この記事で学べること
- A2A(Agent to Agent)通信の基本概念と重要性 🧠
- MCPとA2Aの違いと補完関係 ⚖️
- 実際のコードでA2Aを実装する方法(PythonでのA2Aエージェント構築) 💻
- マルチエージェントシステムの主要なユースケース 🚀
- A2A通信の将来展望と課題 🔮
近年のAI技術の急速な発展により、単一のAIエージェントがタスクを遂行するだけでなく、複数のAIエージェントが連携して複雑な問題を解決する「Agent to Agent」(A2A)通信が注目されています。それは、個々の専門AIエージェントがチームとして働くことで、単体では難しい高度な課題を解決できるようになることを意味します。
この記事では、エージェント間通信の世界を掘り下げ、概念から実装までを包括的に解説します。これからAI開発に携わる方はもちろん、すでにAIシステムを構築している開発者にとっても、次のステップとなる知識を提供します。
1. 概要:エージェント同士が会話・協調する世界 🌐
A2Aとは何か? 🔍
Agent to Agent (A2A) 通信とは、AIエージェント同士が直接「会話」することで協力し合う仕組みを指します。各エージェントが互いにメッセージを送り合い、知識や指示を交換してタスクを分担・連携することで、人間が間に入らなくても複数のAIがチームのように動いて高度な目標を達成できるようにします。
考えてみてください:営業担当AIが顧客対応中に価格見積もりが必要になった場合、人間を介さずに財務AIに直接依頼し、さらに在庫確認が必要なら倉庫管理AIに問い合わせる—このような連携が自動的に行われる世界です。
Google Cloudが提唱した**Agent2Agent (A2A)**プロトコルは、このエージェント間対話のための共通「言語」を定義するオープン標準規格であり、異なる企業やフレームワークのAI同士でも安全に連携できるようにする試みです。これは、かつてHTTPがウェブを統一したように、AIエージェントの世界を統一する可能性を秘めています。
なぜA2Aが重要なのか? 💡
従来のAIシステムでは、特定のタスクに特化したAIエージェントが個別に機能し、それらの連携には人間の介入が必要でした。例えて言えば、それぞれ個室で働く専門家たちが、人間の秘書を通じてのみコミュニケーションをとっているような状態です。
A2A通信の実現により:
- 自律的なタスク連携: 複数のエージェントが自動的に連携して複雑なワークフローを処理
- 専門性の組み合わせ: 各エージェントの専門知識や能力を組み合わせて、より高度な課題に対応
- 効率化: 人間による仲介なしでエージェント間のタスク委譲や情報共有が可能に
- スケーラビリティ: 必要に応じてエージェントを追加し、システム全体の能力を拡張
🤔 考えてみよう
あなたが構築するAIシステムで、どのような専門エージェントを組み合わせれば有益でしょうか?例えば、「データ分析エージェント」と「レポート生成エージェント」を連携させると、どのような業務が自動化できるでしょうか?
