2019年3月にオープンした「雑食系エンジニアサロン」という有料オンラインサロンの参加者様が、立ち上げから4ヶ月ほどで1,200名様を突破いたしました。
プログラミング初学者の方、または既にエンジニアとしてご活躍されている方向けの有料オンラインサロンとしては国内最大規模、また全ジャンルを通じた日本の有料オンラインサロンランキングでも、参加者様のご人数的には現在おそらくベスト5にランクインしていると思われます。
こちらのスライドでも述べさせて頂いた通り、今後エンジニア向けのオンラインサロンやギルド的なグループはどんどん立ち上がっていくと予測しておりますが、一応その分野で先行してそれなりの成果を出した人間の責務かなということで、後に続く方たちのために私がこの数ヶ月間で学んだ知見をシェアさせて頂きたいと思います。
そもそもオンラインサロンとはなにか
オンラインサロンといっても特別なものではなく、例えばFacebookのグループとか、懐かしいところだとmixiのコミュニティとか、そういったオンラインコミュニティと基本的には同じ種類のものです。
大きく異なるのは「主催者の思想がかなり色濃く反映される」こと、および「サロン内でやりとりされる情報は全て秘密厳守」が原則の、プライベートなコミュニティであるという点になるでしょうか。
分類としては、人によって色々な分け方があるとは思いますが、私の観点では下記の4種類になります。
- ファンクラブ型
- 西野亮廣エンタメ研究所
- 堀江貴文イノベーション大学校
- アニキ リゾートライフ
- メルマガ型
- 西野亮廣エンタメ研究所
- 樺沢塾 精神科医の仕事塾
- プロジェクトチーム型
- 堀江貴文イノベーション大学校
- 箕輪編集室
- Q&A型
- NO LIMIT
- 雑食系エンジニアサロン
「ファンクラブ型」は、主催者の熱狂的なファンの方たちが、主催者の方との繋がりを求めたり主催者を支援することが大きな目的になっているサロン、「メルマガ型」は、例えば西野さんのサロンのように主催者の方が1日に1回かなり長文の文章等を投稿されて、参加者の方はそちらを見て学んだり色々なコメントをしたりして楽しむことが目的となっているサロン、「プロジェクトチーム型」は、例えば箕輪さんのサロンのように、書籍の作成やプロモーション活動等の様々なプロジェクトに参加することが主要な目的になっているサロン、そして「Q&A型」は、主催者や参加者の方たちのナレッジのシェアが主要なコンテンツになっているサロン、ということになります。
オンラインサロンが注目されている理由
有名人の方が主催されているサロン自体は珍しいものではなく以前から存在していましたし、私も数年ほど前に勝間和代さんのビジネスサロンに参加させて頂いていた時期がありましたが、現在のようにオンラインサロンがこれだけ注目を集めるようになった最大の理由は、なんといってもキングコング西野さんのオンラインサロンが参加者数万名超えという規格外の規模に成長したことだと思います。
西野さんの非常に巧みなプロモーション戦略により、オンラインサロンがワイドショーでも取り上げられるほどの、ある意味で「社会現象」ともいえるレベルの注目度になり、それまでは「料金も年齢層もやや高めのビジネス層向け少人数コミュニティ」という印象だったオンラインサロンが、一気に「一般化」「カジュアル化」「若年層化」したというのが私の見立てです。(実際、雑食系エンジニアサロンには大学生の方も多数ご参加されています)
また、SlackやDiscord等のチャットツールや、PayPal等の決済サービスが進化して「プログラミング無しで誰でもオンラインコミュニティを自前で構築できるようになった」ことも、オンラインサロンという文化が発展している大きな理由の一つだと思われます。
雑食系エンジニアサロンとはなにか
- Q&A型に分類されます。
- エンジニアが「技術資産」「人的資産」「錯覚資産」「信用資産」を効率よく蓄積すること、および蓄えた資産の効率良い換金方法を楽しく追求していくことが主要なテーマです。
- 一言で言えば「エンジニアの互助会」です。
- Slackを使ったオンラインのコミュニケーションが中心です。その他隔月の交流会やもくもく会等を開催しています。
- 初学者の方のポートフォリオのレビューや問題点の指摘等も行っています。
- 「心理的安全」を非常に重視しているため、サロン内での誹謗中傷、威圧的な言動、上から目線の言動、マナーやエチケットに欠ける言動、雰囲気を悪くする言動、セクハラやパワハラに該当する言動、その他あらゆる「心理的安全を阻害する言動」は全て運営サイドが厳密に取り締まっています。
雑食系エンジニアサロンが支持されている理由
オンラインサロン自体が大きな注目を集めている時期だったこと、そして私が「テック系YouTuber」として良くも悪くも既にある程度の知名度とアテンションを獲得していたこともそれなりに大きな理由だと思いますが、最大の要因は
