はじめに
マネジメントのテーマで良く話題に上がるモチベーション管理について、個人的なもやもやについて終止符を打つべく、この記事を書いています。
モチベが落ちているメンバーを見るたびに、「ここまでケアするのって自分の仕事なんだっけ?」と戸惑うマネージャも多いのではないでしょうか。
モチベーション管理は上司の仕事なのか?自分で何とかすべきなのか? というテーマについてです。
これは恐らく、モチベーション管理が、本人のやる気スイッチを押すこと、本人に元気を出してもらうこと、といった誤解から生まれているような気がします。
本記事では、そもそもモチベーションとは?というところから掘り下げて、このテーマについて深く考えたいと思います。
2つの派閥、それぞれの言い分
まず、モチベーション管理は上司の仕事、本人の仕事、というそれぞれの派閥の意見について整理します。
「モチベ管理は上司の責任」派
- 役割期待の観点
- 組織から権限と報酬をもらっている以上、部下のパフォーマンスを最大化するのがマネジャーの仕事であり、その中核にモチベーションがあるという考え方
- 影響力の非対称性
- 自己決定理論や多くの研究では、上司のスタイル(自律性の支援、フィードバックの仕方など)が部下の動機づけや幸福感、パフォーマンスに強い影響を持つことが示されていること
- 影響力を持つ側が、その影響の結果にも責任を持つべきだ、というロジック
「モチベ管理は自己責任」派
- プロフェッショナル観
- 給与をもらう以上、自分のコンディションやモチベーションは自分でマネジメントすべきであり、上司は“場”までは提供するが、最後にアクセルを踏むのは本人だという考え方
- 介入コストとフェアネス
- 一人のマネジャーが複数のメンバーを見る現場では、「自律的に動ける人にリターンを寄せざるを得ない」という現実もあり、「全員のメンタルをケアするのは物理的に不可能」という主張
- 過干渉のリスク
- 感情に踏み込みすぎると、依存や境界侵犯、評価の歪みを生みやすく、「モチベ管理しすぎる上司」の弊害も無視できないという主張
はい、どちらの主張も正しいように見えますよね。
なので、このテーマは厄介なのです。
しかし、それぞれの議論が平行線を辿るだけでは、改善と進歩はありません。
事前知識:モチベーションをどう捉えるか
モチベーションという単語が非常に抽象的で分かりにくいのも、このテーマをややこしくしている原因と思います。
なので、複数の理論からモチベーションについて深堀していきましょう。
マズローの欲求5段階説
「そもそも仕事どころじゃない状態(私生活や健康)ではないか?」を確認する。
まずは、「そもそもモチベの話をしていい土台かどうか」を見極めるための前提知識として、マズローの欲求5段階説を説明します。
人間の欲求を「生理的 → 安全 → 所属・愛 → 承認 → 自己実現」の5段階で捉える、というものです。
ここで重要なのは、「下位の欲求が満たされていないと、上位の欲求は機能しにくい」 という点です。
例えば、生活がギリギリ、安全も揺らいでいる状況では、「承認」や「自己実現」の話をしても刺さりづらです。
職場に置き換えると、「ある程度暮らせる賃金」「最低限安心できる職場環境」が整っていて初めて、「やりがい」「成長」といったモチベーションの話に意味が出てきます。
ハーズバーグの二要因理論
「不満を消すこと(衛生要因)」と「やる気を出すこと(動機づけ要因)」を混同しない。
次に、「不満を減らす話」と「やる気を上げる話」を分けてくれるのが、ハーズバーグの二要因理論です。
ハーズバーグは、職場のモチベーションに関する要因を「動機づけ要因」と「衛生要因」に分けました。
- 衛生要因(不満足要因)
- 給与、労働条件、会社方針、上司との関係など
- 整っていないと不満は出るが、整えたからといってモチベが劇的に上がるわけではない
- 動機づけ要因(促進要因)
- 成長機会、責任、達成感、承認など
- なくても即不満ではないが、あればあるほど仕事に前向きになる
これについてもなんとなくそれぞれの経験から納得できる部分はあるのではないでしょうか。
給料が上がったとしても、一時的にモチベーションは上がるかもしれませんが、それは一過性のものであり、長続きしない、というのはなんとなく経験があるのではないでしょうか。
また、職場環境が悪いとパフォーマンスに著しくマイナスの影響を及ぼす、というのもなんとなく納得できるかと思います。
自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)
「アメとムチ」は長続きしない。本人が「自分で選んだ」と思える余白を作る。
人には次の3つの基本的心理欲求があるとされる理論です。
- 自律性(Autonomy):自分の行動が自分の意志で実行しているという感覚
- 有能感(Competence):自分が環境の中で効果的に機能し、貢献している、成長できているという感覚
- 関係性(Relatedness):人とのつながりを感じる感覚
これらが満たされると、内発的な動機づけが高まり、パフォーマンスと幸福感が上がるとされています。
さらに動機付け(モチベーション)には質があり、「内発的動機付け」と「外発的動機付け」に分けることができるとされています。
- 内発的動機付け
- 興味や楽しさなど「内側から湧き出る」モチベーション
- 外発的動機付け
- 報酬、罰、評価など「外から与えられる」要因によるモチベーション
当たり前ですが外発的要因によるモチベーションで人を動かすと、自立性の低下やパフォーマンスの低下を招きます。
外発的動機付けは一時的なパフォーマンスを出すためのツールとしては機能する場面もありますが、長期的に見るとずっとそれに頼りっぱなしは賢明な選択とは言えません。
また、動機付けについては以下のブログがより詳しく分かりやすいので一読をお勧めします。
自ら学ぶ「動機づけ」の真実~自己決定理論②内発的に近づけるには?