このパラダイムは、AIの次の進化段階として位置づけられており、ビジネスプロセスの最適化、業務効率の向上、イノベーションの促進に大きく貢献すると期待されています。
2. MCPとの違い:ツール接続とエージェント対話の役割分担 🔄
MCPとは? 🧩
「MCP」(Model Context Protocol)はAnthropic社が提唱したプロトコルで、主に単一のAIエージェントが外部のデータやツールにアクセスする方法を標準化するものです。言い換えれば、MCPはエージェントに「ツールやデータ源を使うための統一インターフェース」を提供する規格で、「AIにとってのUSB-Cポート」のような役割を果たします。
A2AとMCPの違いと補完関係 ⚖️
特徴 | Agent-to-Agent (A2A) | Model Context Protocol (MCP) |
---|---|---|
主な目的 | エージェント間の協調と通信 | エージェントの外部ツール・データ連携 |
焦点 | エージェント同士の対話 | 単一エージェントのツール利用 |
アナロジー | 「整備士同士の情報交換」 | 「整備士が使うレンチ(工具)」 |
相互作用 | エージェント ↔️ エージェント | エージェント ↔️ ツール/データ |
解決する課題 | 複雑なマルチエージェントワークフロー | 断片化したツール・データアクセス |
重要なポイントは、A2AとMCPは競合ではなく補完的な関係にあるということです。複数のエージェントがA2Aプロトコルを用いて互いに通信・タスク分担しながら、各エージェントはMCPを通じて必要なツールやデータソースにアクセスするという形で連携します。
例えば自動車修理工場では:
- 調整役エージェントがA2Aを使って各専門エージェント(診断、部品発注など)と通信
- 各専門エージェントはMCPを使って専用ツール(診断センサー、在庫DBなど)と連携
総じて、**MCPは「エージェントとツールの接続標準」、A2Aは「エージェント同士の会話標準」**と覚えると分かりやすいでしょう。
3. 技術的な実現方法:通信方式と利用可能なフレームワーク 🛠️
エージェント間の通信方式 📡
マルチエージェント間の通信には、主に以下の方式があります:
1. 自然言語ベースの対話 💬
最も直感的な方法は、人間の言葉に近いテキストメッセージでエージェント同士が会話する形式です。
- 特徴: LLMの言語理解能力をそのまま活用、実装が容易
- 実装例: MicrosoftのAutoGenでは、複数のAIエージェントがチャットで相談するように会話しながらタスク解決
- 課題: 曖昧さや誤解が生じやすい
2. メッセージパッシング(構造化プロトコル通信)📩
エージェント間通信を明確なフォーマットのメッセージで行う方式です。
- 仕組み: HTTP上でJSON-RPCスタイルのメッセージを送受信
-
特徴: GoogleのA2Aプロトコルでは、各エージェントはAPIサーバーのように振る舞い(例:
tasks/send
エンドポイント)、他のエージェントにはHTTPクライアントとしてリクエスト - 高度な機能: Server-Sent Events (SSE)によるストリーミング送信やWebhookによる非同期通知
- メリット: 異なる開発者が作ったエージェント同士でも意思疎通が取りやすく、企業システムに統合しやすい
3. ブラックボードモデル(共有メモリ型協調)📋
複数エージェントが共通のデータ空間(ブラックボード)に情報を書き込み・読み出しすることで協調する方式です。
- イメージ: 大きなパズルを解く際に、一つの共有ホワイトボードの上で様々な専門家がアイデアを書き足していく
- 特徴: ゆるやかな並行協調が可能、エージェント間の結合度を低く保てる
- 適性: 領域横断的な複雑問題に向いている
- 課題: リアルタイム性や競合処理の制御は難しい
マルチエージェント開発の主要なフレームワーク 🧰
1. LangChain
LLMを使ったアプリ開発で広く使われているPythonベースのフレームワークです。
- もともとツール使用エージェントや対話型チェーン構築を得意とする
- 複数エージェントのオーケストレーション(調整)にも応用可能
- Agent Protocolという標準インターフェースを提案し、将来的にA2Aなどのプロトコルと連携
2. AutoGen (Microsoft)
Microsoftがオープンソースで公開しているLLMマルチエージェント会話フレームワークです。
- 開発者が複数のエージェントの振る舞い(ロール)や会話パターンを比較的簡単に定義可能
- 自然言語でエージェント同士を対話させる設計
- 数学問題やコーディング、QA、意思決定支援など様々なドメインでの協調効果を実証
3. Google Agent Development Kit (ADK)
Googleが提供するエージェント開発キットです。
- A2Aプロトコルに標準対応
- 最小限のコードでエージェントの思考、推論、協働を設計
- Agent Garden(サンプルとパターン)、Agent Engine(ランタイム)などのコンポーネントを提供
実装例:A2Aのコード実装 💻
A2A Agent Cardの例(JSON)🔖
Agent Cardは、エージェントの機能や接続方法を記述したメタデータファイルです。これは「エージェント発見(Agent Discovery)」の重要な要素であり、他のエージェントがこのエージェントの能力を知るための「名刺」のような役割を果たします。通常は /.well-known/agent.json
に配置され、HTTPSリクエストで取得できます。
{
"name": "Weather and Time Agent",
"description": "Agent that can provide weather information and current time for various cities",
"url": "https://example.com/agent",
"provider": {
"name": "Example Corp",
"website": "https://example.com"
