この記事は、電磁気学のお気持ちを理解することを目的としているため、一般的でない解釈や厳密性に欠ける議論を行っている部分が存在します。予めご了承ください。
考えたい電荷と考えたくない電荷
ある電荷の振る舞いについて考えたい時、その電荷が受ける影響にだけ着目して議論するというのは適当でしょうか?教科書で学ぶ古典力学において考えるほとんどの状況においては、これらに対する答えはYesだと言えるでしょう。物体の自由落下を考えるとき、物体が地球から受ける万有引力を考えることはあっても、地球が物体から受ける万有引力による影響を考えることはありません。これは、地球が受ける影響が物体が受ける影響に比べて非常に小さく無視できると仮定しているからです。この仮定は、質量の存在する空間が非常に集中していて、考えたい物体が与える影響が限りなく小さい状況では妥当で有用です。
しかし、電磁気学が考えたい状況は、一般的に、電荷が空間の至る所に存在していて、考えたい電荷が与える影響は無視できない状況であることが多いです。結果的に、電磁気学では、考えたい電荷によって影響を受ける、考えたくない電荷の振る舞いも一緒に考えなければならないということになります。
相互作用をどう考えるか
ところで、考えたくない電荷の振る舞いをどうして考えなければならないのでしょうか?前章では、考えたくない電荷が影響を受けると述べましたが、単に考えたくない電荷が一方的に影響を受けるだけなら、それは考えたい電荷が関知するところではありません。これを考える必要性は、考えたくない電荷が影響を受けたことで、考えたくない電荷が考えたい電荷に与える影響も変化するからです。以上の理由から、電磁気学では、電荷が受ける影響と電荷が与える影響の両方向の影響を、すなわち、電荷間の相互作用を考えていくことになります。
それでは、相互作用はどのように考えれば良いのでしょうか?電荷密度の回でも軽く言及しましたが、考えたいのは空間中に連続的に分布する電荷間の相互作用です。この点で、離散的な質点系のモデルは相性が良くありません。また、シミュレーション上の観点からも、大量の点電荷の相互作用を時間変化させながら見ていくのは非効率です。鍵となるのは、電荷が受ける影響と電荷が与える影響を分けて考えるという発想です。
電荷密度は電界から影響を受ける
電荷密度の回でも述べたように、点に対して定義される量で有意義なのは電荷密度です。以降は、電荷密度間の相互作用という表現を用い、これを考えていくことにします(電荷間の相互作用は、これらを適切な積分区間で積分することで得られます)。前章では、電荷が受ける影響と電荷が与える影響を分けるというキーワードを提示しました。本章からは、電荷密度が受ける影響と電荷密度が与える影響を考えます。
ある点の電荷密度が影響を与える可能性があるのは、空間上のどの領域にある電荷密度でしょうか?電荷密度が存在しない点には当然影響を与えませんが、逆に言えば、電荷密度が存在すれば、空間中の全ての領域はこの電荷密度の影響を受ける可能性があります。より正確には、影響を与えている点の電荷密度自身はその影響を受けないため、その点を除く空間中の全ての領域の電荷密度に影響を与える可能性があります。
この理屈を逆に用いると、ある点の電荷密度はどの領域にある電荷密度から影響を受ける可能性があるかがわかります。要するに、影響を受ける電荷が存在する点以外の全ての領域にある電荷密度から影響を受ける可能性があります。従って、複数の(基本的には無限に多くの)電荷密度から影響を受けるわけですが、ありがたいことにこれらの影響は重ね合わせの原理が成り立ちます。重ね合わせの原理とは、「電荷密度が複数の電荷密度から影響を受けるとき、その影響は個々の電荷密度から受ける影響の線形和になる」という原理です。
ところで、電荷に関するCoulombの法則によれば、2つの電荷の間に働く力は電荷に比例し距離の2乗に反比例します。この電荷の大きさに比例するというのが、上述した線形和と相性がよく、予めある点に存在する電荷が空間に与える影響を考えておけば、実際にある点に電荷が存在する時に受ける影響は、その個々の影響の和と電荷の積として表すことができます。これは、電荷密度に置き換えても同じ話です。ある点の電荷密度が空間に与える影響(電荷密度に与える影響ではなく)を空間全体に亘って考えることにより、実際にある点に電荷密度が配置されたときの振る舞いをこの影響のマップに従って考えることができます。これは電界と呼ばれます。
考えたい電荷密度からは、電界から影響を受けているように見えています。考えたい電荷密度が与える影響によって、考えたくない電荷密度が変化した場合、それによって生じる考えたい電荷密度の影響の変化は、電界の変化として認識されます。重要なのは、考えたい電荷密度からは影響の原因が隠蔽されているという点です。考えたい電荷密度からしてみれば、考えたくない電荷密度による影響に興味があるのであって、考えたくない電荷密度の電荷分布には興味がありません。極端な話、全く同じ影響を及ぼす2つの異なる考えたくない電荷密度の電荷分布は、考えたい電荷密度からしてみれば同じように扱いたいわけです。電界はその要請を満たすインターフェースとして作用していると考えられます。