仕事の要求度–資源モデル(JD-Rモデル)
忙しくても「頼れる人・武器(資源)」があれば、人は燃え尽きない。
出典:令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について- - 厚生労働省
「忙しすぎ問題」と「やりがいがある忙しさ」の違いを説明してくれるのが、JD-Rモデルです。
JD-Rモデルでは、仕事を成り立たせる要因を「要求(Demands)」と「資源(Resources)」に分けて捉えます。
- 仕事の要求
- 量的負荷、時間プレッシャー、感情労働、責任の重さなど
- 仕事の資源
- 裁量、上司や同僚のサポート、フィードバック、学習機会、仕事の意味づけなど
ポイントは、要求が高くても、資源が豊富なら「チャレンジ」としてポジティブに働き、エンゲージメントにつながる、ということ。
逆に、要求が高く、資源が乏しいと、燃え尽きやモチベ低下につながりやすい、ということです。
これもなんとなく経験があるのではないでしょうか。
例えば、残業続きでも上司と一緒に愚痴を言いながら仕事をしたとき、忙しくても自分が成長できると実感できているとき、こういったときは不思議と乗り越えられるものです。
これは仕事の要求というマイナスの要因と、仕事の資源というプラスの要因のバランスが取れている状態といえます。
逆に、忙しい一人プロジェクトでだれも頼れる人がいない状況では、燃え尽きや離職といった結果を招くことになります。
なお、JD-Rモデルについては以下のブログが分かりやすくおすすめですので、是非一読されることをお勧めします。
JD-Rモデルとは?エンゲージメント向上のメカニズムをわかりやすく紹介!
また、ワークエンゲージメントについては以下が分かりやすいです。
ワークエンゲージメントとは?高めるための取り組みから、測定方法まで詳しく解説
モチベーション管理を再定義する
これまでの話をふまえて、モチベーションについての理解が深まったと思います。
では、次にモチベーション管理について考えてみましょう。
ここではモチベーション管理を以下の3つに分類して考えます。
- 組織が担うモチベーション要因
- 上司が担うモチベーション要因
- 本人が担うモチベーション要因
組織が担うモチベーション要因
組織レイヤで責任を持つべきは、主に次のような部分と考えられます。
- 報酬設計・評価制度・等級制度
- マーケット水準に対する給与、評価の納得感、キャリアパスなど
- 人員配置・構造的な負荷
- 常に人が足りない構造、無茶な目標設定、機能していない組織設計など
- 常に人が足りない構造、無茶な目標設定、機能していない組織設計など
上記は上司などの個人レベルで何とかできるレベルを超えており、会社組織で何とかすべき部分です。
また、そもそもここが破綻していると、マズローの下位欲求やハーズバーグの衛生要因が満たされず、「そもそもモチベーションの話をする土台にない」という状態になります。
ただ、完璧な報酬や評価制度などは存在しないので、あくまで最低限のレベルがそろっている必要がある、という意味です。
上司が担うモチベーション要因
上司の責任領域は、組織と本人の間にある「翻訳」と「環境設計」の部分だと考えています
- 仕事の意味づけ・目標の翻訳
- 組織目標をメンバーの仕事レベルまでブレイクダウンし、「何のための仕事か」「どこまでできればOKか」を説明すること
- Job resources(資源)の設計
- 裁量の付与、サポート体制、学習機会、フィードバック、相談できる関係性など、JD-Rモデルでいう「資源」は、上司の関わりでかなり増減する
- 同じ負荷でも、「任されている感」「困ったら相談できる感」があるかどうかで、モチベーションの立ち上がり方は大きく変わる
- 動機づけ要因への介入
- 成長機会、責任付与、チャレンジタスク、達成の承認など、ハーズバーグが言う動機づけ要因は、現場マネジャーが比較的触れやすい領域
- ここをゼロにしておいて「自律的にがんばれ」は、さすがに無理筋と考えられる
