12月7日、今年もG1のある日に予約しました空斎です。
本日はチャンピオンズカップ、年に2回しかない中央のダートG1です。レモンポップ引退で本命不在、アツいレースを期待したいですね。
それでは…
◎ダブルハートボンド
前走は不良の高速馬場とはいえコースレコードを叩き出す素晴らしい競馬をしました。ダート最強ジョッキー坂井瑠星を背に突き抜けろ!
◯ナルカミ
前走のジャパンダートクラシックは世界最強馬フォーエバーヤングの当時のタイムを上回って勝ち切りました。名前がかっこいい。
▲シックスペンス
逃げ馬多数で速い競馬になると予想される本レース、元芝馬として速い馬場への適応を期待したいところ。
#今日競馬理論
はじめに
「自然な〜」というのは数学の本を読んでいて度々目にする表現です。私はこの表現が苦手で、「数学はあれだけ丁寧に諸々を定義するのに"自然"をどういう意味で使っているのか定義してくれないのはおかしい」と目にするたびブチギレていました。
しかし、最近になってようやくニュアンスを掴めるようになった(気がする)のでそれについてまとめたいと思います。
結論から先に申し上げると 「人の手がなるべく加わっていない様」 というニュアンスです。
具体例〜自然な同型
「自然な〜」を最初に見るのは線形代数で出てくる自然な同型だと思います。
ベクトル空間$V$に対して双対空間$V^* $は$\mathbb{R}$への線型写像全体$Hom(V,\mathbb{R})$となります。
ベクトル空間と双対空間は$V\cong V^*$となっています。
<証明>
同型の構成(基底を使う)
-
基底と双対基底
$V$ の基底を
$$
{e_1, \dots, e_n}
$$
とする。
これに対し双対基底 ${e^1,\dots,e^n}$ を次の条件で定める:
$$
e^i(e_j) = \delta^i_j.
$$ -
同型写像の定義
任意のベクトル
$$
v = v^1 e_1 + \cdots + v^n e_n
$$
に対し、$\Phi(v)\in V^\ast$ を
$$
\Phi(v) = \sum_{i=1}^n v^i , e^i
$$
で定める。
すなわち、$\Phi(v)$ は任意の $x\in V$ に対し
$$
\Phi(v)(x) = \sum_{i=1}^n v^i, e^i(x)
$$
と作用する線型汎関数である。(ここで内積のようなものを定めた)
$\Phi$ が線型同型であることの証明
-
線型性
係数 $v^i$ の線型性より
$$
\Phi(v+w)=\Phi(v)+\Phi(w), \qquad
\Phi(\lambda v)=\lambda\Phi(v)
$$
が成り立つ。 -
単射性
$\Phi(v)=0$ とすると
$$
\sum_{i=1}^n v^i e^i = 0
$$
が双対基底におけるゼロ展開になる。双対基底は線型独立なので
$$
v^i = 0 \quad (\forall i)
$$
したがって $v=0$。よって $\Phi$ は単射。
3. 全射性
任意の $\varphi \in V^\ast$ に対し、基底 ${e_i}$ 上の値 $\varphi(e_i)$ が得られる。
そこで
$$
v = \sum_{i=1}^n \varphi(e_i), e_i
$$
とおくと、
$$
\Phi(v)
= \sum_{i=1}^n \varphi(e_i), e^i
= \varphi.
$$
よって $\Phi$ は全射。
結論
よって $\Phi$ は線型同型:
$$
\Phi : V \xrightarrow{\sim} V^\ast.
