はじめに
こんにちは。物理学科3年の みうら です。気づけばもう12月ですね1。Aセメ(後期)はSセメ(前期)ほど忙しくないなぁと思っていましたが、気づけばSセメより忙しくなっていました2。
今日は宇宙班の紹介をしようと思います3。
宇宙物理学とは
班の紹介の前に「宇宙物理学とは何か」についてお話しします4。
宇宙物理学とは名前の通り宇宙を対象として、そこで起こる現象を物理的手法で研究する分野です。このように「〇〇物理学」という分野は他にもあり、〇〇という対象を物理的な視点で研究する場合にこのような名前がつくようです5。以前、大栗博司先生の「探究する精神 職業としての基礎科学」(幻冬舎新書)を読んだのですが、そこには次のように書かれていました。
...江戸時代の蘭学者たちはオランダ語の「フィジカ」を「窮理学」と訳していたそうです。この訳語は、自然界の現象の背後にある原理を窮めることで現象を理解するという物理学の目標をうまく捉えていました。
生物学が生命現象を、化学が物質の構造や反応を、天文学が天体を研究対象とする「対象の学問」なのに対し、物理学は研究の方法に特徴がある「方法の学問」なのです。
これを読めば、よくありがちな「天文学と宇宙物理学は何が違うの?」という質問にある程度答えられると思います。天文学の一部として、その「方法」としての宇宙物理学ですね6。
宇宙物理学は対象が宇宙だ、とは言いましたが、一口に宇宙といってもいろいろあります。具体的な話については、五月祭を楽しみにしていてほしいです、と書いて具体的な話は全くしないつもりだったのですが、他の班の紹介を見ていて流石に少しは書かなくてはと思い、ほんの少しだけ私が興味ある中性子星について書こうと思います。
中性子星とは、質量が大きい星(初期質量 $8~M_\odot$以上7)の進化の最後、超新星爆発で生まれる天体です。名前の通り中性子が主成分で、中性子の縮退圧と核力によって支えられています。典型的な半径は $10\sim15~ \mathrm{km}$ で、質量は $1.4~M_\odot$ 程度です。東京駅から東京ディズニーリゾート8までの直線距離が $12~\mathrm{km}$ 程度ですし、琵琶湖の面積が $670~\mathrm{km^2}$ で、これを円形と仮定したときの半径が $14~\mathrm{km}$ 程度です。これだけ小さい半径で地球の約47万倍の質量をもっているというわけです。すごいですね。
中性子星は重力が強いので、相対論的効果を考慮した、TOV方程式
$$\frac{dp}{dr}+(\rho+p/c^2)\frac{G}{r^2}\left(M(r)+\frac{4\pi r^3p}{c^2}\right)\frac{1}{1-\frac{2GM(r)}{c^2r}}=0$$
を用います。星の表面$~(p=0,~r=R)$を考えても、相対論的な効果 $M/R$ が残ります。これはコンパクトネスという量で、星の物質としての固さ(状態方程式)で決まる量です。これが重力 = 時空の曲がり具合を決めていることが上の式から分かります。よって観測によって半径と質量が求められれば、逆に状態方程式が得られます。
すでに述べたように中性子星は重力が強いので、星の裏側の表面から出た光が重力場の効果で回り込みます。同じ質量でも、コンパクトネス $M/R$ が大きい方が回り込みが強くなります。この原理に加え他の効果を組み合わせることによって、星の裏側表面のホットスポットからのX線放射のパルス波形からコンパクトネスを測定することができます。
質量と半径あるいはその間の関係を測定する方法は他にもありますが、このように観測から状態方程式を制限する、ということが行われています。
あくまで私も勉強中ですので、上で述べたことに間違いがあるかも知れません。そのときは教えてください。
宇宙班について
宇宙班では、宇宙物理学に興味をもった学生同士で集まってゼミをしています。つい先日、今年の3月に読み始めた教科書がめでたく終わりました9。今後は各々が興味をもったこと10について勉強し、進捗を報告したり疑問点を共有して一緒に解決したりする、という方針になっています。2年生もたくさん加入してくれたので、五月祭で一緒に活動するのが楽しみです。
おわりに
アドベントカレンダーはクリスマスに関連した行事ですが、クリスマスとは(一般に)ロマンティックなものだと認識しているので、少しロマンティックな話をして終わりにしましょう。
みなさんは「インターステラー」11という映画を見たことはあるでしょうか。なければ是非見てみてください。今は便利な時代なので、各種配信サービスで見られると思います。私はこの映画が好きで、宇宙物理学が難しくて辛い時に見るとやる気を取り戻させてくれます。