- 自律性の支援
- やり方を細かく指示するのではなく、ゴールと制約を共有し、選択肢や提案余地を残すことは、自律性欲求を満たし、内発的モチベーションを高める
- 細かく管理しすぎるマイクロマネジメントほど、「やらされ感」が強まり、モチベーションの質が下がる
ここまでの範囲は、「モチベーション管理=モチベが自然に湧きやすい仕事と関係性を設計すること」と定義するなら、明確に上司の仕事だと考えることができ、一般的にも受け入れられやすいのかなと思います。
本人が担うモチベーション要因
一方で本人が責任を負うべきモチベーション要因も存在します。
- モチベーション維持、向上に努める
- 上司だけが一方的に努力していても続かず、逆に本人だけが頑張っても限界がある
- 上司の説明から自分自身で作業内容や目的を理解し、自分なりの方法でモチベーションを維持する努力をすることが重要
- 個人の価値観・人生観
- 何に意味や喜びを感じるか、どのレベルの成長や報酬を求めるかは、本質的には本人のテーマ
- “上司がなんとかしてくれるだろう”という前提に立ってしまうと、お互いにしんどくなる
- キャリアの解像度を上げること
- 「何のために働くのか」「この数年でどこに向かいたいのか」を考え、言語化していく作業は、自分自身で取り組むテーマ
- 休む・相談するなどの自己管理行動
- プライベートな問題により発生したモチベーションの低下や体調不良などを相談するのかは、本人の選択になる
- 上司は個人レベルの体調管理や精神状況まで正確に把握することは出来ないため、自分の精神状況や体調管理は自分自身で管理し、仕事に支障が出る場合は自分から上司に打ち上げることが必要となる
自己決定理論的にも、動機づけは本人の内的プロセスであり、上司は「条件を整える」ことはできても、感情そのものを直接操作することはできません。
また、上記は組織、上司、本人のそれぞれが等しく努力することで成り立つのであって、上司だけが努力しても、本人だけが努力しても成立しません。
結論:モチベーションは「注入」ではなく「設計」の問題
ここまでを踏まえて、この記事としての結論は次の通りです。
- モチベーションは、上司が“注入、与えるもの”ではない
- 自律性・有能感・関係性といった基本的欲求が、仕事の中で満たされるときに“自然に湧き上がるもの”
- その「湧きやすさ」を決める環境(仕事の設計・資源・フィードバック・関係性)に対しては、上司はかなり重い責任を負うべき
- 一方で、モチベーションは本人の内的プロセスであるため、本人の努力なしに最終的なモチベーション向上は無しえない
正直、「モチベーション管理」という言葉自体がミスリードを生んでいる気もします。
本当にやりたいのは、「モチベーションが自然と上がりやすい環境や仕組みをデザインすること」であり、そこまでを“上司の仕事”と呼ぶなら比較的納得されやすいかなと思います。
そして、その先の「その環境を使って、どこまでアクセルを踏むか」は、本人の仕事となります。
このあたりについて、上司とメンバーでどれだけコミュニケーションが取れているのか、が重要と感じています。
このあたりの認識がずれていると、上司が頑張っても部下は全然やる気を出さない、部下が頑張っても全然上司はサポートしてくれない、というようなすれ違いが起きてしまうのかなと思います。
本記事がモチベーション管理で悩んでいるチームの課題解決の一助になれば幸いです。
(๑•̀ㅂ•́)و✧
おまけ:マネージャーのモチベーション設計 チェックリスト
- 衛生要因の排除:不公平な評価や、使いにくいツールなど、本人の努力ではどうしようもない「不快感」はないか?
- 資源の供給:その仕事に必要な情報、権限、相談ルートは確保されているか?
- 意味の翻訳:「この作業が、チームのどの成果に繋がっているか」を本人の言葉で語らせているか?
- 自己決定の余白:「やり方」まで細かく指示しすぎて、本人の「自律性」を奪っていないか?

