はじめに
Ciao! 物理学科4年のこうらんけんです。私は今年の夏に理学部のプログラムで、イタリアのトレント大学に1ヶ月ほど滞在していました1。今年はイタリアを含むヨーロッパでの食べ物を物理に絡めて紹介したいと思います。ちなみに、去年は留学先のシンガポールの食べ物を書いているので、そちらの方も参考にしてください!
ヨーロッパとは
ヨーロッパの面積は約1000万平方キロあり、約7億4000万人が暮らしています。50の国家があり、様々な文化があります。従ってもちろんたくさんのおいしい食べ物がある。
トレント大学
私が今回訪問したトレント大学はトレントというイタリアのトレンティーノ地方の街にあり、トレントはヴェローナから北に電車で1時間、アルプスに囲まれた環境にある。
トレント自体は人口が10万人少しの街だが、トレント大学には約2万人の学生と教職員がいる。つまり、20%ほどの人が大学関係者である学園都市ということができる。
↑Trentoの街の中心にあるPiazza Duomo。大聖堂の前に大きな広場があり、人々は夜になるとそこに集まり、お酒を一緒に楽しむ。2
物理について言えば、ここにはイタリアのthe National Institute of Nuclear Physics, イタリアの国立研究機関であるCNRの中のCNR Insitude for Photonics and Nanotechnologies、CNR Institue for Opiticsなどがある。その中で僕が今回訪問したのはThe Pitavskii Center on Bose-Einstein Condensensationという組織、名前の通りボースアイシュタイン凝縮を使って、様々な新物理や応用を探す機関である。
↑大学の建物。古い街並みの中に溶け込むように新しい建物が建てられている。
食堂
トレント大学は都市型の大学であり、大きなキャンパスに全てがまとまっているというよりかは、街の至るところに大学の建物が建っているという感じだ。
私が所属していたBEC CentreはPovoという山の中腹のところに位置しており、ここには理系の学部が集まっている。このキャンパスの中には、カフェ(イタリア語ではbarと呼ばれます)、食堂がある。一食は定価では約7EUR(1100円)、学生ならば5EUR(800円)で食べることができる。日本の食堂と比べると、若干高く感じるが、ヨーロッパの外食では本当に最安レベル。味は普通だが、この値段なら許せるといった感じである。しかし、やはりイタリアの食事で感動するのは、例えば全体としては味が微妙でも、チーズなどはこだわっている感じがあって、日本で食べるそこそこするイタリアンの味がする。
↑食堂の1食。この日はチキンと謎のパスタのミクスチャになっている。
さて、食事が終わるとイタリア人は皆必ずbarと呼ばれるカフェに行く。3そこでみんなでエスプレッソを飲んで毎日雑談をする。イタリア人の昼休みは長い。だいたいみんな12時からお昼を食べ始め、barで雑談し終わるのは3時くらいになる。イタリア人の人から言われた言われたこの言葉が記憶によく残っている。
We work to live, not live to work.
