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Amazon Quick Scenarios ハンズオン — 自然言語でデータ分析を自動化する

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Last updated at Posted at 2026-03-29

Amazon Quick Scenarios ハンズオン — 自然言語でデータ分析を自動化する

はじめに

Amazon Quick の中核機能である Scenarios は、自然言語の指示から AI がマルチステップのデータ分析を自律的に実行する Agentic AI 機能です。

従来の BI ツールでは、「先月の売上が減少した原因を調べたい」と思ったら、自分でフィルタを設定し、ディメンションを切り替え、チャートを作成する必要がありました。Scenarios では、その問いを自然言語で入力するだけで、AI が自動的にデータを探索し、仮説を立て、分析結果を提示します。

この記事では、Scenarios の仕組みを解説した上で、実際にサンプルデータを使ったハンズオンを通じて、自然言語によるデータ分析の実践方法を紹介します。

本記事は Amazon Quick シリーズの第2回です。

  • 第1回: Amazon Quick 入門 — Agentic AI が変えるエンタープライズデータ分析
  • 第2回(本記事): Scenarios ハンズオン
  • 第3回: Amazon Quick × SageMaker 統合アーキテクチャ — AI/ML パイプラインの可視化と運用自動化

Scenarios の仕組み

分析フローの全体像

Scenarios による分析は、以下のステップで進行します。

ステップ 名称 説明
問題記述 自然言語で分析したい内容を入力
データ選択 Quick Sight のデータセット、または CSV をアップロード
データプレビュー AI がデータ構造を理解し、フィルタリング条件を提示
分析実行 AI がマルチステップの分析計画を立て、自律的に実行
マルチスレッド探索 分析結果から派生する複数の仮説を並列に検証

ポイント:

  1. 問題記述(NLP): ユーザーは分析したい内容を自然言語で入力する
  2. データ選択: Quick Sight のデータセット、または CSV をアップロードして利用
  3. データプレビュー: AI がデータの構造を理解し、フィルタリング条件を提示
  4. 分析実行: AI がマルチステップの分析計画を立て、自律的に実行
  5. マルチスレッド探索: 分析結果から派生する複数の仮説を並列に検証

Topics — 分析精度を高める鍵

Scenarios の分析精度を大きく左右するのが Topics 機能です。Topics はデータセットに対するメタデータ層で、AI がデータの意味を正しく理解するために使用されます。

Topics で設定できる項目:

項目 説明
メタデータ カラムの意味・説明 「revenue は税込売上高(円)」
シノニム定義 同義語の登録 「売上」=「revenue」=「売上高」
フィードバック統計 ユーザーからの正誤フィードバック 正解率の追跡と改善
ユーザーアクティビティ 利用状況の追跡 よく使われるクエリパターン

Topics を適切に設定することで、「売上の推移を見せて」という曖昧な指示でも、AI が正しいカラム(revenue)を選択し、適切な時間軸(order_date)でグラフを生成できるようになります。

ハンズオン: Scenarios で売上データを分析する

前提条件

  • AWS アカウント
  • Amazon Quick の有効化(最新のトライアル条件は公式料金ページを確認)
  • Quick Sight の Admin Pro、Author Pro、または Reader Pro ロール(トライアルでは自動付与)
  • 利用リージョン: US East (N. Virginia) を推奨

2026 年 3 月 25 日に東京リージョン(ap-northeast-1)が追加されました。日本のユーザーは東京リージョンで環境を構築できます。

Step 1: Amazon Quick の環境セットアップ

1-1. Amazon Quick の有効化

AWS マネジメントコンソールから Amazon Quick を検索し、サービスを有効化します。

AWS Console → Amazon Quick → Get Started
→ プランを選択(トライアルは Enterprise 相当)
→ リージョン: us-east-1
→ 有効化

1-2. サンプルデータの準備

ハンズオンでは、マーケティング分析用のサンプル CSV を作成して Quick Sight にアップロードします。以下のスキーマで CSV ファイル(marketing_sample.csv)を用意してください。

Date,Channel,Campaign,Sessions,Conversions,Revenue,Cost
2025-10-01,Email,Fall Sale,1200,96,28800,4800
2025-10-01,Social,Brand Awareness,3500,105,21000,7000
2025-10-01,Web,SEO Content,2800,84,25200,2100
2025-10-15,Email,Fall Sale,1100,77,23100,4400
2025-10-15,Social,Holiday Preview,4200,168,50400,10500
2025-10-15,Web,SEO Content,3000,90,27000,2250
2025-11-01,Email,Black Friday,2500,200,80000,10000
2025-11-01,Social,Holiday Preview,5000,200,60000,12500
2025-11-01,Web,Landing Page,3200,128,44800,6400

