Podcast番組 | 社会人からの海外の大学での学び直し(ゲスト:植山類さん)

『エンジニアストーリー by Qiita』(現『Qiita FM-エンジニアのキャリアを深掘り』)は、「エンジニアを最高に幸せにする」というQiitaのミッションに基づき、エンジニアの皆さまに役立つヒントを発信していくPodcast番組(無料・登録不要)です。毎回、日本で活躍するエンジニアの方々をゲストに迎え、キャリアやモチベーションに関するお話をしていただきます。

今回の記事では、植山 類さんをゲストにお招きした回について、配信の模様をご紹介します。

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プロフィール

出演ゲスト

植山 類(うえやま るい)
BlueWhaleSystems株式会社
Googleにおいて、大規模プログラムの開発の現場において業界標準として使われているLLVMlldリンカを開発。その後独立してより高速なmoldリンカを開発。現在は独立してBlueWhaleSystemsK.K.を創業し、ツールチェインのライセンスビジネスを展開している。

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番組ホスト

清野隼史(きよの たかふみ)
Qiita株式会社
アルバイトを経て、2019年4月にIncrements(現 Qiita株式会社)へ新卒入社。入社後はQiita、Qiita Jobsのプロダクト開発や機能改善等を担当。2020年1月から「Qiita」のプロダクトマネジメントとメンバーのマネジメントを行う。2025年4月よりプロダクト開発部 部長として開発組織の統括を行う。

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いつからプログラミングを始めたか?

清野:今回のゲストは元Googleソフトウェアエンジニアで、現在は独立してBlue Whale Systems株式会社を創業されている、植山 類さんです。よろしくお願いします。

植山:よろしくお願いします。私は10年ほどアメリカのGoogleで働いてまして、主にコンパイラチームへ行ってC++コンパイラや、それに関するツールの開発をしておりました。その後Google Japanに少しだけ戻ってきましたが会社をやめて、今は自分の会社でオープンソースを元にビジネスをしています。

清野:今回植山さんとお送りする1回目のテーマは「社会人からの海外の大学での学び直し」です。今はコンパイラの開発をやってらっしゃったりアウトプットもされていたり、知ってる方も多いんじゃないかなと思うんですけど、そもそも開発やプログラミングいつから始めたのかとか、いつ興味を持ったのかをお伺いしてみたいです。

植山:プログラミングを本当に始めたのは、多分中学生の3年生くらいです。ただ昔の話で、コンピューターが今みたいに広くみんなに受け入れられてるというか、役に立つスキルだと思われてないような時代でした。むしろそういうので遊んでるとダメな人間になるみたいな。

なので誰かに勧められたとかではなく、ただある種の人間は多分そういう星の元に生まれついていて、コンピューターをいじって何かを作りたくなるみたいな衝動があるような気がするんですよね。例えば僕の友達は、家にコンピューターがないので紙にコードを書いて、友達の家に行って入力させてもらう人がいました。マイコン族じゃなくてナイコン族という話ですけれど。多分僕もマイコンというよりはもうちょっと後ろの世代ですけど、似たような人種です。きっかけというのがなく、単にプログラミングをしてるみたいな感じなんですよね。

清野:当時、プログラミングとかコンピューターって、雑誌で知るとかだったんですか?

植山:そうですね。コンピューターはないわけではないので、何かはみんな分かってはいると思うんですよね。ただ今みたいに、本当に分かってるかどうかって言うと、分からないですけど。

清野:ですよね。今だとコンピューターについて調べるのにコンピューターを使うみたいな時代じゃないですか?当時って違いますよね。

植山:当時は「パソコンって何、使えるの?」みたいな世界ですから。通信もできるし人とのコミュニケーションもできるし、プログラミングもできるし表計算も何でもできるって言うと、理解してもらえないことが多かった時代だったかもしれないですね。今となっては信じられないですけど。

清野:当時、プログラミングの勉強って、どうやってらっしゃったんですか?

植山:プログラミングの勉強は基本的には本を読んでやっていて、今とはあまり変わりないと思います。

清野:そうなんですね。最初に興味を持ったのって、どういう流れなんですか?

