0. はじめに
本記事では、最近ちょっとずつ耳にする機会が増えた IOWN について、IOWNがどういったものなのか、IOWNの実現によって世界がどのように変わるのかといったところに触れていきたいと思います。
1. 本記事執筆のきっかけ
弊社では、2025年よりIOWNを推進する非営利団体であるIOWN Global Forumのメンバー企業となりました。IOWN Global Forumは本記事執筆時点で世界中の150以上の企業や団体が加入している大規模な団体となっています。
私自身、このころまではIOWNというワードに対して、「ニュースや大阪万博のNTTパビリオンでの出展などで聞いたことがあるな」というくらいで、実際にどういうものかはあまりわかっていませんでした。最近ようやく自分の中でもIOWNについての整理ができてきたので、書き起こしてみようと思った次第です。
※ まだまだ勉強中ですので、記事の内容で間違っているところがあれば、ぜひコメントなどでご指摘ください。
2. 「IOWN」とは何者か?
IOWNは、Innovative Optical and Wireless Networkの頭文字をとった言葉です。直訳すると「革新的な光無線ネットワーク」ですが、その正体はNTTが提唱する「次世代通信のインフラ構想」です。私も過去に誤解していたところですが、IOWNという言葉そのものは技術を指す言葉ではなく、IOWN構想というような言われ方をします。
イメージとしては、IOWN=これからのインフラ設備の在り方といったところでしょうか?
IOWNのOがOpticalのOである通り、IOWNでは光の技術に着目して開発が進められています。
また、IOWNのNはNetworkのNですが、IOWNはインフラ全体に関する構想であるため、技術的なターゲットはネットワークだけではありません。そのため、IOWN構想はコンピューティングのレイヤも対象としたものになっています。
3. IOWNが掲げる3つの数値目標
NTTが公開しているIOWNの性能目標は、以下の3つのインパクトに集約されます。
| 特徴 | 目標値 | 主なメリット |
|---|---|---|
| 超低消費電力 | 電力効率:100倍 | データセンターの省エネ、端末の長時間駆動 |
| 大容量・高品質 | 伝送容量:125倍 | 4K/8K映像の非圧縮リアルタイム伝送 |
| 低遅延 | 遅延:1/200 | リモート手術、自動運転、eスポーツの公平性 |
上記の目標値のうち、エンドユーザにとって最も嬉しいのは低遅延ではないでしょうか。今日ではWeb会議やゲームのインターネット対戦など、オンラインで世界中の人とつながるのは当たり前になりましたが、やはりどうしても遅延が気になる場面はまだまだあると思います。
例えば、対面の会議であれば発信のタイミングをうかがうのはそれほど難しくないですが、オンラインの会議では、相手が話し終えたと思って口を開いた瞬間に、遅れて届いた相手の続きと声が重なって「あ、どうぞ」「すみません」といった言葉が挟まり、会話のテンポが乱れてしまうことがあります。
IOWNが実現した世界では、オンライン会議でも対面の会議に近い感覚でシームレスに通信することができ、オンライン会議の品質が上がっていくのではないかという期待ができます。
また、低消費電力も見逃せないIOWNの特徴でしょう。
昨今、GPUを用いたAI処理の急激な増加により、特にデータセンターでの電力需要が右肩上がりに増えています。ガートナーによると、データセンターの電力消費量は、2030年までに2倍になるとの見通しが出ているようです。
最近ではワット・ビット連携をキーワードに、政府主導でインフラと通信の整備が進められていますが、この中でもIOWNは重要な要素になっているようで、IOWNを活用したワット・ビット連携技術の標準化に向けた検討が始まっています。
4. IOWNを構成する技術
ここまではIOWNの概要的な話が中心でした。ここからは、壮大なIOWN構想を実現するための構成技術がどういうものかを見ていきます。
IOWNは主に下記の3つの技術要素から構成されます。
- APN
- Cognitive Foundation
- Digital Twin Computing
これらの技術を活用したイメージをNTTが公開しています。

画像引用:https://group.ntt/jp/group/iown/function/
4.1 ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクスベースの技術を導入する 「APN」
APNはAll Photonics Networkの略で、IOWNで最も重要な技術です。先ほどあげたIOWNの特徴を実現する役割のの多くを担っています。
Pの文字がPhotonicsを示している通り、APNは「通信経路上をすべて光で一気通貫に通信する技術」です。IOWNでは既存の通信から電気的な処理をなくした光ベースの通信への転換を目指しており、APNがそれを支えています。
APNによってもたらされる最も大きなメリットは通信遅延の減少です。現在の世界では、通信経路の途中で光⇄電気の変換が発生してしまいます。この変換により、現在の通信ではどうしても遅延が発生してしまうのですが、APNではこれを一切行わないというのが大きな特徴です。

