0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

第11回:USD担保 JPYカーブの理論 (測度変換の利用)

0
Last updated at Posted at 2026-05-11

(2026/5/22: 下の2つの記号の表記を修正。意味は同じ。)

$\quad$ (旧) $df_t^{F|D}$ と $\mathbb E^{DF}$ (新) $df_t^{CF}$ と $\mathbb E^{CF}$ に変更

この記事では第10回:USD担保 JPYカーブのコードで伝えたUSD担保JPYカーブの理論部分に関連する以下4点について記す。

  • 為替知識の整理のための、為替の表記法とFXフォワード (11-1節)
  • USD担保 JPYディスカウントファクターの定義と導出 (11-2節)
  • 同じ式を「TONA$\times$為替」ニューメレールによる測度変換で導出 (11-3節)
  • Radon–Nikodym微分の理解のための数値例 (11-4節)

拙著「Pythonで学ぶ債券·金利デリバティブ」(以下 テキスト)では「測度変換」に関し、多くを記述していない。その理由は村上氏の名著「マルチンゲールアプローチ入門」(近代科学社)があるため。

ただし、金融工学において、測度変換は必須の知識であり、難解な概念を「腑に落ちるもの」にする魔法のツールである。テキスト p219 脚注にも記したように、コンベクシティ調整も測度変換から統一的に説明できる。

第10回記事では カバード金利平価式から、JPYディスカウントファクターを無理矢理 計算する式(10-2)を導いたが、あの数式の正当性に疑問を持つ読者も多いかと考える。この記事の11-3節を理解すれば、ニューメレールが円建てのTONA預金からドル換算のTONA預金への測度変換で 式(10-2)が導かれていることが判り、納得がいくはずである。

  • 式(10-2)は Fujii and Takahashi(2016) "A General Framework for the Benchmark pricing in a Fully Collateralized Market"の式(5-4)に同じ

また 今回説明する「TONA$\times$為替」(記号は$B_t^F X_t$) というニューメレールは通貨スワップやFXオプションにおいて、円レグやFXフォワードをマルチンゲールにする重要な「割る資産」となることを記憶に留めておこう。

  • Moreni and Pallavicini(2015) "FX Modelling in Collateralized Markets"ではこのニューメレールの測度をCollateralized Foreign Measure(外貨担保測度)と呼ぶ

USD担保JPYカーブの理論を説明するテキストは英語も含め、ほとんど出版されていない。その理由は上に挙げた2つの論文が難解過ぎるためと考えている。この記事を理解した後に、Fujii and Takahashi(2016)にトライするのがよいだろう。

11-1. 為替知識の整理

11-1-1. 為替の表記法

円を国内通貨 (Domestic)、 ドルを外国通貨 (Foreign)とすると、

  • 「$X^{JPY/USD}=$ 157円」の単位は¥/$、つまり D/F であり、分母が1ドルなので157円となる

一方、同じ表記で「$X^{JPY/USD}=$ 0.0064ドル」( =1/157 )と書く場合もある。こちらは欧米市場での一般的表記で、$X$ の肩は外国 / 国内の F/D 表記であり、" JPY/USD "USD per JPYと読む。

  • 単位は $/¥ で分母が1円なので、$X=$ 0.0064ドル (1円を表すドル額は 0.0064ドル)
  • 日本人の感覚では「逆数の為替 」のため、以下 逆数為替 と参照

USD担保の場合、USDを国内通貨JPYを外国通貨とする逆数為替 $X^{F/D}$ で表現され、

  • $X$ (以降 肩のF/Dは省略)は1円を表すドル額であり、$X$の単位はドル
  • 冒頭に書いた$B_t^F X_t$(TONAx為替)の$X_t$も逆数為替であり、数式展開には便利
    • $B_t^F$は1円が時点$t$までTONAレートで運用された元利合計額、それに時点$t$のスポット為替$X_t$を掛け、ドル換算した金額
11-1-2. FXフォワード契約 (カバード金利平価)

FXフォワード契約は、将来時点 $t$ で契約した為替レートで通貨交換を行う。評価式は複製戦略と無裁定条件から以下のように導く。

  • 国内通貨(ドル)と外国通貨(円)を考え、金利(非確率変数)をそれぞれ $r_d, r_f$ とする

  • FXフォワード契約の複製として、以下を考える

    • 時点0で1円を借り入れ、為替レート$X_0$でドル転 (下表左列)