日本とは真逆な感じだ。
↑イタリアのCaffè。イタリアではこのような小さなエスプレッソが普通。恐ろしいことに、夜でも飯の後は必ずエスプレッソを飲む。お酒をいっぱい飲んだ後でも当たり前のように、飲む。アルコール VS カフェインって寝たいのか寝たくないのかどっちなん
さて、BEC Centreでは冷却原子を用いて、様々なパラメータを持つ系を作ることができる。特にパラメータを調節できるHubbardモデルを作ることができる。Fermi-HubbardモデルのHamiltonianは
$$H = -t\sum_{\braket{i,j},\sigma} (c^\dagger_{i,\sigma}c_{j,\sigma}+c^\dagger_{j,\sigma}c_{i,\sigma})+ U\sum_i n_{i,\uparrow}n_{i,\downarrow} = H_{\textrm{hopping}}+H_{\textrm{int}}$$
とかける。ただし、ここで$c_{i,\sigma}$はサイト$i$にスピン$\sigma$のFermi粒子を作り出す。Hamiltonianのfirst termはhopping termと呼ばれ,これは運動エネルギーに相当する。また$\braket{i,j}$は互いに移れるサイトを表していおり、最も単純なモデルは隣接するサイトとすることが多い。一次元の場合$\braket{i,j} = i,i+1$などを表す。
Hopping termはFourier変換
$$c_k = \frac{1}{\sqrt{N}}\sum_j e^{ikr_j} c_j$$
を用いると,
$$H_{\textrm{hopping}} = \sum_k -2J\cos ka \ c^\dagger_kc_k$$
とかける.この分散関係は$k = 0$近辺で展開するとparabolicになっているので自由粒子の分散関係になっていることがわかる。
これはまさしくはまさしくイタリア人にとってのcaffèである。そのeffective massは1日にいくらカフェインを摂取することによって決まる。
Oro Stube
イタリアといえばもちろんPizzaである。トレント大学の物理学科の入り口すぐにOro Stubeというpizzeriaがある。昼間から営業しており、世界中の物理学者たちがワインとpizzaを楽しみながらナプキンに数式を書き、議論している姿が見られる。
Pizzaにも様々な種類があるが、私はこのようなProsciuttoをおすすめする。Prosciuttoはイタリア式のハムであるが、下のようなpizza全体にprosciuttoがのったものが絶世の逸品である。イタリアのpizzaは生地がかなり硬く、こんがり焼き上がっておりそのざらざらとした食感と甘い口溶けをもたらすprosciuttoが絶妙なバランスで口の中にハーモニを作り出す。Pizzaの表は雲のような柔軟さ、裏は大地のような硬さになっており、これはまさしく天と地、この世界に対するオマージュである。
またトレントが属するトレンティーノ地区はスパークリングワインで有名である。その中でもFerrariというメーカーが有名で、アルプスの冷涼な気候を生かしてグレープの酸性を保ち、多様なフレーバを作り出せることが特徴である。このワインは世界的にも評価されていて、また2021年にF1のofficial toastになったことでも話題になった。4Oro Stubeでも世界中の卓越した先生たちがこのワインを飲みながら、議論を日々進めている。よってこれが物理に必要なことは自明である。
イタリア
さて、次はイタリア全土で食べた食べものを紹介します。
Pappardelle al cinghiale
Toscana地方の絶品。Pappareにはdevourという意味で、めちゃ豪快に食べれるよという意味がこの料理名には込められている。これはイノシシの煮込みソースで味つけした幅の広いパスタとなっており、口の中に小麦の育った豊かな土壌を感じる味と、野生的な肉肉しい味がフュージョンする。このようにToscanaは豊かな土壌と広い谷のような地形から肉料理が豊富である。
↑Ristoro PecorinoというレストランのPappardelle。Pisaの斜塔から歩いて3分ほどのところにある。
さて、かの有名なPisaの斜塔はこのパスタが食べられるレストランからすぐのところにある。かの有名なGalileiも1580年にThe University of Pisaにmedical degreeとして入学し、のちにそこの教授となる。おそらくGalileiはこのパスタを食べたときに、そのおいしさによって脳が活性化され、Pisaの斜塔の上から異なる質量の物体を落とそうとしたに違いない。5したがって、このパスタが物理学に必要だったかことは自明である。
