【OPアンプの基礎知識まとめ】
- OPアンプとは
- operational amplifier の略で、日本では「オペアンプ」と呼ぶ。
- アナログ回路で非常によく使われるIC。
- 抵抗やキャパシタと組み合わせて使用するのが基本。
- パッケージと種類
- 一般的には 8ピンICが多い(DIP, SOPパッケージ)。
- 1回路入りタイプ:特徴的な性能を持つものが多い。
- 2回路入りタイプ:汎用性が高く、多くの用途に使われる。
- 例:NJM4558D(新日本無線)、TL072(テキサス・インスツルメンツ)など。
- 電源
- ±15Vが一般的。+5V単電源で動作するタイプもある。
- アナログ信号を扱うため、+電源と−電源の両方が必要な場合が多い。
- 回路図の表記
- OPアンプの記号には入力端子(反転・非反転)と出力端子が描かれる。
- 初学者は電源端子も書くと理解しやすい。慣れれば省略することも多い。
- デカップリング・キャパシタ(バイパス・キャパシタ)
- 電源端子と0Vの間に必ず接続する。
- 電源のノイズ除去と電圧安定化が目的。
- 一般的な値は 0.1µF(積層セラミック)。「104」と印字される。
- +15Vと0Vの間、−15Vと0Vの間にそれぞれ接続。
- 計算例(キャパシタの表記)
- 「104」と印字 → 10 × 10^4 pF = 100000 pF = 0.1 µF
【反転アンプの設計と信号源インピーダンスの影響】
- 基本式(理想状態)
反転アンプのゲインは次式で表される:
Vout = - (R2 / R1) * Vin ...(3)
ここで、
R1 = 入力抵抗
R2 = フィードバック抵抗
- 信号源の出力インピーダンス Zo を考慮した場合
入力側に出力インピーダンス Zo があると、実効入力抵抗は (R1 + Zo) となり、
Vout = - (R2 / (R1 + Zo)) * Vin ...(10)
つまり Zo が無視できないと、設計通りのゲインが得られない。
- 計算例
ゲイン10倍を目標にした場合:
R1 = 100Ω, R2 = 1kΩ の設計 → 理想的には
Vout = - (1000 / 100) * Vin = -10 Vin ...(11)
しかし Zo = 50Ω があると、
Vout = - (1000 / (100 + 50)) * Vin
= - (1000 / 150) * Vin
= -6.67 Vin ...(12)
となり、設計通りの10倍ではなく、約6.67倍に低下する。
- 設計のポイント
入力側の信号源インピーダンス Zo の影響を避けるには:
R1 >> Zo (少なくとも100倍以上)を満たすようにすること。
すなわち R1 > 100 * Zo ...(13)
もし条件が満たせない場合は、非反転アンプを使うことも有効。
- 応用例:電流入力・電圧出力アンプ
反転アンプは「電流入力 → 電圧出力」の変換に応用できる。
フォトダイオードを入力に用いると、光強度に比例した電流 Iin が流れ、
Vout = - R2 * Iin
の関係で電圧に変換できる。
例:
フォトダイオード入力電流 Iin を R2 = 200kΩ の抵抗で変換すると、
Iin = 10µA のとき、Vout = - 2.0 V となる。
【非反転アンプの特徴と設計ポイント】
- 基本式(理想状態)
非反転アンプのゲインは次式で表される:
Vout = (1 + R2 / R1) * Vin ...(A)
例:R1 = 20kΩ, R2 = 180kΩ の場合
Vout = (1 + 180k / 20k) * Vin = (1 + 9) * Vin = 10 Vin
- 特徴
- 入力インピーダンスが非常に高い(数GΩレベル)
- 信号源インピーダンス Zo の影響を受けにくい
- 微小な電流出力のセンサの信号増幅に適している
- 一方で、未接続にすると外部ノイズを拾いやすい
- 実験での測定(入力インピーダンス)
バイアス電流の変化を利用して入力インピーダンス Z_in を測定:
Z_in = ΔVin / (IB0 - IB10) ...(B)
例:
Vin を 0V → 10V に変化させたとき
IB0 = 18.0 nA, IB10 = 15.1 nA とすると、
Z_in = 10 V / (18.0 nA - 15.1 nA) ≈ 3.45 GΩ
→ 非常に高い入力インピーダンスであることが確認できる。
- 実用上の注意
- 未接続入力では AC100V などの商用ノイズを拾うことがある
- 入力端子に 100kΩ~1MΩ の抵抗(プルダウン抵抗 R3)を接続すると安定