雑に紹介すると、これは地球外に移住できる星を探すというお話しなのですが、あるシーンに次のような言葉が登場します。
...love isn't something that we invented. It's observable, powerful. (愛は人間が発明したものじゃないわ。愛は観測可能な力よ。)
この言葉がどのようなシーンで登場するのかは大きめなネタバレになってしまうので教えられませんが、物理学者がこのようなロマンティックなことを(それも物理っぽく)言ったことに驚いたとともに、それほどに愛というものは大きいものなんだなぁと思い、お気に入りのシーンになりました。
締めに大変ふさわしい話でしたね。今日はここまでです。明日以降もアドベントカレンダーをお楽しみください。
参考文献
[1] 「探究する精神 職業としての基礎科学」 大栗博司 幻冬舎新書
[2] 「宇宙物理学:星・銀河・宇宙論」 高原文郎 (朝倉書店, 2015)
[3] 「解説 宇宙観測で見えてきた中性子星の状態方程式」 榎戸輝揚, 安武伸俊. 日本物理学会
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実際に「もう12月かぁ」と思ったのは11月末でした。 ↩
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実際に「Sセメより忙しいなぁ」と思ったのはSセメより忙しくなる前でした。レポートの締め切り間際ではなく出題されたときから忙しさを感じるためです。 ↩
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実は私は班長ではありません。割り当てられた実験種目やその日程が人それぞれ異なるので、忙しい週に個人差が出てきます。特に「原子核散乱」の実験をやっている人はとても大変そうです。そういう事情で代わりに書かせてもらっています。 ↩
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まるでなんでも知っているかのような書き方ですが、ただの個人の考えです。 ↩
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経済物理学なんてのもあるようです。詳しいことは分かりませんが、統計物理、流体力学、量子力学的な手法を用いるらしいです。 ↩
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対象が天文学からはみ出ることもあるかもしれません。 ↩
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$M_\odot$ は太陽質量を表します。宇宙物理学ではこの太陽質量との比で質量を表します。$1 M_\odot \approx 2 \times 10^{30} ~\mathrm{kg}$ です。 ↩
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千葉県浦安市舞浜にあるテーマパークです。「美女と野獣」エリアができてから行けてないです。美女と野獣といえば、私はガストンを演じたことがあります。 ↩
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宇宙物理学に関するテーマを網羅的に扱っている本です。この本を通して班員各々が自分の興味分野を見つけていきました(参考文献[2]がそれです)。 ↩
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すでに述べたように私は中性子星という天体に興味があるのですが、他のメンバーは初期宇宙だったり宇宙マイクロ波背景放射だったりに興味があるようです。 ↩
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stellar が「星に関する」という意味の単語なので、interstellar は「星間の」という意味です。interstellar space「星間空間」や interstellar dust「星間塵」のように使われます。この映画は2017年に "for decisive contributions to the LIGO detector and the observation of gravitational waves" という題目でノーベル物理学賞を受賞した理論物理学者 Kip S. Thorne さんが制作に関わっています。"Gravitation" という、「電話帳」とも呼ばれる超有名な本の著者の一人です。一般相対論がらみの論文を読んでいると必ずと言っていいほどこの本が参考文献として挙げられてる気がします。 ↩