$$
この同型は基底の取り方によってしまうので自然な同型とはなりません。しかし、双対空間の双対空間をとると
$$V\cong V^{**}$$
となり、これは自然な同型となります。
それは、同型写像が以下のように構成されるためです。
$$
\iota : V \to V^{**}, \qquad
\iota(v)(\phi) = \phi(v) \quad (\phi \in V^*)
$$
つまり、$\iota$に$v$を入れると$V^*$の元から$\mathbb{R}$への線型汎函数を返すというものになっています。
これの構成には基底は出てこないのでこれは自然な同型となります。
つまり、同型写像の構成時に基底を取ると言う人間の操作が必要か否かがこの場合の自然かどうかと言うのを判定しています。
※これが線型同型写像であることの証明には確かに基底を用意して…みたいな議論が必要ですが、写像の構成そのものに基底が必要ないため自然な同型と言われます。
「自然」の定式化
圏論とは「関係を見る学問」です。自然は圏論の言葉で定式化されるので、ざっと圏についてさらっておきます。
圏論入門
圏 $\mathcal{C}$ は以下の要素からなります。
• 対象:$Ob(\mathcal{C})$
お気持ち:集合の一般化です。集合の公理を満たさないものまで拡張したい(例:集合の集合など)。
• 射
各 $A,B \in Ob(\mathcal{C})$ に対して $f:A\to B$ があり、以下を満たします。
• $A \to B$ の射 $f$ と、$B \to C$ の射 $g$ があるとき
$$
g\circ f : A \to C
$$
という合成射が定義されます。
• 任意の射
$$
f: A \to B,\qquad g: B\to C,\qquad h: C\to D
$$
について
$$
h\circ (g\circ f) = (h\circ g)\circ f
$$
が成り立ちます。
このときの $f\in \mathcal{C}(A,B)$ を $A$ から $B$ への射 といいます。
矢印の出ている元を ドメイン, 入っている先を コドメイン といいます。
お気持ち:写像の一般化です。写像では始集合全域から終集合へ対応している必要がありますが、射はその必要がありません。対象と対象の関係と理解すると良いです。
• 恒等射
各対象 $A$ に対し、恒等射 $id_A : A \to A$ が存在し、任意の射 $f: A\to B$ について
$$
id_B\circ f = f,\qquad f\circ id_A = f
$$
を満たします。
関手
圏と圏の 関係をつなぐ手のことです。
関係をつないでいてほしいので、次の性質を満たす必要があります。
圏 $\mathcal{A},\mathcal{B}$ があり、$F:\mathcal{A}\to\mathcal{B}$ が関手であるとは:
• $ob(\mathcal{A})\rightarrow ob(\mathcal{B})$ が $A\mapsto F(A)$ で定まります。
• 射 $f:A\to A’$ は $F(f):F(A)\to F(A’)$ へ移されます。
つまり
$$
F:\mathcal{A}(A,A’)\rightarrow \mathcal{B}(F(A),F(A’))
$$
です。
また $f\in\mathcal{A}(A,A’),\ g\in\mathcal{A}(A’,A’’)$ に対して
$$
F(g\circ f) = F(g)\circ F(f)
$$
を満たします。
さらに
$$
F(1_A) = 1_{F(A)}
$$
も満たします。
お気持ち:射について準同型写像みたいになってほしい。
つまり、関手は射と射の間の関係、射を対象と見たときの射と捉えることができます。
双対圏(反対圏)
圏 $\mathcal{A}$ において 射の矢印をひっくり返したもの を双対圏(反対圏)といい、$\mathcal{A}^{op}$ と書きます。
• 対象は元の圏と変わりません。
• ただし射の向きだけが反転します。
ここで注意すべきなのは、単に矢印をひっくり返したものであって、逆像を取っているわけではない という点です。
ドメインとコドメインの関係が逆転しただけのものが双対圏です。
双対圏 $\mathcal{A}^{op}$ から圏 $\mathcal{B}$ への関手を 反変関手 といいます。また、これに対応して元の関手を 共変関手 といいます。
これは物理における 反変ベクトル と対応している概念です。
反変ベクトルの変換(物理の復習)
基底変換は次のように書きます。
$$
e’_i = A_i^{\ j} e_j
$$
ここで $A$ が基底変換行列です。
ベクトルの同一性から、基底を変えても同じベクトル $v$ は
$$
v = v^i e_i = v’^i e’_i
$$
が成り立ちます。
基底変換式を代入すると
$$
v = v’^i A_i^{\ j} e_j
$$
となります。もともと
$$
v = v^j e_j
$$
ですから係数を比較して
$$
v^j = A_i^{\ j} v’^i
$$
を得ます。これが反変ベクトルの変換則です。
反変関手による記述
ベクトル空間の圏 $\mathcal{V}$ を考え、対象として
• 我々の住んでいる 3 次元空間 $\mathbb{R}^3_s$
• 反変的な物理量のベクトル空間 $\mathbb{R}^3_p$
を考えます。
このとき、反変関手
$$
F:\mathcal{V}^{op}\to\mathcal{V}
$$
がこれらを結びつけるものとなります。
