はじめに
2018年の西日本豪雨災害では、広島県だけで75名の死亡者が出るなどの甚大な被害が出た。広島県では高齢者の逃げ遅れが問題として、どういうメッセージを県民に届けるべきか、行動経済学・社会心理学・防災等の専門家チームに研究を依頼した。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/249/kenkyuu.html
研究の成果として、「『助け出す』ことより『連れ出す』ことをまず考える」と書かれたポスターが、県内のあちらこちらに貼られている。我が家の近くのスーパーにも貼ってある。

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/207/doshasaigaikeihatsuposter.html
このチームの研究成果は「豪雨災害時の早期避難促進ナッジ」という論文にまとめられている。いろいろなメッセージを試した結果、「あなたが避難すると、人の命を救えます(利得フレーム)」よりも、「あなたが避難しないと、人の命を危険にさらします(損失フレーム)」という表現の方が、より強い避難意図を促すことが明らかになった。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/20j015.pdf
検証内容
さて、この結果をLLMを使ってGoogle Colabで検証してみた。
まずはGoogle ColabのAIに、論文の調査項目を放り込んで実装させた。
準備が出来た所で、エージェントを200名作成し、それぞれのエージェントに対して設定を自然文で付与した。避難が面倒くさいことも示唆した上で、LLM(Gemini 3.5 Flash)に対してこの人物が避難するかどうかを尋ね、結果を集計するというシミュレーションを実施した。エージェント1名につき、1円程度の課金が必要。ソースコードは記事の末尾に付ける。
さて、結果を見るとこうなった。通常、避難のために家を離れる人なら1%いるかいないかだ。模範的過ぎるにもほどがある。
| メッセージ | 避難所避難 | 避難所外避難 | 自宅の中の安全な場所 | 避難しない |
|---|---|---|---|---|
| A | 24.2 | 6.1 | 60.6 | 9.1 |
| B | 35.3 | 8.8 | 50.0 | 5.9 |
| C | 28.1 | 9.4 | 50.0 | 12.5 |
| D | 15.2 | 6.1 | 45.5 | 33.3 |
| E | 21.2 | 9.1 | 54.5 | 15.2 |
| F | 5.7 | 2.9 | 71.4 | 20.0 |
メッセージを示すアルファベットは、以下のメッセージを示す。
A.これまで豪雨時に避難勧告で避難した人は,まわりの人が避難していたから避難したという人がほとんどでした。あなたが避難することは人の命を救うことになります。
B. これまで豪雨時に避難勧告で避難した人は,まわりの人が避難していたから避難したという人がほとんどでした。あなたが避難しないと人の命を危険にさらすことになります。
C.豪雨で避難勧告が発令された際には、早めに避難することが必要です。どうしても自宅に残りたい場合は、命の危険性があるので、万一のために身元確認ができるものを身につけてください。
D.豪雨で避難勧告が発令された際に避難場所に避難すれば、食料や毛布など確保できます。
E.豪雨で避難勧告が発令された際に避難場所に避難しないと、食料や毛布などが確保できない可能性があります。
F.毎年、6 月始め頃の梅雨入りから秋にかけて、梅雨前線や台風などの影響により、多くの雨が降ります。広島県でもこれまでに、山や急な斜面が崩れる土砂崩れなどの災害が発生しています。大雨がもたらす被害について知り、危険が迫った時には、正しく判断して行動できる力をつけ、災害から命を守りましょう。
検証結果まとめ
ざっくりまとめると、
・脅しはある程度効く(c)
・人への迷惑を示唆すると良い(A,B)が、人の命を救える(A)というより、人の命を危険に晒す(B)メッセージの方が効く
・避難しないデメリットは効くが、避難するメリットは逆効果(D,E)
ということだ。
広島県の依頼した研究チームの結論も、Bが最も良いということで、この実験結果と一致した。
検証に用いたプロンプト
以下の論文をoTreeを用いて追試したい。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/20j015.pdf
まずLLMを用いて200人分のペルソナを生成する。
ランダムに割り付けたA/B/C/D/E/Fの介入メッセージのうちいずれか一つはを自治体から受け取ったとき、
それぞれのペルソナが、以下の1, 2, 3, 4のうちいずれを選ぶか、LLMに回答させる。
- 質問内容: 避難勧告が出された場合にどのような行動をとるか(避難意思)を以下の4択等で質問。
- 避難場所へ避難しようと思う
- 避難場所や自宅以外の安全な場所へ避難しようと思う
- 自宅の中の安全な場所へ避難しようと思う
- 避難しない(逃げない)
-
介入メッセージ:
ランダムに割り振られた6種類(A〜F)の避難促進メッセージのいずれかを読ませる。
A.
これまで豪雨時に避難勧告で避難した人は,まわりの人が避難していたから避難したという人がほとんどでした。あなたが避難することは人の命を救うことになります。
B.
これまで豪雨時に避難勧告で避難した人は,まわりの人が避難していたから避難したという人がほとんどでした。あなたが避難しないと人の命を危険にさらすことになります。
C.豪雨で避難勧告が発令された際には、早めに避難することが必要です。どうしても自宅に残りたい場合は、命の危険性があるので、万一のために身元確認ができるものを身につけてください。
D.
豪雨で避難勧告が発令された際に避難場所に避難すれば、食料や毛布など確保できます。
E.
豪雨で避難勧告が発令された際に避難場所に避難しないと、食料や毛布などが確保できない可能性があります。
F.
毎年、6 月始め頃の梅雨入りから秋にかけて、梅雨前線や台風などの影響により、多くの雨が降ります。広島県でもこれまでに、山や急な斜面が崩れる土砂崩れなどの災害が発生しています。大雨がもたらす被害について知り、危険が迫った時には、正しく判断して行動できる力をつけ、災害から命を守りましょう
ペルソナの属性は、以下の通りである。
1. メッセージと仮想災害下での避難意思
- 提示された状況: 豪雨が発生した仮想的な状況を設定。全員に同じ状況を設定する。
2. 防災行動・防災知識
- 防災に関する日頃の知識や確認行動(避難場所や避難経路の確認など)。
- 過去の避難訓練への参加経験。
- 過去の避難情報の確認経験。
3. 個人の経験・行動傾向
-
被災経験: 過去に自然災害で被災したことがあるか。
-
避難の呼びかけ経験:
-
過去に他者へ避難を呼びかけたことがあるか。
-
地域住民や消防などから過去に避難を呼びかけられたことがあるか。
-
行動の先延ばし傾向: 以下の4つの質問に対して4段階で回答。
-
何事も早めの行動を心がけている
-
いつも計画を立てたとおりに行動する
-
明日に伸ばしても大丈夫なことは明日する
-
計画を立てても、ずるずると先延ばしにしてしまう
4. 信頼・地域関係
- 信頼度: 地方自治体(県・市町村)、消防、地域住民に対する信頼度(4段階評価)。
- 地域活動:
- 自治会・町内会への加入状況。
- 地域住民との付き合いの有無。
- 地域の防災活動の活発さ(5段階評価)。
5. 個人属性および世帯・住宅環境
- 個人属性: 性別、年齢、世帯年収、最終学歴(高卒以下/専門・短大卒/大卒/大学院卒)。
- 世帯状況: 世帯人数、同居人の属性(高齢者、病人・障がい者、未就学児、ペットの有無)。
- 住宅環境: 住宅構造(木造・鉄骨等)、建築年(耐震基準に関連)、住んでいる階数、居住年数。