「根回し」という言葉からどのような印象を持つでしょうか?
- 裏で話をつける行為
- 日本企業的で、アジャイルに合わないもの
- 透明性を損なうやり方
こんなふうに思う人もいるかもしれません。
ステークホルダーを味方につけるには?
2025年の XP祭りで、
「ステークホルダーを味方につけるにはどうしたら良いか?」
という問いをテーマにした作詞ワークショップを行いました。
参加者は、プロダクト開発やアジャイル導入、組織改善の現場で、ステークホルダーとの関係性に悩んでいる人たちです。議論を重ねた結果、かなり率直な結論として出てきたのが、次の一言でした。
ステークホルダーとうまくやるには
事前の根回しが大事
呼ばれてない会議に参加させてもらえないか打診する、ちょっとした時間で良いので飲食を共にすることが大事だ、という意見も出ていました。
私自身、根回しという言葉への透明性のなさからくる嫌悪感を感じていたことを思い出しました。
根回しはよくないことなのでしょうか?無駄なのでしょうか?
様々な文献に触れる中で根回しは組織をアジャイルにするため必要なものだと感じたので、今回まとめます。
根回しという言葉の由来
「根回し」は、もともと 庭づくり・造園の用語でした。大きな木を別の場所に移植する際、いきなり掘り起こすと根が傷み、枯れてしまいます。
そのため、周囲の土を掘り、太い根を切り、新しい細い根を育てる、という準備を、数か月かけて行います。この作業を「根回し」と呼びます。目的はとてもシンプルで、 大きな変化に耐えられる状態を、事前につくること でした。この意味が転じて、人や組織における 事前の調整や準備 を指す言葉として使われるようになりました。
Fearless Changeの「根回し」
組織変革の文脈でよく参照される本
Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン にも根回しというパターンランゲージが存在しています。
この本は、 組織に変化を入れようとしたとき、人はどこで抵抗し、どんな働きかけがうまくいきやすいのかが記されています。
根回し(Corridor Politics)
書籍の中で「根回し」と訳されているパターンがCorridor Politics です。
Corridor Politics は、次のような行為を指します。
- 会議や正式な意思決定の前に
- 廊下・ランチ・1on1 などの非公式な場で
- キーパーソンや関係者と話し
- 懸念や前提をすり合わせておく
ポイントは、公開の場で誰かを驚かさないことだと理解しています。
公式の場でいきなり提案を出すと、反発が出る、感情的な議論になる、決まるものも決まらないということが起きやすい、という現実を前提にしています。
Corridor Politics は、裏で決めるための政治ではなく、公開の議論を成立させるための準備として位置づけられていました。
スクラムと「上ロジ」
スクラムやアジャイルでは、
チーム内部の透明性や自己組織化が重視されます。
一方で、ScrumFest Mikawa 2024のkeynoteにて平鍋健児さんは、「上ロジ」と「下ロジ」を繋げることの重要性を語っています。
上ロジとは、
- なぜそれをやっているのか
- 何を価値と考えているのか
- どんな判断基準で意思決定しているのか
といった、チームの外側にある前提や論理です。
スクラムガイドはチーム内部の運営については詳しく書かれていますが、スクラムチームの外側の人と前提をどう揃えるかについては、あまり触れられていません。
その結果、チームは透明にやっているつもり、でも外側からは理解されない、という状況に陥ることがあるかもしれません。
上ロジを揃える行為としての根回し
経営層やステークホルダーが、何に不安を感じているのか、どこで前提がズレているのかを事前に聞きに行き、ギャップを埋めに行く。これは、結論を押し付けるための操作ではなく上ロジを揃えるための対話です。
この行為は、Fearless Change の Corridor Politics や、語源的な意味での根回しと、かなり近い位置にあります。
結論:関係者を驚かせない健全な根回しをしよう
以前の私は、透明性を重視するなら非公式な対話はよくないことのように考えていたと思います。
しかし今は、関係者を驚かさないようにし、公開の場で円滑に意思決定し、チームの外側と前提を揃えるために、事前の対話(根回し)が重要と考えています。
根回しは、裏で決めるための悪い慣習ではなく意思決定を成立させるための準備行為です。
チームの外側の理解が得られない可能性を感じたとき、まずは非公式に話をしに行く。
その意味での根回しは、悪ではなく、アジャイルを現実の組織で成立させるための実務的な技術なのではないでしょうか。