『エンジニア育成現場の「失敗」集めてみた』という本を読みました。
新人教育に携わる立場となったことで、どのようにすれば新人のやる気を削がず、いろいろなことを身に着けてもらえるか考える必要が出てきたので読んでみました。
この本は「新人研修で失敗」、「OJTで失敗」、「チーム編成で失敗」、「評価に失敗」、「コミュニケーションで失敗」、「採用で失敗」の章に分かれ、それぞれの失敗事例と対応策を紹介しています。今回は私が新人研修に携わる立場なので、「新人研修で失敗」の章を読んでわかったことをまとめました。
新人育成で失敗しないために
プロジェクトに新人が配属されると、多くの現場で似たような課題が発生します。人手不足の中で、教育よりも目の前のタスクが優先されるためです。その結果、新人は十分な指導を受けられず、組織にとって長期的な損失につながる場合があります。
新人のキャリアプランを軽視しない
多くのプロジェクトは常に一定の負荷を抱えています。そのせいで、新人が配属されると「とりあえず手伝ってほしい」という形で雑務や補助作業を任せ、その後放置してしまう……となると最悪です。新人は思い描いたキャリアを実現することができず、やる気を失います。
プロジェクト計画に教育工数を組み込んでいなければ教育そのものが後回しになります。
一方、教育工数を確保していたとしてもプロジェクトに課題や遅延が発生すると指導時間が削られやすくなります。
どちらにしてもプロジェクト都合を優先して教育を後回しにすると、新人は知識やスキルを獲得できず、モチベーションが低下します。結果として、新人の成長の停滞や離職につながってしまいます。
この問題を避けるために、まず配属前に簡単にでも新人のキャリアプランを確認しておくことが必要です。
例えば、
- 3年後、どのようなエンジニアになりたいか
- 5年後、どのような役割を担いたいか
- 10年後、どのようなキャリアを描いているか
といった内容を本人から聞き出し、その方向性につながる業務を割り当てます。
次に、プロジェクトでも育成計画や新人のキャリアプランを前提としてスケジュールを立てる必要があります。この本では場合によってはリリース計画の見直しも検討すべきとされています。
新人の受け入れは短期的にはプロジェクトのペースを鈍化させます。しかし、適切な育成によって将来の戦力を育てられれば組織全体としては長い目で見てプラスになります。
報連相は「機会」と「心理的安全性」がなければ機能しない
報連相の重要性は多くの人が知っていると思いますが、実際にはうまく機能しないことがあります。
理由には
- 相談する機会がない
- 心理的安全性がない
といったことが挙げられます。
定期的な相談の機会を作る
新人にとっていきなり先輩や上司へ相談を投げることは心理的なハードルが高いものです。
そのため
- 朝会
- 夕会
- 1on1
- 進捗確認ミーティング
といった定期的に話ができる場を設けることが重要です。相談のタイミングが明確になることで、問題を抱え込むリスクを減らせます。
心理的安全性を確保する
心理的安全性とは「対人関係のリスクを取っても不利益を受けないという認識がチーム内で共有されている状態」を指します。
新人から相談を受けた際には
- 相談してくれたことへの感謝を伝える
- 作業の手を止めて向き合って話を聞く
- 内容をメモする
- 相談内容に対して適切なアクションを取る
といった「話をちゃんと聞いています」、「対応する意思があります」と相談に対して報いる対応が必要です。
新人がプロジェクトに入るとその対応で自分の作業に割り込みが入り、忙しくなるかもしれません。しかし、新人教育とはそういうものであり、忙しい状況だからといって相談対応を雑にしてしまうと新人は「相談しても意味がない」と認識し、もう二度と相談してくれなくなります。
また、心理的安全性の確保にはリーダーや教育担当者自身が失敗や課題を共有することも効果的です。失敗が共有される文化があるとメンバーも安心して報告しやすくなります。
無意味な雑務を作らない
新人に任せられる仕事がないからといって目的のない雑務を大量に与えるべきではありません。
新人受け入れ時には教育のためにベテランの工数が減少します。しかし、プロジェクトが逼迫しているほど教育に時間を割く余裕がなくなります。
その結果、新人を
- 放置はできない
- 指導する時間もない
という状況になり、「とりあえずやること」として雑務を与えてしまうことがあります。
もちろん雑務にも価値はあります。しかし、それだけでは成長実感を得ることができなくなります。