    • 時点$t$の元利合計額は下表 右列

      時点 0 時点 t
      1円の借入 : 1円 借入返済額 : 1 · $e^{r_f \ t}$
      ドルの貸付 : $X_0$ドル 元本+利息: $X_0$ · $e^{r_d\ t}$
    • 時点0, 満期$t$のFXフォワードを $F_0^t$ (逆数為替で 単位は$/¥) とし、時点$t$の円とドルのキャッシュフローが等しいとし、第10回の式(10-1)を得る (以下 式11-1 で参照)

$$
1 \cdot e^{r_f\ t} \cdot F_0^t
=X_0 \cdot e^{r_d\ t}\ より
$$

$$
F_0^t =
X_0\frac{e^{r_d\ t}}{e^{r_f\ t}}=
X_0\frac{df_t^F}{df_t^D}
\tag{11-1}
$$

$$
ディスカウントファクター :
df_t^F=e^{-r_f\ t}, \quad
df_t^D=e^{-r_d\ t}
$$

この導出の背景には、「FXフォワードでFX変動リスクをヘッジした場合、異なる通貨で運用しても裁定機会が生じないように、スポット為替・FXフォワード・両通貨金利が整合する」という関係があり、このことをカバード金利平価 (Covered Interest Rate Parity, CIRP)と呼ぶ。(coveredを付けず、Interest Rate Parityと言う場合もある)

11-2. ドル担保での JPYディスカウントファクター

第10回の10-1節で記したように、式(11-1)を $df_t^F$ について解けば、下式(式10-2)となり、右辺の3項目はすべて市場で建値されているので、左辺の$df_t^F$を算出するは可能となる。ただし、この$df_t^F$は式(11-1)で定義した外国通貨のディスカウントファクター$e^{-r_f\ t}$とは異なっている。

$$
df_t^{\mathrm{F}}=
\frac{F_0^t}{X_0}
\ df_t^{\mathrm{D}}
\tag{第10回 10-2}
$$

インターバンクの為替市場の取引はドル担保が一般的で、11-1-2節で説明した複製戦略において、1円の借り入れの際、ドル担保が提供されていると考えよう。すると、時点$t$の返済額を計算する$r_f$は「ドル担保での円金利」となり、「円担保に付利される金利」のTONAレートとは異なることが判るだろう。

したがって、第10回の式(10-2)の右辺から計算される値が目標の「ドル担保でのJPYディスカウントファクター」であり、 記号を変え、$df_t^{CF}$とする。 (CFはcollateralized foreignの略)

$$
df_t^{CF}
:=
\frac{F_0^t}{X_0}
\ df_t^{\mathrm{D}}
\tag{11-2}
$$

以下では、この直観的な説明を数式で記述しておく。式(11-1)では将来の時点$t$の価値を計算した。式(11-2)はディスカウントファクターを使った式のため、時点$0$の価値を算出する部分が異なっている。ただし、いずれも同じ複製戦略による算出法となる。

11-2-1. 式(11-2)の導出

時点$t$の1円(外国通貨 1単位)を受け取る現在価値 $df_t^{CF}$をドル(国内通貨)で表示する式は

$$
\underset{(時点0のドル額)}{V_0^D}=
\underset{(単位:F)}{1円} \cdot
df_t^{CF} \cdot
\underset{(単位:D/F)}{X_0}
$$

一方、時点$t$の1円をFXフォワードでドル表示すると、

$$
\underset{(時点 t のドル額)}{V_t^D}=
\underset{(単位:F)}{1円} \cdot
\underset{(単位:D/F)}{F_0^t}
$$

