前回の『量子化学入門 Roothaan SCF計算(続報)』の続報2です。
SCF計算の非経験的な解法(ab initio 法)でプログラムに組み込むために、解法ページ(2.4)のMyLibraryのガウス型への変更を、少し試行してみました。一方、半経験的な解法でのプログラムは前々回の『量子化学入門 Roothaan SCF計算』です。
非経験的な解法のガウス型関数を具体的に次のように置きます。
φ_{A1}φ_{A1} = φ_{P1} = cαe^{-αr_{A1}^2} \\
φ_{B2}φ_{B2} = φ_{Q2} = c'α'e^{-α'r_{B2}^2}
\iintφ_{A1}φ_{A1}\frac{1}{r_{12}}φ_{B2}φ_{B2} \, dτ_1dτ_2
= \iintφ_{P1}\frac{1}{r_{12}}φ_{Q2} \, dτ_1dτ_2 = \\
\intφ_{Q2}\left(\intφ_{P1}\frac{1}{r_{12}}dτ_1\right) \, dτ_2 = I
J=\intφ_{P1}\frac{1}{r_{12}}dτ_1
ここで、$c,,α,,c’,,α’,$は定数です。そして$α>0,,α’>0$。$r_{A1}$は核Aと電子1の距離、$r_{B2}$は核Bと電子2の距離、$r_{12}$は電子1と電子2の距離です。この3個は変数です。そして$r_{A1}>0,,r_{B2}>0,,r_{12}>0$。
最初に、この$J$、電子1の積分を求めます。まずガウス型関数P1を代入します。
φ_{A1}φ_{A1} = φ_{P1} = cαe^{-αr_{A1}^2} \\
J=\int cαe^{-αr_{A1}^2}\frac{1}{r_{12}}dτ_1
$r_{A1}, r_{12}$を代入します。解法ページ(2.4)の座標系A1をそのまま使えます(この座標系A1では$r_{A2}$を定数と置くことが1つのポイントです)。
r_{A1}=(coshμ_1-cosν_1)\frac{r_{A2}}{2} \\
r_{12}=(coshμ_1+cosν_1)\frac{r_{A2}}{2} \\
J=cα\int e^{-\frac{1}{4}αr_{A2}^2(coshμ_1-cosν_1)^2}\frac{1}{(coshμ_1+cosν_1)\frac{r_{A2}}{2}}dτ_1
体積素片$,dτ_1,$を代入します。
dτ_1=(\frac{r_{A2}}{2})^3sinhμ_1sinν_1(cosh^2μ_1-cos^2ν_1) \, dμ_1dν_1dφ_1 \\
J=cα\int_0^{2π} \int_0^π \int_0^∞ e^{-\frac{1}{4}αr_{A2}^2(coshμ_1-cosν_1)^2}\frac{1}{(coshμ_1+cosν_1)\frac{r_{A2}}{2}} \\
(\frac{r_{A2}}{2})^3sinhμ_1sinν_1(cosh^2μ_1-cos^2ν_1) \, dμ_1dν_1dφ_1
整理すると
J= \\
\frac{1}{4}cαr_{A2}^2\int_0^{2π} \int_0^π \int_0^∞ e^{-\frac{1}{4}αr_{A2}^2(coshμ_1-cosν_1)^2}
sinhμ_1sinν_1(coshμ_1-cosν_1) \, dμ_1dν_1dφ_1
ここでβを置きます。
β= \frac{1}{4}αr_{A2}^2 \,\,(\,> 0)\\
J= \\
cβ\int_0^{2π} \int_0^π \int_0^∞ e^{-β(coshμ_1-cosν_1)^2}
sinhμ_1sinν_1(coshμ_1-cosν_1) \, dμ_1dν_1dφ_1
変数$ν_1$だけの積分を分けると
J= \\
cβ\int_0^{2π} dφ_1\int_0^∞ sinhμ_1 \left\{\int_0^π e^{-β(coshμ_1-cosν_1)^2}sinν_1(coshμ_1-cosν_1) \, dν_1\right\} dμ_1
変数$ν_1$だけの積分を求めます。
\int_0^π e^{-β(coshμ_1-cosν_1)^2}sinν_1(coshμ_1-cosν_1) \, dν_1
この0からπの積分は、数少ない不定積分が可能なガウス型関数の1つです。指数部分を微分してみると求まります。
\int e^{-β(coshμ-cosν)^2}sinν(coshμ-cosν) \, dν \\
=-\frac{1}{2β}e^{-β(coshμ-cosν)^2}+C
0からπの定積分は