配属前から研修内容や学習計画を準備して新人にどのような業務を任せるのか決め、業務を通じて新人が自身の強みを発揮できる環境を整える必要があります。
優先順位の付け方を教える
業務量は多くの場合個人のキャパシティーを上回ります。
そのため、すべてを100%完璧にこなそうとするのではなく、優先順位を判断する方法を教えることが重要です。
代表的な判断方法として、重要度と緊急度の2軸による分類があります。
| 緊急 | 緊急ではない | |
|---|---|---|
| 重要 | 最優先で対応する | 計画的に進める |
| 重要ではない | 相談し必要性を検討する | 相談し必要性を検討する |
新人にはまず
緊急かつ重要な業務
を最優先に対応するよう指導します。
それ以外の業務に関しては相談し、一緒に優先順位を考えるようにします。
100%ではなく60%で一度提出するよう指導する
新人に業務を依頼する際は必ず以下を明確にします。
- 業務の目的
- 完了条件(受け入れ基準)
そのうえで「100%完成してから提出」ではなく「60%程度で一度レビューを受ける」ことを指導するのが良いです。
業務は個人で完結するものではなく、関係者との認識合わせを通じて完成度を高めていくものです。自分だけの基準で100%を目指すよりも、途中段階で方向性を確認して完成度を高めていく方が効率的です。
プロジェクトのルールを文書化する
新人教育を属人的に行うと、教える人によって内容にばらつきが生じます。
そのためプロジェクト運営に関するドキュメントを整備しておくことが重要です。
たとえば
- プロジェクトの基本ルール
- 各メンバーの担当領域
- レビューの進め方
- バージョン管理システムの運用ルール
- コミットコメントの記載ルール
- 障害発生時の対応手順
などをまとめておくと効果的です。
これらが整理されていると教育コストを削減できるだけでなく、チーム全体の認識も統一できます。
PDCAは宿題ではなく改善点を見つけるための仕組みだと伝える
新人にはPDCAサイクルの実践を促したいところです。
しかし、PDCAを単なる宿題として扱うと形骸化しやすくなります。
新人は
- ダメ出しされるのではないか
- 評価が下がるのではないか
と考え、当たり障りのない内容を書いてしまうことがあります。
PDCAは完璧内容でなくても良いことを事前に伝え、フィードバックの際には問題点を責めるのではなく、
改善点を発見できたこと自体を評価する
ことが重要です。
PDCAは評価のためではなく、学習のためのツールとして扱うべきです。
新人を問題や変化から遠ざけない
問題発生や仕様変更、スケジュール遅延などを新人から遠ざけるケースがあります(新人に対して気を遣ったり、まだ新人には荷が重いと考えたりして)。
しかし、それでは問題解決のプロセスを学ぶ機会を失ってしまいます。
実際のプロジェクトでは
- 仕様変更
- 障害発生
- 顧客要件の変化
- スケジュール遅延
といった出来事がしばしば発生すると思います。
重要なのはこれらにどのように対応するかです。
進捗会議などの場では新人も含めて状況を共有し、OODAループフレームワークなどを使った問題解決の流れを見せて学べるようにするべきです。
OODAループフレームワーク
変化への対応力を高めるためのフレームワークとして、OODAループがあります。
- 観察(Observe)
- 状況判断(Orient)
- 意思決定(Decide)
- 実行(Act)
の4ステップで構成されます。
フレームワークの実践の流れは以下のようになります。
- 進捗会議でメンバーそれぞれが観察情報(=現状、Observe)を共有
- 質問によって追加の観察情報(Observe)を引き出し、状況判断(Orient)を促進
- 意思決定(Decide)を行い、実行(Act)に導く
新人にもこの流れを体験してもらうことで、問題解決の方法を学んでもらうことができます。
まとめ
新人育成には以下のことが重要です。
- キャリアプランに基づいた業務設計
- 適切な機会と心理的安全性を確保した、報連相を促進する仕組みづくり
- 雑務だけではない成長につながる業務の計画・提供
- 完璧を求めず一緒に完成度を高める
- ドキュメント整備
- PDCAを用いた継続的な改善フィードバック
- 問題解決プロセスへの参加
これらを意識することで、新人のやる気を高めつつ、戦力として活躍してもらうことができるようになります。