上式にドルのディスカウントファクターを掛けて、現在価値にすると

$$
\underset{(時点0のドル額)}{V_0^D}= 1円 \cdot
F_0^t
\cdot df_t^{\mathrm{D}}
$$

時点0の2つの式を等号で結び、式(11-2) を得る

$$
1円 \cdot df_t^{CF}\cdot X_0 =
1円 \cdot F_0^t\cdot df_t^{\mathrm{D}}
\text{ より }
$$

$$
df_t^{CF}=
\frac{F_0^t}{X_0}\cdot df_t^{\mathrm{D}}
$$

目標の式(11-2)は導出できたが、この計算はこれまでと同じカバード金利平価の修正版で$df_t^F$と$df_t^{CF}$の違いが不明瞭である。

2つのディスカウントファクターの違いは担保通貨が異なるためであり、前者は円担保に対し、後者はドル担保でのディスカウントファクターである。次節では測度変換によって 同じ数式を導出するが、その計算過程で2つの違いが明確になる。

11-3. 測度変換による式(11-2)の導出

11-3-1. ニューメレールと期待値の準備

ここからは金利も確率変数とし、期待値の計算のため、各記号を定義する。

  • 以下では「測度」という用語が頻繁に登場するが、テキスト p186の脚注に書いたように、ファイナンスでは「測度 = 確率」と考えてよい。つまり 期待値を計算するためには確率が必要で、その確率を測度と呼んでいる

(1) ニューメレールの定義 : マルチンゲールにするための「割る資産」がニューメレール。テキスト p.189 式(6.39)の$S_t/B_t$は株価÷銀行預金がマルチンゲール(ドリフト=0)となっている例。

  • ニューメレール $B_t^F$ , $B_t^D$ : 円、ドル それぞれの通貨の銀行預金 (Bank Account)で$B_t^F$はTONA、$B_t^D$はSOFRで運用される預金

  • ドル担保 円預金のニューメレール $X_tB_t^F$ : TONAで運用される円預金$B_t^F$に為替$X_t$を掛け、ドル換算した銀行預金

    • 「ドル担保=SOFRディスカウント」であり、為替を掛けてドル換算するのは自然な発想

(2) 各ニューメレールでの期待値の計算とディスカウントファクターは次のように表記。

  • ニューメレール$B_t^D$の測度(確率)を$Q^D$、その確率で計算した期待値を$\mathbb E^{D}$とし

    • ドル ディスカウントファクター

      $$
      df_t^D =
      \mathbb E^{D}
      \left[
      \frac{1}{B_t^D}
      \right]
      \tag{11-$df}
      $$

  • ニューメレール$B_t^F$の測度を$Q^F$、その期待値は$\mathbb E^{F}$とし

    • 円 ディスカウントファクター

      $$
      df_t^F =
      \mathbb E^{F}
      \left[
      \frac{1}{B_t^F}
      \right]
      \tag{11-円df}
      $$

  • ニューメレール$X_tB_t^F$の測度を$Q^{CF}$(この測度が冒頭に記したCollateralized Foreign Measure)、その期待値は$\mathbb E^{CF}$とすると、$B_t^D$、$B_t^F$の類推から、

    • ドル担保 円預金のディスカウントファクター
      $$
      df_t^{CF}:=
      \mathbb E^{CF}
      \left[
      \frac{1}{B_t^{F}}
      \right]
      \tag{11-3}
      $$

      • 上式は 「ドル建て円預金」ではなく、「ドル担保の円預金」なので、$[1/(X_tB_t^F)]$ではなく、$[1/B_t^F]$ の期待値

ドル担保 円預金のニューメレール $X_tB_t^F$ , そのディスカウントファクターを意味不明のまま、式(11-3)で「天下り的」に定義した。期待値 $\mathbb E^{CF}$ の計算式は測度変換によって導出でき、11-3-3節で具体的に示す。

11-3-2. Radon–Nikodym 微分と測度変換の準備

テキストp336 では「ラドン・ニコディムの定理」をギルサノフの定理の関連で簡単に紹介したが、ここでは同 p336 式(9.65)の「ニューメレールのグロスリターン比」が主役となる。

この辺りの計算は見慣れない記号が多いが、中身は非常に単純で、次の2つの式を機械的に当てはめれば、結果が現れる。(希望の結果にならない場合、ニューメレールの定義を変えて、試行錯誤する)

(1) Radon–Nikodym微分 (テキストでは"密度過程"と呼んだが、ほぼ同じもので、以下 "RD微分" と参照)

