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WordPressでも、EmDashでもない ― Muse × GitHub × Markdown CMS という第三の選択肢

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(この記事は、Techブログに掲載したスライド付き記事のQiita版です。完全版はこちら: https://oosawak.github.io/tech/#/post/tech/doko-de-ugokasu )
AIがWebサイトを運用する時代の話が、現実味を帯びてきました。
2026年9月28日、Cloudflareが新しいCMS「EmDash」の1.0を正式公開し、「WordPressか、EmDashか」という比較が語られ始めています。
けれど、選択肢は2つではありません。
この資料では、3つ目の選択肢として「Muse × GitHub × Markdown CMS」という組み合わせを提示します。
記事をMarkdownで書き、保管はGitHubに任せ、運用はAIエージェントに任せ、公開側ではプログラムを一切動かさない仕組みです。
しかもこれは机上の案ではなく、複数の実サイトがこの仕組みで公開され、日々の運用まで回っています。

2026年9月、Web運用の前提が変わった。WordPressとEmDashの二項対立を示す図

実行環境を公開サーバーに置くべきか。これからの基準は、攻撃面をどこまで減らせるか、という図

WordPressという王道

WordPressは、世界で最も使われてきた王道のCMSです。
Webサイトの約3割がWordPressで作られていると言われています。
使い方は昔ながらの王道で、人が管理画面(ダッシュボード)を開き、記事やページを手で編集します。
テーマとプラグインのエコシステムは膨大で、カスタマイズの自由度は今も圧倒的です。
長年の運用実績と信頼性、大きなコミュニティも、他に代えがたい強みです。
技術の土台はPHPで、従来型のサーバー環境で動き、多くのレンタルサーバーに対応しています。

王道としてのWordPress。圧倒的な自由と引き換えの重さを示す図

一方で、構造的な弱点もあります。
WordPressは、訪問者が来るたびにサーバー上でプログラムを動かしてページを生成します。
つまり公開サーバーの中で、実行環境が常時稼働し続けます。
プラグインは広い権限でシステムにアクセスできるため、利便性と引き換えに、セキュリティリスクの入口にもなります。
本体とプラグインの更新を止めれば危なくなり、更新すれば画面が崩れることもあります。
お知らせを1行直すだけの小さなサイトでも、掲示板のために小さな発電所を維持するような、大がかりな手間が付きまといます。

構造的弱点。公開サーバー内で常時稼働する「工場」の図

EmDashという挑戦者

EmDashは、Cloudflareが開発した「AI時代のCMS」です。
「WordPressの精神的後継」と位置づけられています。
最大の特徴は、管理画面に加えて、AIエージェントが直接、作成・編集・公開できる設計です。
MCPサーバーを標準搭載し、APIとCLIも備え、AIエージェントとの連携を前提に設計されています。
技術基盤はAstroとTypeScriptで、サーバーレスに対応します。
Cloudflare上だけでなく、一般のNode.js環境でも運用できます。
プラグインの扱いも、根本から見直されました。
プラグインはサンドボックスの中で隔離され、許可した権限だけが付与されます。
これにより、不正アクセスのリスクを構造的に抑えようとしています。
「EmDash Build」(アルファ版)では、文章で指示するだけで、数分でサイトを生成できます。
完全無料のMITライセンスで、オープンソースとして公開されています。

挑戦者EmDash。AI時代のCMSとしての再構築を示す図

弱みもあります。
新しいプロジェクトのため、プラグインやテーマのエコシステムはまだ小さく、導入実績も限定的です。
そして、表示の裏側でプログラムが実行される構造そのものは、WordPressと同型です。
実行環境を公開側に置く以上、その更新と防御の責任からは自由になれません。

しかし、プログラムを実行する「場所」は変わっていない、という図

Muse × GitHub × Markdown CMS という選択

第三の選択。MuseとGitHubとMarkdown CMSの全体像

構成 ― 動かす場所を、公開側から外す

3つ目の選択肢は、特定の製品名ではありません。
「Muse(AIエージェント)× GitHub(保管と自動化)× Markdown CMS(静的生成)」という組み合わせです。
記事は、Markdownという文章ファイルで書きます。
GitHubがその正本を保管し、ファイルが置かれる(pushされる)と、自動ビルドが走ります。
ビルドでは、MarkdownをJSONに変換し、静的なHTMLとして組み上げます。
公開はGitHub Pagesで行い、公開サーバーではプログラムを一切動かしません。
訪問者が来ても、サーバー側では既製のファイルを渡すだけです。