},
"version": "1.0.0",
"authScheme": "none", // 認証方式(none, basic, oauth2など)
"defaultOutputMode": "text",
"skills": [ // このエージェントが持つ能力一覧
{
"name": "getWeather",
"description": "Get the current weather for a specified city",
"parameters": [
{
"name": "city",
"type": "string",
"description": "The name of the city",
"required": true
}
]
},
{
"name": "getTime",
"description": "Get the current time for a specified city",
"parameters": [
{
"name": "city",
"type": "string",
"description": "The name of the city",
"required": true
}
]
}
]
}
重要ポイント:Agent Cardは、A2A通信の最初のステップである「エージェント発見」を支援します。本番環境では適切な認証方式を設定し、能力(skills)の説明と必要なパラメータを明確に定義することで、他のエージェントが適切にこのエージェントを利用できるようになります。
シンプルなA2Aエージェントの実装(Python)🐍
以下は、python-a2a
ライブラリを使用したシンプルなエコーエージェントの実装例です。受信したメッセージにプレフィックスを追加して返します。
from python_a2a import A2AServer, Message, TextContent, MessageRole, run_server
class EchoAgent(A2AServer):
"""A simple agent that echoes back messages with a prefix."""
def handle_message(self, message):
if message.content.type == "text":
return Message(
content=TextContent(text=f"Echo: {message.content.text}"),
role=MessageRole.AGENT,
parent_message_id=message.message_id,
conversation_id=message.conversation_id
)
# Run the server
if __name__ == "__main__":
agent = EchoAgent()
run_server(agent, host="0.0.0.0", port=5000)
A2Aクライアントによるエージェント呼び出し(Python)📞
以下は、A2Aクライアントを使用してエージェントにメッセージを送信する例です。
from python_a2a import A2AClient, Message, TextContent, MessageRole
from python_a2a.utils import pretty_print_message
# Create a client connected to an A2A-compatible agent
client = A2AClient("http://localhost:5000/a2a")
# Create a simple message
message = Message(
content=TextContent(text="Hello, A2A!"),
role=MessageRole.USER
)
# Send the message and get a response
response = client.send_message(message)
# Display the response
pretty_print_message(response)
複数エージェントの連携例(Python)🤝
以下は、複数のA2Aエージェントを連携させて旅行プランを生成する例です。一つのエージェントの出力が次のエージェントの入力になるチェーン処理を実現しています。
from python_a2a import A2AClient, Message, TextContent, MessageRole
# Connect to specialized agents
weather_agent = A2AClient("http://localhost:5001/a2a")
planning_agent = A2AClient("http://localhost:5002/a2a")
def plan_trip(location):
"""Chain multiple agents to plan a trip."""
# Step 1: Get weather information
weather_message = Message(
content=TextContent(text=f"What's the weather forecast for {location}?"),
role=MessageRole.USER
)
weather_response = weather_agent.send_message(weather_message)
# Step 2: Use weather data to create a trip plan
planning_message = Message(
content=TextContent(
text=f"I'm planning a trip to {location}. Weather forecast: {weather_response.content.text} Please suggest activities and packing recommendations."