実際のハンズオンでは、数百〜数千行のデータがあるとより分析が面白くなります。上記のスキーマを参考に、お手持ちのデータや生成データを用意してください。

Scenarios の New scenario 画面からファイルを直接アップロードするか、Quick Sight のデータセットとして事前登録します。

Quick Sight → Datasets → New dataset → Upload a file
→ marketing_sample.csv を選択
→ データセット名: "Marketing Campaign Data"
→ SPICE への取り込み: 有効化

データセットのカラム構成は以下の通りです。

カラム名 説明
Date datetime イベント日時
Channel string マーケティングチャネル(Email, Social, Web 等)
Campaign string キャンペーン名
Sessions int セッション数
Conversions int コンバージョン数
Revenue decimal 売上金額(USD)
Cost decimal 広告費(USD)

Step 2: Topics の設定

Scenarios の分析精度を高めるために、データセットに Topics を設定します。

2-1. Topics の作成

Quick Sight → Topics → New topic
→ Topic name: "Marketing Analytics"
→ データセット: "Marketing Campaign Data" を選択

2-2. メタデータの設定

各カラムに対して、ビジネス上の意味を設定します。

Revenue:
  Description: "マーケティングキャンペーンによる売上金額(USD)"
  Synonyms: ["売上", "売上高", "revenue", "sales"]

Cost:
  Description: "広告出稿費用(USD)"
  Synonyms: ["広告費", "コスト", "cost", "ad spend"]

Conversions:
  Description: "コンバージョン数(購入完了)"
  Synonyms: ["CV", "コンバージョン", "成約数"]

Channel:
  Description: "マーケティングチャネル"
  Synonyms: ["チャネル", "流入元", "channel"]

2-3. 計算メトリクスの事前定義

Scenarios は計算フィールドを直接サポートしていないため、よく使うメトリクスはデータセット側で事前に計算しておきます。Quick Sight のデータセット編集画面から計算フィールドを追加します。

Quick Sight → Datasets → "Marketing Campaign Data" → Edit
→ Add calculated field

以下の3つの計算フィールドを追加してください。

フィールド名 説明
ROAS {Revenue} / {Cost} Return on Ad Spend
CVR {Conversions} / {Sessions} Conversion Rate
CPA {Cost} / {Conversions} Cost per Acquisition

Quick Sight の計算フィールドでは {カラム名} の形式でカラムを参照します。

制限事項: Scenarios は計算フィールド(Calculated Fields)を直接サポートしていません。ROAS や CVR などの派生メトリクスを分析したい場合は、上記のようにデータセットの編集画面で事前に計算フィールドを追加してください。

Step 3: 自然言語で分析を実行する

Topics の設定が完了したら、Scenarios を起動して分析を開始します。

3-1. Scenarios の起動

Quick Sight → Scenarios → New scenario
→ Topic: "Marketing Analytics"
→ 分析の問いを入力

3-2. 分析例 1: チャネル別パフォーマンス分析

入力:

直近3ヶ月のチャネル別売上を比較し、最もパフォーマンスの良いチャネルと悪いチャネルを特定してください。
それぞれの要因も分析してください。

Scenarios の動作:

  1. Date カラムで直近3ヶ月をフィルタリング
  2. Channel ごとに Revenue を集計
  3. チャネル別売上の棒グラフを生成
  4. 各チャネルの SessionsConversionsCVR を比較
  5. パフォーマンスの良い/悪いチャネルの要因を分析

AI は自動的に複数のビジュアライゼーションを生成し、テキストで分析結果を説明します。

3-3. 分析例 2: 異常値の検出と原因分析

入力:

売上に異常な変動があった日を特定し、その原因を推定してください。
キャンペーンやチャネルの変化と関連付けて分析してください。

Scenarios の動作:

  1. Revenue の時系列推移を分析
  2. 統計的に異常な変動ポイントを検出
  3. 該当日の CampaignChannel の変化を確認
  4. 異常値と関連するイベントを特定して報告

3-4. 分析例 3: 予測と最適化提案

入力:

現在のトレンドに基づいて、来月の売上予測を行ってください。
また、ROAS を改善するためにどのチャネルに予算を重点配分すべきか提案してください。

Scenarios の動作:

