はじめに
本日は、Linux Foundation Japan Community Daysの二日目に行われたブレイクアウトセッションの一つ:OSSガバナンス トラックの最初のセッション:「企業とOSSのこれからの付き合い方 – OSPO –」での「OSPOの進化~使用から参加、貢献、リーダーシップ にどう進むか」の内容を紹介したいと思います。
背景
OSPO - Open Source Program Officeという言葉は、最近ではソフトウェアを扱う人々の中で普通に使われるようになってきたと思います。このOSPOという言葉が使われ始めた頃に、OpenChain Japan Working Groupの中でOSPOについて関心を持つ人々が集まり、OSPOについて調べ、意見交換をするためのSub Working Groupを作りました。
このSubWGでは、 次に2つの取り組みを行っています。
- OSPO Simple Q&A:Simpleな疑問への答えを議論し、まとめることでOSPOの理解を深め、広める取り組み
- OSS Strategy:OSSと事業の関係を整理して、OSPOの事業戦略のあり方を模索する取り組み
これらの取り組みの中で見えてきた、OSPOの進化についての一つの見解が「OSPOの進化~使用から参加、貢献、リーダーシップ にどう進むか」です。
OSS / OSPOの取り組みの成熟度のステージ
OSPO Simple Q&Aの取り組みで、OSSとは何か/そのメリットは?、OSPOとは何か/その役割は?について意見を出し合ったとき、様々な意見が集まり、まとまりがつかない状態になりました。どうしたものかと悩んでいた時に、OSS/OSPOの成熟ステージごとに集まった意見を整理することを思いつき、OSS/OSPOについて理解をもう一段進めることができました。
このことは過去のアドベントカレンダーでも紹介しています。
今回は、OSS活用、OSSコミュニティ活動のメリット、OSSに対するマインドセットの変化、OSPOの役割のそれぞれについて整理してみました。
OSS活用、OSSコミュニティ活動のメリット
次の図は、OSS活用、OSSコミュニティ活動のメリットをステージごとに簡潔に示しています。
ステージ0からステージ2ぐらいまでは、その組織内部の開発活動への短期的な直接のメリットとなっており、ステージ3,4では、エコシステムへの貢献による長期的・間接的なメリットとなっています。組織のその時のステージによって、OSSのメリットの認識が異なる、変化すると考えられます。
OSSに対するマインドセットの変化
次の図では、ステージごとに組織の人がOSSをどうとらえているかをまとめました。
ステージ2までは、OSS活用に対して、「使ってよいのか」「利用条件、義務」といったネガティブな意識になっていますが、ステージ3以降になると、OSS活用、コミュニティ活動を自組織の活動の一部と捉えたポジティブな意識になっています。
OSPOの役割
次に、ステージごとにOSPOはどんな役割をするのかを示しました。
組織内でOSSがどのように理解されているかに合わせて、OSPOの役割がステージごとに変化することを示しています。
例えばステージ1では、組織内のOSSの理解は、「ライセンス遵守」が中心です。
OSS貢献やコミュニティ活動のメリットについては、あまり意識されていません。
このような組織のOSPOは、ライセンス遵守のための組織内の仕組みを用意し、それが有効に活用されるように推進する役割を果たします。さらに、次のステージ2について組織の理解が広がるように働きかける役割を持ちます。
ステージ4では、OSSが重要な組織活動の構成要素であるという理解が組織にあり、OSPOはより効果的なOSS活用、OSSコミュニティ活動のための組織全体の戦略を取りまとめ、推進する役割が中心となります。
Your OSPO is not My OSPO
このように、OSPOは、組織がOSS、コミュニティをどのように理解しているかに合わせて、その役割、取り組みを変えてゆくものになっています。これが”Your OSPO is not My OSPO"(あなたのOSPOは私のOSPOとは違う)と言われるように組織ごとに、また、時間の経過とともに、OSPOのあり方が異なる一つの要因となっています。
また、必ずしもすべての組織がステージ4にならなくてはならない、というものでもありません。
OSS、コミュニティについての正しい理解の下、組織にとって最も望ましい状態(ステージ)を判断し、それに合ったOSPOとすることが重要と考えます。
貢献、リーターシップに向けて
必ずしもすべての組織がステージ4を目指す必要はないでしょう。しかし、ステージ4での組織やOSPOのあり方や、どのようにステージを上がってゆくかについて知ることは、どのステージであってもOSPOを運営する立場の人にとって有益なことだと考えます。
OSS Strategyの取り組みでは、OSSを利用する組織を次のように分類して、それぞれのOSSを活用する狙い、そのための取り組み、その取り組みにおけるOSS貢献活動について整理し、比較を行っています。
- Linux ディストロベンダー
- 家電ベンダー
- SIer
- 通信事業者
- 自動車メーカー
- 半導体ベンダー
- Web サービス企業
- 大学・研究機関
- 企業の研究開発部門
- 自治体・公的機関
ビジネス違いによって、取り組むOSS貢献活動に差はないようですが、OSS貢献活動の種類別の優先度に違いがありそうだと考えています。
まだまだ議論を続けているところですが、OSSについてより理解を深め、より効果的なOSS活動、OSPOのあり方の知見が得られることを目指しています。
My OSPO is for Your OSPO
OSPOのあり方は、その組織がどのステージにあるか、また、OSSを活用する仕方(ビジネス)によってさまざまです。しかし、まったく同じではないとしても、共通する部分があります。例えば、ライセンス遵守はどの組織にとっても共通であり、OSS貢献やコミュニティ活動はも多くの組織で取り組まれています。それらに関する課題やベストプラクティスの情報を出し合い、議論することは、お互いにメリットがあります。
さらに、今日、従来よりもはるかに多くの組織がサプライチェーンでつながっています。ライセンス遵守もOSS貢献・コミュニティ活動も自組織のために行っていることが、結果的に他の組織の役に立つことになります。
こう考えたとき、複数の組織のOSPOが集まってコミュニティを作り、共同で共通の課題に取り組むことは自然なことではないかと思います。
おわりに
OpenChain Japan Working GroupのOSPO SubWGは、OSPOを立ち上げたいと考えている人も含めた、OSPOのコミュニティとなっていると思います。関心をお持ちの方は、ぜひ、ご参加ください。
ソフトウェア開発だけでなく、OSPOのあり方の検討にもオープンなコミュニティが適していると考えています。