- SIer業界とWeb業界の両方で幅広い開発経験があり、派遣社員/契約社員/正社員/フリーランス/無職等あらゆる就業形態を経験し、従業員数名の小規模企業からメガベンチャーまで大小様々な企業での豊富な勤務経験があり、幅広い人脈を持ち、エンジニアのキャリアに関する知見が豊富で、モダンな技術にもしっかりキャッチアップしていて、様々な質問に対して企業や技術コミュニティに忖度することなく、エンジニア個人の利益を第一に考えて、期待値と再現性の高い客観的かつオーダーメイドのアドバイスをすることができる、メンター的な存在のニーズは元々強かったが、その役割に私がぴったりハマったこと
だと自己分析しております。
特に現状のプログラミング初学者界隈は「マルチの勧誘」や「情報商材系の方」や「業務未経験者をとにかくSES系企業に送り込もうとする転職エージェントさん」等の「魑魅魍魎が跋扈している」という状況であり、情報も玉石混交で「誰の発信している情報が信頼性が高いのか初学者の方が判断するのは難しい」という状況のため、私のようなタイプの発信者と、そのアドバイスに対するニーズが非常に高い状況になっている、ということもあると思います。
オンラインサロン運営で得た知見
まだわずか4ヶ月ほどの運営期間ではありますが、その間の色々な試行錯誤によりある程度の知見が溜まってきましたので、そちらに関してご説明したいと思います。
Q&A型だけでは大きなスケールは難しい
雑食系エンジニアサロンは今まさにこのフェーズですが、主催者がアクティブに情報を発信したり積極的に質問に回答すればするほど、サロン参加者の方たちは高速に学習されますので、Q&Aだけだと「自分に必要なことはもう十分学んだ」ということで退会者の方も増えてきますので、サロンの成長は頭打ちになります。
つまり、Q&A型のオンラインサロンは「主催者の知見や経験の上限がそのままサロンのスケールの上限」になってしまう、ということになります。
エンジニア向けのオンラインサロンは、ほとんどの場合まずはQ&A型で立ち上げることになると思いますが、サロンを成長させ続けて、参加者の方に長期的にバリューを提供していくためには、主催者の属人性に依存せずに、Q&A以外の価値を提供することがいずれ必須になることを前提として準備しておく必要があると思われます。(雑食系エンジニアサロンがこの問題にどう向き合おうとしているかは後述します)
初学者の方と中級者以上の方のニーズは明確に異なる
エンジニアとして既に中級レベル以上の方たちは、技術的問題点はほぼご自身で調査して解決できるので、技術的なQ&Aに関してはそれほど強いニーズはなく「ある程度経験を積んだエンジニア同士で直接繋がりたい(人的資産を構築したい)」というニーズが非常に強いという傾向があります。(サロン内アンケートでもこちらに関するご要望が非常に多かったです)
そのため、私のサロンでは、中級以上の方たちのニーズへの対応として「Web系エンジニア経験1年以上の方たち限定のもくもく会」を開始する等の施策を開始して、こういったニーズへの対応に着手しています。
リソースの少ない段階であらゆる方たちのニーズを満たそうとするのは大抵の場合悪手だと思いますが、ご人数的にある程度ボリュームのある要望に関しては、バランス良く対応していくのが望ましいと現段階では考えております。
CampfireやDMM等のオンラインサロンプラットフォームを使う必要はない
例えば「箕輪編集室」はCampfire、「堀江貴文イノベーション大学校」はDMMをプラットフォームとして使用していますが、エンジニア向けオンラインサロンの場合、それらのプラットフォームを使用する必要はほぼ無いと考えて差し支えないと思います。
決済機能はPayPalで十分ですし、Slackを使う場合はユーザの入退会管理もそれほど大きな手間ではないですし、「CampfireやDMM等で面白いオンラインサロンを探している」方と「エンジニア向けオンラインコミュニティを探している方」は恐らくほとんど被っていないため、プラットフォーム上のレコメンド機能等もあまりマッチングに繋がらないと思われますので、各プラットフォームの手数料は明らかに割高という印象です。(もしSlackの入退会管理等も完璧にやってくれるのであればプラットフォームを使うのもありかなとは思いますが)
YouTubeは集客チャネルとして非常に優秀
サロン内アンケートでも「勝又さんのYouTube動画を観て初めてサロンの存在を知り入会しました」という方が非常に多かったのですが、YouTubeは「ストック型」であり「レコメンド機能の精度がかなり高い」ので、良質な動画を定期的にアップし続けていれば、プログラミングやエンジニアに関する情報をYouTubeで色々観ている方との「セレンディピティ」が発生する可能性がそこそこ高いので、ある程度の流入が継続的に見込めます。