),
role=MessageRole.USER
)
planning_response = planning_agent.send_message(planning_message)
return planning_response.content.text
# Use the chained agents
trip_plan = plan_trip("Tokyo")
print(trip_plan)
Google ADKを使用したエージェントの実装 🧩
以下は、GoogleのAgent Development Kit (ADK)を使用した天気情報と時間情報を提供するエージェントの実装例です。
from google.adk.agents import Agent
from google.adk.tools import tool
@tool
def get_weather(city: str) -> dict:
"""Get the current weather for a specified city.
Args:
city: The name of the city to get weather for
Returns:
A dictionary containing weather information
"""
# In a real implementation, this would call a weather API
if city.lower() == "new york":
return {
"status": "success",
"temperature": "72°F",
"conditions": "Partly Cloudy",
"humidity": "45%"
}
else:
return {
"status": "error",
"message": f"Weather data for {city} is not available."
}
@tool
def get_current_time(city: str) -> dict:
"""Get the current time for a specified city.
Args:
city: The name of the city to get current time for
Returns:
A dictionary containing time information
"""
import datetime
from zoneinfo import ZoneInfo
# Simplified timezone mapping
city_to_timezone = {
"new york": "America/New_York",
"london": "Europe/London",
"tokyo": "Asia/Tokyo",
}
city_lower = city.lower()
if city_lower in city_to_timezone:
timezone = city_to_timezone[city_lower]
current_time = datetime.datetime.now(ZoneInfo(timezone))
return {
"status": "success",
"city": city,
"time": current_time.strftime("%H:%M:%S"),
"date": current_time.strftime("%Y-%m-%d"),
"timezone": timezone
}
else:
return {
"status": "error",
"message": f"Timezone information for {city} is not available."
}
# Initialize the agent
agent = Agent(
name="weather_time_agent",
model="gemini-2.0-flash-exp",
description="Agent to answer questions about the time and weather in a city.",
instruction="I can answer your questions about the time and weather in a city.",
tools=[get_weather, get_current_time],
)
LangGraphを使用したマルチエージェントフロー 🔄
LangGraphは状態を持つマルチエージェントアプリケーションをグラフとして構築するためのライブラリです。以下は基本的な使用例です。
from typing import Annotated, List
from typing_extensions import TypedDict
from langgraph.graph import StateGraph, END, START
from langgraph.graph.message import add_messages
from langchain_core.messages import AnyMessage, HumanMessage, AIMessage
from langchain_openai import ChatOpenAI
# 状態の定義:メッセージリストを保持
class State(TypedDict):
messages: Annotated[List[AnyMessage], add_messages]
