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水星逆行は相場を予測するのか?カレンダーラベルと市場不安定レジームで再検証してみた

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Last updated at Posted at 2026-05-22

水星逆行は相場を予測するのか?カレンダーラベルと市場不安定レジームで再検証してみた

Author: pyon
Independent market researcher
Volatility and regime analysis
X: @pyon


This is not an astrological trading strategy.
The purpose of this note is to examine how a popular calendar label can be decomposed into market instability regimes.

本稿は、水星逆行を占星術的な売買シグナルとして肯定するものではありません。

目的は、水星逆行というカレンダーラベルが、実際には市場の不安定レジームとどの程度重なっているのかを検証することです。


はじめに

水星逆行は、相場、テクノロジー、交通、コミュニケーションの混乱と結びつけて語られることがあります。

ただし、今回の関心は、

水星逆行が本当に相場を動かしているのか?

ではありません。

むしろ問いはこうです。

ランダムに近いアノマリーが、なぜ信じられるのか?

相場で大きなショックが起きたあと、人はその出来事に意味を探します。

「この時期は水星逆行だった」
「やっぱりあのカレンダーは効いていた」
「毎回この時期は荒れる」

こうした語りはよくあります。

しかし、それは本当にカレンダーが原因なのでしょうか。

それとも、市場がすでに不安定な状態にあったところへ、あとからカレンダーラベルが貼られているだけなのでしょうか。

この問いを検証するため、水星逆行を「占星術的な原因」ではなく、単なるカレンダーラベルとして扱いました。

そして、VIX、MOVE、金利、ドル、実現ボラティリティなどから市場状態ベクトルを作成し、MID、UMID、ShockSimilarity といった不安定レジーム指標と比較しました。


検証の考え方

単純に、

水星逆行中に株が上がるか下がるか

だけを見ると、かなり雑な検証になります。

実際、方向予測だけで見ると、水星逆行はほぼ 50/50 に近い結果でした。

そこで今回は、方向ではなく以下を見ました。

  • クラッシュ率
  • VIXスパイク率
  • 最大ドローダウン
  • ボラティリティ上昇
  • ランダムカレンダーとの比較
  • 市場不安定レジームとの重なり
  • ロジスティック回帰のAUC
  • ウォークフォワードAUC

つまり、水星逆行が「当たるか」ではなく、

水星逆行というラベルが、市場ストレスとどの程度重なって見えるのか

を検証します。


市場不安定レジームとは

各営業日の市場状態を、以下のような特徴量でベクトル化しました。

  • SPX 5日リターン
  • Nikkei 5日リターン
  • VIX水準
  • VIX 5日変化
  • MOVE水準
  • MOVE 5日変化
  • 米10年金利 5日変化
  • DXY 5日変化
  • USDJPY 5日変化
  • 20日実現ボラティリティ
  • 60日実現ボラティリティ
  • SKEW
  • 相関プロキシ

この市場状態ベクトルを標準化し、状態同士の距離を測ります。

そのうえで、直近一定期間に「似たような不安定状態」がどれだけ密集しているかを測る指標を作りました。

それが UMID です。

ざっくり言うと、

UMIDが高い = 市場が似たような不安定状態を繰り返している

というイメージです。

単発のショックではなく、似たような不安定状態が繰り返される局面を「不安定レジーム」として捉えます。


主要結果

auc_comparison.png

まず、水星逆行単独の予測力は強くありませんでした。

Model AUC
Calendar only 0.531
Regime only 0.696
Calendar + regime 0.699
Full interactions 0.700

水星逆行だけを使った Calendar only モデルの AUC は 0.531 でした。

これは、ほぼコイントスに近い結果です。

一方で、VIX、MOVE、金利、ドル、実現ボラティリティ、MID、UMID、ShockSimilarity などを使った Regime only モデルでは AUC が 0.696 まで上昇しました。

さらに、水星逆行をレジームモデルに追加しても AUC は 0.699 程度でした。

つまり、予測力の本体は水星逆行ではなく、市場不安定レジーム側にあると考えられます。


水星逆行中は本当に荒れやすいのか?

conditional_crash_frequency.png

条件付き確率を見ると、水星逆行中のクラッシュ率は通常期間よりやや高く出ました。

Condition Crash rate
Mercury retrograde 21.7%
Non-Mercury 16.0%
High UMID 24.2%
Low UMID 14.7%
Mercury × High UMID 32.6%
Mercury × Low UMID 18.3%