  • 測度$Q^{D}$を測度$Q^{CF}$で微分するRN微分はそれぞれのニューメレールのグロスリターンの比として計算される (右辺分母にニューメレールが現れている)

    $$
    \frac{dQ^D}{dQ^{CF}}\Big|_t=
    \frac{B_t^D}{B_0^D}
    \cdot
    \frac{X_0B_0^F}{X_tB_t^F}=
    \frac{X_0}{X_t}
    \frac{B_t^D}{B_t^F}
    \tag{11-RN}
    $$

    • 「グロスリターン」の計算例として、ドル ニューメレールなら、$B_t^D/B_0^D$がグロスリターンを表す
    • RN微分とは、測度を測度で、つまり確率を確率で微分する計算であり、11-4節の具体的な数値例を見れば、単に確率密度関数の比を計算することと判る
    • ここでは、「$y$を$x$で微分する場合、$dy/dx$と書く」ことと同じ と考えればよい
    • その微分の計算方法が「ニューメレールのグロスリターンの比」である

(2) 測度変換の公式 (私のテキストには、この有名な式の記述が無かった!)

  • 確率変数を$Y$、RN微分を$dQ^D/dQ^{CF}$とすると、$Q^{D}$から$Q^{CF}$への測度変換は次式で行われる (数式番号のMCはmeasure changeの略)
    $$
    \mathbb E^{D} \left[Y \right] =
    \mathbb E^{CF}
    \left[Y \cdot \frac{dQ^D}{dQ^{CF}} \right]
    \tag{11-MC}
    $$

    • 測度変換は、機械的に、確率変数にRN微分を掛ければ済む (11-4節の数値例を参照)
      • 左辺の$Y$にRN微分を掛け、期待値記号を$\mathbb E^{CF}$に変えただけ!
      • 右辺をイメージ的に説明すると「期待値記号$\mathbb E^{CF}$とRN微分の分母$dQ^{CF}$が打ち消しあい、RN微分の分子$dQ^{D}$が期待値記号$\mathbb E^{D}$に変換されて」、左辺となる

11-3-3. 式(11-3)の期待値の計算式

式(11-RN)と(11-MC)の2つの式を使用して、期待値 $\mathbb E^{CF}$の計算式は次のように導出される。

  • 時点 $t$ で 1円を受け取るドル額 ($X_t$)の現在価値$V_0^D$ (Xtは確率変数でX0からt時間 経過した値。式11-Fwdで再登場するので注意)
    • 式(11-$df)の分子1ドルを$X_t$ドルに変えたもの

$$
V_0^D=
\mathbb E^{D}
\left[
\frac{X_t}{B_t^D}
\right]
\tag{11-4}
$$

  • RN微分の式(11-MC)で$Y:=X_t/B_t^D$と考えて、上式を$\mathbb E^{CF}$ へ測度変換

$$
V_0^D=
\mathbb E^{CF}
\left[
\frac{X_t}{B_t^D}
\cdot
\frac{dQ^D}{dQ^{CF}}
\right]
$$

$$
=\mathbb E^{CF}
\left[
\frac{X_t}{B_t^D}
\cdot
\frac{X_0}{X_t}
\frac{B_t^D}{B_t^{F}}
\right] =
X_0
\mathbb E^{CF}
\left[
\frac{1}{B_t^{F}}
\right]
$$

  • 2つの$V_0^D$式を等号で結び、$X_0$で両辺を割れば、式(11-3)の具体的な計算式を得る

    $$
    df_t^{CF}:=
    \mathbb E^{CF}
    \left[
    \frac{1}{B_t^{F}}
    \right] =
    \frac{1}{X_0}
    \mathbb E^{D}
    \left[
    \frac{X_t}{B_t^D}
    \right]
    \tag{11-Cdf}
    $$

    • 式(11-MC)で、$Q^{F}$ではなく、$Q^{D}$から$Q^{CF}$への測度変換とした理由は「ドル担保=SOFRディスカウント」であり、$\mathbb E^{D}$が最終的に使われるため

11-3-4. 式(11-2)の導出と解釈

FXフォワード契約の$F_0^t$(定数)は次式を成立させる。 (Xtは確率変数)

$$
\mathbb E^{D}
\left[
\frac{1}{B_t^D}
\left( X_t - F_0^t \right)
\right] =0 \
\text{ より }
\tag{11-Fwd}
$$

$$
\mathbb E^{D}
\left[
\frac{X_t}{B_t^D}
\right] =
F_0^t\
\mathbb E^{D}
\left[
\frac{1}{B_t^D}
\right]
$$