# LLMを呼び出すノード関数
def call_llm(state: State):
model = ChatOpenAI(model="gpt-4o")
messages = state['messages']
response = model.invoke(messages)
# 新しいメッセージを状態に追加して返す
return {"messages": [response]}
# グラフビルダーの初期化
graph_builder = StateGraph(State)
# ノードの追加 ("llm_node" という名前で関数を登録)
graph_builder.add_node("llm_node", call_llm)
# エッジの定義 (STARTからllm_nodeへ、llm_nodeからENDへ)
graph_builder.add_edge(START, "llm_node")
graph_builder.add_edge("llm_node", END)
# グラフのコンパイル
graph = graph_builder.compile()
# グラフの実行
initial_state = {"messages": [HumanMessage(content="こんにちは!")]}
final_state = graph.invoke(initial_state)
# 最終的なAIの応答を表示
print(final_state['messages'][-1].content)
4. ユースケース:マルチエージェント協調の活用例 🚀
マルチエージェント型AIの協調により、これまで単独AIでは難しかった自律的な問題解決や効率化が期待されています。
4.1 複雑なタスクの自律処理 📈
複数の専門AIが連携することで、企業内の複雑な業務プロセスを自動化できます。例えば、営業担当のAIアシスタントが見積もり作成のため財務AIに直接依頼を送り、在庫確認が必要になればカスタマーサービスAIが倉庫管理AIとやり取りするといった具合です。
Googleの報告によれば、エージェント同士をA2Aで接続することで、人間を介さずに部署横断のタスク(例:「新人社員用のノートPCを調達のエージェントに発注する」など)を完了できたケースもあります。
4.2 コーディングタスクの分担 💻
ソフトウェア開発分野でもAIエージェントの協調が試みられています。例えばChatDevというフレームワークでは、仮想的なソフトウェア開発会社をシミュレートし、開発工程を複数の役割エージェントが分担して進めます:
- 設計者AI:要件を分析し、アーキテクチャを設計
- プログラマーAI:実際のコードを記述
- テスターAI:バグを発見し、品質を確保
- 文書化AI:ドキュメントを作成
各エージェントはチャットで議論を交わしながら順次成果物を引き渡し、最終的に動作するソフトウェアを自律的に作り上げます。
4.3 合意形成や意思決定の精度向上 🧠
マルチエージェントはお互いの答えを検証・改善し合う用途にも使われます:
- 複数のAIがそれぞれ回答と根拠を提案し合い、互いに議論
- 3体のLLMエージェントに順番に自分以外の回答を批評させる「デベート(討論)」手法
- 数学的推論や知識問題の正答率が単独回答より大幅に向上
- 回答の事実誤り(幻覚問題)を減らす効果も確認
5. 実際の業界事例:A2Aがもたらす革新 🏭
理論的な解説だけでなく、実際の企業や組織がどのようにA2A技術を活用しているのかを見てみましょう。
金融業界: 複雑な投資分析の自動化
大手投資銀行では、複数のAIエージェントを連携させた投資分析システムを構築し、以下のような成果を上げています:
- 市場分析エージェント: 24時間体制でグローバル市場のデータを監視・分析
- リスク評価エージェント: ポートフォリオのリスク分析と警告の発行
- レポート生成エージェント: 分析結果から投資レポートを自動生成
- 成果: 分析時間の84%削減、異常検出精度が23%向上
ヘルスケア: 協調型診断支援システム
医療研究機関では、専門分野ごとのAIエージェントが連携し、複雑な症例の診断支援を行うシステムを開発:
- 症状分析エージェント: 患者の症状データを初期分析
- 専門科目エージェント: 内科、神経科、放射線科など専門分野ごとの詳細分析
- 薬剤相互作用エージェント: 処方薬の相互作用リスクを評価
- 統合診断エージェント: 各専門エージェントの分析を統合し最終的な診断案を提示
- 成果: 希少疾患の診断率が45%向上、診断時間が平均62%短縮
カスタマーサポート: 階層型インテリジェントサポート
大手Eコマース企業では、階層的なエージェントシステムで顧客対応を自動化:
- 一次対応エージェント: 初期問い合わせを受け付け、カテゴリ分類
- 専門エージェント群: 返品、技術サポート、配送問題など専門領域ごとの対応
- エスカレーションエージェント: 複雑な問題を人間のオペレーターにエスカレーション
- 成果: 問い合わせの76%が完全自動化、顧客満足度が12ポイント上昇、応答時間が平均78%短縮
6. エージェント間通信の実装パターン 🧠
エージェント間通信を実装する際の主要なパターンには以下のようなものがあります:
1. Hub-and-Spoke パターン
中心となる「ハブ」エージェントが各「スポーク」エージェントとの通信を調整します。
- 適用例: メインのアシスタントエージェントが複数の専門エージェントにタスクを委任
- メリット: 通信の集中管理、タスクの調整が容易
- デメリット: 単一障害点、スケーラビリティの制限
2. メッシュパターン