動かす場所を、公開側から完全に切り離す仕組みの図

AIが運用するとは、どういうことか

運用の担い手は、管理画面ではなく、AIエージェント「Muse」です。
人間は、言葉で頼みます。
「この文章で記事を作って」「デザインをこの形にして」「Facebookの投稿を記事にして」といった依頼を、Museが実行します。
記事の作成・編集・公開、デザインの変更、公開への反映までが、言葉の指示で進みます。
EmDashが「AIが操作できる管理の仕組み」を用意したのに対し、こちらは「仕組みの側を極限まで単純にして、操作そのものをAIに委ねる」発想です。
使う人は、GitHubもMarkdownも意識しなくて構いません。
難しい裏側の手順は、AIが引き受けます。

極限まで単純な仕組みだからこそ、AIに委ねられる、という図

セキュリティの考え方 ― 守るのではなく、置かない

セキュリティの出発点が違います。
公開側でプログラムが動かないため、常時稼働の実行環境を突く攻撃の対象になりにくいのです。
2026年10月に話題になったphp2shellのように、公開サーバーで常時動く実行環境の欠陥を突く攻撃は、そもそも突く相手がいません。
プラグインという概念自体がないため、プラグイン経由の侵入経路も存在しません。
守るべきものは、公開された静的ファイルと、正本を置くGitHubのアカウントに絞られます。
更新してもしなくても、公開側の安全性は変わりません。

セキュリティの考え方。「守る」のではなく「置かない」という図

入口の考え方 ― 難しい道具を、使う人に見せない

編集の入口では、「使う人に難しい道具を見せない」ことが条件です。
現在の実装済みの入口は、GitHubとVS Codeです。
これはエンジニアには効率的ですが、普通の人にそのまま渡すものではありません。
そこで、Facebookにいつも通り投稿するだけで記事になる形を、実際に動かして実証しました。
さらに、Google Driveに文章ファイルを置くだけで更新できる形と、ブラウザ上の自分の作業場(WorkspaceWeb)から作れる形を、設計中です(構想)。
GitHubは裏側の保管庫として残し、表の入口は身近な道具に置き換えていく設計です。

入口の再定義。難しい道具を、使う人に見せない、という図

実際に動いているサイト群

これは構想ではなく、すでに動いている仕組みです。
町のサイト「みどり野町」、パン屋「haru no tane bakery」、フルーツ店「果実日和」、グルメ案内「山形グルメ案内」、小説サイト「よむきく」が公開中です。
それらを束ねる統合ポータル「まちのつながり」も、自動更新で稼働しています。
ポータル本体のサイト「Lyre3 Games」(oosawak.github.io)と、その中のTechブログ・Gameブログも、同じ仕組みです。
日本の丁寧な暮らしのレシピ集「IKIGAI」も、この仕組みの上に乗っています。
仕組み自体はMITライセンスでGitHub(oosawak/markdown-cms)に公開しています。

構想ではなく、すでに稼働しているサイト群の図

SNSまで含めた運用実績

運用は、サイトの中だけにとどまりません。
Facebookへの投稿を記事化する連携は、実際に動かして確かめました。
小説作品の紹介動画を作り、InstagramとThreadsへ投稿する運用も行いました。
InstagramとThreadsの「いいね」を入口にして、レシピやグルメ情報を自動で集め、記事の下書きにするところまで、稼働を始めています。
書く、作る、公開する、SNSへ届ける。
その一巡を、AIと人の分担で回すのが、この方式の運用実感です。

