお知らせ」(2026年10月9日)
-
ブックオフグループホールディングス「不正アクセスによる個人情報漏えいに関するお詫びとお知らせ(第2報)」(2026年10月13日)
-
GMOリサーチ&AI株式会社「当社が運営するアンケートサイト『infoQ』への不正アクセスによる個人情報漏えいに関するお詫びとお知らせ(第2報)」(2026年10月14日)
-
タイムズカー「『タイムズカーWebシステム』への不正アクセスに関する調査結果および今後の対応について(第2報)」(2026年9月28日)
-
タイムズカー「『タイムズカーWebシステム』への不正アクセスに関する対応について(第4報)」(2026年10月16日)
情報漏洩は一つの原因だけで発生するわけではない
今回の事例から分かるのは、情報漏洩の原因を一括りにはできないということです。
システムの脆弱性を悪用した不正アクセスもあれば、認証やアクセス制御の不備が情報の流出につながる場合もあります。
そのため、被害件数の大きさだけで攻撃の高度さを判断することはできません。
企業に求められるのは、どこに問題があったのかを把握し、自社の情報管理やシステム運用に同様のリスクがないかを確認することです。
そして、こうした従来から存在する課題に加えて、今後考えなければならないのがAIを悪用したサイバー攻撃の広がりです。

図:4社の情報漏洩事例と、企業が確認すべき主な課題。
2.AIの悪用によってサイバー攻撃はどう変わるのか
生成AIは、文章作成や情報収集、プログラムの生成など、さまざまな作業を効率化できます。
これらは企業にとって有用な機能ですが、利用者が悪意を持っていればサイバー攻撃の準備や実行を支援する手段にもなり得ます。
実際に、Googleの脅威分析チームであるGoogle Threat Intelligence Group(GTIG)は、2026年9月に公表したレポートで攻撃者によるAIの悪用について報告しています。
同レポートでは、攻撃者がAIエージェントを利用し認証情報の収集に向けた仕組みを短時間で構築・実行した事例などが紹介されています。
AIの悪用は、将来の懸念にとどまらず一部の攻撃活動ですでに確認されているのです。
ただし、AIが利用されているからといって、攻撃のすべてが自動化されているわけではありません。
出典:Google Threat Intelligence Group「GTIG AI Threat Tracker: From Prompting to Autonomy – The Evolution of Adversarial AI」(2026年9月8日)
フィッシング攻撃の高度化
AIの悪用によって懸念される変化の一つがフィッシング攻撃の高度化です。
フィッシング攻撃とは、実在する企業や組織を装ったメールやWebサイトなどを利用し、パスワードや個人情報を不正に取得しようとする手法です。
従来は、不自然な日本語や不審な表現が詐欺を見分ける手がかりになることもありました。
しかし、生成AIを使えば自然な文章を短時間で作成できます。
さらに、取引先からの連絡や社内の業務依頼を装うなど受信者の立場や業務内容に合わせて文章を調整することも可能です。
例えば、普段からやり取りしている相手を装ったメールが届けば、文章だけで不正な連絡だと判断することは難しくなるでしょう。
AIを利用したからといって攻撃が必ず成功するわけではありませんが、攻撃者が文章の作成や調整にかける時間を短縮できる点は無視できません。
攻撃準備の効率化と自動化
もう一つ注目したいのが、攻撃に必要な情報収集や分析の効率化です。
サイバー攻撃では、対象企業の公開情報や外部から確認できるシステムの情報などを調査し、攻撃の手がかりを探す場合があります。
AIは大量の情報を整理し、関連する内容を抽出する作業を支援できます。
攻撃者がこうした機能を利用すれば、従来は時間を要していた調査を短縮し、同じ時間でより多くの対象を分析できるかもしれません。
また、プログラムの作成や修正を支援する能力が、悪意あるソフトウェアの開発に利用されることも懸念されます。
実際に、生成AIを利用して作成したプログラムが不正行為に使われたと報じられた事件もあります。
動画配信サービス「バンダイチャンネル」では、2025年11月に約4万6,000人の会員が本人の意思に反して退会処理される事件が発生しました。
報道によると、この事件で逮捕された15歳の男子高校生はChatGPTを利用して作成したプログラムを使用していたとされています。
この事件については、私のYouTube動画でも取り上げています。事件の概要に加え、生成AIによってサイバー攻撃のハードルがどのように変化しているのかを詳しく解説しています。
【YouTube動画はこちら】
あなたの会社は大丈夫?日本の高校生が生成AIでサイバー攻撃!
