本稿では2021年の秋にリリースされたOpenBSD 7.0から2022年の秋にリリースされたOpenBSD 7.2までの変更を振り返り、私が特に強く関心を寄せているものを紹介します。なお、サブプロジェクトやPortsの変更は割愛します。
OpenBSD 7.0(2021年10月)
2021年10月14日にリリースされたOpenBSD 7.1から、OpenBSD/riscv64がサポート対象に仲間入りしました。また、OpenBSD/arm64にApple Silicon関連のデバイスドライバがいくつか追加されました。
また、OpenBSD 6.7で導入されたOpenBSD版bpftraceことdt(4)デバイスドライバがOpenBSD 7.0からいくつかのプラットフォームでデフォルトカーネルに組み込まれたのも大きな出来事です。この変更により、btrace(8)コマンドにbt(5)で書かれたプログラムを渡すことでシステム内部のトレースを行うことができるようになりました。なお、LinuxのeBPFと違い、dt(4)はJITコンパイラを含みません。
この領域ではDTraceが生まれたSolarisやそれをいち早く取り込んだFreeBSD、NetBSD、macOSが先行していましたが、Linuxに続いてOpenBSDのトレース機能も徐々に追いついてきました。
OpenBSD 7.1(2022年4月)
2022年4月21日にリリースされたOpenBSD 7.1の目玉といえばなんといってもOpenBSD/arm64に投入された大小様々な改善、特にApple Silicon対応が一般利用できる水準に達したことです。
Arm以外のプラットフォームにも影響する大きな変更のひとつは、Wi-Fi 5対応がnet80211デバイスドライバフレームワークで有効化され、IntelのACおよびAX世代の無線LANデバイスは80 MHz幅で接続できるようになったことです。
一方、OpenBSD 6.1で追加されたOpenFlowスイッチ実装であるswitch(4)とそれに関連するswitchd(8)およびswitchctl(8)は残念ながらOpenBSD 7.1で削除されました。
OpenBSD 7.2(2022年10月)
2022年10月20日にリリースされたOpenBSD 7.2はOpenBSD/arm64のハードウェアサポートを更に拡大しました。具体的には、Ampere AltraシリーズやApple M2、Qualcomm Snapdragon 8cx Gen 3のサポートが追加されました。
また、Armプラットフォーム以外のデバイスドライバの追加・改善も行われました。IntelのWi-Fi 6E対応チップであるAX210とAX211もサポートされるようになりました。ただし、今のところOpenBSDのnet80211にはWi-Fi 6サポートが導入されていないため、Wi-Fi 5以下でアクセスポイントと接続します。
いくつかのプラットフォームでブートローダーがsoftraid(4)の暗号化済みRAID 1(RAID 1C)に対応しました。これまでも単独のディスク全体を暗号化してそこからシステムを起動することは可能でしたが、OpenBSD 7.2でミラーリングされた暗号化ディスクからシステムを起動できるようになりました。