まず対象は $F(\mathbb{R}^3_s)=\mathbb{R}^3_p$ ととります。
座標変換を射として
$$
A:\mathbb{R}^3_s\to\mathbb{R}^3_{s’}
$$
を考えます(ここで $F(\mathbb{R}^3_{s’})=\mathbb{R}^3_{p’}$ とします)。
すると物理量の空間は
$$
F(A):\mathbb{R}^3_{p’}\to \mathbb{R}^3_p
$$
という変換をします。
$F(A)=A$ と取ると、先ほど示した反変ベクトルの変換則を満たします。
共変の場合も同様に対応づきます。
反変関手の重要な性質
反変関手 $F$ は
$f\in\mathcal{A}(A,A’)$, $g\in\mathcal{A}(A’,A’’)$ に対して
$$
F(g\circ f)=F(f)\circ F(g)
$$
が成り立ちます。
これは射の向きが反転していることで、射の合成の順番がひっくり返っていることに由来します。
わからない方は図を書いてみることをおすすめします。
自然変換
自然変換がこの記事の主題である「自然」を数学的に定義するものです。
圏$\mathcal{A},\mathcal{B}$の間に関手$F,G:\mathcal{A}\rightarrow\mathcal{B}$があるとする。これらの間の自然変換$\theta:F\rightarrow G$とは$\mathcal{B}$の射の族$(\theta_A:F(A)\rightarrow G(A))_{\mathcal{A}\in A}$であって、任意の$\mathcal{A}$の射$f:A\rightarrow B$に関して

の図式が成り立つもの。
自然な~は自然変換になっているものを指します。
自然な同型を再考する
先ほど挙げた有限次元実ベクトル空間における自然な同型と自然変換の対応を考えていきます。
有限次元実ベクトル空間の圏$\mathcal{FinVect}_{\mathbb{R}}$(以下簡単のため$\mathcal{V}$と書く)は
•対象はベクトル空間$V\in\mathcal{V}$
•射は対象間の線型写像$f\in\mathcal{V}(V,W)$
•恒等射は恒等写像
からなります。
双対空間を取る関手は次のように構成されます
•対象は$F:V\longmapsto Hom(V,\mathbb{R})$に移る
•射$f:V\rightarrow W$は$Ff:W^* \rightarrow V^* $に移る。具体的には$\phi\in W^* $をとって来た時に
$$Ff(\phi)=\phi\circ f$$
となる。つまり、この関手は反変関手である。
この時、自然変換は$x\in V \in \mathcal{V}$に対して$\theta_V(x):V^* \rightarrow \mathcal{R}$ を
$$\phi\in V^*, \theta_V(x):\phi \mapsto \phi(x)$$
で定められます。
この自然変換は$\theta :id_{\mathcal{V}}\rightarrow FF^{op}$となっており、圏を変えないと言う関手から双対の双対を取ると言う関手への射となっています。
ここで、$F^{op}$は$F:\mathcal{V}^{op}\rightarrow\mathcal{V}$に対して、始対象終対象の圏について双対圏をとって$F^{op}:\mathcal{V}\rightarrow\mathcal{V}^{op}$としたものです。しかし、やってる操作は全く一緒でただ圏の矢印をひっくり返したものであまり深く考えずに元の$F$と同じものだと思って良いです。これを導入した気持ちは$F$を2回合成するために片方をopで導入したいというのがあります。$FF^{op}:\mathcal{V}\rightarrow\mathcal{V}^{op}\rightarrow\mathcal{V}$となり、合成した関手は共変関手になります。
$\theta$が自然変換というには以下の可換図式が成り立っていないといけません。
確かめてみましょう。
以上の可換図式は$FF^{op}f\circ\theta_V=\theta_W\circ f (:V\rightarrow W^{**})$が成り立ってないといけません。
$x\in V,\varphi\in W^*$に対して
$$FF^{op}f\circ\theta_V(x)(\varphi)=\theta_V(x) F^{op}f(\varphi)=\theta_V(x) (\varphi f)=\varphi f(x)$$
$$\theta_W\circ f(x)(\varphi)=\varphi f(x)$$
となり、確かに自然変換の要件を満たしています。先述の議論から$\theta$は同型なのでこの場合自然な同型となります。
先述の"手間"のニュアンスを盛り込むと、$FF^{op}f\circ\theta_V\circ f^{-1}=\theta_W$となる$\theta_W$をいちいち構成する手間が不要であるというのが自然な同型の気持ちとなります。同型が自然でない場合、上の図式を可換にするような変換は$\theta$を使って統一的に書くことはできません。
おわりに
私も圏論はまだ勉強中で、記事を書こうとすれば細かいところに気を配りながら勉強できるだろうとある種の圧力としてこの記事を書き始めました。
間違い等あれば@ psimonDemon(Xアカウント)までDMいただけると幸いです。
参考文献
ベーシック圏論 T.レンスター
壱大整域「自然変換、圏同値」 alg-d