↑Pisaの斜塔。上に登ることもできる。ただし、物体を下に落とそうとすると怒られが発生する。
Taglieri di Salumi
この料理は直訳するとサラミのプレート、つまりハム盛り合わせである。それにさらに様々なチーズが盛り合わされている。
ハムの中には、普通のハム、生ハム、サラミ、speck(イタリア北部の燻製ハム)があり、またチーズはGorgonzolaチーズ(イタリアのブルーチーズ)がナッツと組み合わせられてのが特徴的である。
これは肉とチーズの相互作用を表している。肉とチーズはどちらもFermionであり、その消滅演算子はそれぞれ$c_{\textrm{meat}},c_{\textrm{cheese}}$などの形で表される。
Fermi Hubbardモデルで$H_{\textrm{int}}$は同じサイトにおけるスピン上下の相互作用を表している。これはFourier変換で表すと,
$$H_{\textrm{int}} = \frac{1}{N}\sum_{k,k',q,\mu,\nu}U_{\mu,\nu}c^\dagger_{\mu, k+q,\uparrow}c_{\mu, k,\uparrow}c^\dagger_{\nu, k'-q,\downarrow}c_{\nu, k',\downarrow}$$
となる。ここで$\mu,\nu = \textrm{cheese,meat}$と種類の種類を表している。これは肉とチーズのスピン上下のものが運動量$q$を交換することを表し、おいしさの強化につながる。
スイス
Haus Hiltl
次にスイスの食べ物について紹介する。今回の訪問期間中、スイスのチューリッヒに訪問することができた。
チューリッヒはスイスの北部の中心となる都市であり、チューリッヒ湖のほとりにある都市であり6またスイスではドイツ語(Swiss German)、フランス語、イタリア語 etc.といった様々な言語が話され、チューリッヒはドイツ語圏の中心といえる。
アカデミックにはスイスにはスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zürich)があり、あのEinsteinも教鞭をとったことがある、ユーロッパで最も有名な理系大学の一つである。
↑ETHの建物。まるで宮殿である
↑ETHにはEinsteinの展示コーナーがある。残念ながら私が訪問した時には、壊れていた。
さて、チューリッヒではHaus Hiltlというレストランにいった。ここは1898年から営業している世界最古べジタリアン向けレストランとしてギネス世界記録に登録されている。またスイス航空の機内食を監修していることでも有名である。
ビュッフェ形式になっており、おいしいナンやカレー、スイスの美味しい野菜、チーズなどのおいしいものを召し上がることができる。植物性のミートなどもあり、新鮮な体験が味わえる。この味が毎日食べられるならベジタリアンでもええかと思うくらいである。
↑私が選んだもの。これで25 CFR(4000円)ほどであった。店主がデリーのベジタリアンフェスで感銘を受けたこともあり、カレーなどのインド料理のレパートリも多い。
実はEinsteinは数年の間、ベジタリアンであったと噂されている。Einsteinは1910年代にチューリッヒにいたので、この期間中このレストランに通い詰めていたに違いない。したがって、このレストランがなかったら、一般相対論は生まれていなかったに違いない。したがって、物理学に必要である。
スウェーデン
また期間中にスウェーデンにいる友人を訪れる機会があったので、このチャプターではスウェーデンの食べ物を紹介する。
スウェーデンはスカンジナビア半島に存在する人口約1000万人の国である。面積は約44万平方キロメートルで日本とほぼおなじくらいである。世界で最も進んだ国の一つと知られいて、豊富な社会福祉、生活水準を有していることで知られている。
Pickled Herring
スウェーデンでは漬けたニシンがよく食べられる。私も友達のすすめで、市販されているニシンとポテトを添えて食べた。
このニシンの漬け方にも色々あって、私はマスタードと甘酢(?)の味のものが食べた。マスタードのものは、ほどよいマスタードの刺激と甘さが絡み合って、絶妙なバランスを作り出していて、ポテトと一緒に召し上がると、ニシンの深みとともにポテトの自然の味も強調される。一方で、甘酢のほう(写真ではピンク色もの)はかなり甘さを基調とした甘酸っぱい味付けになっており、その甘さと酸っぱさのバランスは若干酢豚に似ている。
Smörgåskaviar
Smörgåskaviarとはいわばスカンジナビア風の明太子である。最初、友人には”スウェーデンにはこういう魚の卵を加工した珍しいものがあるんだよ”といわれ、なんだろうと不思議に思っていたが、口に入れてみると、なんとそれは日本でも味わったことがある明太子の味であった!