  1. 売上の時系列データから将来予測を実行
  2. チャネル別の ROAS を算出・比較
  3. 予算配分の最適化シミュレーション
  4. 具体的なアクション提案を生成

Step 4: マルチスレッド探索

Scenarios の強力な機能の一つが マルチスレッド探索 です。初回の分析結果から、複数の仮説を並列に検証できます。

初回の分析結果から、以下のように複数のスレッドを並列に分岐させて深掘り分析を行えます。

スレッド 分析テーマ 実行される分析
Thread A Email チャネルの CVR が低下した原因を深掘り キャンペーン別の CVR 推移を分析
Thread B Social チャネルの急成長の要因を分析 期間別・キャンペーン別のブレークダウン
Thread C 全チャネルの CPA トレンドを比較 コスト効率の時系列変化を可視化

各スレッドは独立して分析が進行し、後から統合してレポートにまとめることも可能です。データアナリストが手動で行っていた「仮説 → 検証 → 新たな仮説」のサイクルを、AI が高速に回してくれるイメージです。

実践 Tips

分析精度を上げるコツ

1. Topics を丁寧に設定する

Topics の設定は Scenarios の分析精度に直結します。特にシノニム定義は重要です。日本語と英語の両方でシノニムを登録しておくと、どちらの言語で質問しても正しく解釈されます。

2. 具体的な問いを投げる

# 良い例
「2025年Q4のEmail チャネルのCVR が Q3 と比較してどう変化したか、
 キャンペーン別にブレークダウンして分析してください」

# 改善の余地がある例
「売上を分析して」

分析の対象期間、比較軸、粒度を明示すると、AI の出力品質が大幅に向上します。

3. 派生メトリクスは事前計算する

前述の通り、Scenarios は計算フィールドを直接サポートしていません。ROAS、CVR、CPA などの派生メトリクスは、データセット準備時に計算カラムとして追加しておきましょう。

知っておくべき制限事項

制限事項 影響 回避策
計算フィールド非対応 派生メトリクスの直接計算不可 データセット側で事前計算
一部英語レスポンス 日本語で質問しても英語で返答される場合がある Topics のシノニムを日英両方で設定
ダッシュボードフィルタ依存 既存ダッシュボードのフィルタ設定に影響される Scenarios 専用の Topic を作成
東京リージョン未対応 2026 年 3 月に東京リージョン対応済み 東京リージョンで構築

データエンジニアの業務への活用

Scenarios は BI アナリストだけでなく、データエンジニアの業務にも活用できます。

ML 推論結果の可視化と分析

SageMaker で実行した ML モデルの推論結果を S3 に出力し、Quick Sight のデータセットとして取り込むことで、Scenarios から自然言語で分析できます。

SageMaker Inference → S3 (推論結果) → Quick Sight Dataset → Scenarios

「今月の推論結果で異常なスコアのレコードを特定し、
 特徴量の分布を前月と比較してください」

データ品質モニタリング

ETL パイプラインの出力データの品質を、Scenarios で定期的にチェックできます。

「直近24時間で NULL 率が急増したカラムを特定し、
 データソース別にブレークダウンしてください」

ビジネスユーザーへのセルフサービス分析基盤

データエンジニアが Topics を適切に設定しておけば、ビジネスユーザーが自分で Scenarios を使って分析できるようになります。「SQL が書けないから分析できない」という障壁がなくなり、データエンジニアへの ad-hoc 分析依頼を大幅に削減できます。

まとめ

Scenarios は Amazon Quick の中核をなす Agentic AI 分析機能です。

  • 自然言語でデータ分析を実行: 問いを入力するだけで AI がマルチステップ分析を自律実行
  • Topics が精度の鍵: メタデータとシノニムの設定が分析品質を左右する
  • マルチスレッド探索: 複数の仮説を並列検証し、分析サイクルを高速化
  • 計算フィールドの制限に注意: 派生メトリクスはデータセット側で事前計算が必要

次の記事では、Amazon Quick と SageMaker を統合し、AI/ML パイプライン全体の可視化と運用自動化のアーキテクチャを設計します。Well-Architected Framework の観点も交えた L300 レベルの技術記事です。

参考資料


Amazon Quick シリーズ:

  1. Amazon Quick 入門 — Agentic AI が変えるエンタープライズデータ分析
  2. Amazon Quick Scenarios ハンズオン — 自然言語でデータ分析を自動化する ← 本記事
  3. Amazon Quick × SageMaker 統合アーキテクチャ — AI/ML パイプラインの可視化と運用自動化
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