\int_0^π e^{-β(coshμ_1-cosν_1)^2}sinν_1(coshμ_1-cosν_1) \, dν_1 \\
=-\frac{1}{2β} \left[ e^{-β(coshμ_1-cosν_1)^2} \right]_0^π \\
=-\frac{1}{2β} \left( e^{-β(coshμ_1+1)^2}-e^{-β(coshμ_1-1)^2}\right)
変数$ν_1$だけの積分結果を、元の式に代入すると
J=2πcβ \int_0^∞ sinhμ_1 \left\{ -\frac{1}{2β} \left( e^{-β(coshμ_1+1)^2}-e^{-β(coshμ_1-1)^2}\right) \right\} dμ_1 \\
整理して次の$,J,$が得られます。
J =-πc \int_0^∞ sinhμ_1 \left\{ e^{-β(coshμ_1+1)^2}-e^{-β(coshμ_1-1)^2} \right\} dμ_1
さらに色々と試行してみます。
J \\
=-πc \int_0^∞ sinhμ_1 \left\{ e^{-β(cosh^2μ_1+2coshμ_1+1)}-e^{-β(cosh^2μ_1-2coshμ_1+1)} \right\} dμ_1 \\
=πc \int_0^∞ sinhμ_1 \left\{ e^{-βcosh^2μ_1}e^{2βcoshμ_1}e^{-β}-e^{-βcosh^2μ_1}e^{-2βcoshμ_1}e^{-β} \right\} dμ_1 \\
=2πce^{-β} \int_0^∞ e^{-βcosh^2μ_1} \left\{ \frac{e^{2βcoshμ_1}-e^{-2βcoshμ_1}}{2} \right\} sinhμ_1 \, dμ_1 \\
sinhχ=\frac{e^{χ}-e^{-χ}}{2}
さらに hyperbolic関数 $sinh,χ$ を考えると、$J$は次のようにも書き換えられます。
J =2πce^{-β} \int_0^∞ e^{-βcosh^2μ_1} sinh(2βcoshμ_1) sinhμ_1 \, dμ_1
積分部分だけを求めます。
\int_0^∞ e^{-βcosh^2μ} sinh(2βcoshμ) sinhμ \, dμ
さらに$ξ=coshμ$と置くと、$dξ=sinhμ , dμ$
\int e^{-βξ^2} sinh(2βξ) \, dξ \\
難解になってきました・・・・
以上、ガウス型で少し試行しました。スレーター型で解いてある解法ページ(2.4)は、よく知られた解であり、解に間違いはありません。しかし hyperbolic関数で解いてあるのは初めて見ました。それゆえ解法ページ(2.4)のMyLibraryをガウス型に変更するのは難解です。非経験的な解法のプログラムに組み込みたかったのですが。
※ 追記
シンプルに、$ξ=coshμ ,$と置き、$dξ=sinhμ , dμ,$を代入して、
J = -πc \int_0^∞ sinhμ_1 \left\{ e^{-β(coshμ_1+1)^2}-e^{-β(coshμ_1-1)^2} \right\} dμ_1 \\
=-πc \int e^{-β(ξ+1)^2} dξ +πc \int e^{-β(ξ-1)^2} dξ.
不定積分できないガウス積分ですが、区間を分けてガウス関数を数値積分すると解けそうです。
電子2の積分:
\intφ_{Q2}\left( \frac{a}{\sqrt{β}} \right) \, dτ_2 =
\intφ_{Q2}\left( \frac{a}{\sqrt{\frac{1}{4}αr_{A2}^2}} \right) \, dτ_2 \\
= \frac{2a}{\sqrt{α}} \intφ_{Q2} \frac{1}{r_{A2}} \, dτ_2 \\
(a:constant)
括弧内は数値積分で得られる数値です( $β$ をある区間の数値として係数補正)。解法ページ(2.4)の電子1の座標系 A1では$r{A2}$は定数として扱うことができましたが、電子2の座標系 Original 2 では$r{A2}$は変数です。電子2の積分は、解法ページ(2.4)の下側の座標系 Original 2 ($r_{AB}$定数)を使います。まずガウス型関数Q2を代入します。__
φ_{B2}φ_{B2} = φ_{Q2} = c'α'e^{-α'r_{B2}^2}
そして座標系 Original 2 の $r{A2},,r{B2}$ さらに$,dτ_2,$を代入します。簡単なガウス関数の積分になります。__
突然ですが、このシリーズは今回で最終回です。短い間でしたが、最後までご覧いただきありがとうございました。