私が特に注目しているのは、AIによって攻撃の準備に必要な時間や労力が減ることです。
従来は人間が個別に行っていた作業の一部をAIが担うようになれば、攻撃者が短時間で複数の対象を調査したり、攻撃を準備したりすることも考えられます。
さらに、一定の目標に向かって複数の作業を実行するAIエージェントの技術が発展すれば、自動化される範囲が広がる可能性もあります。
もちろん、AIだけで高度なサイバー攻撃が成立するわけではありません。対象システムに関する知識や技術的な判断が求められる場面もあります。
それでも攻撃者の負担が小さくなれば、企業が警戒すべき脅威の規模や速度にも影響が及ぶと考えています。
図:AIの悪用で懸念されるフィッシング攻撃の高度化と攻撃準備の効率化。
3.悪意ある利用を想定したAIの安全性が求められる
AIの安全性というと誤った回答や意図しない動作を防ぐことに注目が集まりがちです。
もちろん、それらも大切な課題です。
しかし、私がもう一つ重視しているのはAIを利用する人が必ずしも正しい目的を持っているとは限らないという点です。
企業がAIを導入する際、通常の利用方法を想定して機能や安全性を検証することがあります。
一方、悪意ある第三者はAIの機能を本来とは異なる目的で利用したり、設定された制限を回避しようとしたりするかもしれません。
正常に動作することを確認するだけでは、こうしたリスクを十分に把握できないおそれがあります。
AIへの指示だけでは安全性を保証できない
例えば、企業がAIを社内システムと連携させる場面を考えてみます。
AIが社内文書を検索したり、業務システムを操作したりできれば、従業員の作業を大幅に効率化できるでしょう。
その一方で、AIに広いアクセス権限を与えている場合、不正な指示や操作によって、本来扱うべきではない情報にアクセスするリスクも生じます。
AIに「許可のない情報にはアクセスしない」と指示することはできますが、それだけで安全性が保証されるわけではありません。
AIが利用できる情報や操作の範囲を適切に制限し、想定外の動作が発生しても被害が広がりにくい仕組みを整えることが欠かせません。
また、正常な利用だけでなく、悪意ある操作や不正な指示を受けた場合に何が起こるのかを検証する視点も求められます。
AIの能力が高まるほど任せられる業務の幅は広がります。
だからこそ、利便性だけを追求するのではなく、何を任せ、どこまでの権限を与えるのかを慎重に判断しなければなりません。
図:通常のAI利用と悪意ある利用を想定した権限管理・安全対策。
4.情報漏洩を経営課題として捉える
情報漏洩が発生した場合、企業が直面する問題は個人情報が外部に流出することだけではありません。
流出した氏名やメールアドレスなどが、その後の詐欺やフィッシング攻撃に悪用されるおそれもあります。
また、パスワードに関する情報が流出すれば、別のサービスへの不正ログインにつながるリスクも考えられます。
企業側では、原因調査やシステムの復旧、顧客への説明、問い合わせ対応など多くの業務が発生します。
場合によっては、サービスの停止や顧客からの信頼低下にもつながりかねません。
こうした影響を踏まえると、セキュリティはIT部門だけに任せる問題ではなく、経営として向き合うべき課題です。
保有する個人情報を見直す
私が重視していることの一つが、企業が保有する情報そのものを見直すことです。
企業はサービスの提供にあたり、氏名や連絡先、利用履歴など、さまざまな個人情報を収集しています。
しかし、利用目的を終えた情報まで長期間保存し続ければ、不正アクセスを受けた際に影響を受ける情報の範囲も広がってしまいます。
もちろん、法令上の保存義務や業務上の必要性がある情報まで削除すればよいわけではありません。
大切なのは、何のために情報を保有しているのかを明確にし、保管期間や削除の基準を適切に定めることです。
情報を守る仕組みを強化するだけでなく、そもそも保有する必要のない情報を減らすことも、被害を抑えるための現実的な取り組みだと考えています。
被害が発生することも想定して備える
セキュリティ対策では、不正アクセスを防ぐことに加えて、万が一被害が発生した場合の対応も考えておかなければなりません。