$F_0^t$ について解き、分子に式(11-Cdf)を代入し、次式を得る。(下式と式11-1の相違点を各自確認)

$$
F_0^t =
\frac{
\mathbb E^{D}
\left[
\frac{X_t}{B_t^D}
\right]
}{
\mathbb E^{D}\left[
\frac{1}{B_t^D}
\right]
} =
X_0
\frac{
df_t^{CF}
}{
df_t^D
}
$$

上式の$df_t^{CF}$ を左辺に移行すれば、式(11-2)を得る。

$$
df_t^{CF} =
\frac{F_0^t}{X_0}
df_t^D
\tag{再掲: 11-2}
$$

$df_t^F$と$df_t^{CF}$の違いは式(11-円df)と式(11-Cdf)を比べれば、明白だろう。つまり、

  • 期待値 $\mathbb E^{F}$ と $\mathbb E^{CF}$ が異なり、この違いはニューメレールの違い
    • $X_tB_t^F$は通貨スワップやFXオプションにも登場する重要な「割る資産」でこの測度がCollateralized Foreign Measure (Fujii and Takahashi(2016)はこの測度に名称を与えておらず、認知度を上げるため、このワードを何度も記した)

11-4. Radon–Nikodym 微分の数値例

この記事の冒頭に測度変換に関して、村上秀樹氏の書籍を名著として挙げたが、西村寿夫 著「リスクとデリバティブ」(中央経済社) も村上氏が扱っていないトピック、例えば FXフォーワード等の記述があり、手元に置いておくべきテキストであろう。

下図11-1はその西村氏のテキスト 142ページに図表4-5として記載された表で、RD微分を説明した数値例である。以下、図の見方をエクセルの列単位で記しておく。

A列:正規分布の横軸 (Z軸)

B列:行使価格がz=0のコールオプションのペイオフ

C列:正規分布の縦軸 でリスク中立測度(Qメジャー)での確率

  • 数値は標準正規分布 Z~N(0,1)の値で、Z軸の区間幅は0.5

D列:実測度(Pメジャー)を表す確率

  • 数値はZ~N(0.5,1)の値

E列:RD微分で C列 ÷ D列を計算

F,G列:Q及びPメジャーでB列コールオプションのペイオフの期待値を計算

F18, G18セル:それぞれのメジャーでのコールオプションの満期時評価額

$\qquad\qquad\quad$
$\qquad\qquad\qquad\qquad$図11-1:西村「リスクとデリバティブ」p142の表

ここでは、RD微分を数値例から説明するため、C, D, E列に数式を当てはめる。西村氏のテキストは図11-1の数値のみが記述され、数式の記載がない。以下の正規分布の密度は、筆者が表の数値から推測した式となる。

  • C列: Qメジャーの確率は標準正規分布 Z~N(0,1)の密度関数$f_Q(z)$から算出

    $$
    f_Q(z)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp\left(-\frac{z^2}{2}\right)
    $$

    • C12セル:z=1.0では$
      \int_{0.75}^{1.25} f_Q(z)\ dz
      $を計算すべきであるが、区間幅を0.5とした長方形の面積で概算すると $f_Q(1.0) \times 0.5 = 0.12098$ とほぼ同じ値
  • D列:Pメジャーの確率は正規分布 Z~N(0.5,1)の密度関数$f_P(z)$から算出

    $$
    f_P(z)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp\left(-\frac{(z-0.5)^2}{2}\right)
    $$

    • D12セル:区間幅0.5の長方形の面積で $f_P(1.0) \times 0.5 = 0.1760$ と若干異なるがほぼ同じ値
  • E列:この列が 測度$P$:Z~N(0.5,1)を 測度$Q$:Z~N(0,1)へ変換するRadon–Nikodym微分の数値例

    $$
    \frac{dQ}{dP}(z)
    =
    \frac{f_Q(z)}{f_P(z)}=
    \exp\left(
    -\frac{z^2}{2}+
    \frac{(z-0.5)^2}{2}
    \right)=
    \exp\left(
    -\frac12 z+\frac18
    \right)
    $$

