Microsoftの英語ドキュメントでは「Agents in SharePoint」、日本語ドキュメントでは「SharePoint でのエージェント」と表記されています。
この記事では、読みやすさを優先して「SharePointエージェント」と表記します。
仕事でAIチャットボットを使っていると、こんなことを考える場面があります。
会社独自のルールや手続きについても、生成AIに聞けたら便利なのに
例えば、次のような情報です。
- 有給休暇の申請方法
- 経費精算システムの使い方
- 出張時の宿泊費に関するルール
こうした組織や業務特有の知識は、「ドメイン知識」と呼ばれます。
組織独自の文書を検索し、その内容を基に生成AIが回答する仕組みとして、RAG(検索拡張生成)を自分たちで構築する方法がありますが、実際に構築する場合は、文書の取り込み、検索の仕組み、アクセス制御、LLMとの連携、チャット画面などを検討する必要があります。
所属する組織がMicrosoft 365とSharePointを利用している場合は、SharePointエージェントという選択肢があるかもしれません。
この記事ではSharePointエージェントについて次の点を紹介します。
- どのような機能なのか
- どこに強みがあるのか
- どのような用途に向いているのか
- 利用に必要な権限とライセンス
- 自分たちで構築する場合と比べた制約
SharePointエージェントとは
SharePointエージェントの正式名称は「Agents in SharePoint」といいます。SharePointのサイトや文書ライブラリなどに保管された情報を基に、利用者からの質問へチャット形式で回答する機能です。
SharePointの情報以外にも、回答を補完するために一般的な知識を利用する場合があります。
例えば、就業規則や社内手続きの文書を情報源に設定すると、利用者は次のような言葉で質問できます。
- 有給休暇は何日取得できますか
- 出張時の宿泊費はいくらまで支給されますか
- 介護休業制度について教えてください
文書のファイル名や保管場所が分からなくても、SharePoint上にストックしたファイルから知りたい情報を探すことができます。回答には参照元が表示されるため、必要に応じて元の文書へのリンクをたどり内容を確認することができます。
Microsoftの公式情報では、SharePointサイトにあらかじめ用意される「既製エージェント」と、目的に合わせて作成する「カスタム構築エージェント」の2種類が紹介されていますが、この記事では後者の「カスタム構築エージェント」を扱います。
SharePointにある文書をそのまま利用できる
文書を要約したり、決められた形式で情報を抽出するだけなら、他の生成AIサービスでも実現できる場合があります。
SharePointエージェントの強みは、SharePointに蓄積された文書を、既存の保管場所やアクセス権をそのまま使って活用できる点にあると考えています。
文書を別の場所へ移さず利用できる
SharePointが社内文書の保管場所になっていれば、生成AIへ質問するために文書を別のサービスへ毎回アップロードする必要はありません。
- SharePoint上の文書を情報源にできる
- 同じ文書を生成AI用に二重管理しなくてよい
- 文書が更新された場合も、SharePoint側を管理すればよい
文書を一度だけ利用する場合、メリットはそれほど大きくありませんが、SharePointに貯めていれば、ソースとなるファイルやフォルダーを一度指定することで、何度でもそのソースに関連した質問ができるので、同じような問い合わせが繰り返される業務などでは活用しやすいと考えています。
質問者のアクセス権が反映される
作成したカスタム構築エージェントは、他の利用者へ共有できます。
ただし、同じエージェントを使って同じ質問をしても、質問者がSharePoint上で持っているアクセス権によって、回答が異なる場合があります。
例えば、AさんとBさんへエージェントを共有したとします。このエージェントには、情報源として文書Cと文書Dが設定されています。それぞれのアクセス権が次の状態だった場合、回答に利用されるSharePoint上の情報も異なります。
| 質問者 | エージェント | 文書C | 文書D | 回答に利用される文書 |
|---|---|---|---|---|
| Aさん | 利用可能 | 閲覧可能 | 閲覧可能 | 文書C・文書D |
| Bさん | 利用可能 | 閲覧可能 | 閲覧不可 | 文書Cのみ |
Aさんは文書Cと文書Dの両方を閲覧できるため、両方の内容が回答に利用される可能性があります。一方、Bさんは文書Dを閲覧できないため、文書Cの内容は回答に利用される可能性がありますが、文書Dの内容は回答に利用されません。