各エージェントが互いに直接通信し、完全なメッシュネットワークを形成します。
- 適用例: 各専門エージェントが独自に判断し、必要に応じて他のエージェントに直接連絡
- メリット: 高い柔軟性、単一障害点なし
- デメリット: 通信量の増加、複雑性の増大
3. パイプラインパターン
エージェントがチェーン状につながり、各ステップで処理を行います。
- 適用例: 段階的なデータ処理ワークフロー
- メリット: 処理の順序が明確、各ステップの責任が明確
- デメリット: 一つのエージェントの障害が全体に影響
7. 今後の展望:マルチエージェント時代に向けて 🔮
LLMの進化と標準プロトコルの整備により、エージェント同士が自由に協力し合う「Agent to Agent」の未来は目前に迫っています。
研究トレンドと発展方向 📊
-
エージェント社会 (Agent Societies):
数十〜数百の専門エージェントが動的に協調する大規模エコシステム。例えば、企業内で営業、マーケティング、開発、運用などの専門分野ごとにエージェントが配置され、全体として一つの組織として機能する構造です。 -
自己改善型エージェントネットワーク:
エージェント自身が他のエージェントのパフォーマンスを評価し、必要に応じて新しいエージェントを作成・改良するシステム。例えば、医療診断エージェントは自身の能力を向上させるために専門分野ごとの下位エージェントを育成します。 -
マルチモーダルエージェント間通信:
テキストだけでなく、画像・音声・動画などのモダリティを含む情報を直接交換できるエージェント間通信。例えば、視覚分析エージェントが画像を処理し、その結果をテキスト解析エージェントに送信して総合的な分析を行うシナリオが可能になります。
乗り越えるべき課題 🚧
マルチエージェントの大規模活用には、以下のような課題があります:
-
スケーラビリティ(拡張性):
- 実際の問題: 100以上のエージェントが協調すると、通信量が爆発的に増加し、レイテンシが高まる
- 解決アプローチ: 階層型アーキテクチャの採用、非同期通信パターンの最適化
-
安定性・協調制御:
- 実際の問題: エージェント間の無限ループや矛盾した指示による競合状態
- 解決アプローチ: タイムアウトメカニズム、監視エージェントの導入、優先順位付け
-
セキュリティと倫理:
- 実際の問題: 悪意のあるエージェント侵入、情報漏洩リスク、自律的な意思決定の倫理的問題
- 解決アプローチ: ゼロトラストアーキテクチャ、エージェント行動の監査ログ、倫理的ガードレール
🔧 実践ヒント
A2Aシステムを構築する際は、小規模から始めて徐々に拡張することをお勧めします。まずは2〜3のエージェントの連携から始め、安定性を確認しながらエージェントを追加していくアプローチが効果的です。
標準化の重要性 🌉
A2Aのような標準プロトコルの普及は、インターネット初期におけるHTTPの標準化になぞらえられます:
- 相互運用性: 異なるベンダーやフレームワークのエージェント間の壁を越える
- エコシステム形成: 様々なエージェントが共通言語で連携するエコシステムの構築
- イノベーション促進: 標準化によるベンダーロックイン防止と新たな応用の創出
GoogleやAnthropicをはじめ多くの企業・コミュニティが協調してプロトコル標準化に取り組んでおり、ベンダーの壁を越えたエージェント相互運用性が実現しつつあります。
8. 実践的なA2A実装ステップ 🔧
A2A対応アプリケーションの開発に取り組む際は、以下のステップが参考になります:
開発環境の準備と基礎知識の習得 📚
- A2Aプロトコルの仕様書を読み、基本概念を理解する
- 必要なライブラリをインストール:
pip install python-a2a langchain langgraph autogen
- GoogleのADKを使う場合は公式ドキュメントを参照
よくあるトラブルと解決策 🩹
問題 | 症状 | 解決策 |
---|---|---|
通信タイムアウト | エージェント間の接続が切れる | タイムアウト設定を調整、非同期処理の実装 |
メッセージ形式エラー | 「形式が無効」エラーが発生 | メッセージのスキーマ検証を追加 |
認証失敗 | 403 Forbiddenエラー | トークン期限切れやスコープの確認 |
無限ループ | エージェント同士で延々とメッセージを交換 | 最大メッセージ数の制限、タイムアウトの設定 |
不整合な応答 | エージェントが予期しない応答を返す | コンテンツタイプのネゴシエーション、スキーマ定義 |
シンプルなA2Aサーバーを作成する 🖥️
# simple_a2a_server.py
from python_a2a import A2AServer, Message, TextContent, MessageRole, run_server
import json
class WeatherAgent(A2AServer):
def handle_message(self, message):
if message.content.type == "text":
city = message.content.text.strip()
# 実際にはここで外部APIを呼び出すなどして天気情報を取得
weather_info = {"tokyo": "sunny, 25°C", "new york": "cloudy, 18°C"}.get(
city.lower(), "weather data not available"
)
return Message(