植山:それが、ないんですよね。単純に、もともと興味があるだけなんですよ。逆に言うと、役に立つからやってるとかいうわけではなくて、単にやりたいからやってるだけなんです。

清野:趣味とかエンタメの1つとして、やってたみたいなそんな感じなんですかね。

植山:そうですね。例えば、歌が好きな人に「歌が好きなのはどうしてですか」聞くと、
中にはきっかけがある人もいるかもしれないけど、多分多くのプロで歌をやってる人は、物心がついたときから歌が好きだったというような話だと思うんです。それと似たようなものがあるかもしれないですね。

清野:なるほど。じゃあ、もともと物づくりとかが好きだったんですかね。

植山:そうですね。もともと物づくりが好きで、うちの親も好きなので、要素があるのかもしれないですけどね。

清野:じゃあ最初は趣味でプログラミングやコンピューターを始めて、そこから今に繋がってくるってことですね。

植山:そうですね。だから大人の言うことはあんまり信用してはいけないってことですよね、ある意味では。

清野:その当時は仕事に繋がるとか、全然思われてなかったってことですもんね。

植山:勘の良い人だったら「これはかなりすごいことになる」というのは先見の目があれば分からなくもなかったと思うんですけど。ただ普通の人がそう思えたかって言うと全然そういう時代ではなく、「よく分からないけど、とりあえず遊んでんな」みたいなのは、信用してもあまり良いことがないっていうことですけどね。

清野:その「趣味」からプログラミングを始めていったと思うんですけど、学問として学び始めたタイミングはあるんですか?

植山:コンピューターサイエンス的なものはもともと好きなので、何が学問で何が学問じゃないかという境界線は、割と曖昧だと思うんですよ。例えばアルゴリズムが学問なのかというと、学問でもあるようでいて、実用的な技術の1つなのか。ただパフォーマンス特性とかを考えて分類して考えると、学問とも言えなくないけど、境界線がはっきりしないと思うんですよね。

あとは物理も境界線はすごくはっきりしてるわけじゃないかもしれないですけど、コンピューターは全てが人が作ったものなので、人が作った計算機の上でどれだけその理論が一般性を持つかというとよく分からないところがあって。そういう意味では、どこからがコンピューターサイエンスでどこからがエンジニアリングなのかは、ちょっと曖昧なところがあると思うんですけど、僕はどっちも好きです。シフトしていったわけじゃなくて、両方勉強してるみたいな感じですかね。

清野:そうなんですね。特に区別せずにやってた感じだったんですかね。

植山:そうですね。僕はコンピューターにまつわることは大体何でも好きなので。JavaScriptでウェブサイトをちょっと綺麗にするとかも好きですし。コンピューターサイエンスの、例えば言語のクラスについて考えてみるのもまあ好きみたいな。

清野:そうなんですね。今やってらっしゃることを聞くと、最適化とかのほうに興味があるのかなと思っていたんですけど、結構幅広く様々なことに興味があるのですね。

植山:むしろ僕は「ちょろっと動いて良い感じに便利」なものが好きなので。例えばお風呂を入れるボタンをスマホから押せるような「SwitchBot」を買ったんですよね。そういうものを見ると「こういうの作るの楽しそうだな」と思いますね。

清野:そういうものを上手く動かせる仕組みとか、ものづくりが全般的に好きなんですね。

植山:そうですね。昔は赤外線リモコンをUSBで出せるやつを買ってきまして。そういうデバイスって世の中にあってですね。LinuxからそのUSBのシリアルポートを読むと赤外線データがそのバイナリデータとして読み出せて、それを書き込むと、同じ外線データが出ていくようなデバイスがあって、それを使って家の外からエアコンをつけれるようなものを作っていました。

清野:じゃあ、今の「SwitchBot」を自分で作るみたいな。

植山:ある意味そうですよね。

清野:ものづくりが好きで、プログラミングやってらっしゃるってお話じゃないですか。どういう流れでエンジニアになっていったのか、どう学んで行ってキャリアを積んでいったのかについて教えてください。

植山:キャリアにつながった一番の流れは、多分Linuxを使っていたことです。当時、Linuxは雑誌の付録のCD-ROMとかについてくるみたいな時代で、それをインストールして、UNIXを使いはじめました。そうすると、その上のプログラミング環境は無料でもらえるので、そこでプログラミングをしていました。

オライリーの本とかを読んでいて、そうしていると仕事は割といくらでもあるんですよね。なので、境界はちょっと曖昧です。いつの間にか、使えるスキルが身についていたような感じです。僕はもう仕事して長いので分かりますけど、オライリーの本とかをたくさん読んでる人って、あまりいないんですよね。なので、趣味で読んでる人は強いんですよ。

例えばオライリー本の『DNS & BIND』というすごく分厚い本を何回も読書として読んでいました。未だにほとんど役に立ってないですけど、DNSとかについては異様に詳しいんですよ。そこら辺のネットワークエンジニアより全然詳しいみたいな。仕事と趣味の境目は結構曖昧、趣味でやっているつもりでもすごく役に立ってるみたいな感じですね。

清野:ファーストキャリアからソフトウェアエンジニアだったんですか?

