📘 MOSFET の W・L・W/L・m を変えると何が起きるか
― gm/Id 設計法・Lmin 抽出までまとめた決定版(メリット・デメリット付き) ―
アナログ回路設計(特に gm/Id 設計法)では、
MOSFET の W(幅)・L(長さ)・W/L 比・m(並列数) をどう調整するかが
- ゲイン
- 帯域
- ノイズ
- 歪み
- 安定性
- 消費電力
を左右する最重要パラメータになる。
本記事では、それらを 完全体系化 し、
さらに メリット/デメリット一覧表 を付けて整理する。
最後に、設計の起点となる
「Lmin(最小チャネル長)の抽出」 がなぜ必須なのかを
gm/Id 理論とデバイス物理の両方から説明する。
目次
- 第1章 W(幅)を変えるとどうなるか
- 第2章 L(長さ)を変えるとどうなるか
- 第3章 W/L 比を変える意味
- 第4章 m(並列数)の効果
- 第5章 最初に Lmin を抽出する理由
- まとめ:メリット/デメリット一覧表
- 付録:gm/Id 可視化 Python(教育用)
🟦 第1章 W(幅)を変えるとどうなるか
■ W を大きくする(横方向に広げる)
● 効果
- Id ↑(線形に増加)
- gm ↑
- Cgs・Cgd ↑(W に比例)
- 速度 ↓(容量が増える)
- R_on ↓(スイッチ用途に有利)
● メリット
- 大電流を流せる
- gm が上がる → ノイズが下がる
- R_on が下がりスイッチ性能が向上
● デメリット
- Cgs/Cgd が増え帯域低下
- レイアウト面積が増える
- 高速回路で遅くなる
→ 電流能力を上げる代わりに速度と面積が犠牲になる操作
■ W を小さくする
● 効果
- Id ↓
- gm ↓
- Cgs/Cgd ↓ → 速度↑
● メリット
- 消費電力が下がる
- 容量が減って高速
- 面積が小さい
● デメリット
- gm が低下 → ノイズが悪化
- 高ゲイン実現が難しい
🟩 第2章 L(長さ)を変えるとどうなるか
■ L を長くする(アナログの鉄則)
● 効果
- gds ↓ → ro ↑ → 高ゲイン
- λ(チャネル長変調) ↓
- THD 改善
- Id ↓, gm ↓
● メリット
- ro が増えて高ゲイン
- 歪み改善
- 安定性向上
- 短チャネル効果(SCE)抑制
● デメリット
- gm が下がり速度低下
- 面積増加
- 高速用途に不利
→ オペアンプ・高ゲイン回路で L を伸ばすのは常識
■ L を短くする
● 効果
- Id ↑
- gm ↑
- fT ↑(高速)
- gds ↑ → ro ↓ → Gain ↓
- DIBL・短チャネル効果悪化
● メリット
- 高速化
- 小面積
- 小容量
● デメリット
- ro が低下 → ゲイン劣化
- 歪み悪化
- SCE(短チャネル効果)が顕著
🟧 第3章 W/L 比を変える意味
W/L は 電流量・gm のスケールノブ。
■ W/L を上げる
- Id ↑
- gm ↑
■ W/L を下げる
- Id ↓
- gm ↓
● メリット
- gm/Id を維持したまま電流だけスケールできる
(gm/Id 設計法の本質)
● デメリット
- 容量も増える → 帯域が落ちる
🟥 第4章 m(並列数)を変えるとどうなるか
m 並列の MOSFET は、W → mW と等価。
■ m を増やすと
| 項目 | 変化 |
|---|---|
| Id | m 倍 |
| gm | m 倍 |
| Cgs, Cgd | m 倍 |
| ro | 1/m |
● メリット
- R_on が下がる
- スイッチング用途・大電流用途に強い
- ばらつきを平均化できる
● デメリット
- ro が低下 → ゲインが大幅に下がる
- 容量が増えて遅くなる
- 面積増加
→ アナログ増幅では不利、スイッチング回路では有利
🟦 第5章 なぜ最初に “Lmin” を求めるのか?
gm/Id 設計フローのスタートは必ず
L = Lmin の特徴抽出(gm/Id 曲線生成)。
これは慣習ではなく デバイス物理に基づいた正当な手順。
理由①:Lmin はデバイス固有パラメータの“基準点”
短チャネル効果は L が短いほど強い:
- μ
- Cox
- Vth
- λ(チャネル長変調)
- DIBL
- 速度飽和
→ デバイスの素性を知るには Lmin を測る必要がある
理由②:gm/Id 曲線は L ごとに変わる
- gm/Id vs Id/W
- ro
- λ_eff
- fT
これらは L に依存して変化するため、
Lmin のカーブを基準曲線として保存する。
理由③:fT(速度性能)は Lmin が最大
高速アナログ・RF 回路では
Lmin の性能が基本指標になる。
理由④:設計では最終的に L > Lmin を使うが、基準は Lmin
設計フローはこうなる:
- Lmin で gm/Id 基準曲線を生成
- ゲインが必要なら L を伸ばす
- 電流は W/L で調整
- スイッチ用途では m を増やす
🧾 第6章 まとめ:メリット/デメリット一覧表
| パラメータ | 増やすと | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| W | Id↑, gm↑, C↑ | 電流↑、ノイズ↓、R_on↓ | 速度↓、面積↑ |
| L | ro↑, Gain↑, Id↓ | 高ゲイン、低歪み、安定 | gm↓、速度↓、面積↑ |
| W/L | 電流↑ | gm/Id 保ったまま Id 調整 | 容量↑ → 速度↓ |
| m | 実効 W が m 倍 | R_on↓、大電流向け | ro↓、容量↑、面積↑ |
🧪 付録:gm/Id 可視化(Python + matplotlib)
教育用の簡易モデルによる gm/Id vs Id/W の基礎可視化スクリプト。
(Colab でそのまま実行可)
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# Parameters
mu = 0.05
Cox = 5e-3
Vth = 0.5
W = 10e-6
L_list = [0.06e-6, 0.1e-6, 0.2e-6]
Vgs = np.linspace(0.3, 1.2, 300)
def gm_id(mu, Cox, W, L, Vgs, Vth):
Vov = np.clip(Vgs - Vth, 0, None)
Id = 0.5 * mu * Cox * (W/L) * Vov**2
gm = mu * Cox * (W/L) * Vov
return gm/Id, Id/W
plt.figure(figsize=(8,6))
for L in L_list:
gmId, IdW = gm_id(mu, Cox, W, L, Vgs, Vth)
plt.plot(IdW, gmId, label=f"L={L*1e9:.0f} nm")
plt.xlabel("Id / W (A/m)")
plt.ylabel("gm / Id (1/V)")
plt.title("gm/Id vs Id/W for different L (Educational model)")
plt.grid(True)
plt.legend()
plt.show()
🎉 結論
本記事をまとめると:
- W:電流能力を決めるノブ
- L:ゲイン・線形性を決めるノブ(アナログ最重要)
- W/L:電流スケール用ノブ
- m:並列スケール(スイッチ向け)
そして何より、
設計の基準座標は “Lmin の gm/Id 曲線”。
ここを理解せずにアナログ設計は始まらない。