図引用:https://journal.ntt.co.jp/article/20608
4.2 あらゆるものをつなぎ、その制御を実現する「Cognitive Foundation」
Cognitive Foundationは、APIを介してさまざまな事業者と接続し、あらゆるICTリソースの配置や構成などの全体最適化を行うマルチオーケストレータです。これにより、必要な情報をネットワーク内に流通させることや、システム自身が自律的に進化していくことを目指しています。
従来のICTリソースは、アプリケーションやソリューションごとにサイロ化されており、個別に最適化が必要でしたが、コグニティブファウンデーションでは、マルチドメイン・マルチレイヤ・マルチサービス/ベンダ環境における迅速なICTリソースの配備と構成の最適化、さらには、完全自動化・自律化、そして自己進化といったところを目指しているようです。
参考:https://group.ntt/jp/group/iown/function/cf.html
4.3 実世界とデジタル世界の掛け合わせによる未来予測などを実現する「Digital Twin Computing」
Digital Twin Computingは、サイバー空間上でリアルタイムかつ大規模なシミュレーションを行うことにより、未来を予測します。このシミュレーションに用いるデータはヒトによるものだけではありません。モノや社会などの高精度なデジタルデータも活用することで、高精度の未来予測や、高度なコミュニケーションの実現を目指します。
現在検討されているものとしては、実世界に存在するすべてのクルマの位置情報をデジタル世界で管理・制御できるようになると、障害物情報や渋滞原因を特定し、事故や渋滞を未然に防ぐ取り組みなどがあります。
参考:https://group.ntt/jp/group/iown/function/dtc.html
4.4 物理レイヤの電気から光への移行を実現する「光電融合」
さきほどはIOWNは主に3つの技術要素から構成されると記載しましたが、もう一つ重要な技術があります。それがこの光電融合です。光電融合は、チップ上で電気と光の処理を融合した次世代の半導体技術です(PEC:Photonics-Electronics Convergenceや、光電融合デバイス技術などと呼ばれることもあります)。
ではなぜこの光電融合が必要なのでしょうか?
ネットワークだけが光の技術によって高速化しても、デバイスが既存と同じ電気変換を行っていては、デバイス内部での電気処理が新たなボトルネックとなってしまいます。IOWNで目指す通信の在り方は、極限まで電気による処理を行わないことで高速・大容量・低遅延な通信を目指しているため、デバイス側も小型でより効率的に光と電気を相互変換できる必要があるのです。
参考:https://journal.ntt.co.jp/article/37949
5. IOWNのロードマップ
IOWNはかなり計画的に進められており、どの時期に何を実現するかという具体的なロードマップをNTTが公開しています。

画像引用:https://www.rd.ntt/forum/2024/keynote_2.html
上図の通り、IOWNのマイルストーンは、IOWN1.0 ~ IOWN4.0までの4つに分かれています。
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IOWN1.0は主にネットワーキングの領域を対象としています。具体的には、APNによるデータセンター(DC)間の通信の光化を目指していきます。
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IOWN2.0以降はコンピューティングの領域を対象としています。こちらでは、IOWN2.0から順にコンピュータのボード → パッケージ → ダイとより小さな領域に光の技術の導入を進めていきます。
(私はハードの面にはかなり疎いのでこれらの詳細は割愛しますが、下記の記事を見るとパッケージやダイのイメージがつかみやすいかと思います。)
https://chips-gadgets.jp/technology/cpu/structure
各フェーズでの光化の箇所がよりわかりやすく書かれている図として、以下のようなものも公開されています。

画像引用:https://www.soumu.go.jp/main_content/000980595.pdf
6. IOWNのユースケース
IOWN(特にAPN)を活用したユースケースとして以下のようなものが検討されています。
- 放送業界におけるリモートプロダクション
- リモート重機操作
- 製造や物流拠点のリモート運用
- 医療分野での取り組み
- 金融機関における活用
- APNを活用したデータセンターの分散/相互接続
参考:
https://journal.ntt.co.jp/article/33813
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2024/0823/
https://group.ntt/jp/group/iown/cases.html
上記のようなユースケースの実現性を確認するために、既にIOWN APNが商用サービスとしてNTTグループから提供され始めています。
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NTTドコモビジネス:
https://www.ntt.com/business/lp/nttdocomobusiness/iown.html -
NTT東西:
https://business.ntt-east.co.jp/content/iown/feature/
https://business.ntt-west.co.jp/service/network/iown/
7. 結局IOWNの実現によって何がどう変わるのか
これまで見てきたとおり、IOWNが実現した世界では、情報の流れに用いられる主要技術が電気から光に移行します。高速な光の通信により、通信はより快適になり、これまではできなかった遠隔での手術や工場点検などが実現し、働き方に物理的な距離という制約がなくなっていくでしょう。
また、消費電力が抑制されることで、持続可能な社会の実現に一歩近づく可能性が高そうです。今日の私たちにとって欠かせない通信や情報機器のベースが光へ置き換わることによる効果は計り知れないでしょう。
8. おわりに
本記事では、最近より注目度を増しつつあるIOWNについて、概要やIOWNを支える技術、今後のIOWNのマイルストーンなどを中心に記載しました。
IOWNへの注目度や、IOWNの実現によって人にも環境にも優しい世界が実現するのではないかという期待が日に日に高まっているように感じます。IOWNはマイルストーンに示されているように、徐々に積み上げていくものなので生成AIのときのように一気に潮流が変わるような感じではないかもしれませんが、ゲームチェンジャーとなり得る日本発の技術として、注目していきたいですね。
IOWNに関する情報は以下のようなところで広く公開されていますので、本記事以上にIOWNへの理解を深めたい方はぜひご参考ください。