はじめに
2026年6月9日、AWS FinOps Agent のパブリックプレビューが開始されました。
Announcing the public preview of AWS FinOps Agent によると、AWS FinOps Agent は「組織全体のエンジニアが既に利用しているツール内で、コスト異常の根本原因を調査し、コストに関する疑問に答える、エージェント型 AI ソリューション」とのことです。早速、AWS FinOps Agent を使ってみたので、設定方法から実際のクエリと回答までを紹介します。
参考情報
FinOps とは
FinOps Foundation の What is FinOps? によると、以下のように定義されています。
FinOps is an operational framework and cultural practice which maximizes the business value of technology, enables timely data-driven decision making, and creates financial accountability through collaboration between engineering, finance, and business teams.
(和訳)
テクノロジーのビジネス価値を最大化し、タイムリーなデータ駆動型意思決定を可能にし、エンジニアリング、財務、ビジネスチーム間のコラボレーションを通じて財務上の説明責任を確立する運用フレームワークおよび文化的な実践です。
AWS FinOps Agent でできること
AWS FinOps Agent を使用すると、以下のことができます。
- コストに関する質問を自然言語で入力し、実際のコストと使用状況データに基づいて調査レポートを得る
- 調査レポートを Jira や Slack に送信する
- イベントをトリガーとしてコスト異常を調査する
- 日次、週次、月次などのスケジュールを設定して、定期コストレポートを HTML、PDF、または PPT 形式で出力する
エージェントにはガードレールが設定されているため、AWS のコスト管理、コスト最適化など FinOps の領域に関してのみ回答します。
設定方法
プレビュー期間中、AWS FinOps Agent は米国東部 (バージニア北部、us-east-1) リージョンでのみ利用可能です。また、プレビュー期間中は月間使用量の上限付きで無料で利用できます。ただし、エージェントが内部で呼び出す AWS API (Cost Explorer API など) には標準料金が適用されます。
1. エージェントの作成
AWS コンソールから AWS FinOps Agent を開きます。
2. エージェント名の入力
任意のエージェント名と説明を入力します。
3. IAM ロールの作成
IAM ロールを新規に作成するか、既存のロールを使用するかを選択します。ここでは新規作成を選択し、ロール名もデフォルトのままにします。
4. Web アプリの IAM 権限の設定
Web アプリがエージェントにアクセスできるよう IAM 権限を付与します。これにより、Web アプリがエージェントに対して実行可能な操作 (会話、タスクの作成、自動化、ドキュメント管理など) を管理します。ここでは新規作成を選択し、ロール名もデフォルトのままにします。
5. サードパーティツールとの統合設定
サードパーティツールとの統合を設定します。現時点では Jira と Slack との統合が可能です。統合するツールを選択し、必要な情報を選択もしくは入力します。なお、統合にはアカウントレベルでの事前インストールが必要です。未設定の場合はこのステップをスキップし、エージェント作成後に詳細ページから追加できます。
6. 設定内容の確認
入力した情報が正しいかを確認し、Create agent をクリックします。
Web アプリを起動
エージェントの作成が完了すると Web アプリが生成され、Web アプリが開きます。
チャット欄に質問を自然言語で入力し、Enter を押すと回答が表示されます。クエリは日本語でも入力できますが、ドキュメントによると回答は英語がデフォルトです。後述の日本語での質問のセクションにあるとおり、実際には英語での回答のみサポートしているという回答が返されました。そのため、英語がデフォルトというよりも英語のみという理解で良さそうです。
質問の実行
実際に費用に関する質問を入力してみます。今回は LLM、特に Anthropic Claude シリーズの費用傾向をまとめてもらいます。
Claude 費用のまとめを依頼
Summarize cost trends about LLM especially Anthropic Claude series.
以下のように、月別とモデル別の費用がまとめられたレポートが表示されました。Claude 費用のまとめを依頼したので、Cohere のエンベディングモデルに関する費用はコメント内にだけ現れました。
レポートを Slack に送信するよう依頼すると、サードパーティツールの設定で統合した Slack チャンネルに送信されます。チームから依頼されたレポートを FinOps Agent で作成し、素早く Slack に共有するといった使い方ができそうです。
このように、AWS FinOps Agent は調査レポートを Slack に送信できます。
日本語で質問
日本語で質問すると、回答は英語のみサポートしている (I only support English responses) と返されます。
直近 3 ヶ月の Amazon Route 53 の費用の分析を依頼しましたが、すべて $0 であるとの回答が返されました。実際は、費用が発生しているものの全額 AWS クレジットでカバーされています。
AWS クレジットが適用されていることを指摘すると、回答が修正されました。最初からクレジットの適用を確認してくれると嬉しいのですが、質問の仕方に工夫が必要そうです。
なお、公式ドキュメントにも、コストデータの正確性は基盤となる API に依存し、出力は確率的であるため人によるレビューを推奨すると記載されています。
スケジュールを設定
Web アプリの初期画面に並んでいるタスク例をそのまま実行してみます。
Check my S3 costs daily at 12 PM EST.
Automations の画面に、依頼したタスクが追加されました。
スケジュール設定を行うと、指定した時間にタスクが実行されます。
タスクを開くと、実行予定時刻やトリガータイプ、タスクの内容が確認できます。
タスクのスケジュールは、自然言語による依頼以外に GUI からも設定できます。一度きりのタスク実行やスケジュール実行、イベントトリガーによるコスト異常調査の自動化が設定可能です。例えば、「AWS コスト異常検出イベントを監視し、各異常の根本原因を調査し、調査結果を #finops-anomalies Slack チャンネルに投稿する」というタスクを設定することもできます。
Amazon Q Developer との比較
AWS Billing and Cost Management の Amazon Q Developer と比較してみました。さきほどと同じく、直近 3 ヶ月の Route 53 の費用分析を依頼しました。Amazon Q Developer は日本語の質問に日本語で回答しました。さらに「使用量が完全に無料利用枠またはプロモーションクレジット内に収まっている」と述べ、クレジットが適用されている可能性を指摘しました。
この内容だけをみて AWS FinOps Agent と Amazon Q Developer のどちらが優れているかを比較することはできませんが、回答の言語や内容によって使い分けるヒントになりそうです。
まとめ
パブリックプレビュー版の AWS FinOps Agent を使ってみました。自然言語での問い合わせ、スケジュール設定、イベントトリガーによるコスト調査、サードパーティツールへの通知など、FinOps が掲げるデータ駆動型意思決定をサポートする機能が充実していると感じました。
Claude 費用のまとめを依頼した例のように、調査レポートの作成から Slack への共有までを対話だけで完結できました。また、コスト異常検出イベントをトリガーに根本原因を調査し、結果をチームのチャンネルへ自動投稿する仕組みも簡単に構築できます。コスト分析を担当者の手作業から、チームで共有される日常的なワークフローへ変えられる可能性を感じました。FinOps の定義にある「エンジニアリング、財務、ビジネスチーム間のコラボレーション」を支える土台になりそうです。
一方で、プレビュー段階では利用できるリージョンは米国東部 (バージニア北部) のみで、回答は英語に限られます。また、AWS クレジットの適用を見落とした回答が返されたように、出力は確率的であり人によるレビューが前提です。日本語での回答が必要な場面では、Amazon Q Developer との使い分けも選択肢になります。
AWS ブログによると、AI ワークロードのコスト分析など今後の機能拡充が予定されているとのことです。正式リリースに向けてリージョンや言語サポートの拡大にも期待しつつ、引き続き活用を試していきたいと思います。
