Twitterやブログ等での集客ももちろん可能だとは思いますが、現状において最も強力な集客プラットフォームはYouTubeであると考えて差し支えないのではないかと思います。
雑食系エンジニアサロンの今後のプラン
今までの知見や反省を踏まえて、今後は「Q&A型」だけではなく「メルマガ型」や「プロジェクトチーム型」の要素を実験的に取り入れていく予定です。(つまり運営サイドからの投稿を増やし、サロン内でよりカジュアルにタスクの受発注が発生するような仕組みを作っていく予定です)
テスト的に運営している「求人・求職」機能もさらに強化して、将来的には
- Web系エンジニアになること
- Web系エンジニアとしてキャリアの軸足を確立すること
- 良質な人脈を構築すること
- 良質な仕事や案件を獲得すること
これらを包括的に支援できる「Web系エンジニアのキャリア形成プラットフォーム」として進化させていきたいと考えております。
また、現状だとサービスのバリューが私の属人性にかなり強く依存しており、私が単一障害点になってしまっているため、サービスの継続性の観点からも「個人開発」から「チーム開発」的な方向に移行して、いずれは私が主催者から外れても参加者の方たちに問題なくバリューを提供し続けられる体制を構築していく予定です。
エンジニア向け有料オンラインサロン主催者に向いている方
エンジニア向けのオンラインコミュニティを主催する上では、ある程度の実務経験や技術力は当然必須ですが、それだけではサービスを維持発展させることは難しいというのが私の見解です。
最低限下記のような特徴が必要になると思われます。
アウトプットおたくの方
キングコング西野さんが典型例ですが、TwitterでもYouTubeでもブログでも、アウトプットすることが生活の一部になっているような人でないと、継続的な集客とサロンの成長の維持は難しいと思います。
YouTubeを集客チャネルにする場合ですと、例えばノルマとして週に最低2本の良質なYouTube動画を必ずアップするような生活を強制されることになると思いますし、Q&A型でサロンを立ち上げた場合は、サロン内の千差万別の質問に色々頭をひねって平日休日問わず回答し続ける必要がありますので、そういった覚悟は必要になると思われます。
改善おたくの方
オンラインサロンは結局のところ「ユーザと非常に距離が近いという特徴があるだけの普通のWebサービス」であり、特に初期は個人開発者がアプリを作っているのと本質的には同じなので、ユーザの声を聞いて様々な仮説を立てて地道に改善を繰り返す作業がグロースには必須となります。
初学者の方たちからの初歩的な質問に回答さえしていれば毎月一定額が振り込まれるから楽そうだなみたいに思って改善を怠ってしまう方だと、かなり早い段階でサービスの成長が頭打ちになると思いますので、持続的な成長を維持していくのは難しいと思われます。
批判に強い方
オンラインサロン自体が「怪しい」というイメージがあることに加えて、サロンを辞めていった方たちからの批判や不満や悪口は必ずある程度発生します。
特に、これはキングコング西野さんもブログで仰っておられましたが、サロン内で主催者とある程度近い関係にあった方が、あまりポジティブでない事情で退会した場合、Twitter等のSNSにおいてかなりの高確率で「ネガティブキャンペーン」を行うという傾向があります。
主催者に対する期待や親近感が裏返るとそういうことになってしまうのかなと思いますが、これは不可避ですしコントロールできることでもないので、そこはもう諦めるしかないでしょう。
一般的なWebサービスにおける批判は「サービスの機能に対する批判」がメインですが、オンラインサロンの初期フェーズでは「主催者自身がサービス」なので、上記のようなネガキャンも含めて主催者個人の人格や考え方に対する批判がかなり多くなるということになりますが、こういった種類の批判に慣れている人でないとメンタル的には厳しいかもしれません。
まとめ
エンジニア向けのオンラインコミュニティに対するニーズは今後も高まり続けると思いますが、そういったコミュニティを主催して維持し続けられるような経験やスキルやパーソナリティやメンタリティを持っている方は残念ながらそれほど多くないというのが私の印象ではあります。
先日も、友人のデータサイエンティストの村上智之さんが立ち上げた「データラーニングギルド」というオンラインコミュニティのキックオフイベントで登壇させて頂いたのですが、「ソーシャルグッド」な動機でITやエンジニアに関係するコミュニティを立ち上げて、それをビジネスとしてしっかり成長させていきたいという方は前述のようにかなり希少ということもあり、私としてもなるべく協力したいと考えておりますので、そういう方はTwitter等でお気軽にご一報頂ければと思います。