植山:だいたい、そうですね。

清野:大学で学んで、その進路としてソフトエンジニアになったっていうよりも、趣味の延長線上でエンジニアになっていった感じなんですか?

植山:そうですね。当時の人たちは割とそのようなパターンが多かったですね。みんなってわけじゃないかもしれないですけど。ちょっと後の世代になってくるとコンピューターサイエンスを大学で勉強するような人が増えていると思います。

僕らぐらいだと、掴みどころのない人たちが、将来性があるのかよく分からないことをずっとやってたら、いつの間かモノになっちゃって、今や出世しちゃってるみたいなノリがあると思うんです。まあ面白いですよね。

清野:理論体系みたいなものが完成してから学んでいる今の世代の人たちと、それを作り上げながら勉強していた世代がいらっしゃる感じなんですかね。

植山:コンピューターを使った仕事、プログラミングが良い仕事だと思われてなかったような時代にやってた人と、今の時代にやってる人は違うかもしれないですね。

清野:エンジニアとしての当時の仕事って、どういう感じだったんですか?

植山:仕事としてはあまり変わりがなかったと思います。スケールはもっと小さいですけれど。日本でコンピューターを使っている人が数百万人とかで、今だと1億人とかなので、全然リーチが違います。

ただ仕事は似たようなものだったと思います。例えばWebサーバーを立ち上げて何かをやるってなったら、Apache(アパッチ)を立ち上げて。今だとクラウドなので違うかもしれないですけど、そんなには変わりはないかもしれないですね。

清野:ちょっと前の表現で言うとLAMP環境という、Webサーバーとアプリケーションサーバーがあって、その上でHTMLを配信していくみたいなオーソドックスな形でやってらっしゃったって感じなんですかね。

植山:Webアプリケーションに関してはそうですね。データベースがあって、Apacheなりが動いてみたいな。それよりもう少し前になると、PerlでCGIとかの世界になって、かなり古くなっちゃいますけれど。

清野:そうですね。体験したことない世界ですね。

植山:僕もPerlでCGIとなると「あるかな?」レベルです。

清野:さっきのお話にもありましたけど、今はクラウド環境とかもできているし、その保守や運用していくところもプラクティスが出てきていたり、様々なサービスがあったりして、楽になってきていると思います。当時はエンジニアリングをするためのツールも少なかったのかなという気がしています。例えばエディターひとつとっても、今は充実していますけれど、当時はどういう感じで開発してたのかとか、どういうトラブルが起こってたのかも気になります。

植山:今とは変わらないかもしれないですね。VS Codeみたいなツールは当然ないです。あとはクラウドがないので「インスタンスを少し立ち上げて」みたいなのではなくて、本物のハードウェアを用意して、そこにCD-ROMでOSをインストールして、トラブルがあったらデータセンターに行って、みたいなことが面倒ですけれどありました。一方で、クラウド任せでは分からないことを学べるというのは、良いと言えば良いですね。

例えば、「メールがどういう仕組みで届いてるのか」を全く気にしなくて良いなら一番良いですけれど、トラブルシューティングをしようとすると、どういう仕組みか分からないと困ります。なので、昔の方がもっと直で見えてるところが多かったと思います。

清野:印象に残ってる、当時のインシデントはありますか?