水星逆行中のクラッシュ率は 21.7%。
非水星逆行期間は 16.0%。

この差だけを見ると、水星逆行に何かありそうにも見えます。

しかし、高UMIDではクラッシュ率が 24.2%、低UMIDでは 14.7% でした。

つまり、水星逆行よりも、市場不安定レジームの方が大きな差を示しています。

さらに、水星逆行と高UMIDが重なった場合、クラッシュ率は 32.6% まで上がりました。

ただし、ここは慎重に見る必要があります。

ロジスティック回帰では、水星逆行とUMIDの交互作用項は安定して有意とは言えませんでした。

そのため、

水星逆行 × 高UMID は興味深い条件付きパターンだが、単独の売買シグナルではない

と解釈するのが妥当です。


ランダムカレンダーと比べる

random_calendar_percentiles.png

水星逆行期間が本当に特別なのかを確認するため、同じ長さ・同じ回数のランダムカレンダーを生成して比較しました。

Metric Mercury Random mean Percentile
Mean daily return -0.015% +0.041% 2.37%
Crash rate 21.7% 17.1% 91.69%
VIX spike rate 10.7% 8.3% 95.36%
UMID mean 0.0490 0.0500 43.52%
ShockSimilarity mean 0.2826 0.2842 38.82%

ここは少し面白い結果です。

水星逆行中のクラッシュ率やVIXスパイク率は、ランダムカレンダーより高めに出ています。

一方で、UMID平均やShockSimilarity平均は特別高くありません。

つまり、

水星逆行中の市場状態が常に不安定なわけではない。
しかし、結果としてクラッシュやVIXスパイクはやや多く観測されている。

という、やや微妙な結果になりました。

ここが「完全否定でも完全肯定でもない」面白い部分です。


なぜランダムに近いアノマリーが信じられるのか?

水星逆行単独の AUC は 0.531 でした。

これは予測モデルとしてはかなり弱く、ほぼコイントスに近い結果です。

では、なぜこうしたアノマリーは信じられるのでしょうか。

理由のひとつは、相場ショックが起きたあと、人はわかりやすい説明を探すからだと思います。

相場が大きく荒れると、本来は複数の要因が絡みます。

  • 金利
  • 為替
  • 政策イベント
  • ポジショニング
  • ボラティリティ
  • 流動性
  • 投資家心理

ただ、これらをすべて同時に理解するのは難しい。

そのため、あとから振り返ったときに、記憶に残りやすいラベルが使われます。

「水星逆行だった」
「満月だった」
「この季節は荒れる」
「このアノマリーは効く」

このようなカレンダーラベルは、原因というより、出来事を説明するための物語になりやすい。

今回の検証では、水星逆行そのものよりも、市場不安定レジームの方がクラッシュリスクをよく説明していました。

つまり、

星が相場を動かしたのではなく、市場が不安定だったところに、あとから星のラベルが貼られた

と考える方が自然です。


解釈:星ではなく、不安定レジームを見る

今回の結果から、水星逆行を売買シグナルとして使う根拠は弱いと考えます。

水星逆行単独の AUC は 0.531。
これはほぼコイントスです。

一方で、市場不安定レジームを使ったモデルは AUC 0.696 まで改善しました。

つまり、

星が相場を動かしている

というより、

市場が不安定になったあと、人間がカレンダーに意味を貼っている

と見る方が自然です。

相場が大きく荒れると、人は原因を探します。

金利、為替、政策、ポジショニング、ボラティリティ。
本来はいろいろな要因があります。

しかし、あとから振り返ると、わかりやすいラベルが記憶に残ります。

「水星逆行だった」
「満月だった」
「この季節は荒れる」
「このアノマリーは効く」

このように、ランダムに近いアノマリーでも、ショック後には意味が貼られやすい。

今回の検証は、その構造を市場不安定レジームの側から分解しようとしたものです。


結論

本稿では、水星逆行を占星術的な因果変数ではなく、カレンダーラベルとして扱いました。

結果は以下の通りです。

  • 水星逆行単独の予測力は弱い
  • 水星逆行中のクラッシュ率とVIXスパイク率はランダムカレンダー比でやや高い
  • しかし、説明力の本体は水星逆行ではなく、市場不安定レジーム指標にある
  • 特にUMIDなどの市場不安定レジーム指標は、クラッシュリスクをより強く説明する
  • 水星逆行は売買シグナルではなく、不安定市場に後付けで意味を与えるカレンダーラベルとして理解する方が妥当

一文でまとめると、

星が相場を動かすのではなく、人間がショック後に星へ意味を貼る。
その背後には、市場不安定レジームがある。

という結果でした。


Repository

分析結果、集計済みCSV、研究ノート v0.1 は以下の GitHub repository に置いています。

GitHub Research Note: Calendar Labels and Market Instability Regimes

Repository title:

Calendar Labels and Market Instability Regimes: A Case Study of Mercury Retrograde

Disclaimer

This article is for research and educational purposes only.
It is not investment advice.
It does not recommend any trading strategy based on Mercury retrograde or any other calendar label.

本記事は研究・教育目的のメモであり、投資助言ではありません。
水星逆行やその他のカレンダーラベルに基づく売買を推奨するものではありません。

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