例えば、不審なアクセスを検知した際に誰が対応を判断するのか。被害の拡大をどのように防ぐのか。顧客や取引先には、誰がどのような手順で説明するのか。
こうした対応を事前に整理しておくことで、問題が発生した際の混乱を抑えやすくなります。
また、必要な予算や責任体制を整えるには、経営側の判断が欠かせません。
AIの活用が営業や人事、経理など幅広い部門へ広がれば、扱う情報や接続するシステムも多様化していきます。
企業には、AIの導入によって得られる効果だけでなく、新たに生じるリスクも把握したうえで、適切な投資と管理体制を検討する姿勢が求められるでしょう。
図:情報漏洩への対応を経営課題として考えるための論点。
5.AI活用と安全性をどう両立するか
AIの進化は企業の業務効率化を後押しする一方で、悪意ある第三者にも新たな手段を与えています。
そのため、企業はAIを活用する側としての視点だけでなく、AIが悪用される側としてのリスクも理解しておかなければなりません。
一方で、こうしたリスクを理由にAIの活用そのものを避けることが必ずしも適切な判断とは限りません。
大切なのは、自社の業務や情報管理の状況を把握し、どこにリスクがあるのかを見極めたうえで、AIを適切に取り入れることです。
しかし、実際には
「自社の業務に適したAIをどのように開発すればよいのか分からない」
「既存のAIツールで十分なのか、自社に合わせた開発が必要なのか判断できない」
「業務効率化と安全性を両立するには、何から取り組むべきなのか分からない」
といった課題を抱える企業もあるでしょう。
こうした問題はAIツールの機能を比較するだけでは解決できません。
企業ごとの業務内容や課題、既存システムとの連携、取り扱う情報の重要性などを踏まえ、既存サービスの活用と独自開発のどちらが適しているのかを判断することが求められます。
私がAI開発において重視しているのも単に高度な技術を取り入れることではなく、企業が抱える課題を解決できる仕組みを、安全性にも配慮しながら構築することです。
自社に適したAIの開発や既存システムとの連携、AI活用に伴うリスクの整理などについて課題を感じている場合は、ぜひ一度ご相談ください。
企業ごとの目的や環境に合ったAIを設計・開発し、業務への定着と安全で持続的な活用につなげていきたいと考えています。
図:AIの業務活用とリスクを見極め、安全性と両立させるための視点。
長野陸
大学院卒業後、ソフトバンクグループ株式会社に入社し、CEO室にて孫正義のもと成長戦略の立案に従事。経営中枢における戦略策定業務を通じ、事業拡大および意思決定プロセスに深く関与する。続いてアクセンチュア株式会社に参画し、AIおよびWeb3領域における事業戦略の立案を担当。先端技術とビジネスを融合した戦略構築に従事するなど、実務面においても高い専門性を有する。
2023年には、経済産業省が選定する高度IT人材として石川県加賀市のDX推進プロジェクトに参画し、地域のデジタル変革を支援。さらに、第11期ソフトバンクアカデミア生に選抜されるほか、総務省主催の高度人材育成プログラム「SecHack365」、経済産業省の実践型AI人材育成プログラム「AI Quest」にも参画するなど、官公庁および民間双方において高い評価を受けている。
2025年には初の著書、これからのAI時代を生き抜くための『戦略の教科書』として「DeepSeek革命」を出版
各種リンク
HP: https://riku-nagano.com/
YouTube: https://www.youtube.com/@Riku_Nagano
FaceBook: https://www.facebook.com/riku0325
LinkedIn: https://www.linkedin.com/in/rikunagano/
note: https://note.com/rikunagano
Zenn: https://zenn.dev/rikunagano
Qiita: https://qiita.com/rikunagano
筆者:長野陸