植山:Googleとかではいろいろなインシデントの伝説的な話を聞きましたね。Google全体を止めそうになった男とか。あ、でも僕もGoogleのモバイル検索を30分ぐらい止めたことありますね。

当時はGoogleモバイルがそこまで大きくなかった、とはいえ、それでもまあまあ大きかったんですけれど。何かのデータをプッシュしたら「検索が壊れた」っていう報告が来て、でも検索したら別に普通に検索できるんですよ。「検索できるじゃん」と思ったら検索結果に飛べないっていうので、検索結果に飛ぶともう1回検索結果のページがリロードされるだけみたいになっていました。「うわ、やばいなこれ」と思って。30分ぐらいで元に戻したんですけれど。

清野:Googleでそれやったら心臓止まりそうになります。ありがとうございます。

植山:ほかにも伝説があって、例えば、何かのデータを吹き飛ばしてしまったけどサーバーでまだインスタンスが動いてるので、デバッガでGDPでそのプロセスにつないで、データをそのプロセスから吸い上げて、なんとか復旧に成功したという話です。自分のことではないですけれど。

清野:Googleでも、そんなライブ感のあるオペレーションがあるんですね。

植山:そういうのたくさんありますよ。外から見えてないだけで。

会社を辞めて大学に

清野:趣味でプログラミングを始めて、延長線上でソフトウェアエンジニアになられたんですね。植山さんは海外の大学院へ行ってらっしゃると思うんですけど、もともと社会人として仕事をしていたところから大学院に入った、きっかけやモチベーションってあったんですか?

植山:きっかけが明白にあるわけじゃないですが、スタンフォードのコンピューターサイエンスの大学院というと、MIT(マサチューセッツ工科大学)と並んで世界最高峰なので、そこがどのようなところかを野次馬的に見てみたかったです。勉強するのも楽しいかなと思って、なんとなくやってみたんですよね。

Googleだとスタンフォードの大学院の授業を受けられる、コーポレートのメンバーシップみたいなものがあって、そこでいくつか授業を受けるとサーティフィケート(認定証)がもらえるんです。お試しができるんですよね。そういうのでお試しをすると入学に有利でした。なぜかと言うと、そこですごい良い成績を取ると、その教授に推薦状を書いてもらえるんです。

なのでまず3つくらい授業を取ってみて、どう自分が思うかを含めて体験としてやってみたら、「なかなか面白い」と思って、正規の学生としてアプライしてみました。

清野:お試し入学みたいなのがあるんですね。

植山:そうですね。入学じゃなくて、履修生の扱いですね。成績もつくし、授業も普通に受けるけれど、学位になるわけではない。大学としては、それで履修生としての学費をもらうので儲かるみたいなのがあるんですよね。

清野:お試し入学というか、履修は、お仕事もやりながらやってたんですか?

植山:そうです。入学した後もずっと仕事をやりながらでした。

清野:スタンフォードに行った時は、海外で直接リアルで授業受けてたって感じですか?

植山:そのときはGoogleで仕事をしていて、スタンフォードの大学は、家から車で20分ぐらいの距離なんですよ。けれど道路が渋滞して、下手すると1時間ぐらいかかっていたので、授業は全てオンラインで録画されているものを見ていました。それで、テストは受けに行くみたいな感じでした。

清野:そうなんですね。やろうと思えば、日本からも入学して授業受けられるんですか?

植山:できないことはないと思いますね。どれぐらい可能かは分からないですけど、ローカルの人しかダメっていうわけじゃないです。ローカルの人だと逆にテストは受けに行かないといけない縛りがあるぐらいで。遠く離れていても、できないわけじゃないと思います。やってる人もいるはずです。

あとはスタンフォードだけじゃなくて、アメリカではリモートでも取れる学位をやっています。例えば有名なところだとジョージアテック(ジョージア工科大学)とか。他にも色々あるんですよね。学費とかも結構安いところもあって、正規の学位がもらえるので、その後アメリカで就職するとかだとかなり有利になるはずです。悪くはないと思うんですよ。

清野:そうなんですね。仕事しながら勉強してる方も今日本にもいっぱいいらっしゃいますし、海外で勉強したいけれど、いろいろな事情で行けない方もいらっしゃる気がするので、僕も聞いててちょっと興味を持ちました。

植山:オンラインで検索してみると、いろいろ情報はあると思います。ただ僕のおすすめは、時間とお金が許すのであれば、オフライン学生として通う方が良いと思います。僕も、今から考えるとそうすれば良かったなと思っています。

会社を辞めて、1年半とか2年ぐらいで卒業できるので集中してやって、卒業したらもう1回就職すれば良かったと思うんですよね。仕事を辞めずにやってしまったのは、長期雇用マインドがまだ抜けてなかったゆえの失敗かなと思って。

清野:やっぱりせっかく学ぶなら、しっかり学ぶ選択肢もありますよね。

植山:あとは学生寮に入ると、そこの学生寮で様々なコミュニケーションがあるので、全然違うと思いますね。

スタンフォードで何を学べるのか?