- 過大入力保護には直列抵抗 R4 とダイオード D1・D2(1N4148 など)を利用
- 反転アンプとの比較
- 反転アンプ:入力インピーダンス = R1 → Zo が大きいとゲイン低下
- 非反転アンプ:入力インピーダンス ≫ Zo → ゲイン安定
- 微小信号やセンサ出力を扱うときは非反転アンプが有利
【OPアンプ回路における抵抗とオフセット電圧のまとめ】
- ゲインの決定
反転アンプ:
Vout = - (R2 / R1) * Vin ...(1)
非反転アンプ:
Vout = (1 + R2 / R1) * Vin ...(2)
→ 抵抗 R1, R2 の比率がゲインを決める
- 抵抗の誤差
・実際の抵抗は ±1%, ±0.5%, ±0.1% などの誤差を持つ
・誤差が大きいとゲインもズレる
例: ゲイン10倍の設計で ±1%抵抗を使うと誤差 ≈ ±0.24%
・推奨: 金属被膜抵抗 (metal film resistors, 誤差1%以下, TCR 50 ppm/℃)
- オフセット電圧 (offset voltage)
入力 Vin = 0V でも出力 Vout に直流電圧が出る現象
定義:
Voffset = Vout * R1 / (R1 + R2) ...(3)
例: R1 = 20kΩ, R2 = 180kΩ (ゲイン10倍)
Vout = 4.2 mV → Voffset = 0.42 mV
- オフセット電圧を含む出力電圧
反転アンプ:
Vout = - (R2 / R1) * Vin ± Voffset * (R1 + R2) / R1 ...(4)
非反転アンプ:
Vout = (1 + R2 / R1) * Vin ± Voffset * (1 + R2 / R1) ...(5)
- ゲインとオフセットの影響
例: Voffset = 0.42 mV の場合
ゲイン10倍 → 出力誤差 4.2 mV
ゲイン50倍 → 出力誤差 21 mV
ゲイン100倍 → 出力誤差 42 mV
→ ゲインが大きいほど誤差の影響も増大
- 高精度化の方法
(1) 高精度抵抗- ネットワーク抵抗 (SM, SLD, MUシリーズ)
- 誤差0.1%以下, TCR 5 ppm/℃以下
- R1, R2 の比を正確に維持できる
(2) 高精度OPアンプ
- 例: OPA2277PA (Texas Instruments)
- オフセット電圧最大 50 µV
- 温度変化 0.25 µV/℃
実験例:
入力 Vin = 0V → Vout = 0.1 mV
→ Voffset = 0.01 mV = 10 µV (非常に小さい)
【結論】
・通常用途 → 誤差1%の金属被膜抵抗で十分
・高精度用途 → ネットワーク抵抗 + 高精度OPアンプでゲイン誤差・オフセット誤差を最小化できる
【非反転アンプのゲインとオープン・ループ・ゲイン】
-
非反転アンプの理想ゲイン
Vout = (1 + R2 / R1) * Vin ...(1)→ 条件: OPアンプのオープン・ループ・ゲイン A が十分に大きい
→ すなわち 1/A ≈ 0 と見なせる
-
OPアンプのオープン・ループ・ゲイン (Open-loop gain A)
・NJM4558D (新日本無線) の例- 低周波 (10 Hz 以下): 約 105 dB ≈ 177,828 倍
- 3 kHz: 約 60 dB ≈ 1000 倍
- 50 kHz: 約 38 dB ≈ 79 倍
- 3 MHz 付近: 0 dB (利得 = 1)
→ 周波数が高くなるほどゲイン A は減少する
- 周波数による影響
- 低周波では A が十分大きいので「2本の抵抗で決まる理想ゲイン」が成立
- 100 kHz 以上になると A が小さくなり、位相遅れやゲイン低下が発生
- GBW (Gain Bandwidth Product) で性能の限界が決まる
NJM4558D: GBW ≈ 3 MHz
AD828AN (高速OPアンプ): GBW ≈ 200 MHz
-
設定ゲインと必要なオープン・ループ・ゲイン
・ゲイン = 10 倍のとき
必要な A ≧ 100 倍 (40 dB 以上)・ゲイン = 100 倍のとき
必要な A ≧ 1000 倍 (60 dB 以上)条件: (R1 / (R1 + R2)) >> 1/A
- 設計上の注意点
- 高ゲインを 1 段で実現すると周波数帯域が狭くなる
- 実用的には 20~30 倍以下にして、多段で構成するのが望ましい
- 高周波を扱う場合は GBW の大きい高速OPアンプを選ぶ
- 高精度を求める場合は抵抗誤差だけでなく OPアンプの A の周波数特性を確認する必要がある