日本の明太子との違いは、辛い味付けではなく、塩と砂糖で長い間漬けられた(briningというらしい)ものである。その後さらに長い間燻製によって香り十分に引き出したあと油の中に入れられプロセスされる。
個人的には明太子と比べてデザートのようなまろやかな味付けになっていて7明太子より食べやすい。また日本の明太子と違って、細いチューブに入って販売されており、調味料としての特徴が強い。
またこの明太子をゆで卵の上に乗せて食べるこれはもう絶品である。このゆで卵の食べ方にスウェーデンの特徴がある。スウェーデンではゆで卵用の器があり、ゆで卵の上半分をかち割って、スプーンで中身をすくうといった食べ方をする。これが最もスウェーデンらしいことの一つである。
↑ゆで卵用容器。デザインもかわいいものがある。
↑チューブ入りの明太子。このメーカーが有名らしい。
Surströmming
Surströmmingはおそらく世界でもっともまずい食べ物の一つである。その激臭は数多のドキュメンタリーやYouTuberにも取り上げられるほど有名である。これは前述したpickled herringと同じようにニシンを塩につけた保存食のようなものであるが、味が全く異なる。
余分な味付けはなく、塩で半年以上漬けることによって腐ってないのだが、ほぼ腐った(もしくはそれ以上の)強烈のにおいを発する。その臭いの強さはスウェーデン人も認識していて、Surströmmingは一般のスウェーデン人でもあまり食べないものであり、実際私の友人ははじめてであった。
↑芝生の上でSurströmmingの缶を開ける様子。あまりにも発酵が進んでいると爆発する可能性があるので、最初は水中で少し蓋をあけ、大丈夫だと確認したあと、空気中であけることにした。
あまりにも臭いが強いので、室内でこれをあけると確実に地獄が生じる(通報されるかも)ので、我々はわざわざ外の草っ原でSurströmmingをあけた。発酵の過度な進行や衝撃のせいで、蓋を開ける際に爆発が生じる可能性があるので、我々は水中でまず蓋を少しあけ、大丈夫なことを確認した後、続いて大気中に取り出した。その処理方法はまるで白リンを取り扱うかのようであった。一度Surströmmingの汁が服などに付着してしまうと、その臭いは一生取れないと言われているので、人生の崖っぷちである。
さて、蓋が開いたので臭いを嗅いでみた。嗅いだ直後、この世のものとは到底思えないような、鼻の奥を槍でつつかれたような悪臭がした。体の全細胞がこれは危険だと伝える。一度水中の中で処理したにもかかわらずこの様である。
しかし、開けてしまっては仕方がない。食べないといけない。そこで我々はポテトやパン、オニオンなどを組み合わせ、Surströmmingサンドを作ることにした。そのまま手で掴んでしまっては手が悪臭によって汚染されてしまうので、慎重にフォークなどでSurströmmingを配置する。しかし、サンドを作る間にも悪臭が鼻を永続的に攻撃しており、失神直前である。
さて、サンドが出来上がり、いよいよ食するときである。いざ口にいれてみると、驚くべきことに、直前まで鼻をつんとしていた悪臭は解け、今度は口の中で強烈な塩の風味が広がる。とにかく塩辛い。臭いと比べると、全く食えないわけではないが、Surströmmingに残るのはもはや味ではなくただの刺激しかない。また何か腐ったようなものを食べていると脳が認識するので、唐突に吐き気を催すこともある。自分は3、4切れ食べてリタイアしたが、友人ははじめてにもかかわらずパクパク食べていた。やはり遺伝子に味が刻まれているのだろうか。
さて、スウェーデンにはかの有名なノーベル財団があり、毎年ノーベル賞(物理)はスウェーデン王立科学アカデミーによって選ばれる。従って疑うことなくノーベル賞はこの食べ物たちによって支えらているが自明である。よって、物理学に必要である。
おわりに
いかがだったでしょうか?ヨーロッパにはまだ自分が食べてないものがたくさんあるので、物理学をもっと発展させるために、全部食べないといけないと思っています。日々、学問が発展しているのは、この世においしい食べ物があるからです!今日も全ての食べ物に感謝し、物理をやっていきたいと思います!
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SVAPというプログラムです。自分で行きたい研究室の教授に連絡し、直接受け入れてもらうって言った感じです。直接教授と連絡をとって、受け入れてもらうという体験は初めてだったのでとてもよい経験でした。 ↩
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とはいってもイタリア人は昼前から飲んでいるが ↩
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ちなみにイタリアでcaffèというとこれはコーヒーそのもの、特にエスプレッソを指します。 ↩
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ちなみに車のFerrariと直接何か繋がりがあるわけでなく単にFerrariさんというのがイタリアでよくある名前なだけである。 ↩
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実際GalileiがPisaの斜塔の上からものを落として、落下実験を行なったかどうかは定かではない。 ↩
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スイスの国土の大部分はアルプスであり、氷河湖がたくさんある。多くのスイスの都市はそういった湖のほとりにある。 ↩
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スウェーデンの味付けにはこういうのが全般的におおい ↩