清野:実際スタンフォードで勉強してみて、内容や学生の雰囲気とかって、日本と差ってありましたか?

植山:学ぶ内容の差は無いんじゃないかと思うんですけど、学生で言うと、様々な国から来てるのは違う点ですよね。50ヶ国以上から来てると、確か入学の時に学長が言ってたと思うので、かなりすごいですね。

男女比は6:4くらいなので、ダイバーシティとかも考えているのがあるんでしょうけど、それ半々を目指してるみたいなこと言っていました。あとはスタンフォードの教授、西海岸だからっていうのがあるんでしょうけれど、スタンフォードの教授たちはみんな「ビジネスもできる」のは自慢してるっぽくって。

その入学の時に、コンピューターサイエンスの学長が「我々は、常にビジネスプランをジーパンのうしろのポケットに入れてるんだ」と言っていました。それは比喩でしょうけれど、アカデミアだからビジネスのことは分からないのとは全く逆です。

それと教授が、ビジネスで大成功した後に教授になってる人とかが結構いて、何千億円持ってるみたいな人が、いるんですよ。教授からビジネスに転身する人も結構多くて、会社を作っちゃう人も結構多いですし、僕が最後の方に受けたネットワークの授業の教授は、授業が終わった何クオーターかあとにインテルに転職していて、それでインテルの副社長になって、SVPになっていました。

清野:日本とはそこらへんの雰囲気は全然違いそうですね。やっぱり日本のアカデミックなところだと、ビジネスにつなげていく雰囲気があまりないというか、勉強して論文書いて、終わったら就職して、また0からエンジニアのキャリア積んでいくイメージがあります。

植山:そうですね。スタンフォードなんかは、コンピューターサイエンスは就職予備校みたいなマインドだと思いますね。基本的には、就職に役立つから来ていて、みんなお金もたくさん払っているので元を取る気持ちも満々です。

授業でも、単位がもらえないか1単位だけもらえる授業だったかで、テック企業の面接を学ぶ授業みたいなとこがありました。模擬面接をしてもらえるみたいな。ちょっとノリが違うところはあるかもしれないですね。

アメリカとかでありがちなのが、なぜかよく分からないですけど、アカデミックやコンピューターサイエンスとかで強い人がマネジメントも強いパターンが結構あります。なので、普通に大学教授をやってた人が例えばインテルのSVPになって、何百人、何千人いる部門を率いるのって、大学教授としてのスキルだけじゃダメですよ。なぜか結構できちゃうんですよね。やっぱりアメリカの強いところだなと思ってます。

清野:日本と全然違う雰囲気な感じがしますね。今お話にもありましたけれど、海外の大学行くってなると結構お金はかかりますか?

植山:かかると思いますね。私はGoogleに勤めながらやっていて、Googleは福利厚生の一部として学費の2/3は払ってくれたんですよね。50単位ぐらいを取れば卒業だと思うんですけど、1単位あたりいくらみたいになっていて、1単位あたりが1200ドルとか1300ドルぐらいだったと思うんですよね。今の円相場で言うと20万円近いと思います。掛け算すると1000万円。僕の場合は多分自己負担200〜300万円ぐらいだったんじゃないですかね。

しかもそれはパートタイムとして言っているので生活費とかカウントされていなくて、しかもGoogleが2/3払ってくれてるので、今の円相場で仕事辞めてフルで行くと、年間1000万じゃ全然足りないと思いますね。

清野:なかなかしんどいですね。現地の学生とかは、お金の工面ってどうしてるんですか?