エージェントを利用できる人と、情報源を閲覧できる人が、それぞれのアクセス権によって管理される点がポイントです。エージェントを共有する際は、エージェント側とSharePoint上の情報源、両方のアクセス権を適切に設定する必要があります。
用途に合わせて情報源を限定できる
カスタム構築エージェントでは、対象となるフォルダーやファイルなどを情報源として指定し、エージェントの名前や説明、動作に関する指示を設定できます。
情報源はSharePointのフォルダーやファイル以外にも、サイトや文書ライブラリ単位で指定することができます。
例えば、次のように用途ごとにエージェントを作成することもできます。
- 就業規則や社内手続きを確認するエージェント
- 製品マニュアルについて回答するエージェント
- 過去の技術セミナー資料を検索するエージェント
ただ、エージェントを増やしすぎると、利用者視点ではどれを使うか迷うことにもなります。管理する負担も増えますので、実際に使いながらバランスを整えていくのがよさそうです。
基本動作を試してみる
今回、基本動作を確認するためにダミーの就業規則文書をWordで作成しました。このファイルをSharePointへ保存し、カスタム構築エージェントの情報源に設定し、次の3つの質問を行いました。
- 有給休暇の申請方法を教えてください
- 介護休業制度はありますか
- 通勤経路はどこから申請しますか
「1」と「2」に関する内容はダミー就業規則に記載しており、3は文書に記載されていない内容になります。
実際に質問したところ、「1」と「2」については文書に書かれた内容に沿った回答が返り、参照元の文書へのリンクも付いていました。リンクを開けば回答の根拠となった文書を確認することもできます。文書に記載していない「3」については、申請方法に関しては書かれていないという回答でした。今回試した3つの質問は期待した結果が得られたと思います。
もちろん、この結果だけではすべての文書や質問に正確に回答できるとは判断できません。ただ、文書に記載された情報について回答し、書かれていない内容については確認できないと示す、という基本的な動作は確認できました。
比較的手軽に作成できる
カスタム構築エージェントは、かなり簡単にまとめると次の流れで作成できます。
- SharePointに文書を保管する
- エージェントの情報源を指定する
- 名前、説明、指示、会話の開始例などを設定する
- テスト画面で回答を確認する
独自にRAGを構築する場合は、構成によって違いはありますが、一般的には次のような処理や仕組みを検討します。
- 文書を検索しやすい単位へ分割する
- 文書を検索するためのインデックスを作成する
- 質問に関連する文書を検索する
- 検索結果と質問をLLMへ渡す
- 回答を生成し、チャット画面へ返す
- 利用者ごとのアクセス権を制御する
「SharePointエージェント」はMicrosoftが用意した仕組みを利用するため、利用者がこれらを一から構築する必要はありません。これらの仕組みをよく知らなくても画面の項目を埋めれば作成できますので、比較的容易に利用し始めることができます。
利用条件
ここまで「利用者が作成できる」と書きましたが、SharePointエージェントで質問したり、作成・編集するには一定の条件があります。主な条件は次の通りです。
| 操作 | ライセンス・課金 | SharePoint上の権限 |
|---|---|---|
| エージェントへの質問 | Microsoft Copilotライセンスが必要、または組織の従量課金の対象であること | エージェントへのアクセス権 ※質問者の閲覧権限範囲内で回答に利用 |
| エージェントの新規作成 | Microsoft Copilotライセンスが必要 | エージェントを作成するSharePointサイトの編集権限が必要 |
| エージェントの編集 | Microsoft Copilotライセンスが必要、または組織の従量課金の対象であること | SharePointサイトの編集権限+エージェントファイル(.agent)の編集権限が必要 |
また、利用条件と直接は関係ありませんが、情報源・共有範囲・アクセス権・文書の更新方法など、継続的な運用方法についても事前に検討しておくとよいかもしれません。
- 契約や組織の設定によって利用条件が異なる場合があります。実際に利用する際には所属組織の管理者へ確認してください
- この記事ではMicrosoft Copilotライセンス(旧 Microsoft 365 Copilotライセンス)という表記で統一しています
向いている用途・向いていない用途