    • E12セル:上式で$z=1.0$では、$dQ/dP = 0.6873$ と若干異なるが近い値
    • この例の測度Q は 標準正規分布の累積密度関数(テキスト p210)で、確率を意味し、dQはその微分なので密度関数となる

このE列の計算例から、Radon–Nikodym微分とは2つの確率密度の比で算出される「単純な数値」のイメージを持とう。(記号は難しそうに見えるが、中身は単純)

  • F,G列:Qメジャー、Pメジャーでコールオプションのペイオフの期待値を算出。例えば、ペイオフ関数を$C(z)$とすれば、F列の計算は次式 左辺、G列の計算は右辺に相当する

$$
\mathbb E^Q[C(z)]=
\mathbb E^P\left[
C(z)\frac{dQ}{dP}(z)
\right]
$$

  • 左辺では$C(z)$がB列を表し、期待値演算記号$\mathbb E^Q$はB列の実現値とC列の確率を掛け、その合計が期待値
  • 右辺もほぼ同じであるが、相違点はD列の確率を使う点と、B列の実現値$\times$RD微分となっている点 (これも記号は難しそうに見えるが、RD微分がC÷Dで、結局 D列×C÷Dとなり、C列の確率に戻る)
    • 村上氏の名著(p.41)では、このRD微分の掛け算を「既存の確率$P$に対して、掛目$dQ/dP$をかけて、新しい確率$Q$を作り出す」と記している

11-4-1. 図11-1の確率微分方程式 (この節は5/23に追記)

図11-1は実測度のPメジャーからリスク中立測度のQメジャーへ測度変換させている重要な数値例である。この図は私のテキスト p.189で 式(6.37)を用い、 式(6.39)を導いた部分の数値例と考えてよい。
つまり、式(6.39)の1つ前の番号のない式(以下 式6.39p)と式(6.39)において、

$$
Z := \frac{d(S_t/B_t)}{(S_t/B_t)}\ , \qquad \sigma=1\ , \qquad \mu-r = 0.5
$$

とすれば、時点 t=1で 式(6.39p)と式(6.39)は$Z\sim N(0.5,1)$と$Z\sim N(0,1)$の正規分布となり、その数値例がD列とC列である。したがって D列とC列の確率微分方程式は式(6.39p)と式(6.39)となる。

テキスト 6.8.3節で書いたように、確率微分方程式を正規分布に変換すると、理解しやすくなる。その変換の際、時点 t=1のように、時間を止めることが重要である。
この記事の11-3-2節で、RN微分と密度過程を「ほぼ同じ」としたが、密度過程の時間を止めたものがRD微分となっている。

まとめ

  • TONAで運用される円預金に為替$X_t$を掛け、ドル建てにした銀行預金$X_tB_t^F$がニューメレールとなる Collateralized Foreign Measure を導入した

  • 測度$Q^{D}$から測度$Q^{CF}$を導くためのRadon–Nikodym微分は、それぞれのニューメレールのグロスリターンの比で算出

    $$
    \frac{dQ^D}{dQ^{CF}}\Big|_t=
    \frac{B_t^D}{B_0^D}
    \cdot
    \frac{X_0B_0^F}{X_tB_t^F}=
    \frac{X_0}{X_t}
    \frac{B_t^D}{B_t^F}
    \tag{再掲:11-RN}
    $$

  • ドル担保 円預金のディスカウントファクター を定義し、測度変換から計算式を導出

    $$
    df_t^{CF}:=
    \mathbb E^{CF}
    \left[
    \frac{1}{B_t^{F}}
    \right] =
    \frac{1}{X_0}
    \mathbb E^{D}
    \left[
    \frac{X_t}{B_t^D}
    \right]
    \tag{再掲:11-Cdf}
    $$

  • 目標の式(11-2)の導出は上式とFXフォワードの無裁定を表す次式より導出

$$
\mathbb E^{D}
\left[
\frac{1}{B_t^D}
\left( X_t - F_0^t \right)
\right] =0
\tag{再掲:11-Fwd}
$$

  • Radon–Nikodym微分の理解を深めるため、西村 著「リスクとデリバティブ」図表4-5 を使い、数値例を付けた
0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?