植山:入学した時に聞いてみて思ったのは、半分ぐらいの学生は何らかのファイナンシャル・エイドを得て来てるっぽいんですよね。奨学金みたいな感じですね。あとはスタンフォードとかも、10万ドル以下の収入しかない人だと学費免除とか、そんなのがあって、それだと下手すると日本人はほとんど該当しちゃうんですよね。今だと1500万とかになっちゃうんで。

そういう意味で、半分ぐらいの人たちは何らかの資金的な援助を得て来てるっぽいです。なので、二重価格の設定になってるんだなと思ったんですよね。つまり払える人だったら払ってもらうと。払えない人には、何らかの救済処置がある程度用意されてるみたいな。

清野:じゃあ値段自体は結構高いなと思いますけど、サポートもあるんですね。

植山:何らかの救済処置は、どうもあるっぽいですね。ただ、そういう奨学金とかをどこから得てるのかは、ちょっと分からなかったですけど。学校から得てるのか、自分の国から得てるのか。

あとは、みんな元を取るつもりで来ていて、学生ローンはアメリカでも一大産業ですし、お金を借りて取り返すつもりで行くと。アメリカのコンピューター業界の給料はすごく良いですから。なので20万ドルとか借金があっても返せるというので来るみたいな。

清野:日本と比べると、そこらへんの本気度とか必死具合が全然違いそうですよね。

植山:そうですね。あとは日本だと、全員に対して安いか、全員に対して高いかってところは違うかもしれないですね。

仕事をしながら大学に行く選択肢

清野:最後に聞いてみたいんですけど、大学に行って勉強してみて、行って良かったなって思いますか?

植山:やっぱり、行って良かったと思いますよ。ただいろいろなトレードオフがあって
うん。1つ何を失ったかって言うと、時間ですよね。パートタイムで大学院に行くと、基本的には土日とか夜を使ってやるしかなくって、それですごい時間もなくなるし、3〜4年ぐらいかかるんですよね。フルタイムで行っていれば3つとか授業を同時に進められるんですけど、パートタイムで行くと1個ずつしか取れなくて、すごい時間がかかるんですよ。なので、土日がないみたいな状態が何年も続いちゃうわけなんですよね。

ただ一方で、やっぱり面白いなと思いました。というのも、コンピューターサイエンスのガチっぽいことは、やはり仕事ではやらないですが興味はあるので、学べて良かったです。あとたくさん課題が出るのが、いろんな練習になるので、良いなと思います。

仕事しながら行ってる人にとっては、「いまさらC言語必修だからやらないといけない」みたいなアホ臭い演習もたくさんありますけど。でも例えばコンピューターサイエンスの数学っぽいやつで証明をたくさん書くような課題だと、単にコンピューターサイエンスの勉強になるだけじゃなく、物事を分かりやすく英語で説明するフレームワークを身につける意味でもすごい役に立つんですよ。

証明と言えども人が読むものなので、わけの分からない書き方をしてはだめです。基本的には型に当てはめて書くんですよね。「今からこういう証明をします」「こういうテクニックを使います」と。何回も宿題でやってると、プログラミングでコメント書く時とかも、うまくなるんですよね。分かりやすい文章を書けるようになるみたいな。今のは一例ですけど身についたとは思いますね。

時間がかかるのは欠点ではあるんですけど、一方で、4年間何にもしなくて、週末ダラダラ過ごしても、当たり前ですけど3〜4年は経つわけです。なので、あえて詰めていっても、まあ良いんじゃないのかなってちょっと思います。

清野:時間は使ってしまうけど、勉強とか経験にはなるって感じですかね。

植山:そうですね。あとはスタンフォードって名門なので、卒業したら役に立つかなと思ったんですけど、実際には卒業した後に会社辞めて、その後就職してないので、あまり役に立ってないです。ただ将来的に、例えばどっかの別の国でビザを取りたいとかになると、多分役に立つと思いますね。

清野:学んだことだけじゃなくて、それを持ってることによって、できることも増えるってことですね。

植山:そうですね。特に仕事のビザとかになると、効いてきますよね。例えばイギリスとかだと、世界ランキングトップ100とかの大学を卒業して数年以内とかだと、無条件にビザが出るんですよ。たしかシンガポールもそうです。特に若い人たちの登竜門としては、すごく役に立つかもしれないですよね。

清野:なるほど。植山さん、今日はありがとうございました。次回も植山さんとお送りします。

植山さん出演の第2回目を聞く

植山さん出演の第3回目を聞く

さいごに

「エンジニアストーリー by Qiita」は、近年高まるエンジニア向けPodcastのニーズに応え、エンジニアのキャリア形成に有益な情報を発信しています。興味のあるテーマを見つけて配信を聞いてみましょう!

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  1. Qiitaニュース | 【git】プッシュ前に”ちょ待てよ”発動させたい。
  2. Qiitaニュース | GitHub Copilotを使っている人は全員”copilot-instrucions.md”を作成してください