SharePointエージェントは次のような用途や環境と相性がよいと考えています。
- 情報源となる文書がSharePointに蓄積されている
- 同じ文書を繰り返し参照する
- 質問者によって閲覧できる文書が異なる
- 情報源の範囲を業務やチームごとに限定したい
- まずは小さく試して、効果を確認したい
逆に次の用途では、他の仕組みが適している可能性があります。
-
数個のファイルを一度だけ確認・要約する:Microsoft Copilot Chatなど
-
外部サービスとの連携やより複雑な対話:Microsoft Copilot Studioなど
-
検索方法、LLM、画面などを細かく制御する:独自に構築したRAGなど
それぞれの機能やライセンス、制御できる範囲が異なるため、目的に応じた使い分けが考えられます。
細かく設定・制御したい場合には向いていないこともある
SharePointエージェントはMicrosoft側で用意された仕組みを利用します。そのため細かな部分まで自由に設定・設計できるわけではありません。
2026年8月時点で筆者が作成・編集画面で確認した範囲では、次の項目を個別に設定する画面は見当たりませんでした。
- 文書の分割方法
- 検索インデックスの設計
- 回答に使用するLLMの選択
- チャット画面のレイアウトや機能
一方で、エージェントの名前・説明・情報源・指示・会話の開始例などは設定できます。
Microsoft公式FAQによると、カスタム構築エージェントに設定できる情報源は最大20項目です。ただし、サイトやフォルダーなどの単位で指定すれば、その中の文書をまとめて情報源にすることができます。
実装の容易さはSharePointエージェントの特徴の一つだと個人的には感じています。
SharePointに保存すれば、自動的に知識になるわけではない
SharePointエージェントを利用しても、元の文書に問題があれば回答にも影響します。
- 古い文書が残っている
- 同じ内容の文書が複数存在する
- 文書ごとに用語や記述が異なる
- アクセス権が適切に整理されていない
- 文書に必要な情報が書かれていない
そのため、エージェントを作成することと、情報源となる文書を管理することは、分けて考える必要があります。
SharePointに文書を保管しておき、後から探す、整理する、再利用するなどの用途においては、SharePointエージェントの特徴が活かしやすいと考えています。
まとめ
SharePointエージェントの特徴をまとめると、次のようになります。
-
SharePointに蓄積された文書へ自然な言葉で質問できる
-
回答にあるリンクから参照元の文書を確認できる
-
SharePoint上の情報源を回答に利用する際は、質問者のアクセス権が回答に反映される
-
情報源と指示を設定し、用途に合わせたエージェントを比較的容易に作成できる
-
エージェントの新規作成には、Microsoft Copilotライセンスが必要
-
エージェントの質問・編集にはMicrosoft Copilotライセンスまたは従量課金設定が必要
-
エージェントの新規作成・編集にはSharePointの編集権限も必要になる
SharePointエージェントでなければ文書の要約や情報抽出ができない、というわけではありませんが、社内文書がSharePointへ保存されていて、既存のアクセス権を維持しながら活用したい場合には、SharePointエージェントを選ぶ理由の一つになると思います。
今回はSharePointエージェントの概要を紹介しました。次の記事では、弊社の技術セミナーをSharePointエージェントで整理し、生成AI事例集を作成する取り組みについて紹介したいと思います。
参考文献
- SharePoint でのエージェントの使用(Microsoft Support)
- Get started with agents in SharePoint(Microsoft Support)
- Create an agent in SharePoint(Microsoft Support)
- Interact with agents in SharePoint(Microsoft Support)
- Frequently asked questions about Copilot in SharePoint(Microsoft Support)
- Manage access to agents in SharePoint(Microsoft Learn)
- Use an agent created in SharePoint in Microsoft Copilot Chat(Microsoft Support)
