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なぜ優秀なエンジニアほど、AIに対して真逆の体験を語るのか

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「AIで10倍速くなった」という話と、「70%は修正作業だった」という話が、同時に正しい理由

ここ最近、何度も同じ構図を目にするようになりました。

経験豊富なエンジニアが、「AIが自分の仕事をどう変えたか」を冷静に書く。煽りでもなく、未来予測でもなく、ただ実務で得られた生産性の話です。
するとその直後、同じくらい経験豊富なエンジニアたちから、「自分の現場ではまったくそうならない」という声が次々と集まる。

興味深いのは、どちらも的外れには見えないことです。両者とも、実在するシステム、現実の制約、実務の中での経験を語っています。それなのに、結論だけが正反対になる。

これは特定の誰かの主張に反論する記事ではありません。
なぜここまで体験が分かれるのか、その理由を整理してみたいと思います。

同時に成り立つ2つの事実

多くの議論は「AIが使えるかどうか」の話に見えますが、本質はそこではありません。

本当の争点は、どこで使えるのか、そしてどんな条件下で成立するのかです。

実際、次の2つは矛盾なく同時に成り立ちます。

  • 現代のAIは、ソフトウェア開発において実際にレバレッジを生む
  • そのレバレッジは不安定で、環境によっては簡単に消える

問題は、どちらか一方の体験を「普遍的な真実」として語ってしまうことです。

AIが本当に「効く」と感じられる場面

AIが明確に役立っていると語る人たちには、共通点があります。

  • システム全体をすでに深く理解している
  • タスクが局所的で切り出しやすい
  • ミスを見つけやすく、修正コストが低い
  • 意図を明確に言語化できる
  • フィードバックがすぐ返ってくる

こうした環境では、AIは「判断を代替する存在」ではなく、実行を加速する道具として機能します。

実際に聞く話としては、
数日かかると思っていたリファクタが半日で終わったとか、書くつもりだったテストを一気に生成させたとか、頭の中にあった設計案を複数パターン試した上で最終判断に使った、というようなものです。

ここでは人間が常に主導権を持ち、AIは補助に徹しています。その前提があるからこそ、成果は分かりやすく、「なぜ使わないのか分からない」という感覚にもなります。

気づかないうちに「コスト」になる場面

一方で、AIに懐疑的な人たちも、決して感情論で否定しているわけではありません。彼らが語るのは、別の種類の現場です。

  • 長年育てられてきた巨大なコードベース
  • コード外に暗黙知として存在する業務ロジック
  • 依存関係が強く、影響範囲が読みにくい
  • 正しさが「グレー」ではなく「白か黒か」で決まる
  • 障害の切り戻しや調査コストが高い

こうした環境では、AIは派手に失敗しません。むしろ厄介なのは、一見それっぽく動くコードを出してくることです。

実際、「AIが書いたコードを直す・検証する時間の方が長くなった」「7割くらいは生成結果の修正に費やしている」という話もあります。
小さな変更のつもりが、後から予想外の破綻を生む。そうなると、AIは加速装置ではなく、新しい監査対象になります。

この状況では、AIはレバレッジではなく、静かに増える負債に見えるのも自然です。

見落とされがちな変数:環境との相性

AIの議論では、モデル性能やプロンプト、ツールの話がよく出ます。それらも重要ですが、支配的な要因ではありません。

最も大きいのは、環境との相性です。

AIは、その置かれた環境の性質をそのまま増幅します。

  • 正解が曖昧な領域では、魔法のように見える
  • 正解が厳密な領域では、リスクとして現れる
  • 検証が安ければ、加速する
  • 検証が高ければ、減速する

この違いだけで、同じモデルを使っていても体験はまったく別物になります。
だからこそ、同じレベルのエンジニアが正反対の結論に至っても、不思議ではありません。

なぜこの議論は感情的になりやすいのか

この話題が荒れやすいのは、単なるツール論争ではないからです。

AIがうまく機能している人にとっては、「使わないこと」が遅れやリスクに見える。一方で、うまくいっていない人にとっては、「使い方が悪い」と言われること自体が現実を無視されているように感じられる。

ここでぶつかっているのは、生産性の話だけではありません。
これからどんな仕事が評価され、どんなスキルが価値を持ち続けるのかという不安も含まれています。

私が実際に思っていること

AIが過大評価されているとも思わないし、懐疑論が時代遅れだとも思いません。

AIはエンジニアリング判断を置き換えたのではなく、むしろシステムの境界や弱点をより露わにしました。構造・検証・速いフィードバックがある場所では、AIは確実に力を増幅します。そうでない場所では、もともと存在していた問題を拡大して見せるだけです。

本当の分断は、「AI推進派」と「反AI派」の間ではありません。
確率的なシステムを許容できる環境と、それを許さない環境の差です。

私自身、まだ答えが出ていない問いがあります。時間が経つにつれて、この差は縮まっていくのでしょうか。それとも、システムが大きく複雑になるほど、より顕著になるのでしょうか。
あなたの現場では、AIはレバレッジになりましたか。それとも、静かに外したくなるコストでしたか。

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