SNSを起点とした、自律的な運用ループの図

3者の比較

アーキテクチャの比較。誰が、何を、どこで動かすか、の図

比較の軸 WordPress EmDash Muse × GitHub × Markdown CMS
運用の担い手 人が管理画面で手動更新 人+AIエージェント(MCP・API・CLIで連携) AIエージェントに言葉で依頼
書くもの・正本 データベース内の記事 コンテンツ基盤(管理画面/AI経由) Markdownファイル(正本はGitHub)
公開側の実行環境 PHPが常時稼働 Node.js(サーバーレス含む)が実行される なし(静的ファイルの配信のみ)
セキュリティの考え方 更新と防御で守り続ける プラグインを隔離し、権限を絞って守る 攻撃対象そのものを置かない
拡張の方法 プラグインを入れる プラグイン(サンドボックス型)を入れる 必要な機能だけ外部サービスを借りる(構想含む)
サーバー レンタルサーバー等が必須 Cloudflare、または Node.js 環境 不要(GitHub Pages)
コスト サーバー代+保守の手間 ソフトウェアはMITで無料、基盤はCloudflare等 GitHubの無料枠+AIの利用料、サーバー代は不要
エコシステム 巨大(テーマ・プラグイン・制作会社) 立ち上がり期で小さい まだ小さい(仕組み自体はMITで公開)
向いている用途 何でもできる汎用サイト AI連携を前提にした新しいサイト お知らせと読みもの中心のサイト、運用をAIに任せたいサイト
弱み 維持の重さ、攻撃対象の大きさ 実績と生態系が未成熟 書き込み型の機能が単体ではできない

ビジネスにおける現実。防御とコストと適性の比較図

できないこと・借りるもの

正直に言うと、この仕組みにはできないことがあります。
「プログラムを動かさない」という前提を守る限り、原理的に残る壁は3つです。
1つ目は、みんなで共有する書き込み状態です。
訪問者が書いたものを他の訪問者にも見せるには、書き込みを受けて保存する場所が、どこかに要ります。
2つ目は、秘密の強制です。
静的ファイルはURLが分かれば誰でも取れるため、会員限定の「中身そのものを守る」ことはできません。
3つ目は、信用の要る裁定です。
支払いが本当に済んだかの確認、在庫の引き当て、二重予約の防止には、信頼できる裁定者が必要です。

原理的な3つの壁。「できないこと」への誠実な理解の図

そのため、コメント、会員制、本物のEC、予約受付といった機能は、この仕組み単体では担えません。
ただし、だから全部が無理なわけではありません。
拡張の方針は、「必要な分だけ借りる」ことです(方針・構想)。
コメントは、Googleフォームで受け付け、スプレッドシートで運営が承認したものだけを、次のビルドで静かに表示する形が考えられます(構想)。
決済はStripeに任せ、サイト側は商品の表示に徹する形を想定しています(構想)。
問い合わせや申込も、フォームとシートに任せれば、サイト側はリンクを置くだけで済みます(構想)。
全部入りの実行環境を常時動かす代わりに、要る機能の分だけ他人のプログラムを借りる、という足し算です。

足し算のアーキテクチャ。必要な機能だけを「借りる」という考え方の図
他の弱みもあります。
GitHubという保管場所への依存、AIの利用コスト、運用者がAIへの頼み方に慣れる前提、そしてエコシステムの小ささです。
裏方をAIに任せる分、頼む側の「言葉にする力」が問われます。

結論 ― 「どのCMSか」ではなく「どこで動かすか」

AIは「作り方」を変え、静的アーキテクチャは「守り方」を変える、という図

AI時代のサイト運用の問いは、「どのCMSを選ぶか」だけではありません。
「プログラムを、どこで動かすか」という問いです。
WordPressは、公開サーバーの中で全部を動かす王道です。
EmDashは、公開側で動かす前提のまま、AIが操作できる形へ作り替えた挑戦者です。
Muse × GitHub × Markdown CMSは、公開側では何も動かさず、作る・直す・運用する力仕事をAIに寄せた、第三の形です。
お知らせと読みものが中心のホームページなら、この身軽さは大きな武器になります。
逆に、書き込みや決済が本業の中心なら、無理に寄せず、外部サービスとの併用か、別の仕組みを選ぶのが正直です。
大切なのは、製品名ではなく、自分のサイトに本当に要るものを知ることです。
仕組みはMITライセンスで公開しています。
まずは触って、確かめてみてください。

自分のサイトに本当に必要なものは何か。仕組みはMITライセンスで公開中、という締めの図

参考リンク

この記事で紹介した、実際に動いているサイトです。

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