content=TextContent(text=f"Weather in {city}: {weather_info}"),
role=MessageRole.AGENT,
parent_message_id=message.message_id,
conversation_id=message.conversation_id
)
# 定義したAgent Cardを作成
def create_agent_card():
card = {
"name": "Simple Weather Agent",
"description": "Provides weather information for cities",
"version": "1.0.0",
"skills": [{"name": "getWeather", "description": "Get weather for a city"}]
}
with open(".well-known/agent.json", "w") as f:
json.dump(card, f)
if __name__ == "__main__":
import os
os.makedirs(".well-known", exist_ok=True)
create_agent_card()
agent = WeatherAgent()
run_server(agent, host="0.0.0.0", port=5000)
複数エージェントを連携させる ⛓️
# agent_orchestrator.py
import asyncio
from python_a2a import A2AClient, Message, TextContent, MessageRole
async def orchestrate_trip_planning(city):
# 3つの専門エージェントに接続
weather_client = A2AClient("http://localhost:5001/a2a")
hotel_client = A2AClient("http://localhost:5002/a2a")
activity_client = A2AClient("http://localhost:5003/a2a")
# 1. 天気情報の取得
weather_msg = Message(content=TextContent(text=city), role=MessageRole.USER)
weather_resp = await weather_client.send_message_async(weather_msg)
weather_info = weather_resp.content.text
# 2. ホテル情報の取得
hotel_msg = Message(
content=TextContent(text=f"Find hotels in {city} considering: {weather_info}"),
role=MessageRole.USER
)
hotel_resp = await hotel_client.send_message_async(hotel_msg)
hotel_info = hotel_resp.content.text
# 3. アクティビティの提案
activity_msg = Message(
content=TextContent(
text=f"Suggest activities in {city}. Weather: {weather_info}. Staying at: {hotel_info}"
),
role=MessageRole.USER
)
activity_resp = await activity_client.send_message_async(activity_msg)
# 最終的な旅行プランを作成
return f"""
Travel Plan for {city}
---------------------
Weather: {weather_info}
Accommodation: {hotel_info}
Activities: {activity_resp.content.text}
"""
if __name__ == "__main__":
city = "Tokyo"
result = asyncio.run(orchestrate_trip_planning(city))
print(result)
9. まとめ 📝
Agent to Agent (A2A) 通信は、AIの次の進化段階として位置づけられる重要な技術です。エージェント同士が連携することで、単独のAIでは解決できなかった複雑な問題に対応できるようになり、企業の業務効率化やイノベーション創出に大きく貢献することが期待されています。
MCPと補完関係にあるA2Aは、エージェント間の対話に焦点を当て、様々な通信方式やフレームワークによって実現されています。実装例に示したように、適切なツールとコードを使うことで、専門的なエージェント群を連携させることが可能です。コーディング、意思決定、業務自動化など、既に多くの領域で活用が始まっており、将来的には更に多様な分野での応用が見込まれています。
標準化の進展と技術的課題の克服により、複数のAIエージェントがバックエンドでチームとして協働し、人間の複雑な要求に対してより包括的で柔軟なサービスを提供できる未来が近づいています。まさに「Agent to Agent」でAIが協力し合う世界が、次のAI革命として到来しようとしているのです。